2016/04/24(日) - 10:09
残り2.5km地点に石畳坂が追加され、例年以上にタフなコースレイアウトとなった第102回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(UCIワールドツアー)。季節外れの寒波によって雪予報が出ているアルデンヌ最終戦「ラ・ドワイエンヌ」の見どころをチェックしておこう。
フィニッシュ手前に急勾配の石畳坂が追加 登坂力必須の難コース
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2016 image:A.S.O.歴史あるクラシックレースは数あれど、このリエージュほど長い歴史のあるロードレースは他に無い。
残り2.5km地点に「コート・ド・ラ・リューナニオ(平均10.5%)」が追加 image:A.S.O.リエージュの第1回大会が開催されたのはなんと今から114年前の1892年。近代オリンピック(1896年〜)や、日本の箱根駅伝(1920年〜)よりも歴史が長く、「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」という愛称で呼ばれることも多い。今年は開催102回目だ。
コート・ド・サンロッシュを登るメイン集団 photo:Cor.Vos「モニュメント」と呼ばれる世界5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の一つとして数えられており、格式の点ではアルデンヌ3連戦の中で際立って大きい。
「PHIL」ペイントが並ぶコート・ド・ラ・ルドゥット photo:Kei Tsujiベルギー西部のフランデレン地域を代表するのがロンド・ファン・フラーンデレンであれば、東部ワロン地域を代表するのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。レースの舞台となるのは、リエージュの南方に広がる丘陵地帯だ。コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復。丘ではなく山が連なる丘陵地帯を逆回りに8の字を描き、リエージュ近郊の街アンスでフィニッシュを迎える。
「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってフィニッシュ」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴だ。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」。ほとんどの登りは全長が2km以上であり、一日の獲得標高差は4,500mに達する。コース全長も253kmと長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。
細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は10カ所ある。中でも、選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られるのが、125.0km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11.1%)」だ。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。
フィニッシュまでおよそ80kmの地点に位置していた急勾配の名物坂「コート・ド・ストック(平均勾配12.4%)」は道路工事によってコースから外れている。しかしこの難所が省かれたことでコースの難易度が下がることはなく、逆に主催者はレース終盤に登りを凝縮した印象だ。
本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、フィニッシュ37km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.9%)」だ。フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)の出身地が近く、PHILのペイントが施されたこのラ・ルドゥットの最大勾配は17%。頂上通過後は横風が吹く平坦路が続くため、毎年ここで集団は大きく人数を減らす。
「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)」と「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」を経てアンスに至る緩やかな登りに入るのが通例だったが、2016年の第102回大会には新たに「コート・ド・ラ・リューナニオ(平均10.5%)」が追加された。登坂距離は600mと短いが、石畳に覆われたナニオ通りは勾配のあるパンチの効いた登り。しかも頂上はフィニッシュの2.5km手前(以前の最終坂サンニコラは6.5km手前)であり、レース展開に大きな影響を及ぼすのは間違いない。
フィニッシュ地点「アンス」に向かう登りは「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。そのため「コート・ド・ラ・リューナニオ」で積極的にアタックを仕掛け、独走に持ち込みたい選手も出てくるだろう。
レース当日の天候は雨予報で、最高気温は8度までしか上がらない。季節外れの寒波によって折り返し地点バストーニュには雪予報も出ている。概ね北西の風が吹くため、リエージュに向かって向かい風の中を走ることになる。厳しいコンディションになるのは間違いなく、積雪や極度の低温に見舞われた場合はUCIが今シーズン導入した「悪天候時実施要綱(エクストリーム・ウェザー・プロトコル)」が発動する可能性も有る。その場合はスタートとフィニッシュ地点の変更やコースの変更、ニュートラル措置、レースキャンセルなどが考えられるシナリオだ。
登場する10カ所の登り
1 78.5km コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ 長さ2.8km・平均勾配6.2%
2 125.0km コート・ド・サンロシュ 長さ1.0km・平均勾配11.1%
3 168.5km コート・ド・ワンヌ 長さ2.8km・平均勾配7.2%
4 179.0km コート・ド・ラ・オートルヴェ 長さ3.6km・平均勾配5.6%
5 192.0km コル・ドゥ・ロジエ 長さ4.4km・平均勾配5.9%
6 204.5km コル・ドゥ・マキサール 長さ2km・平均勾配5%
7 216.5km コート・ド・ラ・ルドゥット 長さ2.0km・平均勾配8.9%
8 232.5km コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 長さ1.5km・平均勾配9.3%
9 246.5km コート・ド・サンニコラ 長さ1.2km・平均勾配8.6%
10 250.5km コート・ド・ラ・ルーナニオ 長さ0.6km・平均勾配10.5%
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2016 image:A.S.O.
