2021/01/09(土) - 12:00
フィジークはレーシングシューズ"R1"のモデルチェンジを行い、VENTO INFINITO CARBON2という新作をラインアップに加えた。ワイドフィットモデルが登場し、より多くのサイクリストが選びやすくなったTEMPO R4 OVERCURVEとともにインプレッションしよう。
フィジーク VENTO INFINITO KNIT CARBON2
これまでフィジークのロードシューズは"R"がRoadを意味し、数字がグレードを表してきた。R1はロードシューズのトップエンドとして位置づけられ、数多くのプロ選手たちを足元からサポート。ゲラント・トーマスによるツール・ド・フランス、リチャル・カラパスによるジロ・デ・イタリア制覇は、R1が一線級のレーシングシューズであることを改めて確かなものとした。
10年間続いたレーシングシューズの系譜は次のステップへと踏み出す。Rの名前から脱却し、新型はVENTO INFINITO CARBON2という名が与えられた。このネーミングにも意味がある。VENTOはフィジークが用意するコンペティティブなプロダクトを表しており、他にはロングライド向けのTEMPO、オフロード向けTERRAというタイトルネームが用意されている。
INFINITOとは製品の特徴を表している。前足部のBOAワイヤーが「∞」型とされており、無限大という言葉が"終わりのない"や"永遠"を意味するところから、イタリア語のインフィニートという言葉が選ばれている。そんなVENTO INFINITO CARBON2を詳しく掘り下げていこう。
VENTO INFINITO CARBON2の開発はこのR2カーボンソールからスタートした
INFINITOはR2カーボンアウトソールから開発が始まったという。シューズにとってアウトソールはペダルとの接点に最も近いパーツであり、ライダーの踏力を受け止める部分。フィジークはカーボンレイアップから見直しを行い、全く新しい高剛性・軽量なアウトソールを作り上げた。
剛性指数は10/10という最大数値を示しており、パワーロスを極限まで抑制し、ライダーの踏力を余すこと無くペダルに伝える剛性を獲得。クリート取り付け位置がやや後ろに移されており、より前傾が深いアグレッシブな姿勢でペダリングしやすい、現代的なミッドフットクリートポジションに対応した。
大きな開口部を持つアウトソール
また、見た目からわかる大きな違いは、ベンチレーションホールが1つにまとめられ、開口部が大型化を果たしたこと。クリート装着位置の後方に排気用のポートも開けられており、風がつま先から吹き抜けるように作られた。シューズ内の熱や湿気が積極的に排出されることで、シューズ内を常に快適な状況を保つことができそうだ。
アッパーが役割を担うアーチサポートもアップデートされている。これまでは土踏まずの部分のみ異なる生地を配置してアーチを支えていたが、VENTO STABILITA CARBONのDynamic Arch Support 2.0を踏襲したクロージャーベルト兼サポート形式が採用された。
VENTO INFINITO CARBON2はトラッドなアウトソールを採用しているため、アーチサポートはソールとアッパーのつなぎ目より行われる photo:Makoto AYANO
アウトソールがカットオフされていないため足の裏からサポートするという形ではなく、アウトソールとアッパーの繋ぎ目からアーチを支える設計であることがSTABILITAとの違いだ。とはいえ設計思想は似ているため、ベルトを足首側のダイヤルによって引き上げる構造によって、より強力なサポート力と包み込むようなフィット感を実現している。
VENTO INFINITO CARBON2にはマイクロテックス生地を使用した通常モデルとニットモデルの2種類が用意されており、いずれも改良が施されている。通常モデルはマイクロテックスを使用するのは前足部のみで、アーチサポートのベルトから後半部分はニットとし、剛性や柔軟性のバランスを整えた。
ニット生地にTPUコーティングを部分的に施すことで、しなやかさと強度のバランスを整えた
前足部のBOAワイヤーは「∞」のルーティングとされた
スタックハイトの低いBOA Li2ダイヤルが採用されている
ニットモデルはもちろんアッパー全てが織り生地だが、生地自体がR1B INFINITOから刷新されている。熱溶融TPUを強度や剛性が必要な部分に最適な密度で融着させた新マテリアルは、ニット生地の持つ柔軟性と通気性を維持しつつ、シューズのホールド力を確保。ライダーのパワフルな引き足をも受け止めるシューズへと進化を遂げている。
今回なるしまフレンドの藤野智一さんと小林浩史さんがインプレッションを行ったのはVENTO INFINITO "KNIT" CARBON2。フィジークのレーシングシューズの系譜を継ぐ最新モデルは、ライダーの目にどう映ったのか。インプレッションに移ろう。
フィジーク VENTO INFINITO KNIT CARBON2
CW:VENTO INFINITO CARBON2(以下INFINITO)はどのようなシューズでしたか
