2011/01/30(日) - 14:59
スイスに拠点を構えるBMC。スイスメイドという言葉を耳にすると「精密」や「高品質」という連想をする人も少なくないだろう。時計や銃器、刃物、軸受けなど工業レベルの高さを示す製品は枚挙にいとまがない。そしてBMCはその印象を裏切らない。
BMCはもともとMTBから出発したメーカーだが、現在の躍進の原因となったのはロードバイク。特にプロチームに供給してからの伸びはめざましい。直系のBMCレーシングチームはUCIプロツアーチームとしてメジャーレースで大活躍中だ。カデル・エヴァンスらトップ選手たちのフィードバックがダイレクトに製品造りに生かされるメリットはあまりにも大きい。
2011年モデルでは完全スイスメイドのimpecが新たに登場し、次世代への扉は開かれた。しかし、あまりにも手のかかるマン・ツー・マンのオーダーメイドのため、まだプロ選手にも完全に行き渡っていないという噂も聞かれ、われわれ一般サイクリストにとっては遠い存在であることも事実。
それよりもかつての最上級モデルである「SLC01」のテクノロジーをトップダウンし、手の届きやすい価格に仕上げられたこの「Roadracer SL01」の登場に、注目をしているサイクリストも多いのではないだろうか?
Roadracer SL01の2010年モデルは、前三角がアルミでシートステーをカーボンとした、いわゆるカーボンバックモデルだったが、今年のモデルチェンジでフルカーボンとなり、一気にグレードアップを果たした。
近年はトップチューブからリヤエンドまでを一本の弧を描かせる、アーチシェイプデザインがメーカーを問わず流行だが、このSL01は少々趣が異なる。主となるのはあくまで直線。曲線ではなく昔ながらの直線が「マシン」という言葉にふさわしい力強い印象を生み出している。
シート集合部はiSC(インテグレイテッド・スケルトン・コンセプト)デザインを踏襲。ここはBMCロードフレームの最大のアイコンと言って良いだろう。トップチューブとシートステーの交点をオフセットさせることで、走行時に快適性を生み出す。似たような形になってしまう昨今のカーボンフレームの中で、確固とした個性を放つデザインだ。
斜ウス式の固定機能を備えたシートポストは専用品。インテグラルシートポストから調整機能を求めてオリジナルシートポストの変更に踏み切るメーカーも多い昨今、一周して最先端になった感がある。
またハンドルとステムもオリジナルブランドの「SCORマークⅡ」で揃え、さらに、同国スイス製のDTホイールやドイツ・コンチネンタルのタイヤなど、評判の高い手堅いパーツをアッセンブル。完成車としてのバイク作りを強く意識していることが感じられる。
サイズも480㎜から570㎜まで揃えており、ほとんどの日本人の体型をカバーする。ただサイズごとに開きがあるので、初心者や自分のポジションが確立していない人には経験者のアドバイスに耳を傾ける必要があるかもしれない。
他社の2011年モデルを見渡せば、30万円を下回るフルカーボンフレーム×アルテグラを搭載したバイクも珍しくないが、遠目からもわかる個性的なRoadracer SL01のスタイリングに魅せられた人なら、財布の紐も緩もうというもの。同じフレームを使ったSL02と並んで、BMCの屋台骨を支えることになるはず。
日本上陸当初、BMCのカーボンフレームといえばほぼ40万円オーバーだったが、現在となっては完成車で40万円を下回る価格で手に入るようになった。円高は日本経済にとって厳しい側面も持ち合わせているが、サイクリストにとっては追い風といえるだろう。
完成車としての価格は少しアップしたものの、それ以上に車格は1段も2段も上がっている。魅力は格段に増したと言って良いだろう。
それでは気になるインプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「独特なしなやかさでロングライドに最適」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
今までBMCをちゃんと乗ったことがありませんでした。BB周りをはじめ、SL01のフレームは見た目のボリューム感がかなりあるので、第一印象は剛性が高そうに思えます。しかし、実際に乗ってみると、パリッと硬いというよりも、しっとりしている感じを受けました。
