2017/03/18(土) - 09:46
イタリアの老舗レーシングバイクブランド、ピナレロより、ツール・ド・フランスを2度制した旗艦モデル「DOGMA F8」がフルモデルチェンジ。正統進化を遂げ誕生した「DOGMA F10」をインプレッションした。
2015年、2016年のクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)によるツール・ド・フランス総合優勝に貢献したピナレロのフラッグシップバイク「DOGMA F8」。バイクブランドでピナレロにのみ独占供給される東レの最高級素材「T1100 1K」カーボンファイバーを使用した高性能バイクは数々の勝利を生み出してきた。
そんな輝かしい戦績を支えてきたDOGMA F8が、2年半という開発期間を経て今年1月にフルモデルチェンジ。数字を一つ飛ばして「DOGMA F10」としてデビューした(デビューローンチの模様はこちらを参照してほしい)。
フレーム素材はDOGMA F8から引き続き、ピナレロと密接な関係を持つ東レのカーボン繊維「TORAYCA(トレカ)」の最高級素材「T1100 1K」を使用。世界最高レベルの高い重量比強度を持つこちらの素材をフレームに用いることで、軽量性と剛性を高い次元で実現している。
F8や軽量山岳モデル「Xlight」と同一のカーボン素材を使用しつつ、プリプレグはXlightと同等とし、Xlightでの開発経験を活かしたカーボンレイアップの見直しや、熱処理の工夫によってF8に比べてフレーム重量は6.3%減の820g(53サイズ)に仕上げている。その上で、剛性値は7%向上させるというピナレロの技術力の高さを見せつける形となった。F8 Xlightと比較すれば若干重いが、これはオールラウンダーとしてのバランスを追求した結果である。
基本的なフレーム形状は前作F8を踏襲する。同社ミドルグレードにまで採用されるピナレロ特有のセミエアロなフォルムを引き継いでおり、大きくデザインを変化させることなく細部のブラッシュアップに成功している。ボリュームのある各チューブと曲線を多用したフレームデザインにより、圧倒的な存在感と見惚れるほどの美しいルックスを獲得している。
エアロダイナミクスに関してはピナレロが誇る2台のエアロマシーン「BOLIDE TT」と「BOLIDE HR」のエッセンスを注入。断面形状が逆三角形のようになったトップチューブや、ダウンチューブ上部にくぼみを設けボトルとの距離を縮めることでフロントフォークから一体化したエアフローを実現する「Concaveダウンチューブ」など随所に空力への配慮が見て取れる。
特にフロントフォーク先端にはブラドレー・ウィギンズ(イギリス)のアワーレコード樹立に貢献したトラックバイクBOLIDE HR同様のフィン「フォークフラップ」を設けることで、乱流を抑える役目を果たしている。こういった細かなアップデートを積み重ねることで、F8に対しては12.6%もの空気抵抗の低減を成し遂げている。
また、ピナレロが導入して以来、業界標準とも言えるほどに普及したアシンメトリーデザインも引き続き採用。F8に対してごく僅かながらシートチューブを駆動側にオフセットすることで、左右のパワー伝達効率を最適化させている。
BBはスタンダードなねじ切りタイプのイタリアン規格を採用。かつてのDOGMAはプレスフィット規格を採用したモデルあったが、音鳴りの問題や、メンテナンス性を考慮しスレッドタイプとなった。レース現場を意識した現実的かつユーザー目線にたった選択だ。
フレームサイズは42から62まで幅広い13サイズがラインアップされるため、より多くの人が世界最高のスーパーバイクの乗り手となることが可能である。価格はフレームセットで625,000円(税抜)、R9150デュラエースDi2完成車で1,180,000円(税抜)だ。
今回のテストバイクはコンポーネントに新型デュラエースDi2を組み込み、ホイールにフルクラムSPEED40クリンチャーを装備。ツールを2度制したレーシングバイクの正統進化版は、テストライダーの目にどの様に映るのだろうか。それではインプレッションに移ろう。
ー インプレッション
「高い快適性と空力性能を両立。完成度の高いオールラウンドなレーシングバイク」
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
しっかりとした硬さを持ったフレームでレーサーという雰囲気を感じつつ、高い加速性や乗り心地の良さも持ち合わせているため、乗っていて非常に楽しいバイクですね。フレームのエアロダイナミクス効果が発揮されるのか、高速域のスピードの乗り具合は圧倒的に良いです。乗り心地もフォークのアーチ形状が振動吸収に一役買っているようで快適ですね。
登坂は車体重量の軽さから非常に軽快に登ってくれます。ダンシング時でもバイクの振りが軽く扱いやすさを感じますね。また、高速域からのスプリントとなるとフレームの空力性能の良さからトップスピードまで気持ち良い加速を見せてくれます。ただ非常に車重が軽量なため、多少バイクの挙動が安定しない節があり、その点は慣れが必要だと感じました。
ハンドリングはレーシングバイクらしくクイックで、ハンドルの切れ角に対してダイレクトに反応してきます。ですので、この車体にある程度慣れた状態でないと、高速域のコーナリング等は怖さを感じるかもしれません。ですがこのクイックな操舵感は、ロードバイクに慣れている上級者であれば集団の中でも自在に動けるアドバンテージとなるでしょう。
