20年越しのマイヨ・ブルーブランルージュ(フランスチャンピオンジャージ)と共に、スティーブ・シェネル(フランス、チームシャザル・キャニオン)が再び来日。織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)を迎えて開催されたトークショー、そして週末の宇都宮シクロクロスを見据える彼へのインタビューの模様を紹介します。



Rapha Tokyoで開催されたトークショー。スティーブ・シェネル(フランス、チームシャザル・キャニオン)と織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が顔を揃えたRapha Tokyoで開催されたトークショー。スティーブ・シェネル(フランス、チームシャザル・キャニオン)と織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が顔を揃えた photo:So.Isobe
深い砂を蹴立て、2年前のシクロクロス東京で圧勝した記憶も鮮やかなスティーブ・シェネル(フランス、チームシャザル・キャニオン)が再び日本にやってきた。今回のミッションは、今週土曜日と日曜日に開催される宇都宮シクロクロスで勝ち、自信と共にUCIポイントを持ち帰ること。昨年の宇都宮覇者フェリペ・オルツ(スペイン)らと共に、世界レベルの走りを披露してくれることは間違いない。

今回のトークショーはキャニオンとラファによる企画で、東京千駄ヶ谷のRapha Tokyoを舞台に開かれたもの。先着40名のチケットはすぐに完売御礼と言い、女性客も多かったことに国内シクロクロスムーブメントの成熟ぶりが顕れる。将来欧州での活動を見据える織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)を迎え進行した日仏の"クロス"トークショーは、シェネルの人柄も手伝って終始良い雰囲気で進んだのだった。

前U23シクロクロス王者の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)。「将来的にはシクロクロスで欧州を走りたい」前U23シクロクロス王者の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)。「将来的にはシクロクロスで欧州を走りたい」 photo:So.Isobeトリコロールのキャニオン INFLITEを披露するシェネルトリコロールのキャニオン INFLITEを披露するシェネル photo:So.Isobe「フランスの選手がシクロクロスの専業プロとして活動できる地盤を作りたい」「フランスの選手がシクロクロスの専業プロとして活動できる地盤を作りたい」 photo:So.Isobe


かつてブイグテレコムやエフデジ、アージェードゥーゼル、そしてコフィディスとフランス屈指のロードチームを渡り歩き、2015年に自身のシクロクロス専業チームを立ち上げたシェネルは現在35歳。昨年のフランス選手権では悲願の初エリートタイトルを獲得し、好調そのままに臨んだ今年2月の世界選手権では10位。現在世界ランク16位につけるシェネルは「日本のファンの前で良い走りをして、2日間のうち少なくとも1日は勝ちたい」と意気込んでいる。

ロードシーズンはユーロスポーツのコメンテーターとしてテレビ画面を賑わせ、秋から冬にかけては自ら選手として、そして自身が立ち上げたシクロクロスチームの代表として活躍するシェネル。その目標は、シクロクロス大国であるベルギーやオランダ同様に、フランスの選手がシクロクロスの専業プロとして活動できる地盤を作り上げることにある。

「(シルヴァン)シャヴァネルも(ジュリアン)アラフィリップも、(ペテル)サガンだってジュニア時代はシクロクロス選手だった。でもベルギー人でない限り、ロード転向しない限り選手として食っていくことは不可能なんだ。僕もそうだったし、フラストレーションを感じていたからこそ環境を変えたい」とはシェネル。言葉の節々には長年の目標を達成した今もなお、衰えるどころかますます熱を帯びる競技愛がほとばしる。

フランス選手権で勝利したシェネル。20年間追い求めていたエリートタイトルだったフランス選手権で勝利したシェネル。20年間追い求めていたエリートタイトルだった (c)www.ffc.fr今シーズンのW杯でもコンスタントに上位入賞している今シーズンのW杯でもコンスタントに上位入賞している (c)CorVos


