昨年は大雨災害でまさかの中止となったツール・ド・おきなわが戻ってくる。空白期間を置いて勢力図は変わったのか? 2年越しの戦いとなる「ホビーレーサーの甲子園」の異名を取る市民レースで栄冠を掴むのはいったい誰だろう。




ホビーレースの最高峰、ツール・ド・おきなわ市民200レース(写真は2022年大会より) photo:Makoto AYANO

ツール・ド・おきなわ市民レース。常夏の沖縄に用意された最高の舞台で、日頃の鍛錬の成果を見せるとき。

そんな夢の舞台が、昨年は沖縄北部を襲った豪雨災害で中止に追い込まれた。前日の土砂崩れを経て全クラス50kmの短縮開催に変更になったうえでなお、降り止まない雨が道路冠水を呼び、コース走行不能の判断となってレースは中止に。選手たちはスタートラインに整列したが、市民レースに対しては号砲は鳴ることがなかった。

2024年大会は、整列を済ませた状態でレース中止を告げられた市民レースの選手たち photo:Makoto AYANO

レース中止に失意の高岡亮寛(Roppongi Express)、井上亮(Magellan Systems Japan)、真鍋晃(EMU SPEED CLUB) photo:Makoto AYANO
スタートしてすぐのチャンピオンレースでは審判がレース中止を説明してストップ photo:Satoru Kato



大会主催者たちの苦渋の選択。それを受け入れた選手たち。あの日に備えて鍛錬を重ねた選手たちの無念は想像に難くない。あれから1年。じつに2年越しのやんばるの大舞台が選手たちを迎える。

当日の天気予報は晴れ。気温は29℃まで上がる夏日の予報になっており、冷え込みの厳しい内地からの参加者にとっては厳しい気候となりそうだ。

今年のここまでのレースをもとに市民200kmレースの有力候補を挙げていこう。

2022年大会では高岡亮寛(Roppong Express)が75kmを独走で逃げ切って勝利した photo:Makoto AYANO

2023年大会。冷たい雨のなか遅れだした高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Makoto AYANO
思い返せば2年前のレースも激しい雨だった。一日中降った冷たい雨で低体温症に見舞われる選手が続出したが、”Mr.ツール・ド・おきなわ” 高岡亮寛(Roppongi Express)もその一人だった。中盤、70kmを残して集団から遅れた高岡は、夢に見た通算8勝目+2度めの3連覇の達成はならず。

しかし48歳を迎えた今年の高岡は好調そのもの。おきなわ通算7勝、2024年はUCIグランフォンド世界選手権45~49歳カテゴリーで世界チャンピオン、2025年の同大会はトップと僅差の2位となり、得意とする長距離ロードレースでは変わらず実力を発揮している。加えて今年が酷暑のレースとなれば実力発揮を阻む要素は見当たらない。

そんな高岡が自身をおいて優勝候補に挙げるのが、井上亮(Magellan Systems Japan)、石井雄悟(MASXSAURUS)、大前翔(Roppongi Express)の3人だ。

2023年大会の市民200kmで悲願だった初優勝を遂げた井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Satoru Kato

2023年おきなわ覇者 井上亮(Magellan Systems Japan)は、トライアスロンもたしなむ41歳のマルチアスリート医師。普段はロードレースに出場しないため調子は測りかねるが、「マグロロケット」と形容される驚異的なフィジカルをもっておきなわに向けてピークを合わせてくることは必至だ。

ツール・ド・ふくしま140グランフォンドでラスト4kmから逃げ切った石井雄悟(MASXSAURUS) photo:Akira Nakatani

そしてここまでのレース結果を見れば、井上以上に優勝候補と言えるのが石井雄悟(MASXSAURUS)だ。今年はMt.富士ヒルクライム主催者選抜での優勝、 ツール・ド・ふくしまグランフォンド140kmでの独走優勝、グランフォンド世界選手権プレ大会となったニセコクラシック男子19-34での優勝と、おきなわと同列の市民レース最高峰大会をすべて制し、乗り込んでくる。懸念材料はおきなわ市民レースの経験不足だけだ。

JBCFシリーズのE1で総合首位に立つ大前翔(Roppongi Express) photo:Satoru Kato

そして愛三工業レーシングの元選手にして引退後、今は趣味としてロードレースを楽しむ大前翔(Roppongi Express)は、今年のニセコクラシックでフィニッシュライン直前で石井雄悟に差されて僅差の2位に。しかしJBCFのE1シリーズで現在総合トップをキープするなど、実力あるロードレース巧者。爆発的なスプリント力もあり、チームメイトの高岡と組めば面白い動きが可能だろう。

2023年大会では最後まで井上亮と争った真鍋晃(EMU SPEED CLUB) photo:Makoto AYANO

また、昨年に続き今年もヒルクライマーが多く出走リストに名を連ねている。2023年は2位だった真鍋晃(EMU SPEED CLUB)は2023富士ヒルチャンプ。そして乗鞍ヒルクライムの優勝者である田中裕士や加藤大貴、中村俊介など、最高のクライマーたちが出揃う。

乗鞍ヒルクライム2025を初制覇した田中裕士 photo:So Isobe

グランフォンドでも実績を積むヒルクライマーの加藤大貴(COW GUMMA) photo:Satoru Kato
番越トンネルへ向かう上りでアタックする中村俊介(Route365) photo:Makoto AYANO



2022年以来コース変更されたままの羽地への登りアプローチ。最終盤の勝負どころの番越(ばんくい)・東江原(あがりえばる)トンネルを越えての頂上から下ってすぐのフィニッシュというコースプロフィールは、スプリント力を持ち合わせないヒルクライマーにとってレースを有利に運べるコースとも言える。

ニセコクラシック男子140km45-49歳で高岡亮寛を下して勝利した松木健治(VC VELOCE) photo:Satoru Kato

そして表彰台常連のベテラン松木健治(VC VELOCE)をはじめ、2024年のニセコクラシック150km優勝の小林亮(soleil de lest) など、スプリント力を武器にする選手にとっては、最後の登りでサバイブして小グループフィニッシュに持ち込むことができれば勝機が見えてくる。

ニセコクラシック2024、150kmクラスでトップフィニッシュした小林亮(soleil de lest) photo:Satoru Kato

経験豊富な選手たちがしのぎを削るおきなわ市民レースだが、どの有力選手にとっても2年間の空白はレース勘の鈍りとなり、足かせとなるだろう。かつ久々に迎える真夏日のレースでは、普段経験が積みにくい補給戦略も勝敗を左右する大きな要因となるだろう。

海岸線の美しい東村を走る市民210kmの選手たち photo:Makoto AYANO

市民レース各クラスの頂点に立つ者は、いったい誰だろう?

「もう一度、やんばるの地に笑顔と走りを取り戻す」。ツール・ド・おきなわ再出発の年に、主催者が改めて掲げるのが、大会テーマの「熱帯の花となれ 風となれ」だ。南国・沖縄の地に根を張り、厳しい環境の中でもしなやかに咲き誇る“熱帯の花”のように。そして、大自然の中を自由に駆け抜ける“風”のように。

この日を目指して練習を重ねてきた選手の皆さんの健闘を祈ります。


text&photo:Makoto AYANO
photo:Satoru KATO

最新ニュース(全ジャンル)