若手のレース、U23ネイションズカップの廃止をUCIが決めた。代わりにジュニアのネイションズカップへの重点強化が発表され、これからはジュニア世代からの選手育成に重点が置かれることになる。ますます若年化に舵を切るロードレース界に、日本はどう対応すべきなのか。浅田顕さんに意見を聞いた。

ツール・ド・ラヴニール2025を走る鎌田晃輝(JCL TEAM UKYO/日本大学)と林原聖真(明治大学/群馬グリフィン) photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka 
UCI(世界自転車競技連合)が9月末の総会でU23ネイションズカップの廃止を決定した(発表リリース)。これはU23(=23歳以下)選手の育成経路がワールドツアーの下部組織のチーム等に移行しつつあるという近年の状況変化に対応するための措置で、従来のナショナルチーム主体のU23ネイションズカップシリーズの意義が薄れたためだと思われる。ツール・ド・ラヴニールのような主要大会は残る見込みだが、今後はジュニアのネイションズカップに重点が置かれることになる。
U23のうちからワールドツアーで活躍するような選手が台頭していることもあり、若手選手の育成に関して変革しようとしている世界のロードレース界。その流れにどう対応していくべきなのか、RTLプロジェクトを通して若手育成に尽力する浅田顕さん(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督) による見解を紹介する。

浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督) photo: CyclismeJapon 
■U23ネイションズカップの廃止について
浅田:2007年シーズンから始まったロードレースのU23国別ワールドカップ=U23ネイションズカップは、国別対抗の育成レースとして欧州各国を中心に年間数多くのレースが開催されていましたが、2025年にはチェコ大会、ポーランド大会、そして決勝戦と言われるツール・ド・ラヴニールの3大会のみとなり、国別対抗シリーズ戦の形を保てなくなり、2025年をもって廃止となりました。
UCIの決定は仕方ないと思います。年々減少しつつあった同シリーズを見てきましたが、U23カテゴリーにおいては、ナショナルチームの活動に頼らない優秀な選手を擁するワールドチームやプロチームの各育成チーム台頭も大きく影響しています。主催者もネイションズカップの冠を外すデメリットよりも、招待できるチームの幅を持てる2クラスや2U(U23限定の2クラス)に移行するメリットを感じての結果かもしれません。

ツール・ド・ラヴニール2025  リーダージャージや強豪国を先頭にスタートを待つ  photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka 
U23ネイションズカップ廃止により影響を受ける国は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、コロンビア、エクアドル、メキシコ、カザフスタン等、欧州外大陸の常連国ではないかと思いますが、もともと欧州活動拠点を有しているので素早い切り替えが行われるでしょう。

ツール・ド・ラヴニール2025に挑戦した日本ナショナルチームのメンバー photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka 
さて、日本にとってはどうでしょう。かつてはベルギー大会、フランス大会、オランダ大会、チェコ大会、カナダ大会、イタリア大会と繋ぎ、決勝戦のツール・ド・ラヴニールへという流れがあり、当時はジュニアネイションズカップの経験者と遅咲きの未経験者らの代表チーム構成で転戦を続け、何とか同年代の世界レベルにしがみついてきましたが、代表チームを派遣する連盟の体制が変わった2022年以降は、ほとんどのネイションズカップへの参加が見送られています。そのため今回の廃止に反対する資格はありませんが、日本の優秀なU23選手を代表チームに招聘し、同年代の世界レベルのレースに挑戦できる確実な機会を喪失したことになります。

