世界自然遺産の島、奄美諸島。多様な動植物が暮らす生態系を育む亜熱帯の森につけられた、まだ多くは走られていない道を自転車で旅した。自然のなかへと入っていく、舗装路とグラベルのミックスしたオールロードバイクの旅へ。



奄美大島、嘉鉄の浜の静けさ。対岸は加計呂麻島だ photo:Makoto AYANO

綾野 真(シクロワイアード編集長)
走った人 綾野 真(あやのまこと)

シクロワイアード編集長。最近グラベルに夢中で、オールロードバイクの可能性の探求に余念がない。アンバウンド・グラベルに4年連続出場、国内のグラベルルートも開拓中。ソロツーリングが好きで20代の頃には世界各国をキャンプツーリングした経歴あり。2021年の特集 四国一周サイクリングはヒット連載のひとつ。

世界遺産の島を隅々まで走り尽くすつもりで

年末年始の休暇を使って奄美諸島ツーリングに出かけてきた。巡った島々は奄美大島、加計呂麻島、徳之島の3つ。飛行機輪行で行き、フェリーも使ったアイランドホッピングの旅行記を綴ろう。

輪行バッグはグラベルバイクも余裕で収納できるオーストリッチOS500ワイドで。荷物はサドルバッグと1デイパックだけ photo:Makoto AYANO

成田〜奄美を直行便で結ぶピーチ航空を使った
奄美空港に到着。輪行バッグは最終日に泊まる宿で預かってもらう



「東洋のガラパゴス」とも称される奄美大島は、2021年に世界自然遺産に登録された憧れの島。アマミノクロウサギなど貴重な固有種を含む多様な生物が棲む自然林のジャングルが多く残っているのが特徴。その大自然を味わうべく、林道で島の隅々まで走る計画だ。

走り出してすぐ、信じられない青さの笠利湾に出た photo:Makoto AYANO

旅のお供のバイクは届いたばかりのエアログラベルレーサー、サーヴェロAspero5。グラベルバイクはこれで2台体制になったが、Aspero5はちょっとオンロード寄りの快速ツーリングにも使うつもりでセットアップした。

今、にわかに注目を集めている「オールロード」。=オン・オフがミックスされたすべての道を走るバイクライドだ。個人的にもっとも興味があり、そのことも後押ししてオールロードなツーリングに出ようと思っていたのだ。

奄美市の景勝地「あやまる岬」は空港に到着後、誰もがまず訪れるスポットだ photo:Makoto AYANO

年の暮れ、予約していたフライトに間に合わせるべく仕事を片付け、空港へと向かった。旅先で年越しする長旅の予定だが、輪行バッグにサドルバッグ+デイパックというミニマムな荷物に絞った軽装で旅立った。なお輪行バッグはかさばるグラベルバイクが余裕で入るオーストリッチの新作OS-500W(ワイド)で、フレアや一体型ハンドルでもそのまま入るようサイドにマチがついている。

宿泊まりが基本のためテントやシュラフのキャンプ用品は無し。バイクウェアは2セット少々で、あとは室内と外出時に着るリラックスウェアなどが主な荷物。我ながらシンプルこのうえない装備の身軽さだ。

奄美の郷土料理といえば鶏飯(けいはん)。クリアな鳥スープで食べる出汁飯だ photo:Makoto AYANO

LCCのピーチ航空の奄美大島直行便は成田空港発着となる。大型荷物扱いとなる自転車料金はかかるが、超過料金等はとくに無し。往復で¥38,793だった。

港湾都市の名瀬。奄美大島最大の街だ photo:Makoto AYANO

わずか2時間少々のフライトで着く奄美大島は思ったより近かった。奄美空港を出ればすぐに感じる風景の違い。ツール・ド・おきなわで毎年訪れる沖縄北部のやんばるに似た風景だと感じた。やんばるもまた世界自然遺産の登録地だ。

1月の奄美は気温15〜20℃ほどと過ごしやすい気候で、春夏ウェアで良いのは嬉しい。もともと琉球に属した島々なので、鹿児島県でありながら沖縄に似た文化が色濃いと聞いていた。沖縄好きだが、奄美に行くのは初めて。

