2011/01/09(日) - 09:37
オランダのハンドメイド・チタンフレーム工房、ヴァンニコラスがリリースするハイエンドモデル"ASTRAEUS"。3AL/2.5Vチタンのハイドロフォーミング・ダブルバテッドパイプを素材とした、同工房のフラッグシップモデルだ。
チタンの特性は硬さと柔軟性、そして軽さを併せ持つ金属であるということ。自転車に使われる主要な素材と比較すると、その特徴的な側面はより鮮明になる。アルミを凌ぐ強度に加え、アルミにはない“しなやかさ”、クロモリなどのスチールではどうしても見劣りしてしまう重量面での“軽さ”が期待できる。
そしてカーボン繊維では難しい、衝撃に対する“堅牢さ”を保持する。さらにほかの金属と比較して、錆びや腐食、金属疲労に強いというアドバンテージも持っているのがチタンという素材だ。
そんなチタンでできたヴァンニコラスのロードバイクバイク「ASTRAEUS」が今回の試乗車だ。ヴァンニコラスは2006年にオランダ人のヤン=ウィレム・シントニコラス氏によって立ち上げられた、チタンバイクを専門とする新興ブランドだ。
2006年といえば飛躍的に品質を高めたフルカーボンバイクが低価格帯へも本格的に投入されようとしていた時期。そんなロードバイク市場においてエポックを画する時期に『ヴァン・ニコラス』は登場すると、その稀な技術と戦略でたちまち話題をさらっていった。
それは独特な物造りのスタイル、そしてスタンスだ。ハンドメイドで一貫製作される堅実な作業工程に向けたもの。生涯保証や、生産するすべてのバイクにおいて欧州統一規格を通過させること、そしてハード・ソフト両面で充実したそのブランド体制そのものに向けたもの、と、その特徴は多岐に渡る。
今回のテストバイクであるASTRAEUSは、そんなヴァンニコラスのフラグシップロードバイクだ。そのフレームは航空宇宙産業でも使われるハイクオリティーなオリジナルの冷間引き抜き加工を施した、継ぎ目のない3AL/2.5Vチタンパイプを使用。その上で三次元削りだし加工で作られたエンド部などを用い、手間を惜しみなくつぎ込んだバイクになっている。
また日本での販売においても、正規代理店のサイクルラインズが欧州市場同様にファーストオーナーに限り製造上の欠陥並びに素材から生じた故障トラブルについての生涯保証を設けている。生涯に渡り乗れるチタニウムバイクにふさわしい保証体制だ。
チタンバイクとして申し分ないスペックの『ASTRAEUS』。さて今回のインプレライダーたちはいったいど
んな評価をするのか。さっそくインプレッションに入ろう。
―インプレッション
「チタンらしくない高反応チタンバンク」
流郷克也(ユーキャン)
まずチタンということで「チタンらしいしなやかな乗り味」を想像してしまった分、その剛性の高さに驚かされた。少なくとも市場においてはチタンバイクといえば、しなやかな振動吸収性に富んだ、伸びのある乗り味をウリとするバイクが多い。
しかしこの『ASTRAEUS』はチタンで剛性を高めるという方針をとったように感じる。
硬すぎるとか、良い、悪い、ということではなく、いわゆるチタンという素材の特性である「粘り強さ」よりも、「強度」を前面に押しだしたフレームといった印象だ。
フレームの部分部分でもそれを感じる。たとえばヘッド部分。オーソドックスなヘッド形状なのに、最近流行しているインテグラルヘッドのカーボンバイクやアルミのバイクに引けを取らないフロント周りの剛性を持っている。
チタン素材の特性を考えると、非常に高い技術を持っていないとこの高い剛性を生み出せないことは容易に想像できる。ヴァンニコラスはチタン専門のブランドということもあり、持ちうるすべてのそのスキルでチタンでの新味をだそうと果敢に挑戦したのではないだろうか。
全体としては軽めのギアで回転を意識したペダリングで、ポタリングやロングライドなどを楽しむのに向いたバイクだろう。剛性が高いといってもチタンのウィップはあるので、荒れた路面などの衝撃も吸収してくれる。下りでもクセはなく、ハンドリングも申し分ない。
レース向きというよりは、長い距離をゆっくり楽しみたくなるバイクだ。このバイクの乗り味を好む層は確実にいるだろう。試乗してみて気に入ったら、手に入れて損はしない1台だろう。それにチタンは金属疲労が少ないので、同じ乗り味を永く楽しめる。この高品質ならば、1台の自転車とゆっくり付き合いたいユーザーには良いチョイスになるのではないだろうか。
