6つのカテゴリー山岳が登場するクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージで、果敢に逃げグループから飛び出したナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)がビッグネームを振り切る大金星。カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)の攻撃にも、チームスカイの牙城は崩れなかった。

山岳賞ジャージのホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)を含む逃げグループ山岳賞ジャージのホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)を含む逃げグループ photo:Cor Vosクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012年大会の「クイーンステージ(最難関山岳ステージ)」。序盤から平均勾配6.5%の1級山岳プランパレ峠や、標高1613mの1級山岳コロンビエール峠を連続して越え、ゴール12km手前の超級山岳ジュープラン峠に挑む。

頂上ゴールではないが、登坂距離11.7km・平均勾配8.4%のジュープラン峠は今大会最大の山場だ。

63km地点でバイクを降りたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)63km地点でバイクを降りたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン) photo:Cor Vosこの日はスタート直後に1級山岳プランパレ峠が始まるため、多くの選手たちがローラー台でウォーミングアップ。スタートが切られるとすぐ、山岳賞ジャージを着るホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)やピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)、ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)と言った強力なメンバーを含む19名のアタックが決まる。

コロンビエール峠を上るプロトンコロンビエール峠を上るプロトン photo:Cor Vosチームスカイがメイン集団をコントロールし、逃げとのタイム差を3分台に抑え込む中、2日前の個人タイムトライアルで落車し、右半身を痛めたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)が63km地点でリタイア。

バイクを降りたアンディは「大きな失望を感じている。チームカーの中から他の選手たちのレース風景を見ていると、精神的に凹んでしまった。でも今日はスタート後200mで右脚と下半身が痛み始め、進めば進むほど痛みが増した。レース中にこんなに苦しんだのは初めての経験だ。リタイア以外の選択肢は無かった」と語る。

美しいアルプスの山岳地帯を進む美しいアルプスの山岳地帯を進む photo:Cor Vosライバルたちと比べてコンディショニングが遅れ、そこに落車が加わったことで、アンディのマイヨジョーヌ獲得はますます遠ざかった。しかし本人は楽観的に状況を見る。「『ツール開幕まで3週間しかない』と言うけど、僕に言わしてみれば『3週間もある』。3週間で出来ることは山ほどある。例えば昨年のツール・ド・スイスで僕は精彩を欠いた。でもツールには間に合った。間に合うと信じている」。

レースは1級山岳コロンビエール峠を越えて後半戦へ。サルミエントは順調に山岳ポイントを加算し、山岳賞ジャージの獲得をほぼ決定づけることに成功する。

メイン集団を徹底的にコントロールするチームスカイメイン集団を徹底的にコントロールするチームスカイ photo:Cor Vosやがてゴールまで45kmを切ると、逃げグループの中からブリース・フェイユ(フランス、ソール・ソジャサン)がアタック。フェイユは逃げグループから1分30秒、メイン集団から2分40秒のリードをもって最後の超級山岳ジュープラン峠に突入した。

ここで圧倒的なチーム力を見せつけたのがチームスカイ。エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)やリッチー・ポルト(オーストラリア)がハイペースでメイン集団を引き続け、フェイユ以外の逃げ選手をすべて吸収する。

ジュープラン峠でハイペースを作り出すリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)ジュープラン峠でハイペースを作り出すリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) photo:Cor Vosチームスカイが作り出したこのハイペースに、総合2位のトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)だけでなく、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)も脱落。黒いトレインがブラドレー・ウィギンズ(イギリス)を頂上まで導いた。

ジュープラン峠で唯一アタックを成功させたのはクインターナで、先頭を行くフェイユを抜いて独走。メイン集団からリードを築いて頂上を越え、ゴール地点に向かってテクニカルな下りをこなす。

ジュープラン峠でメイン集団からアタックしたナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)ジュープラン峠でメイン集団からアタックしたナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター) photo:Cor Vosウィギンズのためにポルト、フルーム、ロジャースのチームスカイ3選手がメイン集団を率い、先頭クインターナを追う。

この下りで最も積極的に動いたのはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。なんとか集団を振り切ってゴールしたエヴァンスは「チームスカイが作り出したハイペースが、ジュープラン峠でのアタックを困難なものにした。しかも風が強かったため、一人で飛び出すのは得策じゃないと判断したんだ。下りでアタックしたけど、そこまでリスクを負ってまで攻めることはなかった。(仮にアタックが失敗しても)失うものはほとんど無かった」と語っている。

最後までリードを守ったクインターナは、エヴァンスを16秒、メイン集団を24秒振り切ってゴール。今年モビスターに合流した22歳のクライマーが、UCIワールドツアーレース初勝利を掴んだ。

独走でゴールするナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)独走でゴールするナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター) photo:Cor Vosクインターナは2010年にツール・ド・ラヴニールで総合優勝し、2011年ボルタ・ア・カタルーニャで山岳賞を獲得。今年ブエルタ・ア・ムルシアで総合優勝している。レース後のインタビューでクインターナは「最後の登りで貯まった疲労が抜けないままゴールに向かって下ったけど、何とかリードを守りぬくことが出来た。何としても逃げ切りたいという気持ちが強くて、こうしてわずかな差での逃げ切りが決まったんだ」と喜ぶ。

アタックを仕掛け、ウィギンズから8秒奪ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)アタックを仕掛け、ウィギンズから8秒奪ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosまた、クインターナは「山岳賞のサルミエントも表彰台に登ったし、母国コロンビアがこうしてトップシーンに戻ってきたことを嬉しく思う。サルミエントは兄弟のようなもの。彼が同じ逃げグループに入ったことが、成功に繋がったとも言える」とコメント。ジロ・デ・イタリアに引き続き、コロンビア人の活躍が目立っている。

屈強なアシスト陣に守られたウィギンズは、エヴァンスから8秒を失ったものの、1分以上のリードをキープしたまま最終ステージに挑む。「チームスカイがメンバーを揃えて登りで集団を牽引。テネリフェでのトレーニングキャンプで徹底的に練習した通りの走りだった。最大の難所は越えたけど、まだドーフィネは終わっていない。『勝った』と言うには早過ぎる」と、ウィギンズ。マルティンが遅れたため、総合2位にロジャース、総合4位にフルーム、そして総合9位にポルトが浮上。当然チーム総合成績では断トツのトップだ。

土井雪広(アルゴス・シマノ)は13分54秒遅れでゴール。前日の第5ステージは苦しんだと言うが、この日は「テンポを刻んでリミットを越えないように走った。だからとっても楽しかった」とTwitterに書き込んでいる。「明日は最終ステージ。怪我に気をつけて楽しめたらと思います」。

選手コメントはレース公式サイト、レディオシャック・ニッサン公式サイトより。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第6ステージ結果
1位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)             4h46'12"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)         +16"
3位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                +24"
4位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
5位 ピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)
6位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
7位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター)
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
9位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)
10位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)
115位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                  +13'54"

個人総合成績
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)            23h40'59"
2位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)           +1'20"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)        +1'36"
4位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                +1'48"
5位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)        +2'22"
6位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター)              +2'58"
7位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)             +3'07"
8位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)              +3'26"
9位 リッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)             +3'44"
10位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)    +3'51"
137位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                  +52'21"

ポイント賞
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)

山岳賞
ホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)

新人賞
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)

チーム総合成績
チームスカイ

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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