国頭村道の駅スタートで普久川ダム上りを2回こなす厳しいコースは、210kmから本部半島と一部平坦を除いたもので、ハードさは210kmに劣らない。羽地ダムで5人に絞られた集団でのスプリント勝負になり、山岸選手がこれを制した。以下、山岸選手によるインサイドレポートだ。

時間をやりくりした、おきなわまでの道のり

まず、自分をツールドおきなわの舞台にたたせてくれた妻、そして息子にありがとう。家族の協力がなければこの結果が得られなかったと思う。

今年は夏まで調子がいまひとつ上がらず、もともと暑さに弱い自分はあの酷暑にやられてしまい、思ったようなトレーニングができていなかった。

市民レース140km 表彰市民レース140km 表彰 photo:Hideaki.TAKAGI9月に入りようやく暑さもやわらぎ、おきなわにむけたトレーニングに本腰を入れる気になった。家族と相談しておきなわまでの練習時間を提供してもらった。
とはいっても子供が小さいのでおきなわに向けたトレーニングと言えるのは4~5時間程度のライドが週1日くらい。時間が取れれば2時間程度の登り重視のトレが週1日、その他の日は主に家族の寝ている間の朝トレをしていた。

だから、その週1日の4~5時間ライドが重要で、それは友人が作成してくれたツールドおきなわ140km対策コースをただひたすら走った。このコースがまたよく考えられていて、20分程度の登りが2本、15分程度の登りが1本、5~10分程度の登りが2本、その他細かいアップダウンがふんだんに盛り込まれた、まさに140kmコースに特化した効率のよいトレーニングだったと思う。作成した友人といっしょに走れた、というのもよかった。集団走行の練習にもなるし、飽きずに楽しく走ることができた。

10月までは順調なトレーニングだったが11月に入って気温がぐっと下がったのとほぼ同時に、喉を直撃する風邪を引いてしまった。声がほとんどでなくなり日常生活に支障をきたすほどのものであった。喉の痛みは数日で収まったが、せきやわずかなだるさが残ったまま沖縄入りすることに。

塩分や栄養補給に注意を払った

前日の大雨と強風から過酷なレースを覚悟していたが、朝は雨が降っていなくところどころ路面が乾いているくらいだった。参加者によほどの晴れ男がいたのか、青空も少し見えているではないか!

晴れ男さんに感謝しながらスタート。集団のやや前の位置取りで、普久川ダムの登りになったら上がっていく作戦でいく。
しかし、1回目の登りなのに足が重く、心拍が一気にレッドゾーンに。どうも風邪の残りが影響しているようだ。
先頭から少し遅れながら進むことに。二人ほどぐんとペースアップして集団から離れていったが、追いかけることができない。
集団から遅れないようにしながらなんとか登りをこなし下りへ。集団は50人ほどに絞られた感じ。

下りは得意ではないのでなんとか併走できるくらいのスピードでこなし、登りでこまめに補給。自分は足が攣りやすいので、今回はアスリートソルトをまるまる1ケースと、塩熱サプリをこれまたまるまる1袋を所持。過剰かなあ、と思っていたが、これがあとで効いてくることになる。

天気はもってくれており、ところどころ路面はぬれていたが、風も思ったほどなく、また暑さに弱い自分にとってはこの曇り具合がよいコンディションになっていた。弱気が徐々に収まり、テンションも上がってきた。

奥のスプリントポイントの後は特に新たな展開もなかったので、集団後方でせっせと補給。ここでジェル、スポーツドリンク、アスリートソルト、塩熱サプリを十分に摂取。万全の状態で2回目の普久川の登りへ。

自分は過去2回130kmクラスに参加していたが、ともに先頭集団はこの2回目の登りで10人ほどに絞られており、去年は先頭集団から脱落してしまっていた。ゆえに登る前からかなり神経質になっていたが、登り始めは1回目の登りに比べて体が動いてきたのか、足が軽い感じがしていた。ペースはそれほど速くなく、けん制気味な展開に。しばらくの間集団状態が続くことになった。

皆、ちゃんとトレーニングしているんだ

登りの後半で先頭にいた数名がペースアップ。集団をふるいに落とすのはこのタイミング、と思い自分も上げていく。先頭から10秒以内の差で山岳賞ポイントを通過して下りに。
ところが恐るべきことに下りのあとの補給ポイントで離していたと思っていた後続集団が追いつき、また集団1つに。30人くらいいただろうか。これは想定外だった。

市民140kmのメイン集団が山岸甚太郎(Teamやたちこ)らを追う市民140kmのメイン集団が山岸甚太郎(Teamやたちこ)らを追う (c)Makoto.AYANOその後の高江の登りで2人ほど先行したようだが、それにはついていかず、大集団のまま通過。高江の登りでも集団の数が小さくならない。「ああ、みんなちゃんとトレーニングしているのね」「全体のレベルが上がっているんじゃないかなあ」などと思ったりする。