またその造形を楽しむのもこのバイクの楽しみ方のひとつだろう。そう言えるほど、接合部やヘッドの細工をはじめ、バイク各部、そして全体のシルエットは綺麗な仕上がりだ。金属でできたバイクならではの造形美を持っている。以上を考えると『ASTRAEUS』は、乗って・眺めて・永く楽しめるロードバイクではないだろうか。
「生涯にわたって長くつきあえるバイク」
若生正剛(なるしまフレンド)
乗ってみる前、触った際にはフレームに使われているチューブの肉厚が薄くて、ダイレクト感のある乗り味かとも思ったが、乗ってみると粘る感じやそれに伴うしなやかさが強くでてくるので、やはりチタン素材であることを意識させられる。個人的に好きな乗り味のひとつだ。
カーボンバイクのなかでしなやかさが特徴のものや独特のしなりがあるスチールバイクと比べても、これはこれでまた別のしなやかさを感じる。平地や荒れた路面では、そのしなやかさを活かしてしっかり振動吸収してくれる。
また上りは軽いギアで刻むよりも、通常よりひとつ重いギアでペダリングすると気持ちよく進んでくれる。そしてダウンヒルはフロント周りがしっかりしているので、何も心配することなく下ることができた。このように、平坦、上り、下りと不得意なシーンや変なクセは見あたらない。急コーナーのコーナリングも問題なし。一般的なアルミバイクのような微振動は感じない上に、クセもないので、場所を選ばず楽しめるだろう。
フレームでの販売を考えても、今回インストールされていたホイールやフォークはクセの強いものではないので、フレームもまた然りだろう。逆に好みのフォークやホイール、シートポストなど、パーツを選択することでこのバイクの特性を活かしながら性格を変えていき、より自分好みの乗り味にして欲しい。
そのうえ、チタン特有の金属色や手の込んだ加工が細部に施されているため、フレームそのものの見た目の綺麗さも持ち合わせているので、ルックスを楽しむのも一興ではないだろうか。チタンバイクの寿命はほかの素材のバイクより長いことが多いので、手にしたときの感動を永く・ゆっくり楽しめる。それもまたこのバイクのアピールポイントだろう。
ただ、ダイレクト感を重視するよりは、足の負荷を気にする人に向いたバイクになっているため、レースよりはロングライドなど、長距離を気持ちよく駆け抜けることに向いたバイクだと感じる。その点を考慮して、金属のバイクで長くゆっくり楽しめるものを探しているなら、ぜひ候補に挙げて欲しい1台だ。
ヴァンニコラス ASTRAEUS
フレーム:オリジナル3AL/2.5V冷間引き抜き加工
シームレス・ダブルバテッド・ハイドロフォーミングチタンチューブ
カラー:ポリッシュ
サイズ:500,520,540,560,580,600
希望小売価格(税込み):405,000円(フレーム)
インプレライダーのプロフィール
流郷克哉(ユーキャン)
東京、神奈川、静岡、山梨で展開するサイクルショップ「YOU CAN(ユーキャン)」の多摩境店店長。選手時代は脱サラ後、複数チームを経て30歳で日本鋪道と契約。生涯成績は国内でジャパンカップアマチュア部門優勝、ツールド東北ステージ優勝など。フランスに単身渡仏後、1シーズンで60弱のロードレースに参戦。エリート4勝、ほか1勝を挙げるほか、10位以内フィニッシュが20レースを越えた。2004年に引退し、現在ユーキャン多摩境店にて店長をしながら高校生ら若手育成に努めている。
YOU CAN
若生正剛(なるしまフレンド)
自転車店「なるしまフレンド」店員。昭和第一学園在籍時に競技を始める。トラック競技で2年生時に初めてインターハイ出場を果たした。同じく3年生時は選抜、インターハイと大きな大会を連続出場。卒業後、自転車の楽しさを伝えたいと思い立ち、なるしまフレンドに入社。現在3年目を迎える。プロ選手としての経験が無いものの、ショップ店員としてはそれを逆手に一般自転車乗りの感覚を共有できることを強みにして接客している。
なるしまフレンド
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.Ayano
