UCIがU23ネイションズカップを廃止し、ジュニアからの重点強化に舵を切るなど、プロロードレース界はますます若年層からの競技力向上が重要な構造にシフトしている。そのなかで日本は何をすべきか。若手育成に尽力する浅田顕さんに意見を求めた続編。


浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督)とスタッフの市川貴大メカニック photo: CyclismeJapon

浅田 顕(あさだ・あきら):シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督。次世代ロードレーサー輩出プロジェクト「ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)」を通して若手選手育成に尽力している。



まず、前回の記事で書いたことのおさらいをします。

UCIが発表した、更なるプロ年齢の早期化を助長する一連の計画は、次の若きスター誕生が期待される一方、正解かどうかの答えが見えない取り組みです。

ひとつ、我々日本人も知っていることは、早期から追い込んで活躍した選手が、ピークを迎える時期を待たずして燃え尽きてしまったり、故障がきっかけで引退するケースが多いことです。記憶にあるところ、日本のスポーツ界はこの経験が豊富なはずです。すべてを世界の流れに合わせるのではなく、日本の置かれた特別な現状を踏まえた取り組みが必要であると実感しています。

ジュニアネイションズカップの欧州外開催の充実化や、UCIジュニア育成チームの新設も、我々は常に日本の現状と将来ある選手たちの心身の成長の個別性を見ながら、これらの新制度と付き合ってゆくべきでしょう。

上記が前編のなかで私が言いたいことの要旨でした。

ユース&ジュニア世代を集めてのRTAプロジェクト北信州合宿にて photo: CyclismeJapon

■日本のロードレース界は何をすべきか

近年の日本は、2025ルワンダでの世界選手権ロードレースでの超サバイバルレースを除いても、エリートクラスで完走することも容易ではないレベルにあります。また、レベル評価となる欧州レースでの活躍も見られなくなりました。別府史之氏、新城幸也選手がかつてワールドクラスのレースでトップ10入りを果たし、日本のコンチネンタルチームも、日本人選手で何とかしようとヨーロッパに出向いていた頃とは状況が違います。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016で敢闘賞を獲得した別府史之 photo:TDWsport/Kei Tsuji
ツール・ド・フランス2013 シャンゼリゼを日本チャンピオンジャージを着て走る新城幸也 (c)Makoto.AYANO



2010年代前半頃までは、UCIチームの第2ディビジョンであるプロコンチネンタルチーム(現UCIプロチーム)まで上がれば、その先に期待が持てる時代でした。しかし現在は18チームの巨大なワールドチームと、それと同レベルのプロチームしか仲間に入れないのが世界のロードレース界です。この世界に一人でも多くの選手を送り込むことが、日本の当面の課題となっています。

ツール・ド・ラヴニール2025 各賞リーダージャージの選手たちはいずれもワールドツアーの育成チームに所属する photo:Japan Cycling Federation / Sonoko Tanaka

そしてプロ契約までのステップも変わりつつあります。コロナ禍以前までは、突出した天才選手を除き、優秀なトップアマチュア選手らがU23カテゴリーの年齢内にワールドチームまたはプロチームとの契約を目指すことが標準的でした。しかし近年ではU19で成績を残し、ワールドチーム直属の育成コンチネンタルチームと契約する流れになり、更には2026年からは新たにUCIジュニア育成チームの発足で、プロロードレーサーになるための道筋は大きく変わってきました。

この現状を踏まえて、これから日本ロード界がやるべき7つのことを簡潔に挙げてみます。

サイクルロードレースの頂点、ツール・ド・フランス photo:Makoto.AYANO

1. ロードレースの魅力発信でファン獲得
ツール・ド・フランスを筆頭とする世界の自転車ロードレースの魅力を、もっと多くの子供たちに影響力のある形で伝えること。欧州では新たな若年層のツール・ド・フランスファンの獲得に成功しているように見えます。

2. 地域ユースクラブチームを増やす
スポーツタレント発掘の役割をもった地域ユースクラブチームを増やし、競技参入の子供たちの受入体制を作ること。中学生が自転車競技を始めたいと思っても、各地に受け入れ先が無いのが現状です。