名瀬の街の中心にある元治(もとじ)青果店 。味わい深い光景だ photo:Makoto AYANO

鹿児島市街に次ぐ繁華街という名瀬の屋仁川通り photo:Makoto AYANO

旅の前半の拠点にしたのは奄美大島最大の街である名瀬(なぜ)。コンパクトな港街だが、繁華街もあり、意外にも都会であることに感心。こちらも沖縄であれば名護に似たイメージだ。

奄美市名瀬市街の素泊まりゲストハウス奄ん(あまん)を前半の拠点にした photo:Makoto AYANO

宿は市街外れにあるゲストハウス奄ん(あまん)を選んだ。個室で素泊まり¥3,500。ここを拠点に4泊、日中は自転車で走り、夜は宿に戻るスタイルで過ごすことに。

名瀬市役所は年末年始のイルミネーションで煌めいていた photo:Makoto AYANO

佐渡ヶ島に次ぐ大きさの島である奄美大島。といっても外周だけ回るなら3日もあれば足りる大きさ。しかしリアス式海岸に山が海岸線まで迫り、平地が少なく、内陸の森が深い地形のため道が少ないのだ。島の面積において森林率はじつに8割を越えるという(つまり森だらけ)。

名瀬の奄美ハブ酒本舗ビル。これまた味わい深い
大島紬図案士&画家の重村敏光さん。島のことを色々教えてくれた



初めての奄美探訪だから、土地勘が掴めるまでは海岸線や比較的拓けた北部を走って理解を深めつつ、徐々に内陸部の世界自然遺産に登録された森林地帯へと進んでいこうと考えていた。

奄美はまだまだ観光地化されていないことが魅力で、かつ観光地を巡ることには興味が無いので、とくに魅力的な旧道やマイナー林道をなるべく多く走破するつもりでいた。

奄美でしか醸造できないという黒糖焼酎
名店「鳥しん」名物もものひらき



地産地消レストラン瀬里奈の島野菜定食 photo:Makoto AYANO

地元民に愛されるステーキの店「すとれーと」 photo:Makoto AYANO
黒糖焼酎「島のナポレオン」と奄美の発酵飲料「ミキ」 photo:Makoto AYANO



それにしてもサンゴ礁が広がるエメラルドグリーンの海は魅力的だ。曇っていても雨が降っていてもその青さは分かるが、やはり晴れたときの海には格別な燦めきがある。

宮古崎への旧道から見た海の輝き photo:Makoto AYANO

島の外周には着実に新しい道路ができていて、トンネルの数は今なんと38以上あるという。しかしそのトンネルのそばには使われなくなった旧道が必ず残っていて、むしろそちらを通ることにしていた。

東シナ海を望む景勝地の宮古崎(みやこざき)。360°のパノラマが広がる photo:Makoto AYANO

それらの旧道は、例外無く険しい地形に沿ってつけられた昔道で、山や谷に沿うように伸びている。遠回りになっても、今では使われる機会が減ったそれらの道をわざわざ自転車で走った。これから来るサイクリストにアドバイスするなら、ぜひそうすべきだと言いたい(今までに走ったサイクリストの多くが幹線道を走ってトンネルの多さに辟易している)。

トンネルを避けて旧道を行けば素晴らしい景色が待っている photo:Makoto AYANO

172mの高さがある徳浜の断崖 photo:Makoto AYANO

実際、今は使われなくなった険しい道ほど味わい深さが残っていて、かつ原始の森の景観に近いのが醍醐味だ。ジャングルと植物や動物などの奄美特有の固有種や、国で初めて天然記念物に指定されたアマミノクロウサギの生息域も旧道や林道沿いに多いため、なんともワクワクするライドになった。

赤土山展望台から奄美の最高峰・湯湾岳と世界自然遺産登録地一帯を望む photo:Makoto AYANO

実際、世界自然遺産の特別保護区やそのバッファーゾーン(緩衝地帯)を通る旧道や林道は素晴らしく、本土には見られない奄美らしい植生の鬱蒼とした森が広がり、何とも言えない深い雰囲気に満ちている。

