2016/06/05(日) - 09:51
MAZDAターンパイク箱根を年に一度だけ自転車で走れるイベント「箱根ヒルクライム」が開催され、およそ700名が爽やかな新緑の中、13kmのルートを駆け上がった。大会レポートをお届けします。
日本中の人にとって、箱根といえば今も昔も「坂」の代名詞である。関東圏の坂好きなサイクリストであれば、一度は訪れたことがあるのではないだろうか?そんなエリアで5月26日に開催されたヒルクライムイベントが「箱根ヒルクライム」だ。
七曲りで有名な箱根旧道、箱根駅伝で誰もが目にしたことのある国道1号線、そのバイパスとして作られた箱根新道など、小田原から「天下の険」を登るルートはいくつかあるが、その中でも箱根ヒルクライムの舞台となったのは、自動車専用有料道路である「MAZDAターンパイク箱根」。普段はクルマとバイクだけが行き交うこのルートを封鎖して、一年でこの日だけ自転車で走ることができるというプレミアムな機会となった。
標高を上げるにつれて絶景が開き、ドライブスポットとしても人気の高いターンパイクだが、多くの人が使うインフラでもあるため、全線を封鎖してイベントを開催できるのは年にたった5回だけなんだとか。そのチャンスを逃すまいと、総勢750名の参加者が朝から麓のスタート地点に集まった。
この大会を主催しているのは、冬場のトレーニングレースとして人気の大磯クリテリウムなどを運営するウォークライドだ。ガチガチすぎない、ホビーサイクリストにちょうど良いイベントを生み出すウォークライドだからか、会場は富士ヒルクライムや美ヶ原、乗鞍といったメジャーイベントと違い、どこか手作り感があって、良い意味でふわっとした雰囲気。体重80kgオーバーの部や、ファットバイクの部といったユニークなカテゴリー設定もその理由にあるのかもしれない。
レースは細かく分けられたカテゴリーごとに、9時ちょうどの男子19~29歳クラスを先頭に、5分おきのウェーブでスタートを切っていく。一番参加人数が多い男子30~39歳クラスと男子40~49歳クラスはその前から1時間を空け、それぞれ2グループで走り出すため、コースには常に余裕がある。全力でタイムを狙う方にとっては「抜くのに手間取ってしまった!」という心配も無いのが嬉しいところだ。
さて、上の写真からもご理解頂ける通り、ターンパイクはのっけからだいぶキツい(笑)。しかも人馬自転車大八車耕運機etcの通行を考えていないので、一呼吸つける区間などあるはずもなく、麓から尾根筋に出るまでの10km区間は9〜10%の勾配がコンスタントに続くのだ。
もちろん美ヶ原や富士あざみラインの激坂とは比べるべくもないが、「天下の険」とはよく言ったもの。速い選手は軽やかに登っていくが、初心者さんはどうにも辛そうだ。ブレーキが効かなくなったクルマ用の緊急待避所が用意されているのも納得できる。
思わず下を向いてしまいそうな登坂が続くものの、よく見れば5.8km地点には「太閤憩の泉」なる清水が湧き出している。そう言われてみれば、太閤秀吉が小田原城を攻めた際に築いた石垣山一夜城はすぐ近くだ。のんびり派はここでちょっぴり休憩を入れても良いかもしれない。
勾配は変わらないものの、標高を稼いでいくたびに相模湾や湘南方面まで見渡せる場所も増えてくるようになる。そして何より、下界よりも明らかに気温が低く、新緑の間を吹き抜ける風はどこまでも爽やか。「猿や猪に注意!」の看板に納得できる、手付かずの自然をずっと感じることができた。
そして連続9%区間を乗り切れば、いきなりパッと視界が開けて尾根筋に出る。ここからがターンパイクの第2部とでも言おうか、ダイナミックなアップダウンが続く区間なのだ。優に40〜50km/hが出る下りと、下った分を再び駆け上がる登り。それまでと全く表情を変え、他のヒルクライムイベントにはあまり無い、山岳グランフォンドのようなルートが魅力的だ。
