2011/09/11(日) - 15:59
ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、レオパード・トレック)は世界選手権のイタリア代表入りを渇望している。コペンハーゲンのコースはスプリンター向き。今年で名前が消滅するチームにとって嬉しいステージ2勝目は、ベンナーティにとってパオロ・ベッティーニ監督への最高のアピールとなった。
この日はバスクの二大都市を結ぶステージ。スタート地点はバスク州最大の都市ビルバオで、ゴール地点ビトリアはバスク州の州都。正式名称はビトリア=ガステイス。ビトリアがスペイン語(カスティーリャ語)で、ガステイスがバスク語。
前日のビルバオで感動的なステージ優勝を飾ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)は、スタート地点で英雄扱いだ。背中には真っ赤な敢闘賞ゼッケンが光る。アントンが動けば人の波が動く状態。
ちなみに日本でアントンの名前は「ア」にアクセントを置いた発音がデフォルトになっているが、実際は「ト」。アントォン。
ビルバオに拠点を置くチームだけに、スタート地点にはエウスカルテルのコスプレが多数。あまりにも全身を完璧にコーディネートしているので、思わずカメラを構えてしまう。でもお腹まわりが緩かったり、どこかだらしない。やはり3週間を闘い抜いたプロ選手は抜群に絞れている。
スキル・シマノのチームバスは、エウスカルテルとジェオックス・TMCの間に駐車した。土井雪広を含むメンバーは、5kmほど離れたホテルから自走でスタート地点にやってくる。
スキル・シマノは長い時間チームバスの中でミーティングを続けていたので、生憎スタート前にコメントを取ることが出来なかった。長いミーティング=逃げに選手を送る、ということ。
第18ステージまでは、スペイン全体を取り仕切るグアルディア・シビル(治安警察)がレースルートの警備を担当していたが、第19ステージと第20ステージはエルツァインツァ(地元バスクの州警察)が取り仕切る。蛍光イエローのグアルディア・シビルのバイクも走っているが、あくまでもそれはサポート役として。オレンジのジャケットを着たエルツァインツァのバイクがレースを守っている。
あらためてバスクの特徴を述べておくと、他の州と比べて緑が豊か。気候も影響していると思われるが、山が樹々に覆われて青々している。植樹された針葉樹が多いのも特徴だろう。沿道に映える広葉樹は少しずつ少しずつ葉を落とし始めていた。歩くと乾いた枯れ葉が高い音を立てる。
街中では常にどこかでビルの建設が行なわれていて、大きなクレーンがビルバオの空に並び、その下を真新しいトラムが走る。バスク独特の信号システムに戸惑う。郊外に出ると高速道路が拡張中。数年前のカーナビには載っていない高速道路も多い。
そして相変わらず暑い。前日ほど暑くないにしても、確実に30度後半はある。
レース序盤の撮影ポイントでは、土井雪広は集団前方に位置していた。アタックする選手たちの様子を見て、自分が飛び出すタイミングを計っている様子が伝わってくる。「序盤からシャヴァネルらと一緒に我武者らにアタックを繰り返した。でもスピードが常に上がった状態で、結果的に逃げに乗れなかった」。
合計4つのカテゴリー山岳を越え、プロトンはビトリアへ。逃げグループが大きなアドバンテージを築けなかったことで、スプリントポイントやゴールスプリントでのボーナスタイムによる総合争いに期待が膨らむ。
しかし1級山岳ウルキオラ峠で総合争いは動かなかった。観客が多くて走るスペースが狭まった登りで、ジェオックス・TMCのサストレとメンショフが集団先頭で蓋をする。
メイン集団は予想よりずっと大きな状態でウルキオラ峠をクリア。逃げグループから落ちてきたベンナーティらを飲み込んで、そして後方から追い付いた選手たちを取り込んで、メイン集団はビトリアに向かう。
いつの間にか集団の人数が増えていると思っていたら、レース後の土井雪広の言葉を聞いて納得。「(ゴールまでの平坦区間で起こった)モーターバイクの事故現場でチームカーの車列が詰まり、そこに遅れた選手たちが追いついて、そのままカーペーサーで多くの選手が集団に復帰。自分はそこに乗れなかった」。