三太郎林道は夜のアマミノクロウサギの観察路として知られる photo:Makoto AYANO

渓谷沿いにはヒカゲヘゴが群生する photo:Makoto AYANO

三太郎峠の巨大モダマ photo:Makoto AYANO

そして、世界自然遺産の特別保護区を通る林道には通行制限もあり、貴重な自然を守るための独自のルールが有る。その周辺を走るには、いかに自転車が環境に与える負荷が少ないとはいえ、配慮が必要だ。

昼なお暗い林道を進む photo:Makoto AYANO

天然記念物のアマミノクロウサギの生態を観察する林道ナイトツアーなどは通行予約制で実施されている。クロウサギは夜行性のため、日中のライドでは出会うことができないが、その糞は林道のあちこちに見つけることができる。

アマミノクロウサギの糞があちこちに photo:Makoto AYANO

世界自然遺産登録地域を通る林道スタル俣線。オーバーツーリズム防止のため通行制限がある photo:Makoto AYANO

ハブの赤ちゃんの死骸を見つけた photo:Makoto AYANO

つい先日まで本州では熊に怯えながら走っていたのに、奄美に来たら代わりに気をつけなくてはいけないのがハブ。林道を走るときは草むらの近くの路肩を避けて、なるべく道の真ん中を走るようにした。幸い、気温が下がる冬はハブの動きも鈍くなるため危険は少ないようだが、噛まれたときに毒を吸い出すポイズンリムーバーはすぐに出せる位置に持っていた。

田検のがじゅまるバス停 photo:Makoto AYANO

住用のマングローブ原生林 photo:Makoto AYANO

奄美の最高峰・湯湾岳 世界自然遺産の森の核心部へ登る

世界自然遺産の森の核心部にもっとも近づきやすいのは、奄美大島西部の大和村と宇検村の村境界に位置する山、湯湾岳(ゆわんだけ・標高694m)だろう。

湯湾岳へと登る林道は着実に高度を増していく photo:Makoto AYANO

湯湾岳は奄美諸島における最高峰。固有で希少な動植物の保護のために、山のほぼ全域が特別保護地区(厳正な保護を図る核心的地域)に指定されている。深い森に包まれた山だが、自転車と徒歩を組み合わせれば山頂展望台までアクセスすることができる。

湯湾岳林道を登る。静かで清潔感のある森だ photo:Makoto AYANO

湯湾岳へのアプローチには数方向からの道があるが、大和村の大棚からフォレストポリス(自然体験テーマパーク)経由で登るルートを選んだ。海岸線の0m地点から登るため勾配はそれなりにあるが、全線舗装路で9合目まで登ることができる。そこからは木道を徒歩で登る15分のトレッキングで山頂展望台へと登れる。

湯湾岳周辺の森を流れる渓流は澄み切っていた photo:Makoto AYANO

そこに至る道は素晴らしかった。周辺を鬱蒼としたジャングルが覆い、巨大なシダ植物のヒカゲヘゴやジュラシックパークの世界を連想させるような深い深い森へと入っていく。林道の脇を流れる川には信じられないほど清冽な水が流れており、吸い込まれるような美しさ。

深く清らかな水をたたえたマテリアの滝 photo:Makoto AYANO

深い淵に透明度の高い水をたたえたマテリアの滝の美しさは、森のエッセンスが凝縮したようだった。一見おどろおどろしいイメージのある奄美のジャングルだが、中に入っていけばその美しさ、清らかさに感動する。

湯湾岳林道沿いの若いヒカゲヘゴ photo:Makoto AYANO

湯湾岳展望台への林道終点。ここからは徒歩で山頂へ
湯湾岳へと登る木道。歩けるバイクシューズなら問題ない



気象条件により霧が多いことで知られる一帯だが、山頂展望台に達した時間は幸いにも快晴に恵まれ、展望台からは360°の視界が開けた。

湯湾岳山頂展望台にて。素晴らしい景観に何時間でも居たかった photo:Makoto AYANO

樹齢100年以上の照葉樹林や雲霧帯が広がり、奄美の山々が一望のもとに展開する。どの方向も海まで見渡せ、奄美大島の全貌がほぼ把握できた。ドローンの空撮のような映像が肉眼で楽しめるのだ。