石畳でも優雅に走れる、とまではいきませんが、衝撃吸収性はレーシングフレームとして十分良い印象を受けました。このボリューミーで剛性の高そうな形状でも不快な感覚はなく、多少の振動であれば問題なくこなしてくれます。
フレーム形状はエアロ過ぎず、乗りにくさを感じないデザインで好感が持てます。市場には乗り味にクセのあるエアロフレームも多い中、このバイクはエアロロードのようなスピードの伸びも持ちつつオールラウンドに使用できるように考えられている点が良いですね。これ1台であらゆるレースシチュエーションをこなす、チームスカイの選手の声がよく反映されているのだと思います。
全体としてハイエンドバイクらしく造りがしっかりしているのが良いですね。例えば、エアロシートポストの上げ下げもパーツの精度が高くスムーズですし、フレーム全体の品質が高いと感じます。フォークの先端に付いている整流フィンも、効果を感じるのは難しそうですが、こういった細かいディテールが格好良くて嬉しいポイントですね。
一点気になったのは、フレームがエアロ形状のためか、ヘッドチューブ長がフレームサイズの大きさに対して長めに設計してあり、日本人の体型にはポジションを出しづらいかもしれません。レースのためのプレミアムバイクですので、仕方のない所ではありますが、ステム等で工夫して自分の体にポジションを合わせて乗る必要があるでしょう。
フレーム価格は65万円とやはり驚きの価格ですね。ですがそれに見合う価値はしっかりあると思いますし、むしろこれぐらいの価格であって欲しいと思ってしまうような完成度の高いバイクだと思います。
ピナレロ DOGMA F10
素材:トレカ T1100 1K ナノアロイカーボン
重量:820g(53サイズ、塗装前)
BB:イタリアン
サイズ:42、44、46.5、47、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62
カラー:167 Black LAVA、166 Red MAGMA、905 Team Sky、170 BOB、165 Sideral White、168 Sulfur Yellow、169 Asteroid Red、906 Team WIGGINS、909 RHINO 2017
その他:AIR8 フルカーボンシートポスト付属(セットバック18mm)
価格:フレームセット 625,000円(税抜)、R9150デュラエースDi2完成車 1,180,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。過去にはツール・ド・おきなわ市民200kmや、ジャパンカップオープンレースなどの国内ビックレースにて優勝を経験。2016年にはニセコクラシック年代別優勝も果たし、今なお衰えを知らない”最速店長”の一人である。
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text:Kosuke.Kamata
photo:Makoto.AYANO
2015年、2016年のクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)によるツール・ド・フランス総合優勝に貢献したピナレロのフラッグシップバイク「DOGMA F8」。バイクブランドでピナレロにのみ独占供給される東レの最高級素材「T1100 1K」カーボンファイバーを使用した高性能バイクは数々の勝利を生み出してきた。
そんな輝かしい戦績を支えてきたDOGMA F8が、2年半という開発期間を経て今年1月にフルモデルチェンジ。数字を一つ飛ばして「DOGMA F10」としてデビューした(デビューローンチの模様はこちらを参照してほしい)。
フレーム素材はDOGMA F8から引き続き、ピナレロと密接な関係を持つ東レのカーボン繊維「TORAYCA(トレカ)」の最高級素材「T1100 1K」を使用。世界最高レベルの高い重量比強度を持つこちらの素材をフレームに用いることで、軽量性と剛性を高い次元で実現している。
F8や軽量山岳モデル「Xlight」と同一のカーボン素材を使用しつつ、プリプレグはXlightと同等とし、Xlightでの開発経験を活かしたカーボンレイアップの見直しや、熱処理の工夫によってF8に比べてフレーム重量は6.3%減の820g(53サイズ)に仕上げている。その上で、剛性値は7%向上させるというピナレロの技術力の高さを見せつける形となった。F8 Xlightと比較すれば若干重いが、これはオールラウンダーとしてのバランスを追求した結果である。
基本的なフレーム形状は前作F8を踏襲する。同社ミドルグレードにまで採用されるピナレロ特有のセミエアロなフォルムを引き継いでおり、大きくデザインを変化させることなく細部のブラッシュアップに成功している。ボリュームのある各チューブと曲線を多用したフレームデザインにより、圧倒的な存在感と見惚れるほどの美しいルックスを獲得している。
エアロダイナミクスに関してはピナレロが誇る2台のエアロマシーン「BOLIDE TT」と「BOLIDE HR」のエッセンスを注入。断面形状が逆三角形のようになったトップチューブや、ダウンチューブ上部にくぼみを設けボトルとの距離を縮めることでフロントフォークから一体化したエアフローを実現する「Concaveダウンチューブ」など随所に空力への配慮が見て取れる。
特にフロントフォーク先端にはブラドレー・ウィギンズ(イギリス)のアワーレコード樹立に貢献したトラックバイクBOLIDE HR同様のフィン「フォークフラップ」を設けることで、乱流を抑える役目を果たしている。こういった細かなアップデートを積み重ねることで、F8に対しては12.6%もの空気抵抗の低減を成し遂げている。