ペダルを踏み込んだ時のしなり方が自然な感覚で、どこかで引っかかって加速が鈍ることはありません。絶妙な柔らかさといった感じでしょうか。ただ気になったのは乗車時の重心が前に出ていってしまうことで、フォーク剛性がちょっと足りなく感じてしまうこと。これはおそらく自分にとって試乗車のサイズが小さいことが原因でしょう。
メーカーではフレームサイズに応じて剛性のレベルをコントロールしているでしょうから、それが合っていればまたフィーリングが違ったでしょう。また、フォーク自体の剛性もさることながら、サイズが小さい分キャスター角が少し寝ていることも剛性感に関係しているかもしれません。横剛性がちょっと弱くて、横に振れてしまう感じがありました。
その反面、フロントとリヤの突き上げを同じような感じでバランスよく振動吸収してくれました。細かい路面の振動もしっかり吸収してくれます。「硬いか、柔らかいか?」と聞かれたら、全般的に柔らかめのフレームだと思います。低~中速で走っている限りは脚にかかる感触はソフトなので、脚にはきづらいです。全体でウイップして、フレームそのものが柔らかいという感じです。
大きいギヤでトルクをかけて上っていく時は、上半身を必要以上に揺すらず、体幹をぶらすことなく走るスキルが必要となります。その時にバイク自身を横に振ってしまうと、力が逃げてしまい、柔らかさがデメリットになってしまうことがありました。ペダリングには少しコツが必要とされる部分もありますね。
逆に上半身を固めてペダルをしっかり縦に踏むことができれば、高剛性フレームのキンキンとしたフィーリングではありませんが、脚力をちゃんと加速に繋げて行けます。コーナーリングについては切れこんでいくアグレッシブさは少なく、どちらかといえばアンダーステア傾向があります。
SL01のしなやかなライディングフィールを活かすには、緩急をつける走りよりも、ロングライドなど一定の速度で巡航するような走り方が、ライダーの力を温存できて効果的だと思います。重量もそんなに感じませんし。残念だったのはサイズが小さかったので、走行性能にその影響が大きかったこと。自分のサイズで乗ったらすごく合うと思います。
全体的に見て35万円ほどの完成車価格としては、いいパーツアッセンブルですね。ホイールもDTが装備されていて、手抜きがない。これくらいのグレードのホイールが付いていると、フレーム性能の足を引っ張ることもないでしょう。
好みが分かれるかもしれませんが、イタ車とはまた違ったテイストで特徴がありますね。そういった意味では所有欲も刺激しながら、ある程度のコンフォート感もあります。各部分を細かく作り込んであって、サイクリストが惹かれるマニアックさも持っています。レースを目指さないロングライド派なら選択肢に入れてほしい1台です。
「優れた快適性はロングライドで体力の消耗を軽減してくれる、初めてのカーボンフレームに最適な剛性感」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
BMCは自分の好きなブランドの1つ。同社の出世作である「SLT-01」で登場したT字断面のトップチューブや、アルミCNCで作られた「クロスロックスケルトン・ラグ」など、とにかくひと目でBMCと分かるオリジナリティが見事だ。
この「Roadracer SL01」も、独創性においては上位機種に負けず劣らず。そのフォルムを見るだけで、どんな性能を発揮してくれるのだろう? と想像をかき立てられる。
またそのグラフィックも好印象だ。イタリア車に見られるレーシーな雰囲気を好むユーザーには少しばかり物足りなさや、バタ臭さも感じるだろうが、その控えめなデザインは逆にスマートさを感じる。この試乗車のライムグリーンにライトブルーを組み合わせた爽やかなカラーリングは、中性的な雰囲気でロードバイクの汗臭さを感じさせず、アッセンブルによっては都会的な雰囲気でかなりオシャレに乗れるはずだ。
少々前置きが長くなってしまったが、走りの方に触れてみよう。とはいえ、この試乗車のサイズは480㎜であり、身長187㎝の私にはかなり小さい。したがって、乗り味のニュアンスについては戸津井さんのコメントの方が読者の方々にとってリアリティが近いだろう。そのあたりを考慮して読んでいただきたい。
