2010/10/01(金) - 10:40
いよいよ2010年のエリート男子、エリート女子、U23世界チャンピオン誕生の瞬間が近づいてきた。スプリンター向きともアタッカー向きとも言われるジーロングの周回コースで栄光を掴むのは果たして誰か。日本から参戦する総勢7名の選手たちの走りにも注目したい。
集団スプリントで勝利を狙うスプリンターたち
比較的難易度が低いとして、コース発表時から「スプリンター向き」と言われていた2010年のロード世界選手権。しかし見どころ・コース編でお伝えした通り、蓋を開けてみると、勾配の有る上りとテクニカルなコーナーが設定されたタフなものだった。
スプリンターがチャンスを掴むためには、最後まで集団に食らいつき、上りでアタックした選手をゴールまでに捕まえる必要がある。
スプリンターとして最も注目を集めているのが、ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)だ。集団でのスプリント勝負に持ち込まれればカヴェンディッシュの勝機はグッと上がる。
果たしてカヴは上りで最後まで集団内に生き残れるのか。イギリスは3名(カヴ、ミラー、ハント)での出場であり、トレインを組むような戦力は無い。カヴ本人はアルカンシェル獲得に闘志を燃やしていたものの、実際にコースを試走してからは声のトーンを落としている。イギリスチームのホテルでカヴを直撃したグレゴー・ブラウンは、カヴが暗い顔で「僕にはキツすぎるコースだ」と呟いていたと証言している。
カヴと同様に、上りが得意ではないピュアスプリンターは苦戦することになるだろう。今年のロード世界選手権にはアンドレ・グライペル(ドイツ)やタイラー・ファラー(アメリカ)と言った名立たるスプリンターが集結。しかし集団に食らいつくことが出来なければチャンスは回って来ない。
そんなアップダウンコースで存在感を増しているのが、歴代トップタイとなる3回の優勝を果たしているオスカル・フレイレ(スペイン)だ。表彰台に上った回数もトップタイの4回。仮に今年優勝すれば、前人未到の4度目の世界選制覇。優勝を逃したとしても、表彰台に上れば歴代記録を破る。
登坂力とスプリント力を兼ね備え、軽量で身軽なフレイレは集団内に生き残る可能性が高い。4度目の世界戦制覇に向けてブエルタを第15ステージで切り上げ、かなり早い時期から現地入り。スペインのエースとして虎視眈々と記録更新を狙っている。
2008年大会3位のマッティ・ブレシェル(デンマーク)や、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)、トル・フースホフト(ノルウェー)と言った北欧系スプリンターも上りが得意。地元オーストラリアは、ブエルタでカヴの発射台として活躍したマシュー・ゴスやアラン・デーヴィスに望みを託している。
アタックで集団を切り崩す選手たち
スプリンターたちに対してアタックを仕掛け、独走、もしくは少人数グループでの勝負に持ち込もうとするのがアタッカーたち。最終周回の「チャランブラ・クレセント」や「クイーンズ・パーク・ロード」では激しいアタック合戦が予想される。
直前のブエルタで持ち前のアタック力を披露し、ステージ2勝を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー)は、好調の波をそのままオーストラリアに持ち込んでいる。
コースを試走したジルベールは、更にその自信を増強。ジルベールをアルカンシェルの最有力候補に挙げるジャーナリストは数多い。コースの難易度的には完全にジルベール向きだ。
ジルベールと同様に、アタックで勝機を見いだそうとしているのがイタリアチーム。今回イタリアはスプリンターを招集していない。チーム力で他を圧倒しながら有利な展開に持ち込もうと躍起だ。
パオロ・ベッティーニ新監督はフィリッポ・ポッツァートをイタリアのキャプテンに指名した。ブエルタを制したヴィンチェンツォ・ニーバリとイタリアチャンピオンのジョヴァンニ・ヴィスコンティがバックアップ。それを支えるアシスト体制は鉄壁だ。チーム一丸となって集団を絞り込み、そこからアタックして少人数スプリントでポッツァートが勝利。そんなシナリオを描いている。
大会連覇のチャンスが乏しいと予想されていたカデル・エヴァンス(オーストラリア)。しかし実際のコースを見た地元のジャーナリストたちは、エヴァンスの活躍に自信を見せる。確かにエヴァンスはパワーで乗り切るような急勾配の上りが得意。昨年のような鋭いアタックでオージーたちを沸かせることが出来るだろうか。
同様に、アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)やシルヴァン・シャヴァネル(フランス)、サムエル・サンチェス(スペイン)、ニコラス・ロッシュ(アイルランド)、ペーター・サガン(スロバキア)、フランク・シュレク(ルクセンブルク)らも、アタックで集団を切り崩しにかかるだろう。特にコロブネフは世界選手権と相性がよく、2007年と2009年に銀メダルを獲得している。
タイムトライアルで圧勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス)のコンディションが良好なのは言うまでもない。鋭い勘で状況を見極め、一気に加速して独走に持ち込むことが出来れば、史上初となるダブルタイトルも大いに有り得る。
日本からは、新城幸也(Bboxブイグテレコム)、別府史之(レディオシャック)、土井雪広(スキル・シマノ)の3名が出場。いずれも海外チームに所属し、ヨーロッパを拠点に活動する選手たち(ちなみにUCIが作成した有力選手100名リストの中にはユキヤの名前がある)。史上最強の日本チームとの呼び声も高い。日本を代表するトップライダー3名は、冷静にコースを分析し、状況に合わせて集団前方で闘いたいと話している。
フィニーのダブルタイトル獲得なるか?