チームスカイがいつ動くのか、注視しながらプレスセンターで映像を見ていると、まさかまさかのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)のアタック!総合2位フルームの動きにマイヨロホは落ち着いて反応する。フルームはスプリントさながらの勢いで飛び出し、アーチの下でハンドルを投げて先頭通過!・・・でもそれはスプリントポイントではなくラスト20kmのアーチだった。
当初は119km地点に2つ目のスプリントポイントが置かれる予定だったが、前日になって168km地点(ゴール17km)手前に変更された。フルームは無線でスプリントポイントが近づいているのを聞かされ、アーチが見えて反射的に飛び出したのだと言う。間違いなくそこで余計な脚を使ってしまった。
結局サプライズは起こらず、ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)が13秒差を守って最終日を迎える。
グランツール最終日に総合逆転は起こるのか?ツール・ド・フランスではその可能性は極めて低い。総合リーダーが落車リタイアしないかぎり、シャンゼリゼで総合逆転は起こらない。でもここはスペイン、ブエルタ。少し勝手が違う。
マドリードにゴールする最終ステージにも2つのスプリントポイントが設定され、それぞれボーナスタイムが6秒、4秒、2秒設定。もちろんゴールスプリントにも20秒、12秒、8秒のボーナスタイムがある。
フルームとコーボの単純なスプリント一騎打ちなら、コーボに分があると思われる。でも平坦コースでのチーム力はチームスカイが上。それにジェオックス・TMCはここまでのステージで集団をコントロールし続けていたのでメンバーは消耗している。
フルームは総合逆転の難しさを認め、対するコーボは気を抜かない姿勢を崩さない。現実的にコーボの総合優勝の可能性が極めて高い。だが逆転の可能性は0%では無いし、コメントで油断させてアタックするかもしれない。とにかく、レース前の下馬評で総合優勝候補に挙がらなかったこの2人によるマイヨロホ争いは、最終日に決着する(締め切りがすでに過ぎているバイシクルクラブ10月号のブエルタ特集、どうしたらいいんだ!)
話をレースに戻すと、80人によるスプリントでベンナーティが勝った。ジロ・デ・イタリア開幕前に怪我で戦線を離脱し、グランツールでのツキに見放されているベンナーティが勝った。
ベンナーティはこれまでジロでステージ3勝、ツールでステージ2勝を飾っている。グランツールの中ではブエルタと相性がよく、これがステージ5勝目(チームTTを含むと7勝目)。どこかぱっとしないシーズンは、この勝利で一気に活気づいた。
ちょうどイタリア代表のベッティーニ監督は、世界選手権のメンバー選考に頭を悩ませている頃。この勝利は選考に大きく響くだろう。
そしてレオパード・トレックにとっても嬉しい勝利だ。チームのプレス担当ティム・ファンデルユードの顔は緩んだまま。ティムはスポンサー変更&チーム再編成が決まってから、ずっと難しい顔で会場を奔走していた。そのティムが最高の笑顔でシャンパンを飲んでいる姿が微笑ましかった。
土井雪広は10分23秒遅れの集団でゴール。「今日も暑かった。中盤にかけてオメガファーマ・ロットのよく分からないペースアップが始まったので、集団は常にハイスピード。最後の1級山岳は集団が前に見えていたのに、届かなかった」と悔しがる。逃げに乗れず、集団に残れなかったが、ブエルタ完走をほぼ確実なものにした。
ゴール後、選手たちはマドリードまで長距離移動。約350kmを陸路で移動する。とは言え多くの選手たちにとってブエルタは終わったようなもの。マドリードまでの道中、チームバスの中で久々のビールを空けた土井雪広は「いよいよ終わる。3週間前はベニドルムにいた。今マドリードにいるのが変な感じ」と言う。個人的にはマドリードの周回コースでの逃げに期待しているが、本人は「ペースが速くてコーナーが多いので大変そう」と笑った。