スプリントが苦手で平地の独走力も自慢できない自分ができることは、登りで差を広げること。しかし今回のコースは高江以降長い登りはない。「このまま逃げを吸収して30人程度の集団でゴールしたら20数位くらいで終わりかなあ」なんていやなイメージが思い浮かぶ。この状況をどこかで変えなければいけない。

2人ほどの逃げが高江の登り以降続いていたが、やはりこの大集団はそのまま逃がさない。逃げている2人と大きく差を広げることはなく、平良のスプリントを超えたあたりで吸収。

新コースに入ってからが勝負だ

平良の後に突入する新コースは短い登りが数え切れないほどある。新コースに入ってから集団の走りを見ていると、この短い登りがボディブローのように効いてきているような気がしてきた。
登りになると決まった人しか前に出てこなくなり、その後の下りで集団1つになる、というパターンに。しかもだんだん空が暗くなり、雨が強くなってきた。精神的にもきつくなってくる。

が、自分は十分な補給をしたからか体調がよく、まだまだ足は残っていた。その影響か、悪天候になってきたにも関わらず結構強気になってきた。
このあたりで決断する。それは、前日の試走(雨が降っていたので車で回っただけだが)でもイメージしていたのだが、最後の羽地ダムの登りを利用して抜け出すこと。羽地ダムの登りは遠くまで道がみえるので見た目きつそう。精神的にもダメージを与えるであろうあの登りを全力で登ること。そのために集中すること。

羽地ダムの登りの前で集団のやや前方にするすると進み、登り始めでアタック! このレースで初めて仕掛けた。ハムストリングス含めすべての筋肉を使うような回転型のペダリングに集中しながら一気に抜け出すイメージで。すると周りの気配がなくなった。さらにペースアップ。頂上のトンネルまで一気に駆け抜ける。

市民140km 先頭を引いて羽地ダムの登りを行く山岸甚太郎(Teamやたちこ)市民140km 先頭を引いて羽地ダムの登りを行く山岸甚太郎(Teamやたちこ) (c)Makoto.AYANO

トンネル手前で後ろを見ると、なんとまだ数名ついてきていた。うーん、やはり一筋縄ではいかないようだ。
登りきった後の下りで全体を見渡すと自分を含め5名に。予定より少し多いがある程度目的は達成したか。すぐ後ろにまだ数名いるかもしれないのでこの5名でローテーションして逃げ切ることに。

ダムを越えて下りきると、視界が広がり国道が見えてきた。国道に入ったところで先導車から情報が。「後ろ7秒、4人」。

後続集団が結構近い! とみんなも思ったようでローテーションが突如活性化。一気にペースアップ。実は自分としては非常にいい展開。十分な補給のおかげで、足の攣りはまったく気配なく、まだまだ足は残っているよう。ペースの上がった状態でもまったく問題なし。ここで初めて、「必ず勝ちたい」と思うようになった。

国道を高速ローテーションで突き進み、やがてそのままゴールのある市街地への県道へ。7秒差だった後続の4人集団とは十分に離れていることは確実だったので、ここからは勝負に徹することに。

勝負はスプリントにかける

あと300mの標識が見えたところで、予定していたとおりスプリントを開始!2年前は3人集団の状態で同じように300mのところでスプリントを開始し、あと50mで1人に差されてしまった。
今回は足も十分に残っているし仕掛けたもの勝ちと思ったので行くことに。途中で2度ほど声を出して力を出し切れるようにした。ちらと後ろを見たが他の4人とは少し離れているよう。力を緩めずそのままゴールへ。

市民レース140km ゴール市民レース140km ゴール photo:Hideaki.TAKAGI

ついに優勝。思わず雄たけびをあげた。

今年で3回目の参加だったが、去年に比べてゴール地点、会場が市街地になっていたり、コースが面白い方向に変更されていたりして、より楽しくなっていると思った。記念品がくじ引きになっていたのに新鮮さを感じたし、もらったのが立派なシーサーだったのも驚いた。
毎年企画・準備などを大量の時間を費やしていろいろ検討されていると思うが、今年もすばらしい大会だったと思う。
運営に携わった方々、このような楽しい大会を作っていただきどうもありがとうございました。

山岸 甚太郎(チームやたちこ)


市民レース140km 結果
1位 山岸甚太郎(Teamやたちこ)4時間08分06秒
2位 笹木哲雄(Team KIDS)+1秒
3位 坂本昌良(チーム・フォルツァ!)+1秒
4位 福田大二郎(栃木県車連)+1秒
5位 鈴木亮(Team ARI)+3秒
6位 マイケル・スライ +40秒


photo:Makoto.AYANO,Hideaki.TAKAGI

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