おきなわ市民140kmマスターズに優勝した雑賀大輔(湾岸サイクリング・ユナイテッド)の自筆レポートをお届け。ベテラン揃いでハイレベルな140マスターズは激戦区のひとつ。各レースで勝利経験がある雑賀だが、おきなわでの優勝は初めて。ライバルたちとの駆け引きに冷静に対処できたことが勝因だったようだ。



市民140kmマスターズを制した雑賀大輔(湾岸サイクリング・ユナイテッド)

【自己紹介】
私・雑賀大輔(さいか・だいすけ)は食品関係の仕事をしている2歳児のおとうちゃんライダーです。乗り始めたのはレースに誘われたのがきっかけで、すぐに沼にハマりました。ロードバイク歴は13年ほど。ツール・ド・おきなわへは2013年の初参加から今年で10回目になります。

トレーニングの目的は「ご飯をおいしく食べるため」が半分、「レースを楽しむための脚力維持」が半分。”周りも自分も長く楽しく”がモットーです。千葉の湾岸サイクリング・ユナイテッドというチームに所属しています。

自己紹介やチームのことについては、市民200kmレースのレジェンド松木健治さんによる
MARKEN社のPodcast(Spotify)でお話させていただく機会がありましたので、よろしければお聞きください。他にも有益情報が盛りだくさんですのでぜひ。以上、MARKEN社からの宣伝でした。

【レースまでの練習内容】
じつは今年は出場カテゴリに少し悩みました。子供がまだ小さく、多くの練習時間を確保できないこともあり、勝負ができそうな140kmマスターズを選択しました。

練習は基本的に4本ローラーでのZwiftがほとんどで、外を走るのは週末のどちらか1日。人と走るのが好きなのでZwiftでも外でもソロで走ることはほぼありません。

Zwiftではホビーレーサーなら誰もが知るマツケンさんが設立した、「MARKEN社」というZwiftクラブで定期開催されるグループワークアウトと、同じく超有名クラブである「JETT」のグループライドに参加しています。正直、これらを満遍なくこなしていればそれだけで強くなる、というくらいの素晴らしい練習内容になっています(辛いけど)。
参加者の皆さんとチャットを交わして楽しみつつ、きっついトレーニングも頑張れるのがグループライドの素晴らしいところですね(辛いけど)。

ある日のVO2MAX向上委員会のZwiftワークアウトにて

特に重視している練習は、水曜朝のワークアウトと週末のノンストップ練です。前者は、MARKEN社の「VO2MAX向上委員会」、その名の通りVO2MAX向上を目的としたインターバルトレーニングをMARKEN社員の皆さんと共にこなします。朝5時からスタートし、6時には終わっています、脚が。出勤前に川の向こうから“お迎え”が来る方もいらっしゃるとか。
後者は「td55」と呼ばれる、房総をノンストップで走る練習会です。トイレと給水以外はノンストップ。途中で千切れても待たない緊張感ある練習会で、かれこれ10年以上継続しています。元々は210kmを完走することを目標としていたのですが、最近は参加者のレベルが高まり、「レースよりきつい」「もう捨てていって」「〇ぬ」など歓喜の声が挙がっております。

レース前3ヶ月は、以下の練習内容で40時間/月を目標に。
・約1時間の朝練を平日に3日ほど
・週末どちらかに4時間ほどのノンストップ練
・もう一日はZwiftで2~3時間

実際の練習時間はこのくらいでした。レース当日のCTLは78。
8月:39時間
9月:27時間
10月:38時間

10月は週末の雨続きもあり、レース前3ヶ月で屋外の練習は7回、レースはツール・ド・ふくしまとジャパンカップオープンの2回のみ。練習時間の7~8割はZwiftなので、参加者の中でも実走練習は非常に少ないかもしれません。

ジャパンカップは後で思えば体調を崩しかけていたのですが、中盤で千切れてしまっておきなわに向けて不安を感じていました。ただ、レース前週の練習会で有名クライマーの方々に”かわいがって”いただきつつも後半はそれなりに動けたので、少しだけ自信が戻りました。またこの時に、「プラチナクライマーと力比べしたらだめ」と痛感したのも大きな収穫でした。

ホテルからの美しい空と海。「明日はこの風景を見てる余裕はないだろうな〜...」

【レースの予想】
練習ボリュームが十分とはいえない中、老練なマスターズの皆さんを相手に下手に動くと後半に脚がなくなると予想。レースで走ったことない方も多数いらっしゃるので、展開次第だな、と。Zwiftでよくご一緒する板子佑士さん(soleil de l'est)の登坂力を最も警戒しつつ、総合的に見ると練習仲間の”まこっちさん”こと高橋誠さん(Roppongi Express)が一番のライバルになるかも、と思っていました。

