2009/08/04(火) - 16:04
シクロワイアード号(エヴァディオ Venus)に組み込んで、徹底的にインプレしたカンパニョーロ・アテナの11スピード。第2回は駆動系と制動系のインプレッションをお届けしよう。じっくりとテストをして初めてわかった意外な真実とは?
「スーパーレコード」、「レコード」、「コーラス」に続く「第4の11スピードコンポ」として登場した「アテナ」。そこに投入されている技術は、基本的に上位機種と同等だ。カンパニョーロも公言しているとおり、「設計のテクニカルソリューションは、スーパーレコード/レコード/コーラスとまったく同じものを採用している」のである。
もちろん、前回ご紹介した変速系同様、駆動系や制動系に関しても、上位機種と同等のテクニカルソリューションが惜しげもなく投入されている。例えば、クランクは新しいカンパニョーロの特長ともなった「ウルトラトルク」方式が採用される。極太の中空シャフトを中間でつなぐという離れ業は、今までどこのメーカーも考えつかなかったオリジナリティ溢れるモノ。
その踏んだ時の剛性感の高さは、多くのプロ選手が賞賛する。チェーンやスプロケットはコーラスと共通。ヨーロッパ各国アマチュアチームが採用するコンポだけに、その信頼性の高さは折り紙付きだ。
制動系、すなわちブレーキは、スーパーレコードやレコード、コーラス同様ディファレンシャルタイプのスケルトンブレーキだ。ブレーキシューのゴムにも上位機種と同等のコンパウンドが使用され、もはや制動感は上位機種と何ら変わらないと言っても間違いないだろう。
― インプレッション ―
アテナのアルミ製ウルトラトルククランクは素晴らしい。カーボンクランクを否定するつもりは毛頭ないのだが、やはりアルミクランクの信頼感というのは捨てがたい魅力を持つ。とにかく、踏んだ時の剛性感の高さが最高で、踏力がダイレクトに推進力に変換される感じなのだ。
古くからカンパニョーロを愛用している人なら、カンパニョーロのアルミ素材の優秀性については薄々気づいていることだろう。硬くて、さらに長年使用していてもヤレがこないのだ。
私は1970年代のレコードからカンパニョーロを使い続けているが、当時の細いアルミクランクでも、今のヘタなカーボンクランクなんかよりずっと剛性感が高い。
チェーンリングも硬くて耐摩耗性が高く、私レベルでは10年くらいは軽くもってしまうのだ。
「ミリタリースペック」という言葉をご存じだろうか? 軍事用に使う機械には、採算性を度外視して最高の素材、最高の技術を使うことが普通だ。それをミリタリースペックという。なにせ国の勃興がかかっているわけだから、素材の質を落としたり、技術をケチったりして利益を追求することがないのである。
結果として、市販品では考えられないような高品質の製品が出来上がるのだ。今でも第二次大戦中に製造された軍用機のエンジンが、アクロバット飛行をする飛行機に使われていることがあるという。それほどまでに、ミリタリースペックというのはすごいのである。カンパニョーロの製品には、そのミリタリースペックに通じる哲学があるのではないだろうか?
70年代のレコードやヌーボレコード、スーパーレコードなど、30年以上使っても、まだまだ現役で活躍してくれるクオリティを持っている。まあ、プロレースという戦場で使われる道具であるから、ミリタリースペックであるのも、あながち不思議ではない。
カンパニョーロのアルミ素材の優秀性は、シマノの技術者も認めるところ。かつてシマノがカンパニョーロのアルミ素材の成分分析をしたところ、アルミ合金の成分とは関係のない「不純物」がほんのわずか認められたという。
シマノが使用するアルミ合金にはそのような不純物はまったく入っていないのだが、どうやらその不純物こそがカンパニョーロのアルミ素材の強度を出すヒミツらしいのだ。
そんな優秀なアルミ素材をふんだんに使ったアテナであるから、ある意味スーパーレコードやレコード、コーラスよりも「カンパニョーロらしさ」を堪能できるコンポであるということもできよう。だいぶ話がわき道にそれてしまったが、アテナのクランクはアルミ素材の優秀さとウルトラトルク機構とが相乗効果を生みだして、とにかく素晴らしい踏み心地を演出している。
こと剛性感という点に関しては、スーパーレコードの上を行くと言っても過言ではない。
ブレーキの良さは、カンパニョーロを使ったことがある人ならば、誰でも知っていることだ。絶対的なストッピングパワーだけでなく、スピードコントロール性能が素晴らしい。いわゆる「カックンブレーキ」は、レーシングブレーキとしては失格。
その辺をよくわきまえているカンパニョーロは、リヤにシングルピボットの「ディファレンシャルタイプ」ブレーキを採用したのである。もちろん、アテナもディファレンシャルタイプだ。
また、ブレーキシューのゴムが素晴らしい。その素晴らしさは、雨の日になると誰にでもわかる。土砂降りの下りほど怖いものはないが、カンパニョーロのシューならば何ら緊張感を味わうこともなく、ドライの時とあまり変わらない制動力を得ることができるのだ。
本当にこのブレーキシューのコンパウンドは、絶妙な配合によって完成されている。まさにアテナも生粋のレーシングコンポーネント。その使用感はスーパーレコードとほとんど変わらないと言うことができよう。
目隠しをして自転車に乗るのはあまりにも危険だが、もし仮にブラインドテストができたとしたら、スーパーレコードとアテナの違いを言い当てることができる人はほとんどいないのではないだろうか? それほどまでに、アテナは完成されている。
