2010/05/25(火) - 12:37
日本を代表するパラリンピアンの一人、車椅子陸上競技で活躍する土田和歌子の著書『身体障がい者スポーツ完全ガイド』が東邦出版より発売された。
土田和歌子著『身体障がい者スポーツ完全ガイド』 東邦出版著者は日本人初の夏・冬両方のパラリンピック金メダリスト。今年4月には車椅子女子の部で19日ボストンマラソン、25日ロンドンマラソンと立て続けに優勝、一般紙のスポーツ面で大きく扱われていたのも記憶に新しい。
この本は、長年にわたり競技の第一線で活躍している著者の視点で、おもに競技性に軸足をおいた分野での日本の身体障害者スポーツの現状と背景を、身近な事例紹介や競技団体・企業のインタビューなどをまじえ、幅広く紹介したもの。
石井雅史との金メダリスト対談も収録
冒頭、著者との<金メダリスト対談>に登場したのは、健常者競技との融合や連携で実績のある3種目の、世界的な選手たちだ。
車椅子テニス男子シングルスで07年にグランドスラム(全豪オープンなど4対界制覇)を達成し、海外の健常者トップ選手からも高く評価されるプロ選手、国枝慎吾(ユニクロ)。メンタルトレーナーから「俺は最強だ!」というオーラをまとうトレーニングを受けた様子を話す。
バンクーバーパラリンピック・ノルディックスキーで悲願の金メダル2個を獲得した新田佳浩(日立システムアンドサービス)は、トリノでの失意の転倒を超え、「泥臭くても続けていく」ことへの気づきを語る。
そして、北京パラリンピックで金・銀・銅の3つのメダルを獲得、UCIパラサイクリング世界選手権CP4クラス1kmTTの世界チャンピオンとしてアルカンシエルを着る、おなじみ自転車の石井雅史だ。昨年のイタリアでの落車重傷から本格復帰への経過も順調な石井が、ここでも元気な笑顔で、人との出会いや支える人への感謝を、常に前向きないつものスタイルで述べている。
著者は、3人との対談で「障がい者スポーツ界でのヒーローではなく、スポーツ界のトップアスリート」と感じたと記している。
健常者のスポーツにも示唆に富む内容
この対談のほか、現在のパラリンピアンたちをとりまく環境や取り組みの紹介からは、健常者のスポーツと共通する、現在の日本の「スポーツをめぐる姿」も見えてくる。また、選手の雇用やスポンサードなど企業の支援、地域を対象にしたスポーツ普及の組織との関わりなど、インタビューや取材を通して紹介される多くの事例は、スポーツの中に身を置く者たち皆にとって、スポーツができる社会的な環境づくりの発想においても、示唆に富むものとなっている。
自転車に関わる記述では、パラリンピックの種目紹介内容でチームスプリントやハンドサイクルにふれていないのは少し残念だが、著者によるユーザー視点からの競技用、生活用の自転車としてのハンドサイクルの紹介ページは興味深いもの。また、著者のスポンサーでもある車椅子ビルダー、株式会社オーエックスエンジニアリング(本社・千葉市)が、ハンドサイクル製造本格化への姿勢を示しているというホットな話題も。車椅子陸上や米国のエクストリーム系カルチャーの流れをあわせひくハンドサイクル。日本のユーザーの間でさらにどのように発展していくか、気になる情報だ。
巻末には、全国の障害者スポーツセンターや代表的な国内大会のリストも掲載。これから何かスポーツを始めようと思っている障害のある人やサポーターたちにとっても、アクセスの入り口となる親切な1冊だ。
(書評:佐藤有子/パラサイクリング フォトジャーナリスト)
【著者:土田和歌子】
1974年生まれ。高校2年のとき交通事故で脊髄を損傷、車椅子生活に。
パラリンピックでは長野大会アイススレッジスピードレース、
アテネ大会陸上競技でともに金メダルを獲得、
日本人初の冬季・夏季両方の金メダリストとなる。
現在、ロンドン大会へ向け、海外レースを中心に活動中。
サノフィ・アベンティス株式会社所属。
2010年パナレーサーレーシングサポート対象選手。
ほか、株式会社インターマックスなどスポンサー多数。
【新刊データ】
『身体障がい者スポーツ完全ガイド』
土田和歌子著
1890円(税込)