筆者はトークショー開催前に、2年ぶりにシェネルの単独インタビューを行う機会を得た。成田空港から都内に移動してきたばかりにも関わらず、一切疲れの色を見せない彼と話すのは2月の世界選手権以来10ヶ月ぶり。以下にその模様を紹介したい。

― 2回目の来日ですね。今度はフランスナショナルチャンピオンジャージと共に。

トークショー前に単独インタビューを行った。成田から直行したにも関わらず疲れの色は見えなかったトークショー前に単独インタビューを行った。成田から直行したにも関わらず疲れの色は見えなかった photo:So.Isobe戻ってくることができて嬉しいよ。前回(のCX東京)はUCIレースではなかったし、世界選手権も終わっていたからレースを楽しんだ感じだけど、そこで受けた日本の印象が良かったのでまた戻って来たかった。今回も長旅だったけれど今季はアメリカ、ベルギー、スイス、イタリアと世界各地を回っているし、日本でのレース参加を断る理由なんてどこにもなかった。招待してくれた主催者に感謝したい。

今回はシーズン半ばで、1月のフランス選手権のために調子を上げ、世界選手権でのスタート位置を上げるためUCIポイント確保を狙う目的をもってやって来た。多分フロントローはベルギーオランダ人選手に埋め尽くさるだろうけれど、2列目は確保したい。だから東京の時とはレースに対する意味合いがかなり違っている。ビデオで宇都宮のコースを見たけど、砂セクションもあって楽しそうだね。2日間あるうちの少なくとも1日は勝たなければいけないし、日本のファンの前で良い走りを見せたい。フランスには良いイメージを持って帰国したいね。

― フランス選手権で勝った時の気分は?すごくエモーショナルなフィニッシュシーンでしたね。

正直、あんまりよく覚えていないんだ。その日のためだけに一心不乱に努力して、一時間無我夢中でペダルを踏みつけて、気づいたらゴールだった。言葉にできない感情に支配されていたね。フィニッシュ後にたくさんの人がお祝いしてくれて、写真や動画を見返してるうちに勝利した喜びが湧いてきた。

映し出されたフランス選手権の優勝シーンを眺める。「多分1000回は見返したよ(笑)」映し出されたフランス選手権の優勝シーンを眺める。「多分1000回は見返したよ(笑)」 photo:So.Isobe
ジュニア時代にナショナルタイトルを獲ったことがあるけど、そこから20年間夢見てきた勝利だった。なぜか分からないけど、あの週末はずっと心身ともにキャリア最高レベルに絶好調で、身体や機材、仲間たち、家族、技術など、全て僕に追い風が吹いていたように思う。実はシーズンイン前に離婚して一時精神状態は最悪だったけれど、コーチや身の回りの仲間、そして子供たちがいてくれたから立ち直れた。レース後だけでメッセンジャーは500通、Twitterでも一晩で1000人もフォロワーが増えた。クレイジーだよ。

― チャンピオンに以前と以後、身の回りの変化は?

ものすごく変わったし、これからも変わっていくと思う。ナショナルチャンピオンを一度でも獲れば、チャンピオンの座を失ってもその後着用するジャージの襟袖にその証を入れられるんだ。それから、例えばマヴィックといった大きなサプライヤーもついてくれた。マヴィックは当初僕個人の資金スポンサーに手を挙げてくれたたけど、それならチームの若手に対する機材供給に回してほしいと伝えたんだ。

― チームには強い若手選手がいますね。例えばヤン・グラスはU23の世界選手権で3位に入りました。

2、3年後にはチームを本当のプロチームに変化させたいと思ってる。今僕らは良い機材、ジャージ、モーターホームを得てプロのように活動できているけれど、本当のプロじゃない。なぜなら選手たちに十分にペイできていないし、スタッフはみんなボランティアとして僕らを支えてくれているから。今欧州シクロクロスはビッグレースの狭間の休息期間だけど、ベルギーのチームは全員温暖なスペインでトレーニングキャンプ中。でも僕らにはそれは不可能だ。将来的にはその辺りを全てカバーできるような体制を組み上げたいと思っている。チーム運営は過酷すぎて普通のメンタルじゃ無理だけど、僕にはシクロクロスを愛するパッションがあるから問題ない。

「2、3年後にはチームを本当のプロとして活動させたい」「2、3年後にはチームを本当のプロとして活動させたい」 photo:Yukikaze.Ishiyama
― 現時点で35歳を超えてUCIランキングトップ40に(シェネルは現在15位)入っているのは一人だけです。そのモチベーションの源は?