text&photo:Kei Tsuji in Madrid, Spain
この日はバスクの二大都市を結ぶステージ。スタート地点はバスク州最大の都市ビルバオで、ゴール地点ビトリアはバスク州の州都。正式名称はビトリア=ガステイス。ビトリアがスペイン語(カスティーリャ語)で、ガステイスがバスク語。
前日のビルバオで感動的なステージ優勝を飾ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)は、スタート地点で英雄扱いだ。背中には真っ赤な敢闘賞ゼッケンが光る。アントンが動けば人の波が動く状態。
ちなみに日本でアントンの名前は「ア」にアクセントを置いた発音がデフォルトになっているが、実際は「ト」。アントォン。
ビルバオに拠点を置くチームだけに、スタート地点にはエウスカルテルのコスプレが多数。あまりにも全身を完璧にコーディネートしているので、思わずカメラを構えてしまう。でもお腹まわりが緩かったり、どこかだらしない。やはり3週間を闘い抜いたプロ選手は抜群に絞れている。
スキル・シマノのチームバスは、エウスカルテルとジェオックス・TMCの間に駐車した。土井雪広を含むメンバーは、5kmほど離れたホテルから自走でスタート地点にやってくる。
スキル・シマノは長い時間チームバスの中でミーティングを続けていたので、生憎スタート前にコメントを取ることが出来なかった。長いミーティング=逃げに選手を送る、ということ。
第18ステージまでは、スペイン全体を取り仕切るグアルディア・シビル(治安警察)がレースルートの警備を担当していたが、第19ステージと第20ステージはエルツァインツァ(地元バスクの州警察)が取り仕切る。蛍光イエローのグアルディア・シビルのバイクも走っているが、あくまでもそれはサポート役として。オレンジのジャケットを着たエルツァインツァのバイクがレースを守っている。
あらためてバスクの特徴を述べておくと、他の州と比べて緑が豊か。気候も影響していると思われるが、山が樹々に覆われて青々している。植樹された針葉樹が多いのも特徴だろう。沿道に映える広葉樹は少しずつ少しずつ葉を落とし始めていた。歩くと乾いた枯れ葉が高い音を立てる。
街中では常にどこかでビルの建設が行なわれていて、大きなクレーンがビルバオの空に並び、その下を真新しいトラムが走る。バスク独特の信号システムに戸惑う。郊外に出ると高速道路が拡張中。数年前のカーナビには載っていない高速道路も多い。
そして相変わらず暑い。前日ほど暑くないにしても、確実に30度後半はある。
レース序盤の撮影ポイントでは、土井雪広は集団前方に位置していた。アタックする選手たちの様子を見て、自分が飛び出すタイミングを計っている様子が伝わってくる。「序盤からシャヴァネルらと一緒に我武者らにアタックを繰り返した。でもスピードが常に上がった状態で、結果的に逃げに乗れなかった」。
合計4つのカテゴリー山岳を越え、プロトンはビトリアへ。逃げグループが大きなアドバンテージを築けなかったことで、スプリントポイントやゴールスプリントでのボーナスタイムによる総合争いに期待が膨らむ。
しかし1級山岳ウルキオラ峠で総合争いは動かなかった。観客が多くて走るスペースが狭まった登りで、ジェオックス・TMCのサストレとメンショフが集団先頭で蓋をする。
メイン集団は予想よりずっと大きな状態でウルキオラ峠をクリア。逃げグループから落ちてきたベンナーティらを飲み込んで、そして後方から追い付いた選手たちを取り込んで、メイン集団はビトリアに向かう。
いつの間にか集団の人数が増えていると思っていたら、レース後の土井雪広の言葉を聞いて納得。「(ゴールまでの平坦区間で起こった)モーターバイクの事故現場でチームカーの車列が詰まり、そこに遅れた選手たちが追いついて、そのままカーペーサーで多くの選手が集団に復帰。自分はそこに乗れなかった」。
