2016/07/07(木) - 16:28
リモージュを発ったプロトンは一路南へ。アルプスやピレネーに加える山岳のスパイスとして、近年コースに取り入れられることが多くなった、険しい山並みの高地や台地からなる中央山塊へと進んでいく。
朝から太陽が輝き、フランスらしい夏の風景がようやく戻ってきた。まだ大きな勝負どころではないが、総合を狙う有力勢の最初のテストとなるステージだけに、準備をすすめるチームバスエリアにはいつもよりも緊張感が漂う。
多くのチームのバイクに山岳用が用意され、初めて使われる日となる。このところリアのスプロケットに30Tといったローギアを使う選手が増え、その調整に余念がない。現況のパーツは少しキャパシティオーバー気味なのだ。
リモージュ市街をクルージングしたのちプロトンは一路中央山塊マッシフサントラルへ向かう。ルートはアップダウンに富み、道幅が狭く、曲がりくねっているため危険も多い。近年までこの一帯を訪れることは少なかった。しかしピレネーやアルプスにある長い上りや風景のダイナミックさは無いが、レースに変化をもたらしてくれることで総合ディレクターのクリスティアンプリュドム氏やティエリー・グブヌー氏らのお気に入りになっている地域だ。
総合争いの選手たちにとっては互いに遅れるわけに行かないが、大きな差をつけることも難しいステージのため総合狙いのリーダーを抱えるチームはお互いの出方を伺いながらの走りとなる。つまり逃げるには絶好のチャンスというわけだ。
逃げに乗りたい選手たちのアタックが繰り返された。最初の4級山岳では決まらず、20kmを過ぎてから形成されたグレッグ・ファンアフェルマート(BMCレーシング)とラファル・マイカ(ティンコフ)、アンドレー・グリブコ(アスタナ)らを含む9名の強力な逃げグループ。マイヨ・ジョーヌを擁するティンコフも、チームスカイも、ことさらこれを捕まえに行く理由はない。フィニッシュ地点リオランでの優勝候補も総合争いの有力勢に加えて数人挙げられるも、絞り切れない。逃げに乗ることがすんなり許される選手は多くない。
順調に差を開く9人は、山深い村々をつなぐ小道を協調しながら駆け抜けた。前半は2011年にフアンアントニオ・フレチャ、ジョニー・フーガーランド、サンディ・カザール、トマ・ヴォクレール、ルイス・レオン・サンチェスらが逃げた道を通った。逃げ集団を追い抜こうとした主催者のクルマがフーガーランドらを跳ねた、あの忌まわしい事故が起こった道。そしてトマ・ヴォクレールがマイヨ・ジョーヌを獲得した道だ。
メイン集団のペースセッティングはチームスカイのイアン・スタナードがひとり担い、その後ろにティンコフが続くという不思議な形態が長く続いた。レース後半は日差しが強くなり、荒れた道のうえには溶けたアスファルトが流れだす。砂利が浮き、舗装の状態が良くない上に滑りやすい要素がたくさんという危険な道。クルマ以上に危険はあちこちに転がっている。
フィニッシュするリオランは小さなスキーリゾートだ。1975年にも一度フィニッシュしている。この一帯に詳しいのはロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)。祖母がコース途中のミュラ村で暮らしていて、子供の頃からリオランにスキーをしに来ていたという。
もちろんこの辺りで練習することも多く、道は知り尽くしている。「パ・ド・ペイロルとル・ペルテュス峠はかなりの打撃を与えるはず。タイム差がつくのは明らか。最後は小さなグループで勝負が決するだろうね。先頭集団が40人でフィニッシュすることはありえない」と話す。バルデは2014年にチームメイトのブレル・カドリが勝利したヴォージュ山塊のジェラルメのステージに似ていると話す。しかし、もっと厳しいと。
誰が勝つのか?ということ以外に、今日の興味はコンタドールが遅れるのかどうか、または他のライバル選手たちがコンタドールにアタックを仕掛けるのかということ。
チームスカイのブレイルスフォードGMは、コンタドールに対してアタックするか?の問に「彼は苦しんでいる。ダウンしている状態の人間にキックはしない。我々は誰かのクラッシュや怪我につけこむことはしない。脚で勝負したいから、そう思ったことはない」と話す。
しかしコンタドールに対してアタックを仕掛けなくても、リオランでは最後は総合勢のつばぜりあいになることは間違いない。そこにコンタドールがついていけるかどうか。日を追うごと回復していると話すコンタドールは、リオランに到達するまでにどれほど良くなっているのか。