ツール・ド・ラヴニール2025 各賞リーダージャージの選手たちはいずれもワールドツアーの育成チームに所属する選手たちだ photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka 
■これからはジュニア選手育成に重点がおかれる
UCIとしては今後ジュニア選手育成に重点を置く考えを示していますが、その中で2つの大きなアクションを発表しています。
1つ目は、U23ネイションズカップ廃止の代わりに、各大陸でのジュニア男子、ジュニア女子のネイションズカップの充実化と、ジュニア個人ポイントランキング制度の導入です。
現在ジュニアのUCIレースの9割以上は欧州で行われているため、各大陸への拡大は大変な改革になりますが、それにより新たに欧州外から次世代のタレントが発掘されることを願っています。懸念は各大陸で開催されているエリートレース同様、選手層の薄い欧州外レースで、どのようにレースレベルを高めていくかです。昔からの言い伝えのように語り継がれている「強くなりたいならヨーロッパへ行け」というフレーズは、今も正論と言えるでしょう。
そして日本にとっては、国内でのネイションズカップ開催も今後の長いスパンでは重要になると思いますが、今は有望選手を一つでも多く欧州で開催されるネイションズカップへ良い状態で送ることが最重要です。なぜなら、求められる環境づくりには年数がかかりますが、ジュニアカテゴリーを通過する選手の対象期間はたった2年だけですから。
2つ目は、UCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)の新設です。
現在、UCIワールドチームとプロチームの多くはその傘下に育成チームとしてUCIコンチネンタルチームを結成し、活動させています。これはU23からの年齢が対象で、欧州では現在多くのジュニア選手がそこに入ることを目指しているため、U19のチーム体制やレースが激化しています。

ツール・ド・ラヴニール2025  集団スプリントを制したマチュー・コッケルマン(ルクセンブルク) photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka 
最近ではワールドチームがその育成コンチネンタルチームの予備軍としてU19の育成チームも整えはじめ、更には15歳くらいの選手から予備契約を交わしサポートを開始しているケースが見られます。
その「青田買い」の流れを受けて、所属するジュニア選手の拘束力を高めるためにUCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)が新たに設置されることになりました。ワールドチームやプロチームのメリットとしては、早期から有望な選手を獲得、育成指導できることでしょうか。対して、若年層を育成し輩出するクラブチームにとってはデメリットも多く予想されます。

ツール・ド・ラヴニール2025  リーダージャージを着るポール・セクサス(フランス)。デカトロンAG2Rラモンディアールに所属する photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka 
昨今の流れから、プロロードレーサーになるにはジュニアの国際大会で成績を残し、ワールドチームの育成コンチネンタルチームに入ることが主流の道筋になりつつあります。そのため、伝統的な「ジュニア選手に無理をさせない」という考えはどこかへ消え失せ、早期決着を求める流れになっています。
この時期には「U19の◯◯選手が△△の育成チームと契約した」というような話題やニュースが飛び交っていますが、一方で有望に見える選手でも希望叶わず早くからプロを諦める選手の声も聞いています。そしてツール・ド・フランスの国フランスでも、多くのプロ選手を輩出してきた名門クラブチームが活動休止に追い込まれ、また、その予算をもってジュニアチームに対象を下げて選手を集める流れが目立ってきています。
結果、その影響によって今まで頑張ってきた既存のジュニアクラブチームに選手がいなくなり、クラブ自体の活動を終了してしまうという話も耳にしています。底辺を支えてきた伝統ある地域クラブチームの喪失は、ロードレース界の墓場だと私は思っています。
そして今回のUCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)の誕生は、若い選手たちやその取り巻きの先急ぐ姿を更に目にすることになるでしょう。この若年化の体制づくりはスピード感をもって進められるでしょう。しかし未成熟かつ成長時期に個人差のある選手たちの心と身体は、その変化のスピード着いて行けるのでしょうか?。
ここでもう一つ付け加えたいのは、プロ直下一貫体制で、この業界が出現を期待しているであろう選手モデル、ポガチャルやエヴェネプール、デルトロは、果たして彼らは今目指されてるような環境から出てきた選手なのかは疑問です。
そしてこの流れは日本にとってはどうでしょうか?
まだトップの背中が見える位置にいる日本のU19レベルですが、今回の動きでは世界的に強化の早期化が進み、先頭グループが少し遠くに行ってしまうかもしれません。日本の高校生にとってはあまり現実味の無いUCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)に感じます。

