2012/06/10(日) - 09:18
6つのカテゴリー山岳が登場するクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージで、果敢に逃げグループから飛び出したナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)がビッグネームを振り切る大金星。カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)の攻撃にも、チームスカイの牙城は崩れなかった。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012年大会の「クイーンステージ(最難関山岳ステージ)」。序盤から平均勾配6.5%の1級山岳プランパレ峠や、標高1613mの1級山岳コロンビエール峠を連続して越え、ゴール12km手前の超級山岳ジュープラン峠に挑む。
頂上ゴールではないが、登坂距離11.7km・平均勾配8.4%のジュープラン峠は今大会最大の山場だ。
この日はスタート直後に1級山岳プランパレ峠が始まるため、多くの選手たちがローラー台でウォーミングアップ。スタートが切られるとすぐ、山岳賞ジャージを着るホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)やピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)、ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)と言った強力なメンバーを含む19名のアタックが決まる。
チームスカイがメイン集団をコントロールし、逃げとのタイム差を3分台に抑え込む中、2日前の個人タイムトライアルで落車し、右半身を痛めたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)が63km地点でリタイア。
バイクを降りたアンディは「大きな失望を感じている。チームカーの中から他の選手たちのレース風景を見ていると、精神的に凹んでしまった。でも今日はスタート後200mで右脚と下半身が痛み始め、進めば進むほど痛みが増した。レース中にこんなに苦しんだのは初めての経験だ。リタイア以外の選択肢は無かった」と語る。
ライバルたちと比べてコンディショニングが遅れ、そこに落車が加わったことで、アンディのマイヨジョーヌ獲得はますます遠ざかった。しかし本人は楽観的に状況を見る。「『ツール開幕まで3週間しかない』と言うけど、僕に言わしてみれば『3週間もある』。3週間で出来ることは山ほどある。例えば昨年のツール・ド・スイスで僕は精彩を欠いた。でもツールには間に合った。間に合うと信じている」。
レースは1級山岳コロンビエール峠を越えて後半戦へ。サルミエントは順調に山岳ポイントを加算し、山岳賞ジャージの獲得をほぼ決定づけることに成功する。
やがてゴールまで45kmを切ると、逃げグループの中からブリース・フェイユ(フランス、ソール・ソジャサン)がアタック。フェイユは逃げグループから1分30秒、メイン集団から2分40秒のリードをもって最後の超級山岳ジュープラン峠に突入した。
ここで圧倒的なチーム力を見せつけたのがチームスカイ。エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)やリッチー・ポルト(オーストラリア)がハイペースでメイン集団を引き続け、フェイユ以外の逃げ選手をすべて吸収する。
チームスカイが作り出したこのハイペースに、総合2位のトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)だけでなく、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)も脱落。黒いトレインがブラドレー・ウィギンズ(イギリス)を頂上まで導いた。
ジュープラン峠で唯一アタックを成功させたのはクインターナで、先頭を行くフェイユを抜いて独走。メイン集団からリードを築いて頂上を越え、ゴール地点に向かってテクニカルな下りをこなす。
ウィギンズのためにポルト、フルーム、ロジャースのチームスカイ3選手がメイン集団を率い、先頭クインターナを追う。
この下りで最も積極的に動いたのはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。なんとか集団を振り切ってゴールしたエヴァンスは「チームスカイが作り出したハイペースが、ジュープラン峠でのアタックを困難なものにした。しかも風が強かったため、一人で飛び出すのは得策じゃないと判断したんだ。下りでアタックしたけど、そこまでリスクを負ってまで攻めることはなかった。(仮にアタックが失敗しても)失うものはほとんど無かった」と語っている。
最後までリードを守ったクインターナは、エヴァンスを16秒、メイン集団を24秒振り切ってゴール。今年モビスターに合流した22歳のクライマーが、UCIワールドツアーレース初勝利を掴んだ。
クインターナは2010年にツール・ド・ラヴニールで総合優勝し、2011年ボルタ・ア・カタルーニャで山岳賞を獲得。今年ブエルタ・ア・ムルシアで総合優勝している。レース後のインタビューでクインターナは「最後の登りで貯まった疲労が抜けないままゴールに向かって下ったけど、何とかリードを守りぬくことが出来た。何としても逃げ切りたいという気持ちが強くて、こうしてわずかな差での逃げ切りが決まったんだ」と喜ぶ。
また、クインターナは「山岳賞のサルミエントも表彰台に登ったし、母国コロンビアがこうしてトップシーンに戻ってきたことを嬉しく思う。サルミエントは兄弟のようなもの。彼が同じ逃げグループに入ったことが、成功に繋がったとも言える」とコメント。ジロ・デ・イタリアに引き続き、コロンビア人の活躍が目立っている。
屈強なアシスト陣に守られたウィギンズは、エヴァンスから8秒を失ったものの、1分以上のリードをキープしたまま最終ステージに挑む。「チームスカイがメンバーを揃えて登りで集団を牽引。テネリフェでのトレーニングキャンプで徹底的に練習した通りの走りだった。最大の難所は越えたけど、まだドーフィネは終わっていない。『勝った』と言うには早過ぎる」と、ウィギンズ。マルティンが遅れたため、総合2位にロジャース、総合4位にフルーム、そして総合9位にポルトが浮上。当然チーム総合成績では断トツのトップだ。
土井雪広(アルゴス・シマノ)は13分54秒遅れでゴール。前日の第5ステージは苦しんだと言うが、この日は「テンポを刻んでリミットを越えないように走った。だからとっても楽しかった」とTwitterに書き込んでいる。「明日は最終ステージ。怪我に気をつけて楽しめたらと思います」。
選手コメントはレース公式サイト、レディオシャック・ニッサン公式サイトより。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第6ステージ結果
