2011/01/17(月) - 18:45
地中海の島マヨルカで新年のスタートを切ったレオパード・トレックのトレーニングキャンプに帯同取材した2日間の様子をレポートする。シュレク兄弟やカンチェラーラが新しいチームと体制、ウェア、バイクで走りだした。
プロサイクリング界の今年一番のニュースが新チーム レオパード・トレックの誕生だろう。ツール・ド・フランス総合2位のアンディとフランクのシュレク兄弟とTT王者カンチェラーラが移籍して誕生したビッグチーム。
ゼネラルマネジャーのブライアン・ニガード氏とキム・アンデルセン監督はふたりともビャルネ・リース(サクソバンク監督)の元で働いた人物。つまり選手と首脳陣ともに、サクソバンクから主要体制がごっそり抜けるかたちで誕生したのだ。年明け一番のレオパード・トレックのトレーニングキャンプに同行するチャンスに恵まれた。
1月6日、ルクセンブルグでのチームプレゼンテーションにおいてベールを脱いだレオパード・トレック。選手やスタッフはプレゼンテーションの後すぐに、スペイン沖のマヨルカ島に飛んだ。
マヨルカ島(Mallorca)は西地中海に浮かぶ、スペインのバレアレス諸島自治州の中心となる島で、欧州のプロサイクリングチームにとって冬期のトレーニング合宿において非常にポピュラーな場所だ。
1月でも気温は摂氏15度程度。降り注ぐ太陽と温暖な気候、雨が少なく、晴天率の高いことで、サイクリング界に限らずプロ選手やスポーツ愛好家の冬のオフトレーニングの好適地となっているのだ。
カンチェラーラやシュレク兄弟にとっても、移籍前のサクソバンク、遡ってチームCSC時代から新年のスタートを切る場所としてお馴染みの場所だ。
チームはここで数週間を過ごす。移籍後、新しく合わせる顔。初めて交わす言葉。ここで走りながら、しゃべる言語の異なる選手やスタッフがコミュニケーションを徐々に深めていくのだ。
カンチェラーラは言う「人によっては2週間から4週間、自転車をガレージに仕舞ってオフを過ごした。それから走り始めている。新しいチームと仲間、新しいウェア、バイクにもなじんでいくんだ」。
アンディ・シュレクは言う「トレーニングもまだ強度を上げることをせず、ゆっくり走ることを好むんだ。今は短い時間。そしてだんだん長く。昨日と一昨日は4時間程度。明日は5、6時間。身体が慣れたらインターバルを入れて強度を上げていく」。
新しいバイク機材にも、時間をかけてポジションを合わせていく。シュレク兄弟やカンチェラーラらにとっては、スペシャライズドからトレックへのバイク交替が伴う。
「バイクが変わるとポジションも変わる。スモールでなくビッグチェンジだ。ジオメトリー(フレームの設計)は全く違うから、ポジションはセンチ単位で変わった」とアンディ。
昨年までに乗ったバイクのポジションをまずは再現するが、実際に乗りながら細かく煮詰めていくというわけだ。
エキップメントについてはフレームだけではない。コンポにはシマノのDi2が採用され、選手たちは基本的にワイヤー式でなく電動シフターを常用することになる。また、シューズスポンサーにノースウェーブ、ペダルスポンサーにスピードプレイがついたため、選手たちは好むと好まざるとにかかわらず、それに身体を合わせる必要もある。新しいクラフト製のチームウェア、そしてボントレガーのヘルメット。サングラススポンサーにはオークリーがつく。これらのエキップメントの契約は個人単位ではなく、チーム全体のものだ。
マヨルカは冬季キャンプのパラダイス