BMCといえば、ツールで活躍した名作「SLC-01」でもそうだったが、高剛性を追求するというよりも、どちらかといえばフレームのしなりを上手に使ってバイクを軽く走らせる傾向がある。このSL01についてもその血統が感じられる。
「しなやかさが心地よい」のがSL01の大きな特徴だ。
昨今のパリッとしたテイストの高剛性フレームに乗り慣れていると、剛性感は物足りなくも思える。ハンガー部というか、ダウンチューブのボトル台座付近にはしなりが感じられる。しかし、チェーンステーからリヤエンドにかけての部分が比較的しっかりしているため、しなりの抑えが効いており、加速の後半でスピードの伸びが感じられる。
これは初めてカーボンフレームを体験する初中級クラスのライダーにとって、デメリットではなく、むしろマッチする剛性感の追求といえる。加速のキレでライバルを振り落とすようなタイプではないが、ジワッとトルクをかけるような走りではしっかりと前に進んでくれるので、巡航走行は楽に走れる感覚がある。
上り返しや、コーナーなどちょっとばかりシャープな加速が必要な場合は、ペダリングで脚をしっかりと真っ直ぐ下ろして、少しばかりつま先で踏むような感覚で対応できる。
乗り心地はレーシングジオメトリのモデルとしては非常に優れている。大きな入力に対して不安定な挙動を示すことはないし、フレーム全体でしっかりと、そして、しっとりと振動を吸収してくれるので快適性は十分。バックがコンパクトに設計されているので、突き上げ感があるのを想像したが、嫌な感覚がないのは、やはりiCSの効果というものだろうか。
パーツアッセンブルに不足はなく、フィッティングポイントを自分の好みのものと最適なサイズに交換すればいいだけだ。ただし、シートポストはフレームの専用品となるので、カスタムの楽しみや、特に体型の小さいサイクリストの場合、セットバック量があまり大きくないのでポジションを出しにくいかもしれない。とはいえ、シートアングルは48サイズで73.5度の設計なので、概ね問題はないだろう。
その快適な乗り味からすると、エンデューロやロングライド、そしてロードレースならば緩急の少ないコースが向いている。アルミモデルからの乗り換えで、初めてカーボンフレームを体験するユーザーには、カーボンの軽さや乗り心地の良さを十分体験でき、過度な剛性もないので楽しみやすいモデルではないだろうか。
BMC ロードレーサーSL01
フレーム:iCSエアロカーボン
フォーク:BMC Straightedge 048 SL カーボン/テーパーステアチューブ
サイズ:48、51、54 、57
カラー:ネイキッドカーボン、グリーン(2カラー)
ヘッドセット:FSA No.44 E
コンポーネント:シマノ・アルテグラ
シートポスト:Streampost 73.5 カーボン/ロッククランプシステム
フレームセット重量:1910g(フレームセット:フレーム、フォーク、シートポスト、ヘッドセット)
価格:35万7000円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
吉本 司(バイクジャーナリスト)
71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
BMCはもともとMTBから出発したメーカーだが、現在の躍進の原因となったのはロードバイク。特にプロチームに供給してからの伸びはめざましい。直系のBMCレーシングチームはUCIプロツアーチームとしてメジャーレースで大活躍中だ。カデル・エヴァンスらトップ選手たちのフィードバックがダイレクトに製品造りに生かされるメリットはあまりにも大きい。
2011年モデルでは完全スイスメイドのimpecが新たに登場し、次世代への扉は開かれた。しかし、あまりにも手のかかるマン・ツー・マンのオーダーメイドのため、まだプロ選手にも完全に行き渡っていないという噂も聞かれ、われわれ一般サイクリストにとっては遠い存在であることも事実。
それよりもかつての最上級モデルである「SLC01」のテクノロジーをトップダウンし、手の届きやすい価格に仕上げられたこの「Roadracer SL01」の登場に、注目をしているサイクリストも多いのではないだろうか?