1位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター) 4h46'12"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +16"
3位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ) +24"
4位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
5位 ピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)
6位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
7位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター)
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
9位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)
10位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)
115位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +13'54"
個人総合成績
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) 23h40'59"
2位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ) +1'20"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +1'36"
4位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +1'48"
5位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル) +2'22"
6位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター) +2'58"
7位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ) +3'07"
8位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク) +3'26"
9位 リッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) +3'44"
10位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム) +3'51"
137位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +52'21"
ポイント賞
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
山岳賞
ホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)
新人賞
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)
チーム総合成績
チームスカイ
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012年大会の「クイーンステージ(最難関山岳ステージ)」。序盤から平均勾配6.5%の1級山岳プランパレ峠や、標高1613mの1級山岳コロンビエール峠を連続して越え、ゴール12km手前の超級山岳ジュープラン峠に挑む。
頂上ゴールではないが、登坂距離11.7km・平均勾配8.4%のジュープラン峠は今大会最大の山場だ。
この日はスタート直後に1級山岳プランパレ峠が始まるため、多くの選手たちがローラー台でウォーミングアップ。スタートが切られるとすぐ、山岳賞ジャージを着るホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)やピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)、ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)と言った強力なメンバーを含む19名のアタックが決まる。
チームスカイがメイン集団をコントロールし、逃げとのタイム差を3分台に抑え込む中、2日前の個人タイムトライアルで落車し、右半身を痛めたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)が63km地点でリタイア。
バイクを降りたアンディは「大きな失望を感じている。チームカーの中から他の選手たちのレース風景を見ていると、精神的に凹んでしまった。でも今日はスタート後200mで右脚と下半身が痛み始め、進めば進むほど痛みが増した。レース中にこんなに苦しんだのは初めての経験だ。リタイア以外の選択肢は無かった」と語る。
ライバルたちと比べてコンディショニングが遅れ、そこに落車が加わったことで、アンディのマイヨジョーヌ獲得はますます遠ざかった。しかし本人は楽観的に状況を見る。「『ツール開幕まで3週間しかない』と言うけど、僕に言わしてみれば『3週間もある』。3週間で出来ることは山ほどある。例えば昨年のツール・ド・スイスで僕は精彩を欠いた。でもツールには間に合った。間に合うと信じている」。
レースは1級山岳コロンビエール峠を越えて後半戦へ。サルミエントは順調に山岳ポイントを加算し、山岳賞ジャージの獲得をほぼ決定づけることに成功する。
やがてゴールまで45kmを切ると、逃げグループの中からブリース・フェイユ(フランス、ソール・ソジャサン)がアタック。フェイユは逃げグループから1分30秒、メイン集団から2分40秒のリードをもって最後の超級山岳ジュープラン峠に突入した。
ここで圧倒的なチーム力を見せつけたのがチームスカイ。エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)やリッチー・ポルト(オーストラリア)がハイペースでメイン集団を引き続け、フェイユ以外の逃げ選手をすべて吸収する。
チームスカイが作り出したこのハイペースに、総合2位のトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)だけでなく、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)も脱落。黒いトレインがブラドレー・ウィギンズ(イギリス)を頂上まで導いた。