チーム同行のために訪問したのはマヨルカの島の首都パルマのホテル。海岸沿いに建つリゾートホテルで、一般観光客も多く泊まるが、ホテル側もサイクリングチームの受け入れには慣れたもので、地下の広い作業スペースを提供しているほか、自転車置き場には30台を越える数のバイク専用の壁掛けのラックが据え付けられていた。
訊けば、欧州では旅行代理店に行けばマヨルカのホテルに宿泊してトレーニングする格安合宿ツアーをたくさんみつけることができるため、冬の行き先としてマヨルカは馴染みの土地なのだそうだ。スペインの食べ物の美味しさと、物価の安さも好評を手伝っていることは想像に難くない。
走りだした選手を追いかけるように、チームの装備も準備が進む。チームカーのメルセデス・ベンツには、無線機やキャリアの取付、そしてロゴのマーキングが行われていた。
チームトラックもメルセデス製が用意され、こちらは後部ガラス戸つきの、拡幅機構付きの新車が用意されていた。これは高価そうだ。
ブライアン・ニガード監督は言う「チーム立ち上げの話があってから半年でよくここまで辿りつけたと思う。とくにここ数カ月の準備は目も回るような忙しさだった」。
ジャーナリストたちがチームに同行して走る
今回、世界中の主要なメディアがキャンプに招待され、トレックが自転車を用意して選手と一緒に走れるという機会が設けられた。選手はまだ乗り始めたばかり。LSDなら一緒について行けるだろうとのことで、なんと用意されたのはチームモデルと全く同じスペックのトレック・マドンSSLだった。
この最高クラスのカーボンバイクはトレックといえども調達に時間を要するため、選手によってはまだワングレード下のモデルにポジション合わせを兼ねて乗っている状態。メカニックに完全に調律されたシマノDi2などを装備したモデルで、我々は選手たちとライドに出かけた。
6日にプレゼンを終え、早い選手は7日から走りだしている。アンディに訊けば、ここ2日は4時間程度の強度の低めのイージーライド。そして明日からは5,6時間と、少しのアップダウンを入れていくという。さすがについていけるかが心配だ。
アンデルセン監督がハンドルを握ったメルセデスのチームカーが先導し、コースを案内する。無線機は英語を母国語とした3人ほどの選手が携帯し、連絡を取り合いながら付いていく。
この日のマヨルカの気候は、眩いばかりの太陽が降り注ぐ晴天。風は少し肌寒いものの、走っても汗をほとんどかかず、距離を伸ばすには絶好だ。
「ヨーロッパは数十センチの雪が積もっていてトレーニングどころじゃないよ。2月の最初のレースまでマヨルカにいるんだ」とアンディ。
選手たちは陽気におしゃべりしながら走る。アンディとフランクのシュレク兄弟は、終始肩を並べて楽しそうに走る。カンチェラーラもフランクと一緒に走りながらiphoneをかざしてセルフ写真を撮って、twitterに投稿して大笑い。本当に仲がいい。「だから多額の違約金を払ってまで移籍したんだな」と納得する。
「お金のために移籍したんだろうって言う人がいるけど、お金だけじゃモチベーションは上がらないんだ」そう言うカンチェラーラの言葉に納得。やはり、気の合うチームの仲間あってこその自転車レースだ。
アンディもカンチェも、ジャーナリストである我々と積極的にコミュニケーションをとってくれる。「コンニチワ!ツールではいつも会うよね」「よく道路に寝っ転がってローアングルから撮っているのを覚えているよ」などなど、楽しく会話が弾む。
シマノはどう思う?の問いには「僕にとってはフィッシングタックルが魅力的だよね!海釣りも川釣りもなんでもやるんだ。釣竿とかリールとか、なんとかならない?」(アンディ)との答え。もちろんそれはジョーク!
