2016/07/14(木) - 02:47
残り12km地点の横風区間でアタックしたマイヨヴェールに反応したのはマイヨジョーヌ。スプリンターチームを振り切ったペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)がクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)とのスプリントで勝利した。
この日のキーワードは風。ピレネー山脈からジュラ&アルプス山脈に向かういわゆる繋ぎステージで、ツール32回目の登場となるモンペリエは「スプリントの首都」とも呼ばれるが、この地域特有の北西風 「ミストラル」が波乱を巻き起こした。
強い風を背中に受けながらカルカッソンヌをスタートした192名の大集団はすぐにスピードアップ。チームスカイが先頭を固める集団からはフランスチャンピオンのアルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ)が飛び出し、ここにリー・ハワード(オーストラリア、IAMサイクリング)が単独で追い付いた。
ヴィショとハワードが追い風に乗ってリードを広げる中、細かく進行方向を変える(同時に風向きも変わる)ジェットコースターのようなコースでは集団内に落車が多発。サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が「今大会最も危険なステージだった。3時間半ずっと瞬きができなかった」と振り返るほど、追い風&横風によってナーバスな状態が延々と続く。
この日はウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ロットNLユンボ)やジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)、ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、カチューシャ)、ティボー・ピノ(フランス、FDJ)、ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)らが相次いで地面に投げ出されたが、幸い大きな怪我を負った選手はいなかった。
スプリンター向きの純粋な平坦ステージはこの第11ステージと第14ステージ、そして最終日の第21ステージしか残されていない(第16ステージも平坦だがフィニッシュ直前に石畳の登りが登場)。そのため第6ステージ以降チャンスを掴めていないスプリンターチームが集団先頭に立ち、最大4分まで広がった逃げのリードを削り取る。レース中盤にかけて早くもタイム差は2分台にまで縮まった。
モンペリエに向かう曲がりくねった幹線道路には引き続き追い風&横風が吹き付け、スプリンターチームに加えて総合系チームが集団先頭をキープする。やがてティンコフやアスタナ、トレック・セガフレードが横風区間でペースを上げると、集団はエシュロン(斜め隊列)を形成しながら分裂していった。
横風によってメイン集団はおよそ5〜6個のエシュロンに分断される。チームスカイがメンバーを揃えてリードする第1集団は、残り61km地点で逃げていたヴィショとハワードを吸収。マイヨアポワのピノは落車の影響で再び後方に取り残されたが、チームメイトのサポートを受けて集団に復帰している。
集団分裂後しばらくハイスピードな進行が続いたものの、風向きが変わった残り30km地点で第1集団は少しペースダウン。遅れていた選手たちが追い付いて集団は元通りの大きさに。このままスプリンターチームが支配する平坦レースに持ち込まれると思われたが、再びティンコフがペースアップを開始。フィニッシュまで12kmを残したところでマイヨヴェールのサガンが動いた。
マチェイ・ボドナール(ポーランド、ティンコフ)にリードアウトされたサガンのアタックにはフルームとゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)だけが合流する。アシストをひとりずつ連れたマイヨヴェールとマイヨジョーヌが逃げ、ロット・ソウダルやエティックス・クイックステップといったスプリンターチームが猛烈な勢いで追う特異な展開。ティンコフ2名とチームスカイ2名の思惑は一致し、すぐさま20秒のリードを築いた。
リードを守ったまま残り1kmを切り、逃げ切りが濃厚となった先頭のクアルテットからはトーマスが力尽きて脱落。ボドナールがリードアウトする形でフルームvsサガンのスプリント勝負が始まる。闘志あふれる走りを見せたフルームだったが、加速力勝負ではサガンに歯が立たなかった。
悠々と両手を広げ、今大会2度目の先頭フィニッシュを果たしたサガン。「4名で抜け出してからは会話する余裕なんてなかった。ただ『行け行け行け!!』と言い合っていた。協調して最後まで逃げ切ったことは素晴らしい。今日はボドナールとチームスカイのおかげで勝つことができた。マイヨジョーヌとマイヨヴェールが逃げるなんてアンビリーバブル。スペシャルな勝利だ」と世界チャンピオンは語る。連日勝負に絡む走りにより、サガンはマイヨヴェール争いで首位を独走中だ(2位カヴェンディッシュと90ポイント差)。
メイン集団とのタイム差6秒とボーナスタイム6秒を稼ぎ、ライバルたちから合計12秒のリードを奪ったフルームは「サガンと飛び出してから『この動きは本当に価値があるのか?』と自問したけど、最終週の山岳で強さを見せるナイロ(キンタナ)から少しでもリードを奪っておく必要があった。下りでのアタックに続いて平坦路でのアタック。楽しみながら走ったよ」とコメントする。
概ね追い風基調だったことから平均スピードが47.2km/hに達したこの日のステージ。終盤のペースアップによってメイン集団から脱落した総合5位のホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)と総合9位(ヤングライダー賞2位)のルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)、総合17位ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)は1分09秒遅れでフィニッシュし、それぞれ総合順位を落としている。
南フランスを吹き抜ける強風は翌日も弱まらない予報が出ているため、レース主催者ASOは第12ステージのコース短縮を決定。風速110km/hという猛烈な風が吹き付ける超級山岳モンヴァントゥーの頂上まで登らず、残り6km地点のシャレ・レイナールでフィニッシュを迎えることに。登坂距離15.7kmが9.5kmに、そして平均勾配が8.8%から9.3%に変更となっている。
ツール・ド・フランス2016第11ステージ結果
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) 3h26’23”
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
3位 マチェイ・ボドナール(ポーランド、ティンコフ)
4位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) +06”
5位 クリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)
6位 ヤスパー・ストゥイフェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