東邦出版
A5判 208ページ
2010年5月下旬発売
ISBNコード 978-4-8094-0871-7 C0075
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この本は、長年にわたり競技の第一線で活躍している著者の視点で、おもに競技性に軸足をおいた分野での日本の身体障害者スポーツの現状と背景を、身近な事例紹介や競技団体・企業のインタビューなどをまじえ、幅広く紹介したもの。
石井雅史との金メダリスト対談も収録
冒頭、著者との<金メダリスト対談>に登場したのは、健常者競技との融合や連携で実績のある3種目の、世界的な選手たちだ。
車椅子テニス男子シングルスで07年にグランドスラム(全豪オープンなど4対界制覇)を達成し、海外の健常者トップ選手からも高く評価されるプロ選手、国枝慎吾(ユニクロ)。メンタルトレーナーから「俺は最強だ!」というオーラをまとうトレーニングを受けた様子を話す。
バンクーバーパラリンピック・ノルディックスキーで悲願の金メダル2個を獲得した新田佳浩(日立システムアンドサービス)は、トリノでの失意の転倒を超え、「泥臭くても続けていく」ことへの気づきを語る。
そして、北京パラリンピックで金・銀・銅の3つのメダルを獲得、UCIパラサイクリング世界選手権CP4クラス1kmTTの世界チャンピオンとしてアルカンシエルを着る、おなじみ自転車の石井雅史だ。昨年のイタリアでの落車重傷から本格復帰への経過も順調な石井が、ここでも元気な笑顔で、人との出会いや支える人への感謝を、常に前向きないつものスタイルで述べている。
著者は、3人との対談で「障がい者スポーツ界でのヒーローではなく、スポーツ界のトップアスリート」と感じたと記している。
健常者のスポーツにも示唆に富む内容
この対談のほか、現在のパラリンピアンたちをとりまく環境や取り組みの紹介からは、健常者のスポーツと共通する、現在の日本の「スポーツをめぐる姿」も見えてくる。また、選手の雇用やスポンサードなど企業の支援、地域を対象にしたスポーツ普及の組織との関わりなど、インタビューや取材を通して紹介される多くの事例は、スポーツの中に身を置く者たち皆にとって、スポーツができる社会的な環境づくりの発想においても、示唆に富むものとなっている。
自転車に関わる記述では、パラリンピックの種目紹介内容でチームスプリントやハンドサイクルにふれていないのは少し残念だが、著者によるユーザー視点からの競技用、生活用の自転車としてのハンドサイクルの紹介ページは興味深いもの。また、著者のスポンサーでもある車椅子ビルダー、株式会社オーエックスエンジニアリング(本社・千葉市)が、ハンドサイクル製造本格化への姿勢を示しているというホットな話題も。車椅子陸上や米国のエクストリーム系カルチャーの流れをあわせひくハンドサイクル。日本のユーザーの間でさらにどのように発展していくか、気になる情報だ。
巻末には、全国の障害者スポーツセンターや代表的な国内大会のリストも掲載。これから何かスポーツを始めようと思っている障害のある人やサポーターたちにとっても、アクセスの入り口となる親切な1冊だ。
(書評:佐藤有子/パラサイクリング フォトジャーナリスト)
【著者:土田和歌子】
1974年生まれ。高校2年のとき交通事故で脊髄を損傷、車椅子生活に。
パラリンピックでは長野大会アイススレッジスピードレース、
アテネ大会陸上競技でともに金メダルを獲得、
日本人初の冬季・夏季両方の金メダリストとなる。
現在、ロンドン大会へ向け、海外レースを中心に活動中。
サノフィ・アベンティス株式会社所属。
2010年パナレーサーレーシングサポート対象選手。
ほか、株式会社インターマックスなどスポンサー多数。
【新刊データ】
『身体障がい者スポーツ完全ガイド』
土田和歌子著
1890円(税込)
東邦出版
A5判 208ページ
2010年5月下旬発売
ISBNコード 978-4-8094-0871-7 C0075
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