U23ネイションズカップ参戦中の日本人選手たちと浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督) photo: CyclismeJapon 
■日本のロードレース界は何をすべきか
今回発表された更なるプロ年齢の早期化を助長する一連の計画は、次の若きスター誕生が期待される一方、正解かどうかの答えが見えない取り組みです。ひとつ我々日本人も知っていることは、早期から追い込んで活躍した選手が、ピークを迎える時期を待たずして燃え尽きてしまったり、故障がきっかけで引退するケースが多いことです。
記憶にあるところ、日本のスポーツ界はこの経験が豊富なはずです。すべてを世界の流れに合わせるのではなく、日本の置かれた特別な現状を踏まえた取り組みが必要であると実感しています。
ジュニアネイションズカップの欧州外開催の充実化や、UCIジュニア育成チームの新設も、我々は常に日本の現状と将来ある選手たちの心身の成長の個別性を見ながら、これらの新制度と付き合ってゆくべきでしょう。
text:浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督)
edit:綾野真(シクロワイアード)
      
  
UCI(世界自転車競技連合)が9月末の総会でU23ネイションズカップの廃止を決定した(発表リリース)。これはU23(=23歳以下)選手の育成経路がワールドツアーの下部組織のチーム等に移行しつつあるという近年の状況変化に対応するための措置で、従来のナショナルチーム主体のU23ネイションズカップシリーズの意義が薄れたためだと思われる。ツール・ド・ラヴニールのような主要大会は残る見込みだが、今後はジュニアのネイションズカップに重点が置かれることになる。
U23のうちからワールドツアーで活躍するような選手が台頭していることもあり、若手選手の育成に関して変革しようとしている世界のロードレース界。その流れにどう対応していくべきなのか、RTLプロジェクトを通して若手育成に尽力する浅田顕さん(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督) による見解を紹介する。

■U23ネイションズカップの廃止について
浅田:2007年シーズンから始まったロードレースのU23国別ワールドカップ=U23ネイションズカップは、国別対抗の育成レースとして欧州各国を中心に年間数多くのレースが開催されていましたが、2025年にはチェコ大会、ポーランド大会、そして決勝戦と言われるツール・ド・ラヴニールの3大会のみとなり、国別対抗シリーズ戦の形を保てなくなり、2025年をもって廃止となりました。
UCIの決定は仕方ないと思います。年々減少しつつあった同シリーズを見てきましたが、U23カテゴリーにおいては、ナショナルチームの活動に頼らない優秀な選手を擁するワールドチームやプロチームの各育成チーム台頭も大きく影響しています。主催者もネイションズカップの冠を外すデメリットよりも、招待できるチームの幅を持てる2クラスや2U(U23限定の2クラス)に移行するメリットを感じての結果かもしれません。

U23ネイションズカップ廃止により影響を受ける国は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、コロンビア、エクアドル、メキシコ、カザフスタン等、欧州外大陸の常連国ではないかと思いますが、もともと欧州活動拠点を有しているので素早い切り替えが行われるでしょう。

さて、日本にとってはどうでしょう。かつてはベルギー大会、フランス大会、オランダ大会、チェコ大会、カナダ大会、イタリア大会と繋ぎ、決勝戦のツール・ド・ラヴニールへという流れがあり、当時はジュニアネイションズカップの経験者と遅咲きの未経験者らの代表チーム構成で転戦を続け、何とか同年代の世界レベルにしがみついてきましたが、代表チームを派遣する連盟の体制が変わった2022年以降は、ほとんどのネイションズカップへの参加が見送られています。そのため今回の廃止に反対する資格はありませんが、日本の優秀なU23選手を代表チームに招聘し、同年代の世界レベルのレースに挑戦できる確実な機会を喪失したことになります。

■これからはジュニア選手育成に重点がおかれる
UCIとしては今後ジュニア選手育成に重点を置く考えを示していますが、その中で2つの大きなアクションを発表しています。
1つ目は、U23ネイションズカップ廃止の代わりに、各大陸でのジュニア男子、ジュニア女子のネイションズカップの充実化と、ジュニア個人ポイントランキング制度の導入です。
現在ジュニアのUCIレースの9割以上は欧州で行われているため、各大陸への拡大は大変な改革になりますが、それにより新たに欧州外から次世代のタレントが発掘されることを願っています。懸念は各大陸で開催されているエリートレース同様、選手層の薄い欧州外レースで、どのようにレースレベルを高めていくかです。昔からの言い伝えのように語り継がれている「強くなりたいならヨーロッパへ行け」というフレーズは、今も正論と言えるでしょう。
そして日本にとっては、国内でのネイションズカップ開催も今後の長いスパンでは重要になると思いますが、今は有望選手を一つでも多く欧州で開催されるネイションズカップへ良い状態で送ることが最重要です。なぜなら、求められる環境づくりには年数がかかりますが、ジュニアカテゴリーを通過する選手の対象期間はたった2年だけですから。
2つ目は、UCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)の新設です。
現在、UCIワールドチームとプロチームの多くはその傘下に育成チームとしてUCIコンチネンタルチームを結成し、活動させています。これはU23からの年齢が対象で、欧州では現在多くのジュニア選手がそこに入ることを目指しているため、U19のチーム体制やレースが激化しています。