ファンアフェルマートはフィニッシュ前の争いで勝るため、デヘントに対して脅威を抱く必要がなかった。対してデヘントは自身より強い世界のトップライダーと認識するファンアフェルマートと逃げることになったことは、運が悪かったと感じていた。ペースもあわないことでファンアフェルマートはふたりで行くことより独走を選んだ。ペルテュス峠のアタックはすんなり決まった。有力勢が集まるグループには5分の大差をつけた。ステージ優勝に自身初のマイヨジョーヌもついてきた。
昨年の第13ステージでサガンと競り合い、勝利したのも中央山塊のステージだった。ベルギー生粋のクラシックを得意とする31歳。しかし春先の1週間のステージレース「ティレーノ〜アドリアティコ」に総合優勝し、春のクラシック制覇に意気込むも、最大の目標だったロンド・ファン・フラーンデレンで落車して鎖骨を骨折。パリルーベも当然欠場し、失意の日々を送った。春の失意を返して余りあるマイヨジョーヌだ。
略して「GVA」を、プロトンで名前を知らないライダーは居ない。独走もスプリントも申し分なし。しかし難関山岳はこなせないことで総合ライダー達も、先の心配をすること無しにGVAの逃げを許した。
総合狙いのリーダーたちが集まる集団からはラスト30kmでヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)が遅れた。優勝争いの一角があっさり脱落。しかし本人はあっさりしている。「以前から言い続けている通り、このツールにおけるアスタナのエースはファビオ・アル。今日は山岳で彼をアシストしたかったけど力が入らなかった。バッドデーがやってきたんだ。今日のような暑い日に山岳で能力を発揮するのは簡単なことじゃない」。これでジロ&ツールのダブルツールは無理という考え方が定着しそうだ。
道をよく知るバルデが果敢にアタックした。もちろんそうでなくてもどこかで誰かが仕掛けたかもしれない。しかしダウンヒルもすべて頭にインプットされている下りの得意なバルデは、地元の人達の大声援に応えて動いた。このペースアップによりコンタドールが遅れ、一人で追走するはめに。下り切ってフルーム集団はすぐ前まで迫ったが、結果的にはライバルたちからさらに33秒を失った。
フルーム集団にはチームメイトのロマン・クロイツィゲルが居たが、下がって引き上げることはしなかった。ロストコンタクト? それとも遅れたら見放すということで同意していた? バスに駆け込んだコンタドールだが、メディアに引っ張りだされてコメントせざるを得なかった。
「とても厳しいステージだった。いくらか力は戻ってきたけど、最終的にタイムを失う結果になってしまった。モビスターとチームスカイが厳しい展開に持ち込んだ結果、遅れてしまった。でも予想よりもタイムロスを抑え込んだという満足感もある。身体的に傷を負っているけど心は傷ついていない。
例年とは違う種類のツールになりつつある。毎日走り続けながら様子を見て、レースの目標を変えることになるかもしれない。ピレネー到着までにしっかり回復したいけど、もし回復しなければ(総合タイムをさらに失えば)、アルプスで(ステージ優勝に向けた)アタックのタイミングを待ちたい」。
クロイツィゲルは先に行ったけど、良かったのか? の問いには、チームメイトや作戦を批判することなく答えた。「最後は少し組織的でない動きになってしまった。でもそんなに大きな問題じゃない。脚が良く動かないんだ。それがいちばんの問題だ」。
コンタドールの言葉と態度は強いが、しかしすでに総合争いからステージ狙いに切り替えざるを得ないことを理解している様子が言葉の端々に伺える。実際、1分21秒の差は自身の総合は諦めざるを得ない状況と言えるだろう。
フルームはニーバリとコンタドールの失速について話す。「総合を狙いに来ていると予想していたヴィンチェンツォ(ニーバリ)の失速には驚いた。アルベルト(コンタドール)の遅れは、彼が序盤ステージで落車したことを考えると仕方がないと思う。怪我がない状態の彼と勝負してタイムを奪いたかった」。
この日、新城幸也(ランプレ・メリダ)も2度めの落車をした。後方から他の選手に突っ込まれ、再び左親指を大きく打ち付けたという。しかしレース後は笑っていたという情報。深刻なものではなさそうだ。
photo&text:Makoto.AYANO in Lioran, France.