【レース前日】
土曜日入りし、いつものところで昼食。今年はゆし豆腐定食でキメる。消化もよく、身体に優しい食事です。

土曜に沖縄入りして地元食堂でゆし豆腐定食をキメる

Garminに出たパワーデータは3000W超え!空気読んでくれますね
そして試走へ。羽地の登り2本をゆっくり上って、最後に刺激入れでスプリントしたら、3000Wを超えてました(笑)。

夕食はチームメイトの自炊をいただいた後、明日の補給食を用意。6種の白い粉※ をミックスして800kcal分をお湯で溶かしてジェルフラスクへ入れて携帯します。
※6種の白い粉とは:果糖、粉飴、パラチノース、BCAA、クエン酸、食塩
甘いものを取り続けるのが苦手で、季節によって配合調整したいので自作しています。予備にミニ羊羹とジェルを1個(今回は食べず)。

【レース当日~レースまで】
会場で談笑しつつライバルの雰囲気を観察。レース予想を話したり、三味線を弾く人がいたりと、既にマスターズのレースは始まっております。
スタート前に「与那の入り口のコーナーで落車が頻発しているので注意してね」とのお言葉をいただく。こういう一言でリスクが減るので本当に助かります。みんな、ちゃんと話聞こうな。

【レース内容】
スタート前の注意喚起があったので、トンネルから前に出る。与那の登りは路面が濡れており、下がりたくないので前方をキープ。ペースは例年より穏やか。山岳賞は主に牽引してくれた先頭二人のどちらかでどうぞって雰囲気だったのですが、1名飛んでいってしまいました。う〜んこの動き、後のレース展開にも多少影響したかも?

北部へ向かう途中で逃げができていましたが、一人逃げとのことで集団もまだ慌てず。西海岸に出てもペースはゆっくり。ここでまさかのまこっちさんがパンク離脱。今年は調子が良さそうだったので残念過ぎる。

2本目の与那もペースはさほど上がらず。自分はまだ動くつもりはなく、そういう雰囲気を醸し出しておく。
補給所は先頭で入りボトルを2本受け取る。今年は久しぶりに暑いレースなので、水分はかなり意識して取るようにしていました。このあたりで逃げは吸収していたようです。

さあレースが動くのはここから。学校坂でいきなり板子さんが鋭いアタックを繰り出し、これに反応すると二人に。
もう何人か来たら行くつもりでしたが、皆さん集団ステイだったので一旦撤退。
ここから板子さんと二人で行っても、羽地で千切られる未来予想図しかありません。

上り切って2、30人くらい。ここからの長いアップダウンはあまり動きはなく、お互い様子見をしているのか? 若者のレースとは違う雰囲気が漂います。自分から動いて人数を絞りたい気持ちはありつつも、羽地でやり合うことを想像すると動きづらい。皆がそのように考えていたのかもしれません。

そんななか、宮城の関門あたりで郷間さん(Roppongi Express)がすっと抜けていきました。練習仲間なので脚力も動きもよく知っているのですが、そういう動きをするタイプではないのでこのチャレンジは驚きでした。こうなると集団も少し動き始め、慶佐次の補給所で吸収します。

続く有銘の2段坂。誰か行くか、と思ったが動きはありません。ならば、と2段目でジャブを打つも単独に...。前回の上位勢にも動きがなく、不穏な感じ。それとも意外と皆脚がないのか?暑さでやられていたのか?

スローペースに戻り、またも練習仲間の香川さん(Route365)が単独で逃げ始めました。
ここは視界から消えると厄介なので、射程圏内で進行。ちょっとした登りで小宮さん(セマスR新松戸)が自然に前に出ることが多く、元気そうだなと思っていました。

羽地の手前で香川さんを吸収し、勝負へ向かいます。板子さんを警戒して番手に回ろうと動きますが....避けられます。ああ、やっぱここで勝負だよな、と。

自分の脚の残り具合を考えると、下からハイペースは勘弁してくれと思っていました。しかしそれを見透かされたかのように板子さんの凄まじいアタックが!
勢いに圧倒されましたが、追わないと終わると即断し、追走。が、追いついた直後にまたアタックを食らいます。
千切ってやる!という意思を感じるアタック3連発を食らい、たまらず千切れる...。
正直、この時負けたと思いました。

後ろは見ていませんが離れたのはわかっていたので、ここから2位を確保できるか?とペースで踏みました。すると、意外と離れていかない。
もしこれが二人逃げだったら、千切れた途端に失速していたと思います。
タイミング良くトンネル前でチームメイトの声が聞こえたのも力になりました。聞こえる余裕があるうちはまだ踏める!

板子さんも振り返っているから余裕は無いはず。少しづつ差が詰まってきた気がして元気が出てくる。こうなると追うより追われる方が心理的には辛いはず。トンネルを抜けて斜度が上がるところで追いつければ勝てる! ここが勝負の分かれ道だったと思います。

ワークアウトのラスト30秒をイメージして、フルガス!何とか追いつきました。

カウンターを食らいますが、先ほどの勢いはなく、板子さんも限界か?