7位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)
8位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
9位 ソンドレホルスト・エンゲル(ノルウェー、IAMサイクリング)
10位 オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)
65位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ) +1’09”
68位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
70位 ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)
179位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ) +5’39”
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) 52h34’37”
2位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) +28”
3位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) +31”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) +35”
5位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) +56”
6位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
7位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1’13”
9位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
10位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ) +1’28”
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) 309pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 219pts
3位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) 202pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ) 80pts
2位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) 77pts
3位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) 58pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) 52h35’05”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ) +1’42”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン) +2’35”
チーム総合成績
1位 BMCレーシング 157h33’00”
2位 モビスター +6’34”
3位 チームスカイ +8’44”
ステージ敢闘賞
アルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ)
リタイア
なし
text&photo:Kei Tsuji in Montpellier, France
この日のキーワードは風。ピレネー山脈からジュラ&アルプス山脈に向かういわゆる繋ぎステージで、ツール32回目の登場となるモンペリエは「スプリントの首都」とも呼ばれるが、この地域特有の北西風 「ミストラル」が波乱を巻き起こした。
強い風を背中に受けながらカルカッソンヌをスタートした192名の大集団はすぐにスピードアップ。チームスカイが先頭を固める集団からはフランスチャンピオンのアルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ)が飛び出し、ここにリー・ハワード(オーストラリア、IAMサイクリング)が単独で追い付いた。
ヴィショとハワードが追い風に乗ってリードを広げる中、細かく進行方向を変える(同時に風向きも変わる)ジェットコースターのようなコースでは集団内に落車が多発。サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が「今大会最も危険なステージだった。3時間半ずっと瞬きができなかった」と振り返るほど、追い風&横風によってナーバスな状態が延々と続く。
この日はウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ロットNLユンボ)やジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)、ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、カチューシャ)、ティボー・ピノ(フランス、FDJ)、ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)らが相次いで地面に投げ出されたが、幸い大きな怪我を負った選手はいなかった。
スプリンター向きの純粋な平坦ステージはこの第11ステージと第14ステージ、そして最終日の第21ステージしか残されていない(第16ステージも平坦だがフィニッシュ直前に石畳の登りが登場)。そのため第6ステージ以降チャンスを掴めていないスプリンターチームが集団先頭に立ち、最大4分まで広がった逃げのリードを削り取る。レース中盤にかけて早くもタイム差は2分台にまで縮まった。
モンペリエに向かう曲がりくねった幹線道路には引き続き追い風&横風が吹き付け、スプリンターチームに加えて総合系チームが集団先頭をキープする。やがてティンコフやアスタナ、トレック・セガフレードが横風区間でペースを上げると、集団はエシュロン(斜め隊列)を形成しながら分裂していった。
横風によってメイン集団はおよそ5〜6個のエシュロンに分断される。チームスカイがメンバーを揃えてリードする第1集団は、残り61km地点で逃げていたヴィショとハワードを吸収。マイヨアポワのピノは落車の影響で再び後方に取り残されたが、チームメイトのサポートを受けて集団に復帰している。
集団分裂後しばらくハイスピードな進行が続いたものの、風向きが変わった残り30km地点で第1集団は少しペースダウン。遅れていた選手たちが追い付いて集団は元通りの大きさに。このままスプリンターチームが支配する平坦レースに持ち込まれると思われたが、再びティンコフがペースアップを開始。フィニッシュまで12kmを残したところでマイヨヴェールのサガンが動いた。