チームスカイがいつ動くのか、注視しながらプレスセンターで映像を見ていると、まさかまさかのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)のアタック!総合2位フルームの動きにマイヨロホは落ち着いて反応する。フルームはスプリントさながらの勢いで飛び出し、アーチの下でハンドルを投げて先頭通過!・・・でもそれはスプリントポイントではなくラスト20kmのアーチだった。
当初は119km地点に2つ目のスプリントポイントが置かれる予定だったが、前日になって168km地点(ゴール17km)手前に変更された。フルームは無線でスプリントポイントが近づいているのを聞かされ、アーチが見えて反射的に飛び出したのだと言う。間違いなくそこで余計な脚を使ってしまった。
結局サプライズは起こらず、ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)が13秒差を守って最終日を迎える。
グランツール最終日に総合逆転は起こるのか?ツール・ド・フランスではその可能性は極めて低い。総合リーダーが落車リタイアしないかぎり、シャンゼリゼで総合逆転は起こらない。でもここはスペイン、ブエルタ。少し勝手が違う。
マドリードにゴールする最終ステージにも2つのスプリントポイントが設定され、それぞれボーナスタイムが6秒、4秒、2秒設定。もちろんゴールスプリントにも20秒、12秒、8秒のボーナスタイムがある。
フルームとコーボの単純なスプリント一騎打ちなら、コーボに分があると思われる。でも平坦コースでのチーム力はチームスカイが上。それにジェオックス・TMCはここまでのステージで集団をコントロールし続けていたのでメンバーは消耗している。
フルームは総合逆転の難しさを認め、対するコーボは気を抜かない姿勢を崩さない。現実的にコーボの総合優勝の可能性が極めて高い。だが逆転の可能性は0%では無いし、コメントで油断させてアタックするかもしれない。とにかく、レース前の下馬評で総合優勝候補に挙がらなかったこの2人によるマイヨロホ争いは、最終日に決着する(締め切りがすでに過ぎているバイシクルクラブ10月号のブエルタ特集、どうしたらいいんだ!)
話をレースに戻すと、80人によるスプリントでベンナーティが勝った。ジロ・デ・イタリア開幕前に怪我で戦線を離脱し、グランツールでのツキに見放されているベンナーティが勝った。
ベンナーティはこれまでジロでステージ3勝、ツールでステージ2勝を飾っている。グランツールの中ではブエルタと相性がよく、これがステージ5勝目(チームTTを含むと7勝目)。どこかぱっとしないシーズンは、この勝利で一気に活気づいた。
ちょうどイタリア代表のベッティーニ監督は、世界選手権のメンバー選考に頭を悩ませている頃。この勝利は選考に大きく響くだろう。
そしてレオパード・トレックにとっても嬉しい勝利だ。チームのプレス担当ティム・ファンデルユードの顔は緩んだまま。ティムはスポンサー変更&チーム再編成が決まってから、ずっと難しい顔で会場を奔走していた。そのティムが最高の笑顔でシャンパンを飲んでいる姿が微笑ましかった。
土井雪広は10分23秒遅れの集団でゴール。「今日も暑かった。中盤にかけてオメガファーマ・ロットのよく分からないペースアップが始まったので、集団は常にハイスピード。最後の1級山岳は集団が前に見えていたのに、届かなかった」と悔しがる。逃げに乗れず、集団に残れなかったが、ブエルタ完走をほぼ確実なものにした。
ゴール後、選手たちはマドリードまで長距離移動。約350kmを陸路で移動する。とは言え多くの選手たちにとってブエルタは終わったようなもの。マドリードまでの道中、チームバスの中で久々のビールを空けた土井雪広は「いよいよ終わる。3週間前はベニドルムにいた。今マドリードにいるのが変な感じ」と言う。個人的にはマドリードの周回コースでの逃げに期待しているが、本人は「ペースが速くてコーナーが多いので大変そう」と笑った。
text&photo:Kei Tsuji in Madrid, Spain
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