text:Kiichi.Gotoda
チタンの特性は硬さと柔軟性、そして軽さを併せ持つ金属であるということ。自転車に使われる主要な素材と比較すると、その特徴的な側面はより鮮明になる。アルミを凌ぐ強度に加え、アルミにはない“しなやかさ”、クロモリなどのスチールではどうしても見劣りしてしまう重量面での“軽さ”が期待できる。
そしてカーボン繊維では難しい、衝撃に対する“堅牢さ”を保持する。さらにほかの金属と比較して、錆びや腐食、金属疲労に強いというアドバンテージも持っているのがチタンという素材だ。
そんなチタンでできたヴァンニコラスのロードバイクバイク「ASTRAEUS」が今回の試乗車だ。ヴァンニコラスは2006年にオランダ人のヤン=ウィレム・シントニコラス氏によって立ち上げられた、チタンバイクを専門とする新興ブランドだ。
2006年といえば飛躍的に品質を高めたフルカーボンバイクが低価格帯へも本格的に投入されようとしていた時期。そんなロードバイク市場においてエポックを画する時期に『ヴァン・ニコラス』は登場すると、その稀な技術と戦略でたちまち話題をさらっていった。
それは独特な物造りのスタイル、そしてスタンスだ。ハンドメイドで一貫製作される堅実な作業工程に向けたもの。生涯保証や、生産するすべてのバイクにおいて欧州統一規格を通過させること、そしてハード・ソフト両面で充実したそのブランド体制そのものに向けたもの、と、その特徴は多岐に渡る。
今回のテストバイクであるASTRAEUSは、そんなヴァンニコラスのフラグシップロードバイクだ。そのフレームは航空宇宙産業でも使われるハイクオリティーなオリジナルの冷間引き抜き加工を施した、継ぎ目のない3AL/2.5Vチタンパイプを使用。その上で三次元削りだし加工で作られたエンド部などを用い、手間を惜しみなくつぎ込んだバイクになっている。
また日本での販売においても、正規代理店のサイクルラインズが欧州市場同様にファーストオーナーに限り製造上の欠陥並びに素材から生じた故障トラブルについての生涯保証を設けている。生涯に渡り乗れるチタニウムバイクにふさわしい保証体制だ。
チタンバイクとして申し分ないスペックの『ASTRAEUS』。さて今回のインプレライダーたちはいったいど
んな評価をするのか。さっそくインプレッションに入ろう。
―インプレッション
「チタンらしくない高反応チタンバンク」
流郷克也(ユーキャン)
まずチタンということで「チタンらしいしなやかな乗り味」を想像してしまった分、その剛性の高さに驚かされた。少なくとも市場においてはチタンバイクといえば、しなやかな振動吸収性に富んだ、伸びのある乗り味をウリとするバイクが多い。
しかしこの『ASTRAEUS』はチタンで剛性を高めるという方針をとったように感じる。
硬すぎるとか、良い、悪い、ということではなく、いわゆるチタンという素材の特性である「粘り強さ」よりも、「強度」を前面に押しだしたフレームといった印象だ。
フレームの部分部分でもそれを感じる。たとえばヘッド部分。オーソドックスなヘッド形状なのに、最近流行しているインテグラルヘッドのカーボンバイクやアルミのバイクに引けを取らないフロント周りの剛性を持っている。
チタン素材の特性を考えると、非常に高い技術を持っていないとこの高い剛性を生み出せないことは容易に想像できる。ヴァンニコラスはチタン専門のブランドということもあり、持ちうるすべてのそのスキルでチタンでの新味をだそうと果敢に挑戦したのではないだろうか。
全体としては軽めのギアで回転を意識したペダリングで、ポタリングやロングライドなどを楽しむのに向いたバイクだろう。剛性が高いといってもチタンのウィップはあるので、荒れた路面などの衝撃も吸収してくれる。下りでもクセはなく、ハンドリングも申し分ない。
レース向きというよりは、長い距離をゆっくり楽しみたくなるバイクだ。このバイクの乗り味を好む層は確実にいるだろう。試乗してみて気に入ったら、手に入れて損はしない1台だろう。それにチタンは金属疲労が少ないので、同じ乗り味を永く楽しめる。この高品質ならば、1台の自転車とゆっくり付き合いたいユーザーには良いチョイスになるのではないだろうか。