藤野:まず今回のインプレッションにあたり、同じ日にSTABILITA→INFINITO→STABILITAと履き替える比較テストも行い、各シューズの違いはどんなところにあるかを確かめてみました。不思議な感触のあるSTABILITAと比べると、INFINITOはサポート具合が穏やかで、自然なサポート感に落ち着いているなと思いました。対して、INFINITOからSTABILITAに履き替えた時は、STABILITAのアーチサポートには存在感が強く際立つような印象がありました。
これはあくまでもSTABILITAと比べてみた時の印象で、INFINITO単体で考えるとアーチサポートの影響は少なからずあります。具体的には拇指球のあたりには、アッパーがアーチ前方に影響を与えている感触があり、乗り始めはその部分が浮いているかのような感覚でのペダリングとなりました。STABILITAの時もそうだったのですが、乗り始めてから10~15分くらい経過すると、足のアーチがシューズに馴染んできて自然なフィーリングに落ち着きます。
INFINITOとSTABILITAの違いを考えながらインプレッションを行った
「アーチサポートの影響もあり、拇指球のあたりが持ち上げられているような感覚がある」と藤野智一さん
藤野:INFINITOは踏み込んだ時のダイレクト感がSTABILITAよりも強いですね。アウトソールが数mmほど薄く作られてるんじゃないかと思うほど違いを感じられるので、ダイレクト感を求めたい方であればINFINITOの方が適しているかと思います。どちらもレーシングシューズとして申し分のない性能を発揮してくれるので、生地感や重量という面で選んでも良いかもしれませんね。
特にアッパーのニット素材の違いは、シューズのキャラクターに大きな影響を与えています。INFINITOに用いられている新しいニット生地は、しなやかな布のような柔らかさなので非常に心地良い感覚で履けますが、ハイパワーでペダリングした時の生地の伸びはSTABILITAよりも感じてしまいました。STABILITAの方が生地が厚く、硬いのでホールド感は強め。その代わり気持ち良い履き心地はINFINITOに分がある印象です。
「ダイレクト感はINFINITOが勝る」と藤野智一さん
藤野:ただR1B INFINITO KNIT(前作)とVENTO INFINITO KNIT CARBON2(新作)を比較すると、前作のほうが柔軟でしなやかな生地で、新作の方がホールド力が高くなっています。新作のINFINITOは前作よりも硬く、STABILITAよりも柔らかいという印象です。この生地感によって、どのシューズにもデメリットが生まれるということはないので、ライダー個人の好みで選んでしまっていいと思います。
生地の違いは重量の違いにも表れています。重量と足を回した時の感覚としての重量感も、STABILITAと前作R1Bより新作INFINITOの方が軽いです。何千回と足の上下動を繰り返すペダリングでは重量の影響は少なくないです。レーサーは先程述べたスタックハイトの違いを1mm程度であれ感じられるほどシビアですし、そういった方は新作INFINITOの方が馴染みそうです。
「INFINITOの場合はカスタムインソールを入れても良さそう」と小林浩史さん
現在のフィジーク・シューズはアッパーの構造が練られており、フィット感が良好だという
小林:ニット生地の特徴は通気性の良さもあると思います。合成皮革を使うシューズよりもしなやかな履き心地と馴染みやすさ、シューズ内に熱がこもりにくい快適性をフィーチャーできるはずです。
藤野:INFINITOに使われている素材は薄い生地なのですが、BOAダイヤルを締め込んでも足に食い込まないというのも美点ですよね。他社では専用ソックスをBOAダイヤルと足の甲の間のクッションとすることで、ダイヤルの食い込みに対処していたこともあります。これはダイヤルの取り付け位置などがよく考えられているのでしょう。BOAの食い込みは全く気になりませんでした。
フィジーク VENTO INFINITO KNIT CARBON2
CW:STABILITAの場合は純正のインソールを使用したほうが良いとのことでしたが、INFINITOの場合はどうでしょうか。
藤野:STABILITAと比較するとINFINITOはサポート量が少ないので、場合によっては市販インソールや整形ソールを考えても良いかもしれませんね。ただいきなりアーチサポートソールを入れるのではなく、純正の状態で試してみて、足裏の状態を考慮してからステップを踏むことは必要です。インソールを扱うショップでアーチの高さを計測し、サポートが必要な状況をアドバイスしてもらってから、足に違和感がある場合にインソールという手段が選択肢にあがると思います。
INFINITOとSTABILITAの違いを語る藤野智一さん
小林:アーチサポートに関しては、シューズを購入する人が足に持っている悩みによって提案する答えは変わります。ダイナミックアーチサポートだけで事足りるようなケースであればSTABILITAがマッチしますが、必ずしもそうでない場合もあります。膝や足裏の違和感がハンドルやサドルポジションも影響している可能性もあり、アーチサポートだけで補えない場合もあるので、選びはじめの段階で見極めるというのはプロショップの方にアドバイスを仰いでみてください。そういう方はインソールで調整する余地のあるINFINITOという選択肢が良いのかなと感じますね。