最近ではワールドチームがその育成コンチネンタルチームの予備軍としてU19の育成チームも整えはじめ、更には15歳くらいの選手から予備契約を交わしサポートを開始しているケースが見られます。
その「青田買い」の流れを受けて、所属するジュニア選手の拘束力を高めるためにUCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)が新たに設置されることになりました。ワールドチームやプロチームのメリットとしては、早期から有望な選手を獲得、育成指導できることでしょうか。対して、若年層を育成し輩出するクラブチームにとってはデメリットも多く予想されます。

昨今の流れから、プロロードレーサーになるにはジュニアの国際大会で成績を残し、ワールドチームの育成コンチネンタルチームに入ることが主流の道筋になりつつあります。そのため、伝統的な「ジュニア選手に無理をさせない」という考えはどこかへ消え失せ、早期決着を求める流れになっています。
この時期には「U19の◯◯選手が△△の育成チームと契約した」というような話題やニュースが飛び交っていますが、一方で有望に見える選手でも希望叶わず早くからプロを諦める選手の声も聞いています。そしてツール・ド・フランスの国フランスでも、多くのプロ選手を輩出してきた名門クラブチームが活動休止に追い込まれ、また、その予算をもってジュニアチームに対象を下げて選手を集める流れが目立ってきています。
結果、その影響によって今まで頑張ってきた既存のジュニアクラブチームに選手がいなくなり、クラブ自体の活動を終了してしまうという話も耳にしています。底辺を支えてきた伝統ある地域クラブチームの喪失は、ロードレース界の墓場だと私は思っています。
そして今回のUCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)の誕生は、若い選手たちやその取り巻きの先急ぐ姿を更に目にすることになるでしょう。この若年化の体制づくりはスピード感をもって進められるでしょう。しかし未成熟かつ成長時期に個人差のある選手たちの心と身体は、その変化のスピード着いて行けるのでしょうか?。
ここでもう一つ付け加えたいのは、プロ直下一貫体制で、この業界が出現を期待しているであろう選手モデル、ポガチャルやエヴェネプール、デルトロは、果たして彼らは今目指されてるような環境から出てきた選手なのかは疑問です。
そしてこの流れは日本にとってはどうでしょうか?
まだトップの背中が見える位置にいる日本のU19レベルですが、今回の動きでは世界的に強化の早期化が進み、先頭グループが少し遠くに行ってしまうかもしれません。日本の高校生にとってはあまり現実味の無いUCIジュニア育成チーム(Junior Development Teams)に感じます。

■日本のロードレース界は何をすべきか
今回発表された更なるプロ年齢の早期化を助長する一連の計画は、次の若きスター誕生が期待される一方、正解かどうかの答えが見えない取り組みです。ひとつ我々日本人も知っていることは、早期から追い込んで活躍した選手が、ピークを迎える時期を待たずして燃え尽きてしまったり、故障がきっかけで引退するケースが多いことです。
記憶にあるところ、日本のスポーツ界はこの経験が豊富なはずです。すべてを世界の流れに合わせるのではなく、日本の置かれた特別な現状を踏まえた取り組みが必要であると実感しています。
ジュニアネイションズカップの欧州外開催の充実化や、UCIジュニア育成チームの新設も、我々は常に日本の現状と将来ある選手たちの心身の成長の個別性を見ながら、これらの新制度と付き合ってゆくべきでしょう。
text:浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督)
edit:綾野真(シクロワイアード)
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