またその造形を楽しむのもこのバイクの楽しみ方のひとつだろう。そう言えるほど、接合部やヘッドの細工をはじめ、バイク各部、そして全体のシルエットは綺麗な仕上がりだ。金属でできたバイクならではの造形美を持っている。以上を考えると『ASTRAEUS』は、乗って・眺めて・永く楽しめるロードバイクではないだろうか。
「生涯にわたって長くつきあえるバイク」
若生正剛(なるしまフレンド)
乗ってみる前、触った際にはフレームに使われているチューブの肉厚が薄くて、ダイレクト感のある乗り味かとも思ったが、乗ってみると粘る感じやそれに伴うしなやかさが強くでてくるので、やはりチタン素材であることを意識させられる。個人的に好きな乗り味のひとつだ。
カーボンバイクのなかでしなやかさが特徴のものや独特のしなりがあるスチールバイクと比べても、これはこれでまた別のしなやかさを感じる。平地や荒れた路面では、そのしなやかさを活かしてしっかり振動吸収してくれる。
また上りは軽いギアで刻むよりも、通常よりひとつ重いギアでペダリングすると気持ちよく進んでくれる。そしてダウンヒルはフロント周りがしっかりしているので、何も心配することなく下ることができた。このように、平坦、上り、下りと不得意なシーンや変なクセは見あたらない。急コーナーのコーナリングも問題なし。一般的なアルミバイクのような微振動は感じない上に、クセもないので、場所を選ばず楽しめるだろう。
フレームでの販売を考えても、今回インストールされていたホイールやフォークはクセの強いものではないので、フレームもまた然りだろう。逆に好みのフォークやホイール、シートポストなど、パーツを選択することでこのバイクの特性を活かしながら性格を変えていき、より自分好みの乗り味にして欲しい。
そのうえ、チタン特有の金属色や手の込んだ加工が細部に施されているため、フレームそのものの見た目の綺麗さも持ち合わせているので、ルックスを楽しむのも一興ではないだろうか。チタンバイクの寿命はほかの素材のバイクより長いことが多いので、手にしたときの感動を永く・ゆっくり楽しめる。それもまたこのバイクのアピールポイントだろう。
ただ、ダイレクト感を重視するよりは、足の負荷を気にする人に向いたバイクになっているため、レースよりはロングライドなど、長距離を気持ちよく駆け抜けることに向いたバイクだと感じる。その点を考慮して、金属のバイクで長くゆっくり楽しめるものを探しているなら、ぜひ候補に挙げて欲しい1台だ。
ヴァンニコラス ASTRAEUS
フレーム:オリジナル3AL/2.5V冷間引き抜き加工
シームレス・ダブルバテッド・ハイドロフォーミングチタンチューブ
カラー:ポリッシュ
サイズ:500,520,540,560,580,600
希望小売価格(税込み):405,000円(フレーム)
インプレライダーのプロフィール
流郷克哉(ユーキャン)
東京、神奈川、静岡、山梨で展開するサイクルショップ「YOU CAN(ユーキャン)」の多摩境店店長。選手時代は脱サラ後、複数チームを経て30歳で日本鋪道と契約。生涯成績は国内でジャパンカップアマチュア部門優勝、ツールド東北ステージ優勝など。フランスに単身渡仏後、1シーズンで60弱のロードレースに参戦。エリート4勝、ほか1勝を挙げるほか、10位以内フィニッシュが20レースを越えた。2004年に引退し、現在ユーキャン多摩境店にて店長をしながら高校生ら若手育成に努めている。
YOU CAN
若生正剛(なるしまフレンド)
自転車店「なるしまフレンド」店員。昭和第一学園在籍時に競技を始める。トラック競技で2年生時に初めてインターハイ出場を果たした。同じく3年生時は選抜、インターハイと大きな大会を連続出場。卒業後、自転車の楽しさを伝えたいと思い立ち、なるしまフレンドに入社。現在3年目を迎える。プロ選手としての経験が無いものの、ショップ店員としてはそれを逆手に一般自転車乗りの感覚を共有できることを強みにして接客している。
なるしまフレンド
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.Ayano
text:Kiichi.Gotoda
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