英語がメイン言語のチーム。言語に苦労しそうなのはイタリア人選手のダニエーレ・ベンナーティら。「今一生懸命英語を学んでいるところ。コミュニケーションはもっとも大事だからね」とベンナ。
島特有のなだらかなアップダウンをこなしつつ走る選手たち。選手にとってはLSDでも、我々にとってはかなり厳しいペース。競争好きのイキのいいジャーナリスト同士のレースも始まり、なんとかちぎれないように頑張り通したが、2日間を終えたら全身が筋肉痛に襲われてしまった。
(つづく)
photo&text:Makoto.AYANO
プロサイクリング界の今年一番のニュースが新チーム レオパード・トレックの誕生だろう。ツール・ド・フランス総合2位のアンディとフランクのシュレク兄弟とTT王者カンチェラーラが移籍して誕生したビッグチーム。
ゼネラルマネジャーのブライアン・ニガード氏とキム・アンデルセン監督はふたりともビャルネ・リース(サクソバンク監督)の元で働いた人物。つまり選手と首脳陣ともに、サクソバンクから主要体制がごっそり抜けるかたちで誕生したのだ。年明け一番のレオパード・トレックのトレーニングキャンプに同行するチャンスに恵まれた。
1月6日、ルクセンブルグでのチームプレゼンテーションにおいてベールを脱いだレオパード・トレック。選手やスタッフはプレゼンテーションの後すぐに、スペイン沖のマヨルカ島に飛んだ。
マヨルカ島(Mallorca)は西地中海に浮かぶ、スペインのバレアレス諸島自治州の中心となる島で、欧州のプロサイクリングチームにとって冬期のトレーニング合宿において非常にポピュラーな場所だ。
1月でも気温は摂氏15度程度。降り注ぐ太陽と温暖な気候、雨が少なく、晴天率の高いことで、サイクリング界に限らずプロ選手やスポーツ愛好家の冬のオフトレーニングの好適地となっているのだ。
カンチェラーラやシュレク兄弟にとっても、移籍前のサクソバンク、遡ってチームCSC時代から新年のスタートを切る場所としてお馴染みの場所だ。
チームはここで数週間を過ごす。移籍後、新しく合わせる顔。初めて交わす言葉。ここで走りながら、しゃべる言語の異なる選手やスタッフがコミュニケーションを徐々に深めていくのだ。
カンチェラーラは言う「人によっては2週間から4週間、自転車をガレージに仕舞ってオフを過ごした。それから走り始めている。新しいチームと仲間、新しいウェア、バイクにもなじんでいくんだ」。
アンディ・シュレクは言う「トレーニングもまだ強度を上げることをせず、ゆっくり走ることを好むんだ。今は短い時間。そしてだんだん長く。昨日と一昨日は4時間程度。明日は5、6時間。身体が慣れたらインターバルを入れて強度を上げていく」。
新しいバイク機材にも、時間をかけてポジションを合わせていく。シュレク兄弟やカンチェラーラらにとっては、スペシャライズドからトレックへのバイク交替が伴う。
「バイクが変わるとポジションも変わる。スモールでなくビッグチェンジだ。ジオメトリー(フレームの設計)は全く違うから、ポジションはセンチ単位で変わった」とアンディ。
昨年までに乗ったバイクのポジションをまずは再現するが、実際に乗りながら細かく煮詰めていくというわけだ。
エキップメントについてはフレームだけではない。コンポにはシマノのDi2が採用され、選手たちは基本的にワイヤー式でなく電動シフターを常用することになる。また、シューズスポンサーにノースウェーブ、ペダルスポンサーにスピードプレイがついたため、選手たちは好むと好まざるとにかかわらず、それに身体を合わせる必要もある。新しいクラフト製のチームウェア、そしてボントレガーのヘルメット。サングラススポンサーにはオークリーがつく。これらのエキップメントの契約は個人単位ではなく、チーム全体のものだ。
マヨルカは冬季キャンプのパラダイス
チーム同行のために訪問したのはマヨルカの島の首都パルマのホテル。海岸沿いに建つリゾートホテルで、一般観光客も多く泊まるが、ホテル側もサイクリングチームの受け入れには慣れたもので、地下の広い作業スペースを提供しているほか、自転車置き場には30台を越える数のバイク専用の壁掛けのラックが据え付けられていた。
