11月25日(火)、目黒の自転車会館でロード・トゥ・ラヴニール(RTA)の報告会が開催された。浅田顕氏はプロサイクリング界の現状に合わせて目標の再設定が必要とし、「ツール・ド・フランスに出場する日本人選手を輩出すること」へゴールを明確化すると発表。3年間の軌跡とともに、現在地と将来への課題を語った。



RTAの基本説明を行う浅田顕氏 photo: Yuichiro Hosoda

■RTAの構造と7段階の活動

まずはプロジェクトリーダーの浅田氏よりRTA各スキームの活動について、現状を絡めながらの報告が行われた。1〜4が国内、5〜7が欧州での取り組みとなっている。

「RTA 1」は、競技普及と認知向上で、ツールへの憧れを促し、正しいプロへの道筋を提示する。「RTA 2」は、全国のタレント発掘で、47都道府県のスポーツ団体と協力しユース層を拾い上げる。自前の埼玉ユース自転車競技部をはじめ、各地で受け皿作りが徐々に進んでおり、全国から代表選手も出るようになったと言う。「RTA 3」は、ユースキャンプ。これは地域ごとに選手を集め、基礎技術や栄養学などを教え、競技への理解と進路を固める場となっている。

RTAは3つの重要規則を基に、7つのスキームを持つ photo: Yuichiro Hosoda

RTA1〜4までが国内スキーム、5〜7が欧州スキーム photo: Yuichiro Hosoda

【RTA 1:パスウェイの普及】ツアー・オブ・ジャパンでのブース出展やRTA賞の授与等を中心に活動 photo: Yuichiro Hosoda
【RTA 2:タレント発掘】全国の提携クラブチームへのアドバイスや埼玉ユース自転車競技部を通じての周辺地域在住選手の育成 photo: Yuichiro Hosoda


「RTA 4」は、タイムトライアルとヒルクライムの能力測定。TTは特に世界基準に届くかを数値で可視化できるため重視されるが、日本では機材負担や人気の低さから普及が遅れており、課題が大きい。それでもRTA発足後は各レースの主催者に協力を仰ぎ、各地でTTを実施してもらえるようになってきているようだ。「国内でもTT強化を根付かせ、強制的にやっていかないとならない」と浅田氏は訴える。

「RTA 5」は実力のついた選抜選手を欧州レースへ派遣するフェイズだ。特に評価に繋がる春季の厳しいレースが重要で、欧州ではジュニア期から実績を出さなければ、プロの育成チーム入りすらも難しい現状が紹介された。

【RTA 3:ユースキャンプ】中高生選手向けに、世界標準の基礎技術やトレーニング方法、プロへの道筋を学ぶユースキャンプを実施 photo: Yuichiro Hosoda
【RTA 4:TT&ヒルクライム】ロードレースに必須のタイムトライアル能力向上を目的に、定期的なタイムトライアルテストを実施 photo: Yuichiro Hosoda


【RTA 5:欧州レース参戦】国内で実力評価されたU19〜23の選手を選抜してチーム編成し、春・夏の2回、計30レースに参戦 photo: Yuichiro Hosoda

「RTA 6」は代表チーム派遣のサポート。2023年はRTAが男女ともにツール・ド・ラヴニールへの代表派遣を受託し、男子で留目夕陽が総合24位、女子で石田唯が総合23位と評価を得た。24年は派遣がなかったが、25年は「一昨年出られなかった選手達が出場を切望し、参加してくれた」と浅田氏は喜んだ。結果は23年の内容には至らぬものの、この先どうつなげていくかが重要だとし、選手のこれからに期待した。

「RTA 7」はプロ契約サポート。世界的に選手が若年化する中、日本の進路モデルである、高校〜大学を経てからの海外挑戦では遅く、世界標準のパスウェイへ切替える必要性を訴えた。

【RTA 6:代表チームサポート】より優秀な選手とスタッフを日本代表に送り込む努力を続けている photo: Yuichiro Hosoda

■3年間の成果と現状の課題

競技層にはRTAの存在が浸透して来ているものの、いまだ一般層への認知は低い。キナンレーシングチーム等からユースチーム設立の動きが出て、選手が実績を挙げたり、ユースキャンプから代表選手が出るなど成果は出ているが、タイムトライアル能力や国内レースの質、経験値は欧州との大きな差が残る。TTはジュニアでも世界に届かず、日本の体制としてジュニアの全日本TTが無い、育成期のルールや競技の整備不足にも課題があるとした。

また、日本の若手が国内では年間2000km前後しかレース距離を走れない一方、欧州のU23選手は7000km以上を走るなど量の差も極端と言う。浅田氏はこれを「才能でなく経験の差」と指摘し、若い選手には欧州で走る場が絶対的に必要だと強調した。