朝から太陽が輝き、フランスらしい夏の風景がようやく戻ってきた。まだ大きな勝負どころではないが、総合を狙う有力勢の最初のテストとなるステージだけに、準備をすすめるチームバスエリアにはいつもよりも緊張感が漂う。
多くのチームのバイクに山岳用が用意され、初めて使われる日となる。このところリアのスプロケットに30Tといったローギアを使う選手が増え、その調整に余念がない。現況のパーツは少しキャパシティオーバー気味なのだ。
リモージュ市街をクルージングしたのちプロトンは一路中央山塊マッシフサントラルへ向かう。ルートはアップダウンに富み、道幅が狭く、曲がりくねっているため危険も多い。近年までこの一帯を訪れることは少なかった。しかしピレネーやアルプスにある長い上りや風景のダイナミックさは無いが、レースに変化をもたらしてくれることで総合ディレクターのクリスティアンプリュドム氏やティエリー・グブヌー氏らのお気に入りになっている地域だ。
総合争いの選手たちにとっては互いに遅れるわけに行かないが、大きな差をつけることも難しいステージのため総合狙いのリーダーを抱えるチームはお互いの出方を伺いながらの走りとなる。つまり逃げるには絶好のチャンスというわけだ。
逃げに乗りたい選手たちのアタックが繰り返された。最初の4級山岳では決まらず、20kmを過ぎてから形成されたグレッグ・ファンアフェルマート(BMCレーシング)とラファル・マイカ(ティンコフ)、アンドレー・グリブコ(アスタナ)らを含む9名の強力な逃げグループ。マイヨ・ジョーヌを擁するティンコフも、チームスカイも、ことさらこれを捕まえに行く理由はない。フィニッシュ地点リオランでの優勝候補も総合争いの有力勢に加えて数人挙げられるも、絞り切れない。逃げに乗ることがすんなり許される選手は多くない。
順調に差を開く9人は、山深い村々をつなぐ小道を協調しながら駆け抜けた。前半は2011年にフアンアントニオ・フレチャ、ジョニー・フーガーランド、サンディ・カザール、トマ・ヴォクレール、ルイス・レオン・サンチェスらが逃げた道を通った。逃げ集団を追い抜こうとした主催者のクルマがフーガーランドらを跳ねた、あの忌まわしい事故が起こった道。そしてトマ・ヴォクレールがマイヨ・ジョーヌを獲得した道だ。
メイン集団のペースセッティングはチームスカイのイアン・スタナードがひとり担い、その後ろにティンコフが続くという不思議な形態が長く続いた。レース後半は日差しが強くなり、荒れた道のうえには溶けたアスファルトが流れだす。砂利が浮き、舗装の状態が良くない上に滑りやすい要素がたくさんという危険な道。クルマ以上に危険はあちこちに転がっている。
フィニッシュするリオランは小さなスキーリゾートだ。1975年にも一度フィニッシュしている。この一帯に詳しいのはロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)。祖母がコース途中のミュラ村で暮らしていて、子供の頃からリオランにスキーをしに来ていたという。
もちろんこの辺りで練習することも多く、道は知り尽くしている。「パ・ド・ペイロルとル・ペルテュス峠はかなりの打撃を与えるはず。タイム差がつくのは明らか。最後は小さなグループで勝負が決するだろうね。先頭集団が40人でフィニッシュすることはありえない」と話す。バルデは2014年にチームメイトのブレル・カドリが勝利したヴォージュ山塊のジェラルメのステージに似ていると話す。しかし、もっと厳しいと。
誰が勝つのか?ということ以外に、今日の興味はコンタドールが遅れるのかどうか、または他のライバル選手たちがコンタドールにアタックを仕掛けるのかということ。
チームスカイのブレイルスフォードGMは、コンタドールに対してアタックするか?の問に「彼は苦しんでいる。ダウンしている状態の人間にキックはしない。我々は誰かのクラッシュや怪我につけこむことはしない。脚で勝負したいから、そう思ったことはない」と話す。
しかしコンタドールに対してアタックを仕掛けなくても、リオランでは最後は総合勢のつばぜりあいになることは間違いない。そこにコンタドールがついていけるかどうか。日を追うごと回復していると話すコンタドールは、リオランに到達するまでにどれほど良くなっているのか。