フィジーク VENTO INFINITO KNIT CARBON2
藤野:どのシューズが適しているかは、ペダリングをしてみないとわからないというのが正直なところです。今回履き比べてみて、どちらもレースで使えるだけの性能が十分備わっているのは感じられました。
INFINITOはインソールで調整できるので、アーチサポートを含めシューズ全体にこだわりを持つ方に適していると思います。言い換えると、自分が求めているシューズが明確な方でしょうか。低スタックハイト、軽量などトラッドなレーシングシューズが必要なのであれば、INFINITOがマッチするでしょう。
フィジーク VENTO INFINITO CARBON2 (c)カワシマサイクルサプライ
フィジーク VENTO INFINITO KNIT CARBON2 (c)カワシマサイクルサプライ
フィジーク TEMPO OVERCURVE R4 WIDE
フラッグシップのレーシングシューズと並び、ミドルグレードのTEMPO R4 OVERCURVEを取り上げる。2021年モデルのトピックはワイドフィットモデルがラインアップに追加されたこと。通常モデルでは良好なフィット感を得られなかったユーザーの声を反映し、幅広甲高な足型に合わせて開発されたシューズだ。
ワイドフィットモデルという言葉の通り、R4は近年のフィジークで用いられるEVO3と呼ばれる足型をベースに前足部の幅と高さをサイズアップ。爪先部分の空間をボリュームアップすることで、拇指球や小指球、中足骨の圧迫が発生せず、それに伴う痛みなども起きにくくなっている。
前足部のボリュームアップが図られた追加モデルが登場した
ボリューム増となった足型でもそこはフィジーク。イタリアらしいスマートなスタイルがそのまま引き継がれている。これまで足型が合わずフィジークのシューズを選べなかったというユーザーもチェックしたい一足に仕上げられた。
R4シリーズの特徴であるOVERCURVEテクノロジーは、シューズを左右非対称に作り上げるというもの。くるぶし部分のデザインを左右で分け、足との干渉を少なくすることで自然な履き心地を追求している。アッパーとタン部分のスリットもカーブしたデザインとなっており、左右から包み込むようなフィット感を実現した。
開口部の曲線が左右で異なるOVERCURVEデザインが採用されている
使用されるダイヤルはBOA IP1-Bだ
上位モデルと同じ様にベンチレーションが設けられた
踵のパーツはアッパーまで届く仕様だ
アッパーはメッシュ生地を全面に使用しながら、PUラミネートを施すことで柔軟性と剛性のバランスを整えた仕様。アウトソールのデザインはVENTO INFINITO CARBON2と似通っていることが特徴。素材はカーボンインジェクテッド強化ナイロンを採用し、適度なしなり具合によって足への反発も抑えている。
TEMPO R4 OVERCURVEについてはワイドフィットという面に着目しての着用感、なるしまフレンドなど各販売店で実施されている試着サービスについて語ってもらった。
甲高、幅広のサイクリストにぴったりなワイドサイズ
CW:ワイドフィットについて触れる前に、藤野さんはこれまでどのようなシューズを履いてきたかを教えていただけますか。ご自身としてはどのようなシューズがフィットしてきたのでしょうか。
藤野:近年ではシディのWIREや、シマノ S-PHYRE RC9、R-321、マヴィックのシューズを履いてきました。この中で最も細身なモデルがWIREで、長時間履き続けていると痛みを感じるケースがありました。S-PHYRE RC9はそれよりもやや広めで、これがフィットしているので、「細身でもなければワイドでもない足形」という印象です。
今回のテストではワイドモデルではないSTABILITAとINFINITOを履きましたが、それらはフィットしていました。なのでR4のワイドモデルは前足部に余裕が生まれてしまいました。レースで使うことを考えるとタイトフィットさせたいですが、ツーリングなどのんびり走るサイクリングでは余裕があっても良いかと思います。ワイドモデルが使えないということではなく、ライダーが求めるものの違いという面はあります。
ミドルグレード、ワイドフィットモデルながらフィジークらしいスタイリッシュなルックスとされている
CW:なるほど。ワイドフィットといえばCW編集長の綾野が常に幅広モデルを履いています。幅広ユーザーとしてフィジークのワイドフィットはどのように感じましたか。
綾野(CW編集長):まず前提ですが、私は単純な幅広・甲高というだけではなく、足指が短く、クリートも前に設定しなくてはならず、シューズ選びは深刻。典型的な日本人の足型とはいえ、なかなかフィットするものが無いんですよ。一時期マヴィックのマキシフィットを履いていたこともありますが、主にシディのメガシリーズかシマノのワイドモデルしか履けませんでした。
フィジークはSTABILITAとINFINITOも試してみて、どちらも狭く感じたけど、R4は履けるという印象。パワーストラップのようにワイドが上位モデルに波及していくこともあるので、これからのフィジークシューズに注目したくなりましたね。
なるしまフレンドでもフィジークのシューズがフィットする人は多くなっているという