ジュープラン峠で唯一アタックを成功させたのはクインターナで、先頭を行くフェイユを抜いて独走。メイン集団からリードを築いて頂上を越え、ゴール地点に向かってテクニカルな下りをこなす。
ウィギンズのためにポルト、フルーム、ロジャースのチームスカイ3選手がメイン集団を率い、先頭クインターナを追う。
この下りで最も積極的に動いたのはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。なんとか集団を振り切ってゴールしたエヴァンスは「チームスカイが作り出したハイペースが、ジュープラン峠でのアタックを困難なものにした。しかも風が強かったため、一人で飛び出すのは得策じゃないと判断したんだ。下りでアタックしたけど、そこまでリスクを負ってまで攻めることはなかった。(仮にアタックが失敗しても)失うものはほとんど無かった」と語っている。
最後までリードを守ったクインターナは、エヴァンスを16秒、メイン集団を24秒振り切ってゴール。今年モビスターに合流した22歳のクライマーが、UCIワールドツアーレース初勝利を掴んだ。
クインターナは2010年にツール・ド・ラヴニールで総合優勝し、2011年ボルタ・ア・カタルーニャで山岳賞を獲得。今年ブエルタ・ア・ムルシアで総合優勝している。レース後のインタビューでクインターナは「最後の登りで貯まった疲労が抜けないままゴールに向かって下ったけど、何とかリードを守りぬくことが出来た。何としても逃げ切りたいという気持ちが強くて、こうしてわずかな差での逃げ切りが決まったんだ」と喜ぶ。
また、クインターナは「山岳賞のサルミエントも表彰台に登ったし、母国コロンビアがこうしてトップシーンに戻ってきたことを嬉しく思う。サルミエントは兄弟のようなもの。彼が同じ逃げグループに入ったことが、成功に繋がったとも言える」とコメント。ジロ・デ・イタリアに引き続き、コロンビア人の活躍が目立っている。
屈強なアシスト陣に守られたウィギンズは、エヴァンスから8秒を失ったものの、1分以上のリードをキープしたまま最終ステージに挑む。「チームスカイがメンバーを揃えて登りで集団を牽引。テネリフェでのトレーニングキャンプで徹底的に練習した通りの走りだった。最大の難所は越えたけど、まだドーフィネは終わっていない。『勝った』と言うには早過ぎる」と、ウィギンズ。マルティンが遅れたため、総合2位にロジャース、総合4位にフルーム、そして総合9位にポルトが浮上。当然チーム総合成績では断トツのトップだ。
土井雪広(アルゴス・シマノ)は13分54秒遅れでゴール。前日の第5ステージは苦しんだと言うが、この日は「テンポを刻んでリミットを越えないように走った。だからとっても楽しかった」とTwitterに書き込んでいる。「明日は最終ステージ。怪我に気をつけて楽しめたらと思います」。
選手コメントはレース公式サイト、レディオシャック・ニッサン公式サイトより。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第6ステージ結果
1位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター) 4h46'12"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +16"
3位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ) +24"
4位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
5位 ピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)
6位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
7位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター)
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
9位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)
10位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)
115位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +13'54"
個人総合成績
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) 23h40'59"
2位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ) +1'20"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +1'36"
4位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +1'48"
5位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル) +2'22"
6位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター) +2'58"
7位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ) +3'07"
8位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク) +3'26"
9位 リッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) +3'44"
10位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム) +3'51"
137位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ) +52'21"
ポイント賞
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
山岳賞
ホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)
新人賞
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)
チーム総合成績
チームスカイ
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
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