Roadracer SL01の2010年モデルは、前三角がアルミでシートステーをカーボンとした、いわゆるカーボンバックモデルだったが、今年のモデルチェンジでフルカーボンとなり、一気にグレードアップを果たした。
近年はトップチューブからリヤエンドまでを一本の弧を描かせる、アーチシェイプデザインがメーカーを問わず流行だが、このSL01は少々趣が異なる。主となるのはあくまで直線。曲線ではなく昔ながらの直線が「マシン」という言葉にふさわしい力強い印象を生み出している。
シート集合部はiSC(インテグレイテッド・スケルトン・コンセプト)デザインを踏襲。ここはBMCロードフレームの最大のアイコンと言って良いだろう。トップチューブとシートステーの交点をオフセットさせることで、走行時に快適性を生み出す。似たような形になってしまう昨今のカーボンフレームの中で、確固とした個性を放つデザインだ。
斜ウス式の固定機能を備えたシートポストは専用品。インテグラルシートポストから調整機能を求めてオリジナルシートポストの変更に踏み切るメーカーも多い昨今、一周して最先端になった感がある。
またハンドルとステムもオリジナルブランドの「SCORマークⅡ」で揃え、さらに、同国スイス製のDTホイールやドイツ・コンチネンタルのタイヤなど、評判の高い手堅いパーツをアッセンブル。完成車としてのバイク作りを強く意識していることが感じられる。
サイズも480㎜から570㎜まで揃えており、ほとんどの日本人の体型をカバーする。ただサイズごとに開きがあるので、初心者や自分のポジションが確立していない人には経験者のアドバイスに耳を傾ける必要があるかもしれない。
他社の2011年モデルを見渡せば、30万円を下回るフルカーボンフレーム×アルテグラを搭載したバイクも珍しくないが、遠目からもわかる個性的なRoadracer SL01のスタイリングに魅せられた人なら、財布の紐も緩もうというもの。同じフレームを使ったSL02と並んで、BMCの屋台骨を支えることになるはず。
日本上陸当初、BMCのカーボンフレームといえばほぼ40万円オーバーだったが、現在となっては完成車で40万円を下回る価格で手に入るようになった。円高は日本経済にとって厳しい側面も持ち合わせているが、サイクリストにとっては追い風といえるだろう。
完成車としての価格は少しアップしたものの、それ以上に車格は1段も2段も上がっている。魅力は格段に増したと言って良いだろう。
それでは気になるインプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「独特なしなやかさでロングライドに最適」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
今までBMCをちゃんと乗ったことがありませんでした。BB周りをはじめ、SL01のフレームは見た目のボリューム感がかなりあるので、第一印象は剛性が高そうに思えます。しかし、実際に乗ってみると、パリッと硬いというよりも、しっとりしている感じを受けました。
ペダルを踏み込んだ時のしなり方が自然な感覚で、どこかで引っかかって加速が鈍ることはありません。絶妙な柔らかさといった感じでしょうか。ただ気になったのは乗車時の重心が前に出ていってしまうことで、フォーク剛性がちょっと足りなく感じてしまうこと。これはおそらく自分にとって試乗車のサイズが小さいことが原因でしょう。
メーカーではフレームサイズに応じて剛性のレベルをコントロールしているでしょうから、それが合っていればまたフィーリングが違ったでしょう。また、フォーク自体の剛性もさることながら、サイズが小さい分キャスター角が少し寝ていることも剛性感に関係しているかもしれません。横剛性がちょっと弱くて、横に振れてしまう感じがありました。
その反面、フロントとリヤの突き上げを同じような感じでバランスよく振動吸収してくれました。細かい路面の振動もしっかり吸収してくれます。「硬いか、柔らかいか?」と聞かれたら、全般的に柔らかめのフレームだと思います。低~中速で走っている限りは脚にかかる感触はソフトなので、脚にはきづらいです。全体でウイップして、フレームそのものが柔らかいという感じです。
大きいギヤでトルクをかけて上っていく時は、上半身を必要以上に揺すらず、体幹をぶらすことなく走るスキルが必要となります。その時にバイク自身を横に振ってしまうと、力が逃げてしまい、柔らかさがデメリットになってしまうことがありました。ペダリングには少しコツが必要とされる部分もありますね。
逆に上半身を固めてペダルをしっかり縦に踏むことができれば、高剛性フレームのキンキンとしたフィーリングではありませんが、脚力をちゃんと加速に繋げて行けます。コーナーリングについては切れこんでいくアグレッシブさは少なく、どちらかといえばアンダーステア傾向があります。
SL01のしなやかなライディングフィールを活かすには、緩急をつける走りよりも、ロングライドなど一定の速度で巡航するような走り方が、ライダーの力を温存できて効果的だと思います。重量もそんなに感じませんし。残念だったのはサイズが小さかったので、走行性能にその影響が大きかったこと。自分のサイズで乗ったらすごく合うと思います。
全体的に見て35万円ほどの完成車価格としては、いいパーツアッセンブルですね。ホイールもDTが装備されていて、手抜きがない。これくらいのグレードのホイールが付いていると、フレーム性能の足を引っ張ることもないでしょう。