小林:フィット感については、ここ数年のフィジークシューズは幅広のラストになっていると付け加えておきます。お客様の中にはシマノのワイドを履いていた方が、フィジークのノーマルフィットでも問題ないという例もあります。それくらい最近はゆとりのある足型となっていて、今回のワイドモデルの追加でさらに裾野が広がったという印象があります。
藤野:フィジークのシューズは展開された当初は、いわゆるヨーロピアンフィットで履ける人を選んでいました。デザインはカッコいいのだけど……と諦めていた方もいましたが、今のフィジークはお店で試し履きするとフィットする方が非常に多くなった。スタイリッシュな見た目もあり、なるしまフレンドでは人気の高いブランドとなっています。
「フィジークのシューズは細身に見えるけど、最近はフィットする人が多いほどのゆとりがある」 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
小林:フィジークには試着用シューズ取り寄せサービスがあり、店頭に無いサイズでも3種類まで取り寄せてフィット感を試せるようになっています。人気サイズが売れてしまい、店舗に並んでいないタイミングなどでも、お時間をいただければ最適なサイズ・フィット感のシューズを見つけることができます。
藤野:取り寄せだから、店頭にないカラーなども選択できるんですよね。ご相談いただいてから1週間、早ければ数日程度でお店に届くので、お仕事がお休みの時にご来店いただき、その次のお休みで再びフィッティングという流れが自然かもしれませんね。時間はかかってしまいますが、好みの色のシューズに足を入れてから購入したほうがその後のトラブルも少なくないと思います。今回登場したワイドももちろん取り寄せられるので、気軽に相談していただきたいですね。
タン部分のスリットがカーブしていることで、フィット感を向上させた
CW:R4 OVERCURVEのシューズとしての魅力について伺いたいと思います。このモデルはOVERCURVEという仕様が特徴かと思いますが、左右非対称であることの美点はどこにありますか。
藤野:左右非対称になっているのはシューズの開口部ですよね。くるぶしのサイズや位置は人によって全く異なるし、シューズとくるぶしが干渉すると強い不快感を覚えるので、ヒールカップは高ければいいというものではありません。この部分を広く作ることで、数多くのサイクリストが快適に履けるようになっているのは好印象です。
小林:R4はタン部分のスリットがカーブしていることも、フィット感に良い影響を与えています。ストレート形状だった頃には無かった、足を覆うような感触が得られるようになっています。上位モデルは2つのBOAダイヤルで細かくフィット感を調整できますが、この仕様によってR4はBOAダイヤル1つでも快適なフィット感を演出してくれます。
フィジーク TEMPO OVERCURVE R4 WIDE
藤野:ミドルグレード帯ですが、初めてビンディングシューズを選ぶ方から中級者まで様々なサイクリストにおすすめできるモデルです。今回ワイドフィットが登場したことで、さらに選べる人が増えるんじゃないかと思います。ぜひ一度試していただきたいですね。
フィジーク TEMPO R4 OVERCURVE (c)カワシマサイクルサプライ
インプレッションを担当したなるしまフレンドの藤野智一さん(左)と販売担当としてアドバイスを頂いた小林浩史さん(右) photo:Makoto AYANO
藤野智一
なるしまフレンド店長。バルセロナ五輪ロードレース代表、2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦績を持つ元プロレーサー。ブリヂストン在籍時にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ人物。シューズ歴はシディWIREなどから履き継ぎ、現在はシマノ S-PHYRE RC9を愛用中。ダイレクト感のあるシューズが好み。
小林浩史
数多のサイクリストの要望を聞いて最適な製品をレコメンドする、なるしまフレンドの販売担当スタッフ。身体に起きる違和感などの悩みを解決してくれるフィッターとしても活躍している。トライアスリート歴21年というベテラン。シューズはBONTなどを履き継ぎ、現在は藤野店長と同じシマノ S-PHYRE RC9を愛用中。軽量性とダイレクト感を重視している。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップページ
R1の系譜を継ぐ新型レーシングシューズ VENTO INFINITO CARBON2
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これまでフィジークのロードシューズは"R"がRoadを意味し、数字がグレードを表してきた。R1はロードシューズのトップエンドとして位置づけられ、数多くのプロ選手たちを足元からサポート。ゲラント・トーマスによるツール・ド・フランス、リチャル・カラパスによるジロ・デ・イタリア制覇は、R1が一線級のレーシングシューズであることを改めて確かなものとした。
