宇都宮ジャパンカップに参戦したリドル・トレックへのインタビュー。クリテリウムを制する2日前、チームが今季46勝と過去最高の成績を収めた要因や、2024年シーズンから駆るトレックのマドン SLR9 Gen8について話を聞いた。
資金力アップと結束でつかんだ「46勝」

シーズン歴代最多数をなる46勝をマークしたリドル・トレック photo:CorVos
リドル・トレックは2025年、チーム歴代記録を更新する46勝を挙げた。2023年(27勝)から2024年(42勝)に続き、これで3年連続のチーム最多記録更新となる。その大きな要因は、2023年からドイツの大手スーパーマーケットチェーンであるリドル社がメインスポンサーとなり、チーム資金が増えたこと。
それは2016年からチーム一筋のベテラン、ジュリアン・ベルナール(フランス)も認めている。「予算が増えたことでクオリティの高い選手が増えた。お金があればよりレースに集中する環境が整う」と語りながらも、「だがお金が勝利数に直結するわけではない。みんなで協力し合えたからこその結果だ」と強調した。
しかし、その隣にいた23歳の若手のマティアス・ヴァチェク(チェコ)は「でもサラリー(給料)が僕らのモチベーションに繋がるのは事実」と続ける。また2024年に加入したパトリック・コンラッド(オーストリア)は、「(資金増により)スタッフが増えたこともあるが、このチームは雰囲気が良い。特にスタッフが作り出す良い空気は、選手のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす」とチームの特徴を語った。

インタビューに応じるジュリアン・ベルナール(フランス)とマティアス・ヴァチェク(チェコ) photo:So Isobe
さらにカルロス・ベローナ(スペイン)は、これまで5つのチームを渡り歩いてきた経験を踏まえ、コンラッドの言葉にこう重ねる。「リドル・トレックはチームとしての考え方が明確で、それは結果に繋がっている。また特定の国の出身者が多いチームではなく、国際色豊かな選手構成が、僕が以前いたクイックステップのように協力関係の構築を容易にしているのだと思う」。
プランBに切り替えたジロ6勝目

ジロ・デ・イタリアではステージ6勝をマーク。マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)を中心に勝利を荒稼ぎした photo:RCS Sport
今年のリドル・トレックは、たとえプランAが潰えてもすぐにプランBに切り替え、結果を残した。そのチーム哲学が如実に現れたのが、区間6勝を飾ったジロ・デ・イタリアだろう。マッズ・ピーダスン(デンマーク)を中心に勝利を荒稼ぎしていたチームだったが、ジュリオ・チッコーネ(イタリア)が第14ステージで落車リタイア。山岳決戦を前に総合エースが姿を消したチームは、その翌日にベローナが逃げに乗り、大会6勝目をもたらしたのだ。

ジロ第15ステージで独走勝利を挙げたカルロス・ベローナ(スペイン、リドル・トレック) photo:CorVos 
フィニッシュで待っていた家族と勝利を喜ぶカルロス・ベローナ(スペイン、リドル・トレック) photo:RCS Sport

「プランを切り替えてもなお勝てた。チームの雰囲気と強さがもたらした結果だった」と言うカルロス・ベローナ(スペイン) photo:So Isobe
張本人であるベローナは当時のことをこう語る。「勝者が誰かなんて関係なく、チームとして勝つことが我々に与えられた至上命題だった。だからすぐに新しい目標に向けて気持ちを切り替えることができた」。そしてコンラッドは「チッコーネが去り、ゲームプランが変わっても僕らは地に足をつけ、焦ることはなかった。不運に見舞われても僕らのチームには良い雰囲気が漂い、そして最強であることを示した」と振り返った。
ポガチャル時代とレース難化がもたらすジレンマ
3年で中堅チームから、一気に上位チーム(UCIチームランキング3位)へと上り詰めたリドル・トレック。しかし近年のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)を中心とした独走勝利については、コンラッドが異を唱える。

「近年のレースはどんどん難易度が上がっている」と言うパトリック・コンラッド(オーストリア) photo:So Isobe
「主催者がレースの難易度を上げ、登りを多くしたことも関係しているのだろう。僕の感覚ではレイアウトの難易度がどんどん上がっている。特別な山岳を入れた方が、面白いショーが繰り広げられるからね」。
そこにベルナールは「UCIポイントの重要性が高まってから、レースの動きが減ったと言える。残り50kmでポガチャルがアタックしても、誰も積極的についていこうとしない。見送って力をセーブした方が、より上位でフィニッシュし、確実にUCIポイントを獲得できるからね」と現実を語った。
新型マドンが支える勝利量産
勝利数増加の要因は、決して選手やスタッフ陣の力だけではない。2024年6月から導入されたトレックの最新エアロオールラウンドバイク、マドン SLR9 Gen8の貢献も大きい。ヴァチェクは「よりオールラウンドになった。特にクラシックレースに対応できる性能に驚いた」と言う。