好みが分かれるかもしれませんが、イタ車とはまた違ったテイストで特徴がありますね。そういった意味では所有欲も刺激しながら、ある程度のコンフォート感もあります。各部分を細かく作り込んであって、サイクリストが惹かれるマニアックさも持っています。レースを目指さないロングライド派なら選択肢に入れてほしい1台です。
「優れた快適性はロングライドで体力の消耗を軽減してくれる、初めてのカーボンフレームに最適な剛性感」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
BMCは自分の好きなブランドの1つ。同社の出世作である「SLT-01」で登場したT字断面のトップチューブや、アルミCNCで作られた「クロスロックスケルトン・ラグ」など、とにかくひと目でBMCと分かるオリジナリティが見事だ。
この「Roadracer SL01」も、独創性においては上位機種に負けず劣らず。そのフォルムを見るだけで、どんな性能を発揮してくれるのだろう? と想像をかき立てられる。
またそのグラフィックも好印象だ。イタリア車に見られるレーシーな雰囲気を好むユーザーには少しばかり物足りなさや、バタ臭さも感じるだろうが、その控えめなデザインは逆にスマートさを感じる。この試乗車のライムグリーンにライトブルーを組み合わせた爽やかなカラーリングは、中性的な雰囲気でロードバイクの汗臭さを感じさせず、アッセンブルによっては都会的な雰囲気でかなりオシャレに乗れるはずだ。
少々前置きが長くなってしまったが、走りの方に触れてみよう。とはいえ、この試乗車のサイズは480㎜であり、身長187㎝の私にはかなり小さい。したがって、乗り味のニュアンスについては戸津井さんのコメントの方が読者の方々にとってリアリティが近いだろう。そのあたりを考慮して読んでいただきたい。
BMCといえば、ツールで活躍した名作「SLC-01」でもそうだったが、高剛性を追求するというよりも、どちらかといえばフレームのしなりを上手に使ってバイクを軽く走らせる傾向がある。このSL01についてもその血統が感じられる。
「しなやかさが心地よい」のがSL01の大きな特徴だ。
昨今のパリッとしたテイストの高剛性フレームに乗り慣れていると、剛性感は物足りなくも思える。ハンガー部というか、ダウンチューブのボトル台座付近にはしなりが感じられる。しかし、チェーンステーからリヤエンドにかけての部分が比較的しっかりしているため、しなりの抑えが効いており、加速の後半でスピードの伸びが感じられる。
これは初めてカーボンフレームを体験する初中級クラスのライダーにとって、デメリットではなく、むしろマッチする剛性感の追求といえる。加速のキレでライバルを振り落とすようなタイプではないが、ジワッとトルクをかけるような走りではしっかりと前に進んでくれるので、巡航走行は楽に走れる感覚がある。
上り返しや、コーナーなどちょっとばかりシャープな加速が必要な場合は、ペダリングで脚をしっかりと真っ直ぐ下ろして、少しばかりつま先で踏むような感覚で対応できる。
乗り心地はレーシングジオメトリのモデルとしては非常に優れている。大きな入力に対して不安定な挙動を示すことはないし、フレーム全体でしっかりと、そして、しっとりと振動を吸収してくれるので快適性は十分。バックがコンパクトに設計されているので、突き上げ感があるのを想像したが、嫌な感覚がないのは、やはりiCSの効果というものだろうか。
パーツアッセンブルに不足はなく、フィッティングポイントを自分の好みのものと最適なサイズに交換すればいいだけだ。ただし、シートポストはフレームの専用品となるので、カスタムの楽しみや、特に体型の小さいサイクリストの場合、セットバック量があまり大きくないのでポジションを出しにくいかもしれない。とはいえ、シートアングルは48サイズで73.5度の設計なので、概ね問題はないだろう。
その快適な乗り味からすると、エンデューロやロングライド、そしてロードレースならば緩急の少ないコースが向いている。アルミモデルからの乗り換えで、初めてカーボンフレームを体験するユーザーには、カーボンの軽さや乗り心地の良さを十分体験でき、過度な剛性もないので楽しみやすいモデルではないだろうか。
BMC ロードレーサーSL01
フレーム:iCSエアロカーボン
フォーク:BMC Straightedge 048 SL カーボン/テーパーステアチューブ
サイズ:48、51、54 、57
カラー:ネイキッドカーボン、グリーン(2カラー)
ヘッドセット:FSA No.44 E
コンポーネント:シマノ・アルテグラ
シートポスト:Streampost 73.5 カーボン/ロッククランプシステム
フレームセット重量:1910g(フレームセット:フレーム、フォーク、シートポスト、ヘッドセット)
価格:35万7000円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
吉本 司(バイクジャーナリスト)
71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
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