10年間続いたレーシングシューズの系譜は次のステップへと踏み出す。Rの名前から脱却し、新型はVENTO INFINITO CARBON2という名が与えられた。このネーミングにも意味がある。VENTOはフィジークが用意するコンペティティブなプロダクトを表しており、他にはロングライド向けのTEMPO、オフロード向けTERRAというタイトルネームが用意されている。
INFINITOとは製品の特徴を表している。前足部のBOAワイヤーが「∞」型とされており、無限大という言葉が"終わりのない"や"永遠"を意味するところから、イタリア語のインフィニートという言葉が選ばれている。そんなVENTO INFINITO CARBON2を詳しく掘り下げていこう。
INFINITOを形作る最先端のテクノロジー
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剛性指数は10/10という最大数値を示しており、パワーロスを極限まで抑制し、ライダーの踏力を余すこと無くペダルに伝える剛性を獲得。クリート取り付け位置がやや後ろに移されており、より前傾が深いアグレッシブな姿勢でペダリングしやすい、現代的なミッドフットクリートポジションに対応した。
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また、見た目からわかる大きな違いは、ベンチレーションホールが1つにまとめられ、開口部が大型化を果たしたこと。クリート装着位置の後方に排気用のポートも開けられており、風がつま先から吹き抜けるように作られた。シューズ内の熱や湿気が積極的に排出されることで、シューズ内を常に快適な状況を保つことができそうだ。
アッパーが役割を担うアーチサポートもアップデートされている。これまでは土踏まずの部分のみ異なる生地を配置してアーチを支えていたが、VENTO STABILITA CARBONのDynamic Arch Support 2.0を踏襲したクロージャーベルト兼サポート形式が採用された。
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アウトソールがカットオフされていないため足の裏からサポートするという形ではなく、アウトソールとアッパーの繋ぎ目からアーチを支える設計であることがSTABILITAとの違いだ。とはいえ設計思想は似ているため、ベルトを足首側のダイヤルによって引き上げる構造によって、より強力なサポート力と包み込むようなフィット感を実現している。
VENTO INFINITO CARBON2にはマイクロテックス生地を使用した通常モデルとニットモデルの2種類が用意されており、いずれも改良が施されている。通常モデルはマイクロテックスを使用するのは前足部のみで、アーチサポートのベルトから後半部分はニットとし、剛性や柔軟性のバランスを整えた。
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ニットモデルはもちろんアッパー全てが織り生地だが、生地自体がR1B INFINITOから刷新されている。熱溶融TPUを強度や剛性が必要な部分に最適な密度で融着させた新マテリアルは、ニット生地の持つ柔軟性と通気性を維持しつつ、シューズのホールド力を確保。ライダーのパワフルな引き足をも受け止めるシューズへと進化を遂げている。
今回なるしまフレンドの藤野智一さんと小林浩史さんがインプレッションを行ったのはVENTO INFINITO "KNIT" CARBON2。フィジークのレーシングシューズの系譜を継ぐ最新モデルは、ライダーの目にどう映ったのか。インプレッションに移ろう。
VENTO INFINITO CARBON2インプレッション 新型レーシングシューズの性能に迫る
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CW:VENTO INFINITO CARBON2(以下INFINITO)はどのようなシューズでしたか
藤野:まず今回のインプレッションにあたり、同じ日にSTABILITA→INFINITO→STABILITAと履き替える比較テストも行い、各シューズの違いはどんなところにあるかを確かめてみました。不思議な感触のあるSTABILITAと比べると、INFINITOはサポート具合が穏やかで、自然なサポート感に落ち着いているなと思いました。対して、INFINITOからSTABILITAに履き替えた時は、STABILITAのアーチサポートには存在感が強く際立つような印象がありました。
これはあくまでもSTABILITAと比べてみた時の印象で、INFINITO単体で考えるとアーチサポートの影響は少なからずあります。具体的には拇指球のあたりには、アッパーがアーチ前方に影響を与えている感触があり、乗り始めはその部分が浮いているかのような感覚でのペダリングとなりました。STABILITAの時もそうだったのですが、乗り始めてから10~15分くらい経過すると、足のアーチがシューズに馴染んできて自然なフィーリングに落ち着きます。
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藤野:INFINITOは踏み込んだ時のダイレクト感がSTABILITAよりも強いですね。アウトソールが数mmほど薄く作られてるんじゃないかと思うほど違いを感じられるので、ダイレクト感を求めたい方であればINFINITOの方が適しているかと思います。どちらもレーシングシューズとして申し分のない性能を発揮してくれるので、生地感や重量という面で選んでも良いかもしれませんね。