向こうがもう一度千切りたいのは分かっています。でもこの先は斜度が緩い。申し訳ないけどここは勝負に徹します。とはいえ気を抜くと千切れそう。ギリギリまで詰めていて軽くハスることもありました。意図せずプレッシャーをかけたみたいで、これは申し訳なかったです。お互い限界だったと思います。

後続は離れてバラバラになっているだろうし、最悪追いつかれても困るのは板子さん。ここは引いてくれるだろうという算段はありました。ほぼ板子さんが牽いてくれてピークを過ぎ、下りに入るところで少しだけ板子さんが離れた。そういえば下り苦手なんだっけ...。

全力で踏んで逃げるか?と、もう一度振り返ると一人近付いてきているのが見える。
小宮さんだ!後続から抜け出してきたの!? 二人で追われたらまずい。

スプリントを選択して合流し、小宮さん-自分-板子さんの並びでラストの直線へ。
小宮さんのスプリント力は未知数だけど、追って来て脚が終わっているはず。

市民レース140kmマスターズを制した雑賀大輔(湾岸サイクリング・ユナイテッド) photo:Makoto AYANO

後ろの板子さんの動きに集中。残り1km過ぎて早駆けてしてきたので冷静につき、差し返す。“うっかりフィニッシュ”しないようにゴールラインまで踏み切りました!
フィニッシュはWanganのWポーズで決めました。

そして、表彰台は板子さん(ソレイユ)が2位で、VO2MAX向上委員会ワンツー・フィニッシュとなりました!

市民140kmマスターズを制した雑賀大輔(湾岸サイクリング・ユナイテッド)

【レース展開の反芻】
レースに”たられば”はありませんが、それでも“もし”を考えるなら、

最初のアタックに飛びつかなかったら、
千切られた時に心折れてたら、
チームメイトの応援が無かったら、
追いつく場所を違えてたら、
下りで飛び出していたら、
羽地までにもっと脚を使っていたら、
板子さんと逃げていたら、

どれかひとつでも違っていたら勝てなかったような気がします。

ロードレースって面白いですよね。駆け引き、タイミング、運や流れ、そして判断。それらがうまく噛み合うと脚力で勝る相手に勝てることがある。ライバルが、集団が、何を考えてどのように動くか、どうやったら自分やチームの勝率を上げられるかを考えながら走るのが面白い。そして、それが上手くいって勝てた時が最高にうれしい。

市民レース140kmマスターズ2位の板子佑士(ソレイユ)

今回、脚力は板子さんの方が上だったと思います。リザルトだけ見てもわからないですが、勝敗を分けたのは紙一重で、勝てたのは経験と駆け引きの差だと思います。一度千切られた後に希望が見えてから、どうやったら勝てるかを考えてました、頭に酸素回ってなかったですけど(笑)。
自分としては、スプリントで勝ったわけでも、登りで力比べしたわけでもないんです。それこそ誰も気付かないような細かいこともいっぱいやってましたね。

3位は小宮貴裕(セマスR新松戸) photo:Makoto AYANO

続々フィニッシュする市民レース140kmマスターズの集団 photo:Makoto AYANO

レース後はチームメイト、練習仲間と打ち上げです。なんと練習仲間が最終完走者で、まさかの最初と最後の走者でした。

44歳の誕生日と優勝を祝うケーキをいただき、感激

サプライズでケーキを頂きました
優勝メダルと息子。「おとうちゃん頑張ったで!」



サプライズで優勝と44歳の誕生日を祝うケーキをいただき、感激。一緒に練習してくれた方々ありがとうございます。良い仲間に恵まれて最高です。何よりも妻と息子に感謝です。
息子も喜んでくれました。「おとうちゃん頑張ったで」。

練習仲間が最終完走者。まさかの最初と最後の走者!

【最後に】
おきなわは皆が一年の想いを詰め込んで臨むレースなので特別感があります。優勝や上位を目指すだけのレースではないところも魅力のひとつ。自分も初参加の時がそうでしたが、完走を目標に「競いながらも協力し合う」というロードレースの醍醐味を味わうことのできるレースだと思います。

レース後はチームメイトや練習仲間と打ち上げです

昨年は残念ながら中止となりましたが、直前まで何とか開催しようとする運営の方々の強い熱意を感じましたし、レース中だけでなくレース前後でも地元の方々や子供達からも声をかけてもらえるほどに「ツールド」が地元に根付いていることを実感しました。長く続いているこの大会の歴史、その大切さ、素晴らしさを改めて感じます。

ツールドおきなわが、これからも末長く続いていきますように。

良い仲間に恵まれて最高です

市民レース140kmマスターズ リザルト
1位 雑賀大輔(湾岸サイクリング・ユナイテッド)3:53:22.573
2位 板子佑士(ソレイユ)
3位 小宮貴裕(セマスR新松戸)
4位 亀川泰孝(SUNZOKU)
5位 永瀬勝彬(Roppongi Express)
6位 中村一登(チーム・グランプッチ)

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