訊けば、欧州では旅行代理店に行けばマヨルカのホテルに宿泊してトレーニングする格安合宿ツアーをたくさんみつけることができるため、冬の行き先としてマヨルカは馴染みの土地なのだそうだ。スペインの食べ物の美味しさと、物価の安さも好評を手伝っていることは想像に難くない。
走りだした選手を追いかけるように、チームの装備も準備が進む。チームカーのメルセデス・ベンツには、無線機やキャリアの取付、そしてロゴのマーキングが行われていた。
チームトラックもメルセデス製が用意され、こちらは後部ガラス戸つきの、拡幅機構付きの新車が用意されていた。これは高価そうだ。
ブライアン・ニガード監督は言う「チーム立ち上げの話があってから半年でよくここまで辿りつけたと思う。とくにここ数カ月の準備は目も回るような忙しさだった」。
ジャーナリストたちがチームに同行して走る
今回、世界中の主要なメディアがキャンプに招待され、トレックが自転車を用意して選手と一緒に走れるという機会が設けられた。選手はまだ乗り始めたばかり。LSDなら一緒について行けるだろうとのことで、なんと用意されたのはチームモデルと全く同じスペックのトレック・マドンSSLだった。
この最高クラスのカーボンバイクはトレックといえども調達に時間を要するため、選手によってはまだワングレード下のモデルにポジション合わせを兼ねて乗っている状態。メカニックに完全に調律されたシマノDi2などを装備したモデルで、我々は選手たちとライドに出かけた。
6日にプレゼンを終え、早い選手は7日から走りだしている。アンディに訊けば、ここ2日は4時間程度の強度の低めのイージーライド。そして明日からは5,6時間と、少しのアップダウンを入れていくという。さすがについていけるかが心配だ。
アンデルセン監督がハンドルを握ったメルセデスのチームカーが先導し、コースを案内する。無線機は英語を母国語とした3人ほどの選手が携帯し、連絡を取り合いながら付いていく。
この日のマヨルカの気候は、眩いばかりの太陽が降り注ぐ晴天。風は少し肌寒いものの、走っても汗をほとんどかかず、距離を伸ばすには絶好だ。
「ヨーロッパは数十センチの雪が積もっていてトレーニングどころじゃないよ。2月の最初のレースまでマヨルカにいるんだ」とアンディ。
選手たちは陽気におしゃべりしながら走る。アンディとフランクのシュレク兄弟は、終始肩を並べて楽しそうに走る。カンチェラーラもフランクと一緒に走りながらiphoneをかざしてセルフ写真を撮って、twitterに投稿して大笑い。本当に仲がいい。「だから多額の違約金を払ってまで移籍したんだな」と納得する。
「お金のために移籍したんだろうって言う人がいるけど、お金だけじゃモチベーションは上がらないんだ」そう言うカンチェラーラの言葉に納得。やはり、気の合うチームの仲間あってこその自転車レースだ。
アンディもカンチェも、ジャーナリストである我々と積極的にコミュニケーションをとってくれる。「コンニチワ!ツールではいつも会うよね」「よく道路に寝っ転がってローアングルから撮っているのを覚えているよ」などなど、楽しく会話が弾む。
シマノはどう思う?の問いには「僕にとってはフィッシングタックルが魅力的だよね!海釣りも川釣りもなんでもやるんだ。釣竿とかリールとか、なんとかならない?」(アンディ)との答え。もちろんそれはジョーク!
英語がメイン言語のチーム。言語に苦労しそうなのはイタリア人選手のダニエーレ・ベンナーティら。「今一生懸命英語を学んでいるところ。コミュニケーションはもっとも大事だからね」とベンナ。
島特有のなだらかなアップダウンをこなしつつ走る選手たち。選手にとってはLSDでも、我々にとってはかなり厳しいペース。競争好きのイキのいいジャーナリスト同士のレースも始まり、なんとかちぎれないように頑張り通したが、2日間を終えたら全身が筋肉痛に襲われてしまった。
(つづく)
photo&text:Makoto.AYANO
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