畑中勇介選手をトレーニングコーチとして招いてのユース合宿 photo: CyclismeJapon

3. ユース合宿の定期開催
全国のブロック別に地域ユースチームを主幹とするユース合宿を定期的に開催し、世界共通のロードレースの基礎技術や知識、プロロードレーサーへの道筋を知ってもらうこと。同時に実施する比較やテストから可能性のある選手を発掘すること。

食事や栄養と運動の関係を正しく理解することも選手に求められる photo: CyclismeJapon
選手として成長の助けとなる知識を教えていく photo: CyclismeJapon



4. TTやヒルクライムテストでデータを評価
定期的なタイムトライアルテストレースやヒルクライムテストレースの実施により、継続的な成長推移の評価を行い、世界レベルとの比較を行う。またトラック中長距離競技に活動の主軸を置き、数値化できるパフォーマンスやレース技術の向上を図る。

継続的な成長推移の評価ができるタイムトライアルテストは選手のレベルを確認しやすい photo: CyclismeJapon

日本は山岳コースと自転車競技場でのトレーニング環境に恵まれている事は大きな強みです。ここまでが国内で完結出来ることです。しかしロードレースの競技としては、本場の欧州へ行かないと実現できないことがほとんどです。

5. 選抜選手で欧州レースに参戦
各年代カテゴリーの優秀な選手や可能性のある選手を選抜し、欧州レースに参戦する。
学生選手は春休みと夏休みの日程を可能な限り欧州活動につぎ込むべきです。

2025年のUCIレース、ブクル・ド・ロワーズ・ジュニア参戦中の日本人選手たちと浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督) photo: CyclismeJapon

日本のコンチネンタルチームは、1チームで良いので欧州に拠点を構え、日本選手強化のためにできるだけ多くのレースに計画的に参加し、実力向上を図る。当初レースレベルが日本人選手に相応でなければ、勇気を持ってUCIチーム登録を見送り、参加レースレベルを引き下げることも必要です。

6. ナショナルチームの派遣
ナショナルチームは、ジュニアとU23カテゴリーの代表チームをできるだけ多く計画的に派遣し、選出された選手の所属チームは、代表チームへできるだけ良い状態で選手を派遣する。選手だけではなく、優秀なスタッフも派遣し、日本代表チームの活躍に協力する。

7. チャンスある選手の契約サポート
プロ契約に相応しい成績を挙げた選手に対し、関係者は必要に応じてチーム交渉や契約に関するサポートを行う。そのレベルに到達していない選手は、能力向上の可能性があっても時期尚早な昇格は避けるべきです。

以上の7項目が大切だと考えます。
そして、そのような取り組みの中で重要になることがいくつかあります。

まずはこれまで世界のトップレベルを経験した非常に貴重な人材(別府氏や新城選手など)と、彼らのノウハウを十分に生かすことです。そしてあくまでも日本選手の競技力向上を主軸に置くこと、行けるところまで日本人選手と経験のある日本人スタッフ中心で進んでいくことです。

コーチやトレーナー、元選手らが講師となるユース選手対象の講習会を実施 photo: CyclismeJapon

ストレッチや身体のケアについても専門知識を学んでいく photo: CyclismeJapon
鈴木真理氏(宇都宮ブリッツェン監督)に選手時代のノウハウを訊く photo: CyclismeJapon



成長時期やピークを迎える年齢には個人差があります。特に育成カテゴリーでは可能性のある選手に適切な経験を積んでもらうことが最重要で、成績は讃えながらも、常に先を見据えてあげることが大変重要です。この点では昨今のUCIや世界のロードレースでの早期プロ化の流れも理解しつつも、本質を見失わずに進めてゆくべきだと思います。

ツール・ド・フランスで日本人が活躍する日は、また必ず来ます。


text:浅田顕(シクリズムジャポン代表/エキップアサダ監督)
edit:綾野真(シクロワイアード)