好調バルベルデの4勝目を阻止するのは?別府史之が3戦連続出場
アラフィリップらを振り切ったアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Tim de Waeleディフェンディングチャンピオンのアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は2006年、2008年、2015年に続く4度目のリエージュ制覇を狙う。35歳のバルベルデはこれまで7回表彰台に登っている。
フレーシュ・ワロンヌ2016表彰台 2位アラフィリップ、1位バルベルデ、3位マーティン photo:Tim de Waeleバルベルデは4日前のフレーシュ・ワロンヌでは4度目の優勝を飾っており、初出場するジロ・デ・イタリアに向けて順調な仕上がりを見せる。「コート・ド・ラ・リューナニオ」の追加はむしろバルベルデに味方するだろう。
ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ) photo:Tim de Waele昨年2位のジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)はフレーシュで2年連続2位。リエージュでは再びダニエル・マーティン(アイルランド)との二枚看板でバルベルデに挑むことになる。2013年大会の優勝者マーティンはパンダペイントのバイクでの出場だ。
サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji地元ワロンの期待を背負うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)は怪我の影響によってアムステルとフレーシュで精彩を欠き、リエージュ欠場を決めている。BMCレーシングはジルベールの代打としてリッチー・ポート(オーストラリア)やサムエル・サンチェス(スペイン)をエースに立てる。
エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト) photo:Tim de Waele連覇が懸かったアムステルで失速したミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)はこのリエージュに集中するためにフレーシュをパス。元世界チャンピオンのクヴィアトコウスキーは2014年大会3位表彰台。チームスカイからはツール・ド・フランス覇者クリス・フルーム(イギリス)も出場するが、悪天候の場合は無理しないだろう。
クヴィアトコウスキーと同様にフレーシュをパスした2014年大会の優勝者サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)はミハエル・アルバジーニ(スイス)やアダム・イェーツ(イギリス)を従えての出場。ゲランスはバルベルデと同じ35歳。スプリントが武器のゲランスは「コート・ド・ラ・リューナニオ」でのアタック合戦に食らいつく必要がある。
アムステルを制したエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)や、アムステルとフレーシュで積極果敢な走りを見せているティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)とロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)らもアタック合戦に加わるはず。
起伏に富んだワンデークラシックのスペシャリストであるルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)やホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)の他、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)といったグランツールで総合上位に入るオールラウンダーも優勝候補に名前が挙がる。
アムステルとフレーシュに続いて出場の別府史之(トレック・セガフレード)はバウク・モレマ(オランダ)をアシストすることになるだろう。ジャパンカップ覇者モレマは2012年大会6位。別府はその後すぐにスイスに移動し、4月26日開幕のツール・ド・ロマンディに出場する予定だ。
text:Kei Tsuji
フィニッシュ手前に急勾配の石畳坂が追加 登坂力必須の難コース
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「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってフィニッシュ」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴だ。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」。ほとんどの登りは全長が2km以上であり、一日の獲得標高差は4,500mに達する。コース全長も253kmと長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。
細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は10カ所ある。中でも、選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られるのが、125.0km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11.1%)」だ。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。
フィニッシュまでおよそ80kmの地点に位置していた急勾配の名物坂「コート・ド・ストック(平均勾配12.4%)」は道路工事によってコースから外れている。しかしこの難所が省かれたことでコースの難易度が下がることはなく、逆に主催者はレース終盤に登りを凝縮した印象だ。
本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、フィニッシュ37km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.9%)」だ。フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)の出身地が近く、PHILのペイントが施されたこのラ・ルドゥットの最大勾配は17%。頂上通過後は横風が吹く平坦路が続くため、毎年ここで集団は大きく人数を減らす。
「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)」と「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」を経てアンスに至る緩やかな登りに入るのが通例だったが、2016年の第102回大会には新たに「コート・ド・ラ・リューナニオ(平均10.5%)」が追加された。登坂距離は600mと短いが、石畳に覆われたナニオ通りは勾配のあるパンチの効いた登り。しかも頂上はフィニッシュの2.5km手前(以前の最終坂サンニコラは6.5km手前)であり、レース展開に大きな影響を及ぼすのは間違いない。
フィニッシュ地点「アンス」に向かう登りは「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。そのため「コート・ド・ラ・リューナニオ」で積極的にアタックを仕掛け、独走に持ち込みたい選手も出てくるだろう。
レース当日の天候は雨予報で、最高気温は8度までしか上がらない。季節外れの寒波によって折り返し地点バストーニュには雪予報も出ている。概ね北西の風が吹くため、リエージュに向かって向かい風の中を走ることになる。厳しいコンディションになるのは間違いなく、積雪や極度の低温に見舞われた場合はUCIが今シーズン導入した「悪天候時実施要綱(エクストリーム・ウェザー・プロトコル)」が発動する可能性も有る。その場合はスタートとフィニッシュ地点の変更やコースの変更、ニュートラル措置、レースキャンセルなどが考えられるシナリオだ。
登場する10カ所の登り
1 78.5km コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ 長さ2.8km・平均勾配6.2%
2 125.0km コート・ド・サンロシュ 長さ1.0km・平均勾配11.1%
3 168.5km コート・ド・ワンヌ 長さ2.8km・平均勾配7.2%
4 179.0km コート・ド・ラ・オートルヴェ 長さ3.6km・平均勾配5.6%
5 192.0km コル・ドゥ・ロジエ 長さ4.4km・平均勾配5.9%
6 204.5km コル・ドゥ・マキサール 長さ2km・平均勾配5%
7 216.5km コート・ド・ラ・ルドゥット 長さ2.0km・平均勾配8.9%
8 232.5km コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 長さ1.5km・平均勾配9.3%
9 246.5km コート・ド・サンニコラ 長さ1.2km・平均勾配8.6%
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アムステルを制したエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)や、アムステルとフレーシュで積極果敢な走りを見せているティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)とロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)らもアタック合戦に加わるはず。
起伏に富んだワンデークラシックのスペシャリストであるルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)やホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)の他、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)といったグランツールで総合上位に入るオールラウンダーも優勝候補に名前が挙がる。
アムステルとフレーシュに続いて出場の別府史之(トレック・セガフレード)はバウク・モレマ(オランダ)をアシストすることになるだろう。ジャパンカップ覇者モレマは2012年大会6位。別府はその後すぐにスイスに移動し、4月26日開幕のツール・ド・ロマンディに出場する予定だ。
text:Kei Tsuji
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