Madone SLR Gen8をアピールするパトリック・コンラッド(オーストリア) photo:So Isobe
登りや平坦路での集団牽引も担うベルナールは「新型への移行で不安だった剛性も十分だ。特に下りでのバイクコントロール性の高さは際立っている」と語り、クライマー寄りのベローナは「登りではエモンダ(軽量バイク)と変わらないぐらいの性能がある。それなのに平坦路では前のモデル(Gen7)の感覚と変わらない」と評価する。
コンラッドはマドン1台体制になったことで、あらゆるレースで「何を乗ればいいかを考えなくていいのは、予想より楽だった」と語る。またベルナールは、完走した今年のブエルタ・ア・エスパーニャで、「ずっと同じセッティングのまま(TTを除く)全ステージの集団牽引が可能だった。変えたのはギヤ比ぐらいだが、そのほとんどをフロント54-41、リア10-36で戦い抜いた。つまりスプリンターや総合エースでなければ、ずっと同じバイクに乗り続けられるんだ」と、そのメリットを語った。
さらにジョナタン・ミラン(イタリア)は、4度目の出場で初完走を果たした石畳のパリ〜ルーベでさえ、「タイヤをグラベル仕様にしただけだった」と明かす。
受け継がれるエースたちの記憶
チームメイトとともにインタビューに答えてくれたミランをはじめ、リドル・トレックにはピーダスンとチッコーネというエースが在籍する。そして2026年からは新たにフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツXRG)が加わり、さらにその戦力は強化される見込みだ。

求められていた総合エースとして加入の決まったフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
これまでのチームではファビアン・カンチェラーラ(スイス)やアルベルト・コンタドール(スペイン)、そして別府史之たちと走ってきたベルナールは、「ファビアンとのミラノ〜サンレモや、一緒に走ったアルベルト最後のブエルタなど、歴代のエースたちと走った記憶は鮮明に覚えている。またフミとは何度も同室になり、彼が流暢なフランス語で話すので、内容まで覚えている」と振り返った。
本人たちが語っていた「雰囲気の良さ」を証明するように、終始仲の良さが伺えたリドル・トレックへのインタビュー。最後に「3日後のジャパンカップのエースは誰か?」と尋ねると、全員が同じタイミングでリアム・オブライエン(アイルランド)を指さした。来年も下部チームで走ることの決まっている20歳のクライマー。常勝チームの視線は、すでに次の世代へ向いている。
資金力アップと結束でつかんだ「46勝」

リドル・トレックは2025年、チーム歴代記録を更新する46勝を挙げた。2023年(27勝)から2024年(42勝)に続き、これで3年連続のチーム最多記録更新となる。その大きな要因は、2023年からドイツの大手スーパーマーケットチェーンであるリドル社がメインスポンサーとなり、チーム資金が増えたこと。
それは2016年からチーム一筋のベテラン、ジュリアン・ベルナール(フランス)も認めている。「予算が増えたことでクオリティの高い選手が増えた。お金があればよりレースに集中する環境が整う」と語りながらも、「だがお金が勝利数に直結するわけではない。みんなで協力し合えたからこその結果だ」と強調した。
しかし、その隣にいた23歳の若手のマティアス・ヴァチェク(チェコ)は「でもサラリー(給料)が僕らのモチベーションに繋がるのは事実」と続ける。また2024年に加入したパトリック・コンラッド(オーストリア)は、「(資金増により)スタッフが増えたこともあるが、このチームは雰囲気が良い。特にスタッフが作り出す良い空気は、選手のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす」とチームの特徴を語った。

さらにカルロス・ベローナ(スペイン)は、これまで5つのチームを渡り歩いてきた経験を踏まえ、コンラッドの言葉にこう重ねる。「リドル・トレックはチームとしての考え方が明確で、それは結果に繋がっている。また特定の国の出身者が多いチームではなく、国際色豊かな選手構成が、僕が以前いたクイックステップのように協力関係の構築を容易にしているのだと思う」。
プランBに切り替えたジロ6勝目