マチェイ・ボドナール(ポーランド、ティンコフ)にリードアウトされたサガンのアタックにはフルームとゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)だけが合流する。アシストをひとりずつ連れたマイヨヴェールとマイヨジョーヌが逃げ、ロット・ソウダルやエティックス・クイックステップといったスプリンターチームが猛烈な勢いで追う特異な展開。ティンコフ2名とチームスカイ2名の思惑は一致し、すぐさま20秒のリードを築いた。
リードを守ったまま残り1kmを切り、逃げ切りが濃厚となった先頭のクアルテットからはトーマスが力尽きて脱落。ボドナールがリードアウトする形でフルームvsサガンのスプリント勝負が始まる。闘志あふれる走りを見せたフルームだったが、加速力勝負ではサガンに歯が立たなかった。
悠々と両手を広げ、今大会2度目の先頭フィニッシュを果たしたサガン。「4名で抜け出してからは会話する余裕なんてなかった。ただ『行け行け行け!!』と言い合っていた。協調して最後まで逃げ切ったことは素晴らしい。今日はボドナールとチームスカイのおかげで勝つことができた。マイヨジョーヌとマイヨヴェールが逃げるなんてアンビリーバブル。スペシャルな勝利だ」と世界チャンピオンは語る。連日勝負に絡む走りにより、サガンはマイヨヴェール争いで首位を独走中だ(2位カヴェンディッシュと90ポイント差)。
メイン集団とのタイム差6秒とボーナスタイム6秒を稼ぎ、ライバルたちから合計12秒のリードを奪ったフルームは「サガンと飛び出してから『この動きは本当に価値があるのか?』と自問したけど、最終週の山岳で強さを見せるナイロ(キンタナ)から少しでもリードを奪っておく必要があった。下りでのアタックに続いて平坦路でのアタック。楽しみながら走ったよ」とコメントする。
概ね追い風基調だったことから平均スピードが47.2km/hに達したこの日のステージ。終盤のペースアップによってメイン集団から脱落した総合5位のホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)と総合9位(ヤングライダー賞2位)のルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)、総合17位ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)は1分09秒遅れでフィニッシュし、それぞれ総合順位を落としている。
南フランスを吹き抜ける強風は翌日も弱まらない予報が出ているため、レース主催者ASOは第12ステージのコース短縮を決定。風速110km/hという猛烈な風が吹き付ける超級山岳モンヴァントゥーの頂上まで登らず、残り6km地点のシャレ・レイナールでフィニッシュを迎えることに。登坂距離15.7kmが9.5kmに、そして平均勾配が8.8%から9.3%に変更となっている。
ツール・ド・フランス2016第11ステージ結果
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) 3h26’23”
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
3位 マチェイ・ボドナール(ポーランド、ティンコフ)
4位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) +06”
5位 クリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)
6位 ヤスパー・ストゥイフェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
7位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)
8位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
9位 ソンドレホルスト・エンゲル(ノルウェー、IAMサイクリング)
10位 オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)
65位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ) +1’09”
68位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
70位 ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)
179位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ) +5’39”
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) 52h34’37”
2位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) +28”
3位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) +31”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) +35”
5位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) +56”
6位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
7位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1’13”
9位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
10位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ) +1’28”
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) 309pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 219pts
3位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) 202pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ) 80pts
2位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) 77pts
3位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) 58pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) 52h35’05”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ) +1’42”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン) +2’35”
チーム総合成績
1位 BMCレーシング 157h33’00”
2位 モビスター +6’34”
3位 チームスカイ +8’44”
ステージ敢闘賞
アルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ)
リタイア
なし
text&photo:Kei Tsuji in Montpellier, France
Amazon.co.jp