そして最後の下りで加速を付け、ドライブイン大観山手前の小さな登り返しを駆け上がればフィニッシュラインはもうすぐそこ。「辛かった!」というより、「爽快で気持ちよかった!」という気分で走り終えることができるのも、ターンパイクを使った箱根ヒルクライムならでは。
ちなみに男子チャンピオンクラスで優勝したのは、強豪ヒルクライマーの一人である渡辺佑樹(team SONIC)さんで、タイムはなんと40分25秒。「自分の走り方はアタックすること。今日も序盤で仕掛け、そのまま最後まで逃げ切ることができました」との言葉通り一度も首位を脅かされることなく独走し、昨年に続く2連覇を成し遂げた。
さて、フィニッシュしてもまだまだ時間はお昼前。ドライブイン大観山でお昼を食べたり、スタート地点に下ったり、はたまた別ルートで芦ノ湖や湯河原方面に足を伸ばしたりするのも自由という、なんともゆったりとした雰囲気だ。こんな気張らなさ、居心地の良さこそ、箱根ヒルクライムの魅力なのかもしれない。
「今年は最高の天気に助けられました。参加していただいた方々からも好評を頂けましたし、とても良かったです」と言うのは、この日MC業もこなしたウォークライド代表の山根理史さん。今後もこの温かな雰囲気のまま、箱根ヒルクライムを続けて開催していきたいそうだ。
「ホビーレーサー、特に初心者の方々が無理なく楽しめる場所を提供したいというのが我々の思いです。だから無理に規模を広げることなく、ロードレースやクリテリウム、ヒルクライムを全国に普及させていきたい」と加える。6月と9月には新しい試みである神奈川県大井町でクリテリウムを開催し、9月頃には群馬の赤城山でMTBの耐久レースを行う予定だという。こちらにも大いに期待したい。
大会レポートは”ヘタレ藤原”の実走編に続きます。
text&photo:So.Isobe
日本中の人にとって、箱根といえば今も昔も「坂」の代名詞である。関東圏の坂好きなサイクリストであれば、一度は訪れたことがあるのではないだろうか?そんなエリアで5月26日に開催されたヒルクライムイベントが「箱根ヒルクライム」だ。
七曲りで有名な箱根旧道、箱根駅伝で誰もが目にしたことのある国道1号線、そのバイパスとして作られた箱根新道など、小田原から「天下の険」を登るルートはいくつかあるが、その中でも箱根ヒルクライムの舞台となったのは、自動車専用有料道路である「MAZDAターンパイク箱根」。普段はクルマとバイクだけが行き交うこのルートを封鎖して、一年でこの日だけ自転車で走ることができるというプレミアムな機会となった。
標高を上げるにつれて絶景が開き、ドライブスポットとしても人気の高いターンパイクだが、多くの人が使うインフラでもあるため、全線を封鎖してイベントを開催できるのは年にたった5回だけなんだとか。そのチャンスを逃すまいと、総勢750名の参加者が朝から麓のスタート地点に集まった。
この大会を主催しているのは、冬場のトレーニングレースとして人気の大磯クリテリウムなどを運営するウォークライドだ。ガチガチすぎない、ホビーサイクリストにちょうど良いイベントを生み出すウォークライドだからか、会場は富士ヒルクライムや美ヶ原、乗鞍といったメジャーイベントと違い、どこか手作り感があって、良い意味でふわっとした雰囲気。体重80kgオーバーの部や、ファットバイクの部といったユニークなカテゴリー設定もその理由にあるのかもしれない。
レースは細かく分けられたカテゴリーごとに、9時ちょうどの男子19~29歳クラスを先頭に、5分おきのウェーブでスタートを切っていく。一番参加人数が多い男子30~39歳クラスと男子40~49歳クラスはその前から1時間を空け、それぞれ2グループで走り出すため、コースには常に余裕がある。全力でタイムを狙う方にとっては「抜くのに手間取ってしまった!」という心配も無いのが嬉しいところだ。