将来を担う若者が鎬を削るU23レースは、15.9kmの周回コースを10周。エリート男子の出場選手上限が9名なのに対して、U23レースの上限は5名。つまり、一国がレースを完全に支配するような展開には持ち込まれにくく、より個人の脚力が問われるレース展開になる。
なお、23歳以下であっても、プロツアーチーム所属選手は出場出来ない。今年は34カ国から集まった122名の選手たちが出場する。
やはり優勝候補の筆頭は、タイムトライアルで優勝したタイラー・フィニー(アメリカ)だ。U23ロードレースにおいて、アメリカは優勝はおろか、表彰台にも上ったことが無い。大型新人フィニーの台頭で最大のチャンスが回ってきたと言っていいだろう。アメリカチームにはツール・ド・ラヴニール総合2位のアンドリュー・タランスキーもいる。
迎え撃つ地元オーストラリアは、今年のTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)で活躍したマイケル・マシューズや、タイムトライアルでフィニーに次いで2位だったルーク・ダーブリッジらだ。現ドイツU23チャンピオンで、来季チームHTC・コロンビアへの移籍が決まっているジョン・デーゲンコルプ(ドイツ)の走りにも注目。他にもリエージュ〜バストーニュ〜リエージュU23レース優勝のラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア)やイタリアチームのエースを担うエンリーコ・バッタリン、コフィディス所属のトニー・ギャロパン(フランス)らがアルカンシェルを懸けて闘う。
日本からは、小森亮平(ヴァンデU)と平塚吉光(シマノレーシング)が2年連続出場。そして大学生ながら内間康平(鹿屋体育大学)が出場を射止めた。過去にユキヤが残したU23レース13位という成績を超えることが出来るか?昨年小森は71位でフィニッシュしている。
毎年混戦のエリート女子 イタリアの連覇なるか?
エリート女子は15.9kmの周回コースを8周。昨年チーム力で他を圧倒し、タティアナ・グデルツォを優勝に導いたイタリア、タイムトライアルで優勝したエマ・プーリー擁するイギリス、2006年に19歳の若さでロード世界チャンピオンに輝いたマリアンヌ・フォス擁するオランダの三国を中心にレースが展開すると予想される。
今年もイタリアはノエミ・カンテーレ(2009年3位)やジォルジァ・ブロンジーニ(2007年3位)を揃え、チーム戦で攻撃を仕掛けてくるはずだ。
イギリスは2008年大会の覇者で北京五輪金メダリストのニコール・クックとプーリーのダブルエース。チーム力ではイタリアに退けを取らない。
フォスは2007年から3年連続で銀メダルに甘んじている。シクロクロスで3度、トラック・ポイントレースで1度世界の頂点に立っている才女は、ロードレースで2度目のアルカンシェル獲得を目指す。オランダはエリート女子ロードでの獲得メダル数がトップ。しかし1993年以降優勝を手にしていない。
日本からは、今年ロードレースとタイムトライアルのダブルナショナルチャンピオンに輝いた萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)が出場する。2年振りの世界選出場となる萩原は「持てる力を全て出して集団に残りたい」と語る。ちなみに現在イタリアでコーチ修行中の沖美穂(1998年から11年連続日本チャンピオン)がチームに帯同。世界に挑む選手たちにとって心強い存在になっているはずだ。
text:Kei Tsuji in Geelong, Australia
集団スプリントで勝利を狙うスプリンターたち
比較的難易度が低いとして、コース発表時から「スプリンター向き」と言われていた2010年のロード世界選手権。しかし見どころ・コース編でお伝えした通り、蓋を開けてみると、勾配の有る上りとテクニカルなコーナーが設定されたタフなものだった。
スプリンターがチャンスを掴むためには、最後まで集団に食らいつき、上りでアタックした選手をゴールまでに捕まえる必要がある。
スプリンターとして最も注目を集めているのが、ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)だ。集団でのスプリント勝負に持ち込まれればカヴェンディッシュの勝機はグッと上がる。