次回はアテナに組み合わせたカンパニョーロEURUS 2WAY FITホイールのインプレッションをお届けしよう。
― スペック ―
エルゴパワー
アルミ・カーボンレバー ダブルカーブレバー ヴァリクッション、低摩擦ポリマーを使用した内部機構
重量 360g 価格(税込み)33,390円
スプロケット
コーラスのウルトラシフトスプロケット採用 スチール製スプロケット ニッケルクローム表面処理
アルミ製ロックリング ウルトラシフト歯先設計 ウルトラシフトシンクロニゼーション
歯数構成11-23・11-25・12-25・12-27 重量 236g
価格(税込み)26,880円(11-23・11-25) 22,050円(12-25・12-27)
クランクセット
アルミバージョンとカーボンバージョンの2種 スーパーサイズ設計 8ピンアウターチェーンリング
ウルトラシフトシンクロニゼーション ウルトラシフト歯先設計
歯数 53×39T(スタンダード) 50×34T(コンパクト) クランク長170 / 172.5 / 175mm
重量 869g(アルミバージョン) 756g(カーボンバージョン)
価格(税込み)30,660円(アルミバージョン) 49,560円(カーボンバージョン)
フロントディレイラー
スチール製プレート ウルトラシフト11Sジオメトリーインナーケージ アンチフリクション処理
直付け・32mmバンド・35mmバンド
重量 92g 価格(税込み)5,880円(直付け) 6,720円(バンド)
リヤディレイラー
アルミ製ウルトラシフトフロントプレート ウルトラシフトパラレログラム
アルミ製ウルトラシフトボディ 軽量素材プーリー
重量 218g 価格(税込み)17,850円
ブレーキ
スケルトンデザイン ディファレンシャルブレーキ 特殊コンパウンドパッド イーガルアルミ合金ねじ
重量 322g 価格(税込み)18,900円
チェーン
コーラスの11Sチェーン採用 5.5mm幅 20%強度をアップしたスチール製
Ni-PTFT表面処理 ウルトラリンクシステム 重量 256g
価格(税込み)8,400円
グループセット重量 2402g(アルミクランク仕様) 2288g(カーボンクランク仕様)
グループセット価格 135,660円(アルミクランク仕様) 154,560円(カーボンクランク仕様)
インプレライダーのプロフィール
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
「スーパーレコード」、「レコード」、「コーラス」に続く「第4の11スピードコンポ」として登場した「アテナ」。そこに投入されている技術は、基本的に上位機種と同等だ。カンパニョーロも公言しているとおり、「設計のテクニカルソリューションは、スーパーレコード/レコード/コーラスとまったく同じものを採用している」のである。
もちろん、前回ご紹介した変速系同様、駆動系や制動系に関しても、上位機種と同等のテクニカルソリューションが惜しげもなく投入されている。例えば、クランクは新しいカンパニョーロの特長ともなった「ウルトラトルク」方式が採用される。極太の中空シャフトを中間でつなぐという離れ業は、今までどこのメーカーも考えつかなかったオリジナリティ溢れるモノ。
その踏んだ時の剛性感の高さは、多くのプロ選手が賞賛する。チェーンやスプロケットはコーラスと共通。ヨーロッパ各国アマチュアチームが採用するコンポだけに、その信頼性の高さは折り紙付きだ。
制動系、すなわちブレーキは、スーパーレコードやレコード、コーラス同様ディファレンシャルタイプのスケルトンブレーキだ。ブレーキシューのゴムにも上位機種と同等のコンパウンドが使用され、もはや制動感は上位機種と何ら変わらないと言っても間違いないだろう。
― インプレッション ―
アテナのアルミ製ウルトラトルククランクは素晴らしい。カーボンクランクを否定するつもりは毛頭ないのだが、やはりアルミクランクの信頼感というのは捨てがたい魅力を持つ。とにかく、踏んだ時の剛性感の高さが最高で、踏力がダイレクトに推進力に変換される感じなのだ。
古くからカンパニョーロを愛用している人なら、カンパニョーロのアルミ素材の優秀性については薄々気づいていることだろう。硬くて、さらに長年使用していてもヤレがこないのだ。
私は1970年代のレコードからカンパニョーロを使い続けているが、当時の細いアルミクランクでも、今のヘタなカーボンクランクなんかよりずっと剛性感が高い。
チェーンリングも硬くて耐摩耗性が高く、私レベルでは10年くらいは軽くもってしまうのだ。
「ミリタリースペック」という言葉をご存じだろうか? 軍事用に使う機械には、採算性を度外視して最高の素材、最高の技術を使うことが普通だ。それをミリタリースペックという。なにせ国の勃興がかかっているわけだから、素材の質を落としたり、技術をケチったりして利益を追求することがないのである。
結果として、市販品では考えられないような高品質の製品が出来上がるのだ。今でも第二次大戦中に製造された軍用機のエンジンが、アクロバット飛行をする飛行機に使われていることがあるという。それほどまでに、ミリタリースペックというのはすごいのである。カンパニョーロの製品には、そのミリタリースペックに通じる哲学があるのではないだろうか?