特にアッパーのニット素材の違いは、シューズのキャラクターに大きな影響を与えています。INFINITOに用いられている新しいニット生地は、しなやかな布のような柔らかさなので非常に心地良い感覚で履けますが、ハイパワーでペダリングした時の生地の伸びはSTABILITAよりも感じてしまいました。STABILITAの方が生地が厚く、硬いのでホールド感は強め。その代わり気持ち良い履き心地はINFINITOに分がある印象です。
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藤野:ただR1B INFINITO KNIT(前作)とVENTO INFINITO KNIT CARBON2(新作)を比較すると、前作のほうが柔軟でしなやかな生地で、新作の方がホールド力が高くなっています。新作のINFINITOは前作よりも硬く、STABILITAよりも柔らかいという印象です。この生地感によって、どのシューズにもデメリットが生まれるということはないので、ライダー個人の好みで選んでしまっていいと思います。
生地の違いは重量の違いにも表れています。重量と足を回した時の感覚としての重量感も、STABILITAと前作R1Bより新作INFINITOの方が軽いです。何千回と足の上下動を繰り返すペダリングでは重量の影響は少なくないです。レーサーは先程述べたスタックハイトの違いを1mm程度であれ感じられるほどシビアですし、そういった方は新作INFINITOの方が馴染みそうです。
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小林:ニット生地の特徴は通気性の良さもあると思います。合成皮革を使うシューズよりもしなやかな履き心地と馴染みやすさ、シューズ内に熱がこもりにくい快適性をフィーチャーできるはずです。
藤野:INFINITOに使われている素材は薄い生地なのですが、BOAダイヤルを締め込んでも足に食い込まないというのも美点ですよね。他社では専用ソックスをBOAダイヤルと足の甲の間のクッションとすることで、ダイヤルの食い込みに対処していたこともあります。これはダイヤルの取り付け位置などがよく考えられているのでしょう。BOAの食い込みは全く気になりませんでした。
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CW:STABILITAの場合は純正のインソールを使用したほうが良いとのことでしたが、INFINITOの場合はどうでしょうか。
藤野:STABILITAと比較するとINFINITOはサポート量が少ないので、場合によっては市販インソールや整形ソールを考えても良いかもしれませんね。ただいきなりアーチサポートソールを入れるのではなく、純正の状態で試してみて、足裏の状態を考慮してからステップを踏むことは必要です。インソールを扱うショップでアーチの高さを計測し、サポートが必要な状況をアドバイスしてもらってから、足に違和感がある場合にインソールという手段が選択肢にあがると思います。
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小林:アーチサポートに関しては、シューズを購入する人が足に持っている悩みによって提案する答えは変わります。ダイナミックアーチサポートだけで事足りるようなケースであればSTABILITAがマッチしますが、必ずしもそうでない場合もあります。膝や足裏の違和感がハンドルやサドルポジションも影響している可能性もあり、アーチサポートだけで補えない場合もあるので、選びはじめの段階で見極めるというのはプロショップの方にアドバイスを仰いでみてください。そういう方はインソールで調整する余地のあるINFINITOという選択肢が良いのかなと感じますね。
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藤野:どのシューズが適しているかは、ペダリングをしてみないとわからないというのが正直なところです。今回履き比べてみて、どちらもレースで使えるだけの性能が十分備わっているのは感じられました。
INFINITOはインソールで調整できるので、アーチサポートを含めシューズ全体にこだわりを持つ方に適していると思います。言い換えると、自分が求めているシューズが明確な方でしょうか。低スタックハイト、軽量などトラッドなレーシングシューズが必要なのであれば、INFINITOがマッチするでしょう。
フィジーク VENTO INFINITO CARBON2
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アッパー | マイクロテックス |
ソール | R2 フルカーボンアウトソール(ソールの剛性感 10/10) |
クロージングシステム | Li2 Dual Zone BOA フィットシステムー |
カラー | ブラック/ブラック、ホワイト/ブラック、グレイ/コーラル |
サイズ | 36、37~44(ハーフあり)、45 |
重量 | 227g(片足) |