今年のリドル・トレックは、たとえプランAが潰えてもすぐにプランBに切り替え、結果を残した。そのチーム哲学が如実に現れたのが、区間6勝を飾ったジロ・デ・イタリアだろう。マッズ・ピーダスン(デンマーク)を中心に勝利を荒稼ぎしていたチームだったが、ジュリオ・チッコーネ(イタリア)が第14ステージで落車リタイア。山岳決戦を前に総合エースが姿を消したチームは、その翌日にベローナが逃げに乗り、大会6勝目をもたらしたのだ。



張本人であるベローナは当時のことをこう語る。「勝者が誰かなんて関係なく、チームとして勝つことが我々に与えられた至上命題だった。だからすぐに新しい目標に向けて気持ちを切り替えることができた」。そしてコンラッドは「チッコーネが去り、ゲームプランが変わっても僕らは地に足をつけ、焦ることはなかった。不運に見舞われても僕らのチームには良い雰囲気が漂い、そして最強であることを示した」と振り返った。
ポガチャル時代とレース難化がもたらすジレンマ
3年で中堅チームから、一気に上位チーム(UCIチームランキング3位)へと上り詰めたリドル・トレック。しかし近年のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)を中心とした独走勝利については、コンラッドが異を唱える。

「主催者がレースの難易度を上げ、登りを多くしたことも関係しているのだろう。僕の感覚ではレイアウトの難易度がどんどん上がっている。特別な山岳を入れた方が、面白いショーが繰り広げられるからね」。
そこにベルナールは「UCIポイントの重要性が高まってから、レースの動きが減ったと言える。残り50kmでポガチャルがアタックしても、誰も積極的についていこうとしない。見送って力をセーブした方が、より上位でフィニッシュし、確実にUCIポイントを獲得できるからね」と現実を語った。
新型マドンが支える勝利量産
勝利数増加の要因は、決して選手やスタッフ陣の力だけではない。2024年6月から導入されたトレックの最新エアロオールラウンドバイク、マドン SLR9 Gen8の貢献も大きい。ヴァチェクは「よりオールラウンドになった。特にクラシックレースに対応できる性能に驚いた」と言う。

登りや平坦路での集団牽引も担うベルナールは「新型への移行で不安だった剛性も十分だ。特に下りでのバイクコントロール性の高さは際立っている」と語り、クライマー寄りのベローナは「登りではエモンダ(軽量バイク)と変わらないぐらいの性能がある。それなのに平坦路では前のモデル(Gen7)の感覚と変わらない」と評価する。
コンラッドはマドン1台体制になったことで、あらゆるレースで「何を乗ればいいかを考えなくていいのは、予想より楽だった」と語る。またベルナールは、完走した今年のブエルタ・ア・エスパーニャで、「ずっと同じセッティングのまま(TTを除く)全ステージの集団牽引が可能だった。変えたのはギヤ比ぐらいだが、そのほとんどをフロント54-41、リア10-36で戦い抜いた。つまりスプリンターや総合エースでなければ、ずっと同じバイクに乗り続けられるんだ」と、そのメリットを語った。
さらにジョナタン・ミラン(イタリア)は、4度目の出場で初完走を果たした石畳のパリ〜ルーベでさえ、「タイヤをグラベル仕様にしただけだった」と明かす。
受け継がれるエースたちの記憶
チームメイトとともにインタビューに答えてくれたミランをはじめ、リドル・トレックにはピーダスンとチッコーネというエースが在籍する。そして2026年からは新たにフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツXRG)が加わり、さらにその戦力は強化される見込みだ。

これまでのチームではファビアン・カンチェラーラ(スイス)やアルベルト・コンタドール(スペイン)、そして別府史之たちと走ってきたベルナールは、「ファビアンとのミラノ〜サンレモや、一緒に走ったアルベルト最後のブエルタなど、歴代のエースたちと走った記憶は鮮明に覚えている。またフミとは何度も同室になり、彼が流暢なフランス語で話すので、内容まで覚えている」と振り返った。
本人たちが語っていた「雰囲気の良さ」を証明するように、終始仲の良さが伺えたリドル・トレックへのインタビュー。最後に「3日後のジャパンカップのエースは誰か?」と尋ねると、全員が同じタイミングでリアム・オブライエン(アイルランド)を指さした。来年も下部チームで走ることの決まっている20歳のクライマー。常勝チームの視線は、すでに次の世代へ向いている。
text:Sotaro.Arakawa
photo:Makoto AYANO, So Isobe
photo:Makoto AYANO, So Isobe
Amazon.co.jp
セガフレード・ザネッティ デカ クレム カフェポッド 18袋 (カフェインレスコーヒー)
Segafredo Zanetti
Segafredo Zanetti (セガフレード・ザネッティ) インスタント エスプレッソ 1.6g×10P
Segafredo Zanetti