「モチベーションはシクロクロスへの愛。それしかない」「モチベーションはシクロクロスへの愛。それしかない」 photo:So.Isobeシクロクロスに対する愛。それしかないね。言葉が悪いかもしれないけど、自分にとってシクロクロスは麻薬と同じ。もう抜け出せないし止められない(笑)。それから今時分には、夏はユーロスポーツのコメンテーターとして働いて、ロードレース中継の無い冬場は自分のレースに没頭できるという最高のリズムがある。僕を支えてくれるメカやマッサーのことも友人であり仲間だと思っているので、心の支えがたくさんあるんだ。

人生の中で何が一番大切かと聞かれたら、僕は幸せであることだと思っている。そうなるように努めているし、キャリアの中で崩れたことがないのは、自分の前向きな性格のせいもあるだろう。今自分は35歳だけど、それは履歴書だけの話。僕の心は多分20歳くらいだ。常に楽しいことがしたいし、楽しみながら人生を送りたい。選手活動でもそれは絶対に大事だと思っているし、これはどんな競技、仕事であっても言えることだと思うよ。

例えば今僕はユーロスポーツのロードレース中継に出演しているけど、一緒に出演しているのはジャッキー・デュラン、リシャール・ヴィランク、それにダヴィ・モンクティエの3人。こんなスターの間に、キャリアとしては並の僕が混ざっているなんて驚いてしまうね。でも、それも自分の「楽しむこと」が生んだ結果かなと思っている。

― 「楽しむ」と言えば、ワールドカップのフィニッシュ前、ワウト(ファンアールト)が落としたボトルを拾って、ファンに向けて投げていたシーンが思い浮かびます。

笑。僕の子供たちはワウトのファンだし、僕も子供の頃はスター選手たちを憧れの目で見ていた。自分がそうだったことを忘れていないから、自分もファンに対してできる限りサービスしてあげたい。ベルギー人選手は誰もやろうとしないけど、僕は15分早くチームバスから出て、写真やサインに応えるようにしているよ。ファンと交流するのが大好きだし、そうすることでもっと多くのシクロクロスファンを増やしたいんだ。

― ありがとうございました。最後に、日本のシクロクロスファン、自転車ファンに向けてメッセージをお願いします。

まずは今回、2度目の来日でUCIレースを走れることに感謝を。まだまだ存在は大きくないけれど、日本人選手はロードでもシクロクロスでもヨーロッパで認知される存在になってきた。シクロクロスに限って言えばヒエラルキーは未だベルギーとオランダに集中しているけれど、今のままでは国際スポーツとして死んでしまう。

だからアメリカのカルチャーが育ってきたことは喜ばしいし、日本にきちんとした主催者協会ができて、選手を強化して世界に送り込むための体制が整い始めてきたことも素晴らしいことだ。フランスも決してCX大国ではないからこそ、僕や、周りの仲間たちが頑張っている。日本もフランスも状況は同じだから、例えば2025年には、日本のチャンピオンがワールドカップで上位に食い込むことも実現可能だ。

定員制のトークショーに集まった40人のファンと。「宇都宮では良い走りをみんなに披露したい」定員制のトークショーに集まった40人のファンと。「宇都宮では良い走りをみんなに披露したい」 photo:So.Isobe
今週末は良い走りを見せたいし、勝ちたい。いつでもファンサービスに応えたいので、会場では気軽に話しかけて欲しい。

text&photo:So.Isobe
インタビュー協力:盆栽自転車店

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