湯湾岳から世界自然遺産エリアの核心部の森を展望する photo:Makoto AYANO

世界自然遺産の特別保護区の核心に立つことができるのが湯湾岳の魅力だ。道中のヒルクライムがキツく、トレッキングの労力はあるが、それが報われる素晴らしい眺望が待っている。歩けるサイクルシューズなら何も問題無い。ぜひ山頂展望台まで登ってほしい。

湯湾岳山頂展望台付近の素朴な石造りの神社
湯湾岳山頂への道は立入禁止区域となる





バイクと装備  オールロードが拓く新しい走り

今回のツーリングに使用したバイクはサーヴェロAspero-5。新型となったばかりのエアログラベルレーサーだ。

旅で駆ったサーヴェロAspero-5 サドルバッグは宿に置いて軽快に走った photo:Makoto AYANO

旅の装備はバイクパッキングバッグをサドル後方に取り付け、背中には1デイパックを背負うスタイル。宿に入ったらサドルバッグは外し、日中はデイパックのみの身軽なスタイルで軽快に走りを楽しんだ。

ヴィットリアCORSA PRO CONTROL42C エアボリュームが大きく走りが軽かった photo:Makoto AYANO

タイヤはAspero5完成車にデフォルトでセットされていたヴィットリアCORSA PRO CONTROL42C。それはパリ〜ルーベでも使われるレーシングタイヤの42C版で、単体では今春に発売予定だというサーヴェロ先行供給モデル。このオールラウンド系極太ロードタイヤが「舗装路メイン+グラベル少々」の今回の旅のスタイルにマッチするだろうと思っていた。

グラベルタイヤでは大袈裟、ロードタイヤでは不安という道が多かった photo:Makoto AYANO

その目論見は大正解で、奄美諸島の林道は大半は舗装されているが、人の手が入らなかったため路面が荒れ、ひび割れや落ち葉や苔などで綺麗とは言い難い状態の道も多い。また台風や大雨が多く、グラベルの林道は荒れて廃道へと向かっている。そんな道を走ってきた。

42cのロードタイヤを履いたAspero5は舗装路では軽快に走り、高い巡航性を発揮してくれた。エアロ形状のフレームにホイール、そしてコンパクトなエアロフォームが取れるハンドルにより、強風下の舗装路でもスイスイと気持ちよく距離を稼げた。

峠道に巨大なクワズイモが自生していた photo:Makoto AYANO

驚かされるのが下りだ。とくに荒れた路面のダウンヒルではどんどんスピードが上がり続ける。エアボリュームの大きなタイヤは転がり抵抗が少なく驚くほどスムーズで、明らかにロードバイクよりスピードが出る。しかもタイヤが太いため、恐怖心を感じずに安心して下れるのだ。

内陸部の林道は荒れ気味で、道標はかろうじて残る photo:Makoto AYANO

これは今まで経験したことが無い走行感だった。欧米で昨年あたりから話題になっている「40Cタイヤがオンロードで最速」という研究機関の主張も納得の感覚。オフロード未満の簡易舗装のような道なら42Cは確実に速くて快適だ。

湯湾釜林道の終盤はオフロードになった photo:Makoto AYANO

エアロロードのサーヴェロS5がその特異なフレーム形状に比して「乗りやすい」と評価されているのに似て、Aspero5は過剰な硬さやクセが無い素直な乗り味で、かつ空気抵抗が少ないため、スルスルとスピードが上がっていく。

スムーズすぎるほどに素直で快適な乗り心地で、いつまででも乗っていたいと感じる気持ち良さ。Aspero5のキャラクターはそれに尽きる。オンロードではグラベルバイクであることを忘れてしまうナチュラルさだ。そしてダウンヒルではスピードの上がりすぎに注意しなくてはいけないほど、42Cロードタイヤは転がりが良く、下りが速かった。

戸円より厳しい海岸線が続く東シナ海を望む photo:Makoto AYANO

サドル後方に付けたバッグの重量は約2.5kg。フロントバッグやツールボックス、ボトルの総計で+4kgの車重であっても、ロードバイク並の巡行性能がAspero5にはあった。

Aspero5の長期インプレッション連載がダイアテックジャーナルで始まっています。

次回は加計呂麻島へと渡ります。

text&photo:Makoto AYANO