果たしてカヴは上りで最後まで集団内に生き残れるのか。イギリスは3名(カヴ、ミラー、ハント)での出場であり、トレインを組むような戦力は無い。カヴ本人はアルカンシェル獲得に闘志を燃やしていたものの、実際にコースを試走してからは声のトーンを落としている。イギリスチームのホテルでカヴを直撃したグレゴー・ブラウンは、カヴが暗い顔で「僕にはキツすぎるコースだ」と呟いていたと証言している。
カヴと同様に、上りが得意ではないピュアスプリンターは苦戦することになるだろう。今年のロード世界選手権にはアンドレ・グライペル(ドイツ)やタイラー・ファラー(アメリカ)と言った名立たるスプリンターが集結。しかし集団に食らいつくことが出来なければチャンスは回って来ない。
そんなアップダウンコースで存在感を増しているのが、歴代トップタイとなる3回の優勝を果たしているオスカル・フレイレ(スペイン)だ。表彰台に上った回数もトップタイの4回。仮に今年優勝すれば、前人未到の4度目の世界選制覇。優勝を逃したとしても、表彰台に上れば歴代記録を破る。
登坂力とスプリント力を兼ね備え、軽量で身軽なフレイレは集団内に生き残る可能性が高い。4度目の世界戦制覇に向けてブエルタを第15ステージで切り上げ、かなり早い時期から現地入り。スペインのエースとして虎視眈々と記録更新を狙っている。
2008年大会3位のマッティ・ブレシェル(デンマーク)や、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)、トル・フースホフト(ノルウェー)と言った北欧系スプリンターも上りが得意。地元オーストラリアは、ブエルタでカヴの発射台として活躍したマシュー・ゴスやアラン・デーヴィスに望みを託している。
アタックで集団を切り崩す選手たち
スプリンターたちに対してアタックを仕掛け、独走、もしくは少人数グループでの勝負に持ち込もうとするのがアタッカーたち。最終周回の「チャランブラ・クレセント」や「クイーンズ・パーク・ロード」では激しいアタック合戦が予想される。
直前のブエルタで持ち前のアタック力を披露し、ステージ2勝を飾ったフィリップ・ジルベール(ベルギー)は、好調の波をそのままオーストラリアに持ち込んでいる。
コースを試走したジルベールは、更にその自信を増強。ジルベールをアルカンシェルの最有力候補に挙げるジャーナリストは数多い。コースの難易度的には完全にジルベール向きだ。
ジルベールと同様に、アタックで勝機を見いだそうとしているのがイタリアチーム。今回イタリアはスプリンターを招集していない。チーム力で他を圧倒しながら有利な展開に持ち込もうと躍起だ。
パオロ・ベッティーニ新監督はフィリッポ・ポッツァートをイタリアのキャプテンに指名した。ブエルタを制したヴィンチェンツォ・ニーバリとイタリアチャンピオンのジョヴァンニ・ヴィスコンティがバックアップ。それを支えるアシスト体制は鉄壁だ。チーム一丸となって集団を絞り込み、そこからアタックして少人数スプリントでポッツァートが勝利。そんなシナリオを描いている。
大会連覇のチャンスが乏しいと予想されていたカデル・エヴァンス(オーストラリア)。しかし実際のコースを見た地元のジャーナリストたちは、エヴァンスの活躍に自信を見せる。確かにエヴァンスはパワーで乗り切るような急勾配の上りが得意。昨年のような鋭いアタックでオージーたちを沸かせることが出来るだろうか。
同様に、アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)やシルヴァン・シャヴァネル(フランス)、サムエル・サンチェス(スペイン)、ニコラス・ロッシュ(アイルランド)、ペーター・サガン(スロバキア)、フランク・シュレク(ルクセンブルク)らも、アタックで集団を切り崩しにかかるだろう。特にコロブネフは世界選手権と相性がよく、2007年と2009年に銀メダルを獲得している。
タイムトライアルで圧勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス)のコンディションが良好なのは言うまでもない。鋭い勘で状況を見極め、一気に加速して独走に持ち込むことが出来れば、史上初となるダブルタイトルも大いに有り得る。
日本からは、新城幸也(Bboxブイグテレコム)、別府史之(レディオシャック)、土井雪広(スキル・シマノ)の3名が出場。いずれも海外チームに所属し、ヨーロッパを拠点に活動する選手たち(ちなみにUCIが作成した有力選手100名リストの中にはユキヤの名前がある)。史上最強の日本チームとの呼び声も高い。日本を代表するトップライダー3名は、冷静にコースを分析し、状況に合わせて集団前方で闘いたいと話している。
フィニーのダブルタイトル獲得なるか?
