寒い! 寒い! 寒い! ガタガタふるえるカメラマンたちの多国籍な悲鳴がこだましたフィニッシュゲート前。昨日のキャメロンハイランドの肌寒さをさらに上回る「秋深まる高原」のような気候。そしてたちこめる深い霧のなか、しとしととと雨が降っている。

フィニッシュゲート。たちこめる深い霧フィニッシュゲート。たちこめる深い霧 photo:Yuko Satoこの視界の悪いなかを選手たちはいま、この“超級山岳”を、フィニッシュのゲンティンハイランドへむかって登ってきているのだ。

ぼんやりと見えるフィニッシュラインのむこうは白一色の霧。選手の到着は、注意をうながす競技役員の声とホイッスルだけが頼りだ。「サトゥ(1)キロメートル!」あと1km、選手がやってくる。

先頭でゴールに飛び込むジョナサン・モンサルベ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)先頭でゴールに飛び込むジョナサン・モンサルベ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ) photo:Yuko Satoフィニッシュラインの上にぼんやりとあらわれたシルエットが両手をあげた。アンドローニジョカトリのジャージ。ジョナサン・モンサルベ(ベネズエラ)だ。

濃い霧の中からふわりとひとりずつ現れてくる選手たち。顔もジャージの色もはっきりわからないそのシルエットにひとりずつシャッターを切っていく。通っていったスキル・シマノのジャージの中に土井がいたのかもよくわからないまま、フィニッシュラインに目をこらす。

30人ほども通過しただろうか、黄色いジャージに青いパンツ。綾部だ。険しい顔でふたたびフィニッシュの先の霧の中へ走りぬけていった。

3分14秒遅れでゴールした土井雪広(スキル・シマノ)3分14秒遅れでゴールした土井雪広(スキル・シマノ) photo:Yuko Sato

リーダーチームとしてゲンティンステージに挑む愛三工業レーシングチームリーダーチームとしてゲンティンステージに挑む愛三工業レーシングチーム photo:Yuko Sato27日の第5ステージは、このレースのハイライトのひとつ、ゲンティンハイランドの登りを後半に持つ124.3km。タパから南東にむかってスタートした後、コース全体の約4分の3は平坦で、3つのスプリントポイントを含む。そして終盤4分の1で一気に登り、標高1679mのゲンティンハイランドでフィニッシュするコースだ。

「山に行くまでの平坦でいかに逃がさないかがポイントで、そこが“平坦部隊”の仕事になってきます」と愛三工業レーシングの別府匠監督。

「チャンピオン!一緒に写真撮ろうよ!」と宮澤崇史(日本、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)がやってきた「チャンピオン!一緒に写真撮ろうよ!」と宮澤崇史(日本、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)がやってきた photo:Yuko Satoスタートは午前11時。前日の第4ステージの勝利で黄色いリーダージャージを身にまとう綾部はサポートカーの前で日本の報道陣に囲まれ、また現地メディアとおぼしきテレビカメラのインタビューを受ける。

「今まで自分が勝ったことがなかったので、少し不思議な気がします。これが自分のキャリアの分岐点になると思うか、ですか? 分からないけど、なってくれたらいいなと思います。今日は、登ってゴールするだけのコースなので、最後にスプリントで勝負ができた昨日と違って本当のクライマーのステージ。そのクライマーの中のひとりになれるよう、ベストを尽くしてゴールまで行きたいと思います。」

プレゼンテーションでステージに上がる綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)プレゼンテーションでステージに上がる綾部勇成(愛三工業レーシングチーム) photo:Yuko Sato出走サインを終えると、スタート前のレースリーダープレゼンテーション。黄色いジャージの綾部はほかの色のジャージの選手らとともに壇上に呼ばれ、大きく両手をあげて歓声に応えた。

今日も、撮影の足はプレスカーだ。レーススタート5分前に出発し、レースの車列の前を進んでまずは第1スプリントポイントへ先回り。出発してまもなく、ぽつりぽつりと小雨がふってきた。今日は雨の予報で、平坦部分も湿度は高いもののおだやかな暑さだ。

第1スプリントポイントで競り合うブラッドリー・ポトガイター(南アフリカ、MTNキュベカ)とケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、スキル・シマノ)第1スプリントポイントで競り合うブラッドリー・ポトガイター(南アフリカ、MTNキュベカ)とケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、スキル・シマノ) photo:Yuko Satoスカーフ姿の子どもたち、観客たちが待つ第1スプリントポイントにまっ先に飛び込んできたのはまず3人、ケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、スキル・シマノ)とブラッドリー・ポトガイター(南アフリカ、MTNクベカ)。

すぐ後ろにセア・キョンロー(マレーシアナショナルチーム)が続く。そしてそのあと3人ほどのライダー、続いてひとつに長く伸びた大集団がやってきた。この集団の先頭には、愛三工業レーシングの2人、コルナゴCSFの4人の姿がみえる。

愛三工業レーシングチームとコルナゴ・CSFイノックスがコントロールするメイン集団愛三工業レーシングチームとコルナゴ・CSFイノックスがコントロールするメイン集団 photo:Yuko Satoここでの撮影を終えると、プレスカーはフィニッシュ地点へ直行だ。平坦を走り抜けるといよいよゲンティンハイランドへの山登り。標高が上がって行くにつれ、窓の外の風景には霧が立ち、しだいに景色が白くかすんできた。霧が深く、カーブの先が見えない。

レースマニュアルの標高差だけ見ていると前日のキャメロンハイランドと大きな違いはないように思えたが、車でといえど、走ってみると「全くの別物」という印象だ。まず、カーブが深い。ヘアピンカーブの連続のようにより大きく左右に降られる感じで、そして傾斜が「高い」。霧深いお天気のせいもあって、なんだかとてもスケール感のある、迫力のある山道だ。

ゲンティンハイランドの登りに入るプレスカー。霧が深くなってきたゲンティンハイランドの登りに入るプレスカー。霧が深くなってきた photo:Yuko Satoプレスカーはエンジンをブンブン鳴らしながら登っていく。と、前をいくもう1台のプレスカーのバンが、突然スピンするように横すべりした。車にとっても、ここはなかなかの難所なのかもしれない。

フィニッシュ地点に到着すると、強い風で霧がとばされていく。ドアをあけたカメラマンが口々に「寒い!」「すごい霧だ!」「雨だ!」と同じ感想を口々に言う。この日の選手たちは、この過酷なお天気の中を、この過酷な坂を登ってくるのだ。

リーダージャージを失った綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)リーダージャージを失った綾部勇成(愛三工業レーシングチーム) photo:Yuko Satoこの日、クライマーのステージのレースで、表彰の顔ぶれはまた動いた。第5ステージの日本人最高位は土井雪広の25位。前日リーダージャージに袖を通した綾部勇成は38位、リバルド・ニノ(コロンビア、ルトゥーア)が総合首位に立った。

レース後、綾部に話をきいてみると、「今日は最初6人ぐらい逃げて来て、後ろに(鈴木)謙一以外の(愛三工業レーシングチームの)3人とコルナゴCSFに一緒にコントロールしてもらった。ふもとまで来て、ラスト15kmでペースが上がって、ぼくが離れてしまって。そのあとずっとイーブンペースで登って来た、という展開でした。」

明日28日の第6ステージは106.7km。ラワンからプトラジャヤに南下、プトラジャヤでテクニカルな周回コースを3周してフィニッシュする。

photo&text:Yuko.SATO

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