税抜価格 | 41,000円 |
製品情報 | https://www.riogrande.co.jp/product/node/76627 |
フィジーク VENTO INFINITO KNIT CARBON2
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アッパー | ニット |
ソール | R2 フルカーボンアウトソール(ソールの剛性感 10/10) |
クロージングシステム | Li2 Dual Zone BOA フィットシステムー |
カラー | ブラック/ブラック、コーラル/ブラック |
サイズ | 36、37~44(ハーフあり)、45 |
重量 | 225g(片足) |
税抜価格 | 43,000円 |
製品情報 | https://www.riogrande.co.jp/product/node/76628 |
フィジーク TEMPO R4 OVERCURVE WIDE
ミドルグレードにワイドフィットが登場

フラッグシップのレーシングシューズと並び、ミドルグレードのTEMPO R4 OVERCURVEを取り上げる。2021年モデルのトピックはワイドフィットモデルがラインアップに追加されたこと。通常モデルでは良好なフィット感を得られなかったユーザーの声を反映し、幅広甲高な足型に合わせて開発されたシューズだ。
ワイドフィットモデルという言葉の通り、R4は近年のフィジークで用いられるEVO3と呼ばれる足型をベースに前足部の幅と高さをサイズアップ。爪先部分の空間をボリュームアップすることで、拇指球や小指球、中足骨の圧迫が発生せず、それに伴う痛みなども起きにくくなっている。

ボリューム増となった足型でもそこはフィジーク。イタリアらしいスマートなスタイルがそのまま引き継がれている。これまで足型が合わずフィジークのシューズを選べなかったというユーザーもチェックしたい一足に仕上げられた。
R4シリーズの特徴であるOVERCURVEテクノロジーは、シューズを左右非対称に作り上げるというもの。くるぶし部分のデザインを左右で分け、足との干渉を少なくすることで自然な履き心地を追求している。アッパーとタン部分のスリットもカーブしたデザインとなっており、左右から包み込むようなフィット感を実現した。

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
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アッパーはメッシュ生地を全面に使用しながら、PUラミネートを施すことで柔軟性と剛性のバランスを整えた仕様。アウトソールのデザインはVENTO INFINITO CARBON2と似通っていることが特徴。素材はカーボンインジェクテッド強化ナイロンを採用し、適度なしなり具合によって足への反発も抑えている。
TEMPO R4 OVERCURVEについてはワイドフィットという面に着目しての着用感、なるしまフレンドなど各販売店で実施されている試着サービスについて語ってもらった。
なるしまフレンドのスタッフから見た最近のフィジークシューズ

CW:ワイドフィットについて触れる前に、藤野さんはこれまでどのようなシューズを履いてきたかを教えていただけますか。ご自身としてはどのようなシューズがフィットしてきたのでしょうか。
藤野:近年ではシディのWIREや、シマノ S-PHYRE RC9、R-321、マヴィックのシューズを履いてきました。この中で最も細身なモデルがWIREで、長時間履き続けていると痛みを感じるケースがありました。S-PHYRE RC9はそれよりもやや広めで、これがフィットしているので、「細身でもなければワイドでもない足形」という印象です。
今回のテストではワイドモデルではないSTABILITAとINFINITOを履きましたが、それらはフィットしていました。なのでR4のワイドモデルは前足部に余裕が生まれてしまいました。レースで使うことを考えるとタイトフィットさせたいですが、ツーリングなどのんびり走るサイクリングでは余裕があっても良いかと思います。ワイドモデルが使えないということではなく、ライダーが求めるものの違いという面はあります。
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CW:なるほど。ワイドフィットといえばCW編集長の綾野が常に幅広モデルを履いています。幅広ユーザーとしてフィジークのワイドフィットはどのように感じましたか。
綾野(CW編集長):まず前提ですが、私は単純な幅広・甲高というだけではなく、足指が短く、クリートも前に設定しなくてはならず、シューズ選びは深刻。典型的な日本人の足型とはいえ、なかなかフィットするものが無いんですよ。一時期マヴィックのマキシフィットを履いていたこともありますが、主にシディのメガシリーズかシマノのワイドモデルしか履けませんでした。
フィジークはSTABILITAとINFINITOも試してみて、どちらも狭く感じたけど、R4は履けるという印象。パワーストラップのようにワイドが上位モデルに波及していくこともあるので、これからのフィジークシューズに注目したくなりましたね。