70年代のレコードやヌーボレコード、スーパーレコードなど、30年以上使っても、まだまだ現役で活躍してくれるクオリティを持っている。まあ、プロレースという戦場で使われる道具であるから、ミリタリースペックであるのも、あながち不思議ではない。
カンパニョーロのアルミ素材の優秀性は、シマノの技術者も認めるところ。かつてシマノがカンパニョーロのアルミ素材の成分分析をしたところ、アルミ合金の成分とは関係のない「不純物」がほんのわずか認められたという。
シマノが使用するアルミ合金にはそのような不純物はまったく入っていないのだが、どうやらその不純物こそがカンパニョーロのアルミ素材の強度を出すヒミツらしいのだ。
そんな優秀なアルミ素材をふんだんに使ったアテナであるから、ある意味スーパーレコードやレコード、コーラスよりも「カンパニョーロらしさ」を堪能できるコンポであるということもできよう。だいぶ話がわき道にそれてしまったが、アテナのクランクはアルミ素材の優秀さとウルトラトルク機構とが相乗効果を生みだして、とにかく素晴らしい踏み心地を演出している。
こと剛性感という点に関しては、スーパーレコードの上を行くと言っても過言ではない。
ブレーキの良さは、カンパニョーロを使ったことがある人ならば、誰でも知っていることだ。絶対的なストッピングパワーだけでなく、スピードコントロール性能が素晴らしい。いわゆる「カックンブレーキ」は、レーシングブレーキとしては失格。
その辺をよくわきまえているカンパニョーロは、リヤにシングルピボットの「ディファレンシャルタイプ」ブレーキを採用したのである。もちろん、アテナもディファレンシャルタイプだ。
また、ブレーキシューのゴムが素晴らしい。その素晴らしさは、雨の日になると誰にでもわかる。土砂降りの下りほど怖いものはないが、カンパニョーロのシューならば何ら緊張感を味わうこともなく、ドライの時とあまり変わらない制動力を得ることができるのだ。
本当にこのブレーキシューのコンパウンドは、絶妙な配合によって完成されている。まさにアテナも生粋のレーシングコンポーネント。その使用感はスーパーレコードとほとんど変わらないと言うことができよう。
目隠しをして自転車に乗るのはあまりにも危険だが、もし仮にブラインドテストができたとしたら、スーパーレコードとアテナの違いを言い当てることができる人はほとんどいないのではないだろうか? それほどまでに、アテナは完成されている。
次回はアテナに組み合わせたカンパニョーロEURUS 2WAY FITホイールのインプレッションをお届けしよう。
― スペック ―
エルゴパワー
アルミ・カーボンレバー ダブルカーブレバー ヴァリクッション、低摩擦ポリマーを使用した内部機構
重量 360g 価格(税込み)33,390円
スプロケット
コーラスのウルトラシフトスプロケット採用 スチール製スプロケット ニッケルクローム表面処理
アルミ製ロックリング ウルトラシフト歯先設計 ウルトラシフトシンクロニゼーション
歯数構成11-23・11-25・12-25・12-27 重量 236g
価格(税込み)26,880円(11-23・11-25) 22,050円(12-25・12-27)
クランクセット
アルミバージョンとカーボンバージョンの2種 スーパーサイズ設計 8ピンアウターチェーンリング
ウルトラシフトシンクロニゼーション ウルトラシフト歯先設計
歯数 53×39T(スタンダード) 50×34T(コンパクト) クランク長170 / 172.5 / 175mm
重量 869g(アルミバージョン) 756g(カーボンバージョン)
価格(税込み)30,660円(アルミバージョン) 49,560円(カーボンバージョン)
フロントディレイラー
スチール製プレート ウルトラシフト11Sジオメトリーインナーケージ アンチフリクション処理
直付け・32mmバンド・35mmバンド
重量 92g 価格(税込み)5,880円(直付け) 6,720円(バンド)
リヤディレイラー
アルミ製ウルトラシフトフロントプレート ウルトラシフトパラレログラム
アルミ製ウルトラシフトボディ 軽量素材プーリー
重量 218g 価格(税込み)17,850円
ブレーキ
スケルトンデザイン ディファレンシャルブレーキ 特殊コンパウンドパッド イーガルアルミ合金ねじ
重量 322g 価格(税込み)18,900円
チェーン
コーラスの11Sチェーン採用 5.5mm幅 20%強度をアップしたスチール製
Ni-PTFT表面処理 ウルトラリンクシステム 重量 256g
価格(税込み)8,400円
グループセット重量 2402g(アルミクランク仕様) 2288g(カーボンクランク仕様)
グループセット価格 135,660円(アルミクランク仕様) 154,560円(カーボンクランク仕様)
インプレライダーのプロフィール
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
フォトギャラリー
リンク