将来を担う若者が鎬を削るU23レースは、15.9kmの周回コースを10周。エリート男子の出場選手上限が9名なのに対して、U23レースの上限は5名。つまり、一国がレースを完全に支配するような展開には持ち込まれにくく、より個人の脚力が問われるレース展開になる。
なお、23歳以下であっても、プロツアーチーム所属選手は出場出来ない。今年は34カ国から集まった122名の選手たちが出場する。
やはり優勝候補の筆頭は、タイムトライアルで優勝したタイラー・フィニー(アメリカ)だ。U23ロードレースにおいて、アメリカは優勝はおろか、表彰台にも上ったことが無い。大型新人フィニーの台頭で最大のチャンスが回ってきたと言っていいだろう。アメリカチームにはツール・ド・ラヴニール総合2位のアンドリュー・タランスキーもいる。
迎え撃つ地元オーストラリアは、今年のTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)で活躍したマイケル・マシューズや、タイムトライアルでフィニーに次いで2位だったルーク・ダーブリッジらだ。現ドイツU23チャンピオンで、来季チームHTC・コロンビアへの移籍が決まっているジョン・デーゲンコルプ(ドイツ)の走りにも注目。他にもリエージュ〜バストーニュ〜リエージュU23レース優勝のラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア)やイタリアチームのエースを担うエンリーコ・バッタリン、コフィディス所属のトニー・ギャロパン(フランス)らがアルカンシェルを懸けて闘う。
日本からは、小森亮平(ヴァンデU)と平塚吉光(シマノレーシング)が2年連続出場。そして大学生ながら内間康平(鹿屋体育大学)が出場を射止めた。過去にユキヤが残したU23レース13位という成績を超えることが出来るか?昨年小森は71位でフィニッシュしている。
毎年混戦のエリート女子 イタリアの連覇なるか?
エリート女子は15.9kmの周回コースを8周。昨年チーム力で他を圧倒し、タティアナ・グデルツォを優勝に導いたイタリア、タイムトライアルで優勝したエマ・プーリー擁するイギリス、2006年に19歳の若さでロード世界チャンピオンに輝いたマリアンヌ・フォス擁するオランダの三国を中心にレースが展開すると予想される。
今年もイタリアはノエミ・カンテーレ(2009年3位)やジォルジァ・ブロンジーニ(2007年3位)を揃え、チーム戦で攻撃を仕掛けてくるはずだ。
イギリスは2008年大会の覇者で北京五輪金メダリストのニコール・クックとプーリーのダブルエース。チーム力ではイタリアに退けを取らない。
フォスは2007年から3年連続で銀メダルに甘んじている。シクロクロスで3度、トラック・ポイントレースで1度世界の頂点に立っている才女は、ロードレースで2度目のアルカンシェル獲得を目指す。オランダはエリート女子ロードでの獲得メダル数がトップ。しかし1993年以降優勝を手にしていない。
日本からは、今年ロードレースとタイムトライアルのダブルナショナルチャンピオンに輝いた萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)が出場する。2年振りの世界選出場となる萩原は「持てる力を全て出して集団に残りたい」と語る。ちなみに現在イタリアでコーチ修行中の沖美穂(1998年から11年連続日本チャンピオン)がチームに帯同。世界に挑む選手たちにとって心強い存在になっているはずだ。
text:Kei Tsuji in Geelong, Australia
Amazon.co.jp