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小林:フィット感については、ここ数年のフィジークシューズは幅広のラストになっていると付け加えておきます。お客様の中にはシマノのワイドを履いていた方が、フィジークのノーマルフィットでも問題ないという例もあります。それくらい最近はゆとりのある足型となっていて、今回のワイドモデルの追加でさらに裾野が広がったという印象があります。
藤野:フィジークのシューズは展開された当初は、いわゆるヨーロピアンフィットで履ける人を選んでいました。デザインはカッコいいのだけど……と諦めていた方もいましたが、今のフィジークはお店で試し履きするとフィットする方が非常に多くなった。スタイリッシュな見た目もあり、なるしまフレンドでは人気の高いブランドとなっています。
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小林:フィジークには試着用シューズ取り寄せサービスがあり、店頭に無いサイズでも3種類まで取り寄せてフィット感を試せるようになっています。人気サイズが売れてしまい、店舗に並んでいないタイミングなどでも、お時間をいただければ最適なサイズ・フィット感のシューズを見つけることができます。
藤野:取り寄せだから、店頭にないカラーなども選択できるんですよね。ご相談いただいてから1週間、早ければ数日程度でお店に届くので、お仕事がお休みの時にご来店いただき、その次のお休みで再びフィッティングという流れが自然かもしれませんね。時間はかかってしまいますが、好みの色のシューズに足を入れてから購入したほうがその後のトラブルも少なくないと思います。今回登場したワイドももちろん取り寄せられるので、気軽に相談していただきたいですね。

CW:R4 OVERCURVEのシューズとしての魅力について伺いたいと思います。このモデルはOVERCURVEという仕様が特徴かと思いますが、左右非対称であることの美点はどこにありますか。
藤野:左右非対称になっているのはシューズの開口部ですよね。くるぶしのサイズや位置は人によって全く異なるし、シューズとくるぶしが干渉すると強い不快感を覚えるので、ヒールカップは高ければいいというものではありません。この部分を広く作ることで、数多くのサイクリストが快適に履けるようになっているのは好印象です。
小林:R4はタン部分のスリットがカーブしていることも、フィット感に良い影響を与えています。ストレート形状だった頃には無かった、足を覆うような感触が得られるようになっています。上位モデルは2つのBOAダイヤルで細かくフィット感を調整できますが、この仕様によってR4はBOAダイヤル1つでも快適なフィット感を演出してくれます。
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藤野:ミドルグレード帯ですが、初めてビンディングシューズを選ぶ方から中級者まで様々なサイクリストにおすすめできるモデルです。今回ワイドフィットが登場したことで、さらに選べる人が増えるんじゃないかと思います。ぜひ一度試していただきたいですね。
フィジーク TEMPO OVERCURVE R4 WIDE
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アッパー | PUラミネートメッシュアッパー |
ソール | R4 カーボンインジェクテッド強化ナイロン(ソール剛性 7/10) |
クロージングシステム | BOA IP1-Bシステム |
カラー | ブラック/ブラック、ネイビー、コパー/ブラック |
サイズ | 39~44(ハーフあり)、45 |
重量 | 232g(片足) |
税抜価格 | 23,800円(通常カラー)、25,800円(イリディセントカラー) |
製品情報(イリディセント) | https://www.riogrande.co.jp/product/node/76409 |
製品情報(通常カラー) | https://www.riogrande.co.jp/product/node/76408 |
インプレライダープロフィール

藤野智一
なるしまフレンド店長。バルセロナ五輪ロードレース代表、2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦績を持つ元プロレーサー。ブリヂストン在籍時にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ人物。シューズ歴はシディWIREなどから履き継ぎ、現在はシマノ S-PHYRE RC9を愛用中。ダイレクト感のあるシューズが好み。
小林浩史
数多のサイクリストの要望を聞いて最適な製品をレコメンドする、なるしまフレンドの販売担当スタッフ。身体に起きる違和感などの悩みを解決してくれるフィッターとしても活躍している。トライアスリート歴21年というベテラン。シューズはBONTなどを履き継ぎ、現在は藤野店長と同じシマノ S-PHYRE RC9を愛用中。軽量性とダイレクト感を重視している。
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提供:カワシマサイクルサプライ 制作:シクロワイアード編集部