ファンアフェルマートはフィニッシュ前の争いで勝るため、デヘントに対して脅威を抱く必要がなかった。対してデヘントは自身より強い世界のトップライダーと認識するファンアフェルマートと逃げることになったことは、運が悪かったと感じていた。ペースもあわないことでファンアフェルマートはふたりで行くことより独走を選んだ。ペルテュス峠のアタックはすんなり決まった。有力勢が集まるグループには5分の大差をつけた。ステージ優勝に自身初のマイヨジョーヌもついてきた。
昨年の第13ステージでサガンと競り合い、勝利したのも中央山塊のステージだった。ベルギー生粋のクラシックを得意とする31歳。しかし春先の1週間のステージレース「ティレーノ〜アドリアティコ」に総合優勝し、春のクラシック制覇に意気込むも、最大の目標だったロンド・ファン・フラーンデレンで落車して鎖骨を骨折。パリルーベも当然欠場し、失意の日々を送った。春の失意を返して余りあるマイヨジョーヌだ。
略して「GVA」を、プロトンで名前を知らないライダーは居ない。独走もスプリントも申し分なし。しかし難関山岳はこなせないことで総合ライダー達も、先の心配をすること無しにGVAの逃げを許した。
総合狙いのリーダーたちが集まる集団からはラスト30kmでヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)が遅れた。優勝争いの一角があっさり脱落。しかし本人はあっさりしている。「以前から言い続けている通り、このツールにおけるアスタナのエースはファビオ・アル。今日は山岳で彼をアシストしたかったけど力が入らなかった。バッドデーがやってきたんだ。今日のような暑い日に山岳で能力を発揮するのは簡単なことじゃない」。これでジロ&ツールのダブルツールは無理という考え方が定着しそうだ。
道をよく知るバルデが果敢にアタックした。もちろんそうでなくてもどこかで誰かが仕掛けたかもしれない。しかしダウンヒルもすべて頭にインプットされている下りの得意なバルデは、地元の人達の大声援に応えて動いた。このペースアップによりコンタドールが遅れ、一人で追走するはめに。下り切ってフルーム集団はすぐ前まで迫ったが、結果的にはライバルたちからさらに33秒を失った。
フルーム集団にはチームメイトのロマン・クロイツィゲルが居たが、下がって引き上げることはしなかった。ロストコンタクト? それとも遅れたら見放すということで同意していた? バスに駆け込んだコンタドールだが、メディアに引っ張りだされてコメントせざるを得なかった。
「とても厳しいステージだった。いくらか力は戻ってきたけど、最終的にタイムを失う結果になってしまった。モビスターとチームスカイが厳しい展開に持ち込んだ結果、遅れてしまった。でも予想よりもタイムロスを抑え込んだという満足感もある。身体的に傷を負っているけど心は傷ついていない。
例年とは違う種類のツールになりつつある。毎日走り続けながら様子を見て、レースの目標を変えることになるかもしれない。ピレネー到着までにしっかり回復したいけど、もし回復しなければ(総合タイムをさらに失えば)、アルプスで(ステージ優勝に向けた)アタックのタイミングを待ちたい」。
クロイツィゲルは先に行ったけど、良かったのか? の問いには、チームメイトや作戦を批判することなく答えた。「最後は少し組織的でない動きになってしまった。でもそんなに大きな問題じゃない。脚が良く動かないんだ。それがいちばんの問題だ」。
コンタドールの言葉と態度は強いが、しかしすでに総合争いからステージ狙いに切り替えざるを得ないことを理解している様子が言葉の端々に伺える。実際、1分21秒の差は自身の総合は諦めざるを得ない状況と言えるだろう。
フルームはニーバリとコンタドールの失速について話す。「総合を狙いに来ていると予想していたヴィンチェンツォ(ニーバリ)の失速には驚いた。アルベルト(コンタドール)の遅れは、彼が序盤ステージで落車したことを考えると仕方がないと思う。怪我がない状態の彼と勝負してタイムを奪いたかった」。
この日、新城幸也(ランプレ・メリダ)も2度めの落車をした。後方から他の選手に突っ込まれ、再び左親指を大きく打ち付けたという。しかしレース後は笑っていたという情報。深刻なものではなさそうだ。
photo&text:Makoto.AYANO in Lioran, France.
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