さて、上の写真からもご理解頂ける通り、ターンパイクはのっけからだいぶキツい(笑)。しかも人馬自転車大八車耕運機etcの通行を考えていないので、一呼吸つける区間などあるはずもなく、麓から尾根筋に出るまでの10km区間は9〜10%の勾配がコンスタントに続くのだ。
もちろん美ヶ原や富士あざみラインの激坂とは比べるべくもないが、「天下の険」とはよく言ったもの。速い選手は軽やかに登っていくが、初心者さんはどうにも辛そうだ。ブレーキが効かなくなったクルマ用の緊急待避所が用意されているのも納得できる。
思わず下を向いてしまいそうな登坂が続くものの、よく見れば5.8km地点には「太閤憩の泉」なる清水が湧き出している。そう言われてみれば、太閤秀吉が小田原城を攻めた際に築いた石垣山一夜城はすぐ近くだ。のんびり派はここでちょっぴり休憩を入れても良いかもしれない。
勾配は変わらないものの、標高を稼いでいくたびに相模湾や湘南方面まで見渡せる場所も増えてくるようになる。そして何より、下界よりも明らかに気温が低く、新緑の間を吹き抜ける風はどこまでも爽やか。「猿や猪に注意!」の看板に納得できる、手付かずの自然をずっと感じることができた。
そして連続9%区間を乗り切れば、いきなりパッと視界が開けて尾根筋に出る。ここからがターンパイクの第2部とでも言おうか、ダイナミックなアップダウンが続く区間なのだ。優に40〜50km/hが出る下りと、下った分を再び駆け上がる登り。それまでと全く表情を変え、他のヒルクライムイベントにはあまり無い、山岳グランフォンドのようなルートが魅力的だ。
そして最後の下りで加速を付け、ドライブイン大観山手前の小さな登り返しを駆け上がればフィニッシュラインはもうすぐそこ。「辛かった!」というより、「爽快で気持ちよかった!」という気分で走り終えることができるのも、ターンパイクを使った箱根ヒルクライムならでは。
ちなみに男子チャンピオンクラスで優勝したのは、強豪ヒルクライマーの一人である渡辺佑樹(team SONIC)さんで、タイムはなんと40分25秒。「自分の走り方はアタックすること。今日も序盤で仕掛け、そのまま最後まで逃げ切ることができました」との言葉通り一度も首位を脅かされることなく独走し、昨年に続く2連覇を成し遂げた。
さて、フィニッシュしてもまだまだ時間はお昼前。ドライブイン大観山でお昼を食べたり、スタート地点に下ったり、はたまた別ルートで芦ノ湖や湯河原方面に足を伸ばしたりするのも自由という、なんともゆったりとした雰囲気だ。こんな気張らなさ、居心地の良さこそ、箱根ヒルクライムの魅力なのかもしれない。
「今年は最高の天気に助けられました。参加していただいた方々からも好評を頂けましたし、とても良かったです」と言うのは、この日MC業もこなしたウォークライド代表の山根理史さん。今後もこの温かな雰囲気のまま、箱根ヒルクライムを続けて開催していきたいそうだ。
「ホビーレーサー、特に初心者の方々が無理なく楽しめる場所を提供したいというのが我々の思いです。だから無理に規模を広げることなく、ロードレースやクリテリウム、ヒルクライムを全国に普及させていきたい」と加える。6月と9月には新しい試みである神奈川県大井町でクリテリウムを開催し、9月頃には群馬の赤城山でMTBの耐久レースを行う予定だという。こちらにも大いに期待したい。
大会レポートは”ヘタレ藤原”の実走編に続きます。
text&photo:So.Isobe
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