また、ピナレロが導入して以来、業界標準とも言えるほどに普及したアシンメトリーデザインも引き続き採用。F8に対してごく僅かながらシートチューブを駆動側にオフセットすることで、左右のパワー伝達効率を最適化させている。
BBはスタンダードなねじ切りタイプのイタリアン規格を採用。かつてのDOGMAはプレスフィット規格を採用したモデルあったが、音鳴りの問題や、メンテナンス性を考慮しスレッドタイプとなった。レース現場を意識した現実的かつユーザー目線にたった選択だ。
フレームサイズは42から62まで幅広い13サイズがラインアップされるため、より多くの人が世界最高のスーパーバイクの乗り手となることが可能である。価格はフレームセットで625,000円(税抜)、R9150デュラエースDi2完成車で1,180,000円(税抜)だ。
今回のテストバイクはコンポーネントに新型デュラエースDi2を組み込み、ホイールにフルクラムSPEED40クリンチャーを装備。ツールを2度制したレーシングバイクの正統進化版は、テストライダーの目にどの様に映るのだろうか。それではインプレッションに移ろう。
ー インプレッション
「高い快適性と空力性能を両立。完成度の高いオールラウンドなレーシングバイク」
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
しっかりとした硬さを持ったフレームでレーサーという雰囲気を感じつつ、高い加速性や乗り心地の良さも持ち合わせているため、乗っていて非常に楽しいバイクですね。フレームのエアロダイナミクス効果が発揮されるのか、高速域のスピードの乗り具合は圧倒的に良いです。乗り心地もフォークのアーチ形状が振動吸収に一役買っているようで快適ですね。
登坂は車体重量の軽さから非常に軽快に登ってくれます。ダンシング時でもバイクの振りが軽く扱いやすさを感じますね。また、高速域からのスプリントとなるとフレームの空力性能の良さからトップスピードまで気持ち良い加速を見せてくれます。ただ非常に車重が軽量なため、多少バイクの挙動が安定しない節があり、その点は慣れが必要だと感じました。
ハンドリングはレーシングバイクらしくクイックで、ハンドルの切れ角に対してダイレクトに反応してきます。ですので、この車体にある程度慣れた状態でないと、高速域のコーナリング等は怖さを感じるかもしれません。ですがこのクイックな操舵感は、ロードバイクに慣れている上級者であれば集団の中でも自在に動けるアドバンテージとなるでしょう。
石畳でも優雅に走れる、とまではいきませんが、衝撃吸収性はレーシングフレームとして十分良い印象を受けました。このボリューミーで剛性の高そうな形状でも不快な感覚はなく、多少の振動であれば問題なくこなしてくれます。
フレーム形状はエアロ過ぎず、乗りにくさを感じないデザインで好感が持てます。市場には乗り味にクセのあるエアロフレームも多い中、このバイクはエアロロードのようなスピードの伸びも持ちつつオールラウンドに使用できるように考えられている点が良いですね。これ1台であらゆるレースシチュエーションをこなす、チームスカイの選手の声がよく反映されているのだと思います。
全体としてハイエンドバイクらしく造りがしっかりしているのが良いですね。例えば、エアロシートポストの上げ下げもパーツの精度が高くスムーズですし、フレーム全体の品質が高いと感じます。フォークの先端に付いている整流フィンも、効果を感じるのは難しそうですが、こういった細かいディテールが格好良くて嬉しいポイントですね。
一点気になったのは、フレームがエアロ形状のためか、ヘッドチューブ長がフレームサイズの大きさに対して長めに設計してあり、日本人の体型にはポジションを出しづらいかもしれません。レースのためのプレミアムバイクですので、仕方のない所ではありますが、ステム等で工夫して自分の体にポジションを合わせて乗る必要があるでしょう。
フレーム価格は65万円とやはり驚きの価格ですね。ですがそれに見合う価値はしっかりあると思いますし、むしろこれぐらいの価格であって欲しいと思ってしまうような完成度の高いバイクだと思います。
ピナレロ DOGMA F10
素材:トレカ T1100 1K ナノアロイカーボン
重量:820g(53サイズ、塗装前)
BB:イタリアン
サイズ:42、44、46.5、47、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62
カラー:167 Black LAVA、166 Red MAGMA、905 Team Sky、170 BOB、165 Sideral White、168 Sulfur Yellow、169 Asteroid Red、906 Team WIGGINS、909 RHINO 2017
その他:AIR8 フルカーボンシートポスト付属(セットバック18mm)
価格:フレームセット 625,000円(税抜)、R9150デュラエースDi2完成車 1,180,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。過去にはツール・ド・おきなわ市民200kmや、ジャパンカップオープンレースなどの国内ビックレースにて優勝を経験。2016年にはニセコクラシック年代別優勝も果たし、今なお衰えを知らない”最速店長”の一人である。
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