発足から2028年までの中期目標と、現在の実績 photo: Yuichiro Hosoda

現在のRTAが抱える課題 photo: Yuichiro Hosoda

■最大の問題は「資金」

浅田氏は、活動の停滞要因の「9割はお金」と、切実な状況を語った。欧州で戦うためには欧州拠点の維持は不可欠だが、その家賃の支払いすら苦しい状況で、財源が不足している。ユースキャンプについても、選手自身の参加費とクラファン頼みとなっている。また、機材費の高騰も重なり、レースで使う予備のバイクやホイールの準備にも影響していると言う。

支援獲得については、説明コストの大きさや認知不足もそれを難しくしており、クラウドファンディングでは3年間で延べ2000人以上から約2600万円の支援を受けたが、当初想定予算の年間6000〜7000万円には遠く届かないのが現実だ。

最大にして最難関の課題は「スポンサーの獲得」 photo: Yuichiro Hosoda


今後もビッグスポンサーの獲得は困難を極めるとし、RTAでは年額30万円〜から協賛可能な年間スポンサーを募集している。通常運営の面では好意のみで支援してくれる多くのスポンサーと、2026年で20周年を迎えるエキップアサダ後援会の存在も大きく、長年下支えしてくれる方々への感謝とともに、新規会員の入会をお願いしている。

加えてユースキャンプや欧州遠征では、クラウドファンディングによる資金調達も引き続き行うとしており、時期に合わせて開始が告知される予定だ。

法人・個人問わず、年額30万円からの「強化支援スポンサー」を募る photo: Yuichiro Hosoda

2026年で発足20周年を迎えるエキップアサダ後援会。会員からの寄付は日頃の運営費に宛てられている photo: Yuichiro Hosoda
ユースキャンプや欧州レース参戦に必要なまとまった資金は、クラウドファンディングを用いる photo: Yuichiro Hosoda


■今後の方向性

前述の通りRTAでは、目標を「ツール・ド・フランスに出場する日本人選手を輩出すること」とし、一般にわかりやすいビジョンを提示する方針を打ち出した。現在のワールドチームでは最低でも年間40億円規模の予算が必要で、日本ではチーム参戦の実現性に乏しいため、まずは個人の輩出に集中していく。

浅田氏は、若年層の台頭が進み、ユースキャンプや欧州遠征の経験者がU19代表に選ばれるなど基盤は出来つつあると見ており、実力が備わった選手は特定の地域やチームで囲い込まず、適切なステップへと送り出す「共同育成」が重要だと訴えている。

「参加者の目に見える成長があった」と具体的な選手名を挙げて紹介 photo: Yuichiro Hosoda

RTAは「次世代プロロードレーサー輩出プロジェクト」であると改めて強調 photo: Yuichiro Hosoda
【RTA提携先】国内コンチネンタルチームやクラブチーム、自転車関連団体、TOJやツール・ド・ラヴニールと多岐にわたる photo: Yuichiro Hosoda


2026〜2028年のRTA各フェイズの見込み図。2028年以降のプロ選手輩出へ向け、活動の継続と拡大が望まれる photo: Yuichiro Hosoda

2026年のRTA活動予定。オープントレーニングの他、タイムトライアルテストが多く組まれているのが特徴と言える photo: Yuichiro Hosoda

■栗村修氏とのディスカッション:若手選手のマインドセットについて

最後の質疑応答では、ツアー・オブ・ジャパン組織委員会 委員長でもある栗村修氏が挙手をし、ディスカッション形式で浅田氏とのやりとりが行われた。

栗村氏は「ここ最近、若手のマインドセットが変わり、厳しさを受け入れる選手が増えているのではないか」と指摘。浅田氏は「個々で気持ちが強い者はいるが、まだ体力レベルが足りていない選手も多い」「今のユース選手は1〜2年の違いで意識にも差がある」と話し、指導者には柔軟な対応が求められると述べた。

また、若年化が進んでいるように見えても、最重要育成期間については、以前と変わらずU23世代であると位置づける。国内レース数の少なさや欧州とのレベルの違いも挙げ、この世代までに欧州で多くの厳しいレースを経験することの重要性を改めて語った。

現在の若年層の選手達のマインドセットの変化について質問する栗村修氏 photo: Yuichiro Hosoda
浅田顕氏「最重要育成期間については、以前と変わらずU23世代」 photo: Yuichiro Hosoda


報告会に参加したトライアスロンジャパンの常任理事・中山俊行氏は、現在トライアスロンが置かれている状況も似ていると話す photo: Yuichiro Hosoda
ロード・トゥ・ラヴニール強豪国の傾向(男子、※2021年作成資料)「ロードレースはナショナルチームだけで完結している国はない」と結んでいる photo: Yuichiro Hosoda




RTA報告会は、他の参加者による質疑応答や意見交換も含めると2時間に及んだ。3つの規則と7つのパスウェイに基づく活動は、日本のロードレース界に根付くべきと考えられるものだが、やはり浅田顕氏自身が語るように、継続には活動に十分な資金の調達が優先される状況だ。

強化支援スポンサーや後援会への参加、クラウドファンディングなど、資金援助の方法や金額規模は様々に用意されている。まずは活動に賛同する新たな支援者が増えることが期待される。

text&photo: Yuichiro Hosoda