フランスの老舗タイヤブランド、ハッチンソンのフラッグシップロードタイヤ ”BLACKBIRD”。そのラインアップにレースモデル「RACE」が登場した。アンテルマルシェ・ワンティと共に開発したという超軽量レースタイヤのインプレッションをお届けしよう。

ハッチンソン Black Bird Race photo:Makoto AYANO
創業から130年以上という歴史を持つフランスの老舗タイヤブランド、ハッチンソン。近年は長年のタイヤ開発で培った技術とさらなるイノベーションを追求する開発グループ「RACING LAB(レーシングラボ)」を設置し、革新的なプロダクトを生み出している。ロードタイヤのフラッグシップ ”BLACKBIRD” もそのひとつ。「ブラックバード」とは超音速偵察機SR-71の愛称だ。

小林海(マトリックス・パワータグ)の2024全日本選手権ロード優勝バイクにはハッチンソンBLACKBIRDが装着されていた photo:Makoto AYANO
昨年に発表されたBLACKBIRDは日本のマトリックス・パワータグにも供給され、すでに小林海によって2024年全日本選手権ロード優勝のタイトルを獲得している。雨の修善寺・日本CSCという過酷な条件のレースだった。
そんなBLACKBIRDに今春、新たなモデル「RACE」と「ALLSEASON」の2種が加わった。RACEモデルはハッチンソンのタイヤを使用するUCIワールドツアーチーム、アンテルマルシェ・ワンティの開発協力により、プロの要望に応えたハイスペックモデルに仕上がっている。

ハッチンソン Black Bird 手前がRace、奥がAll Season photo:Makoto AYANO
レース専用モデルのBLACKBIRD RACEは、スタンダードモデルを踏襲し、ケーシングとコンパウンドどちらもアップデートすることでレーススペックのタイヤを実現。ウルトラスイフトと名付けられたケーシングは従来モデルよりもゴムを含浸させた布部分の重量を22%、タイヤ中央部の厚みを23%低減。構造は127TPIのケーシングがサイド部分は3層、中央部分は2層、そして耐パンクベルトが中央に備えられている。

トレッド中央部に耐パンクベルトが加えられている (c)ポディウム
コンパウンドも進化しており、マッハトレッド3.0からマッハトレッドアルチメートに。これらのアップデートで転がり抵抗を低減しながらも、相反するグリップ力を向上させたとハッチンソンは言う。さらに耐摩耗性も最適化されており、隙のないタイヤを実現する。
開発の結果、BLACKBIRD RACEはスタンダードモデルよりも10%パワー効率を向上。社内テストでは28mmより30mm幅の方が高効率という結果が出されたという。重量も28mmは前作より17%減の240g、30mmは255gという、TLRタイヤとしては他社のライバルタイヤを大きく凌ぐ軽量化を達成。アンテルマルシェはすでにメインタイヤとして採用してレースを走っている。
今回はそんなハッチンソンの意欲作であるBLACKBIRD RACEとALLSEASONの2種を並行して実走テスト。装着から実走感まで詳細レポートする。本記事ではまずレースモデルのRACEからインプレを紹介する。
BLACKBIRD RACE インプレッション

ハッチンソン Black Bird Race photo:Makoto AYANO
近年のハッチンソンといえば欧州の有力ブランドのなかにあって他社より少々知名度が劣る印象がある。しかし各タイヤブランドのOEM生産も多く手掛けるため、その技術力の高さは業界で広く知られるところ。とくにチューブレスタイヤの先鞭をつけてきたメーカーであり、近年までマヴィックのチューブレスタイヤ製造も手掛けてきた。

手に取ればケーシングやトレッドの薄さがわかる photo:Makoto AYANO 
内幅21mmのホイール装着で実測30mmぴったり photo:Makoto AYANO
テスターの筆者もマヴィックYKSIONタイヤを気に入って使ってきており、前代コンパウンドの「イレブンストーム」のグリップ特性を含めてハッチンソン製タイヤの性能や扱いやすさに感心してきた。チューブレス時代の本格到来となった今、ビード含めタイヤ構造をチューブレスの先駆者マヴィックと共に開発してきたメリットは大きいだろう。
実際、BLACKBIRD RACEをリムに嵌める作業はかつてない容易さだった。「超柔軟」を意味するウルトラスイフトケーシングは非常に柔らかく、かつビードがリムに嵌めやすく、ポンプアップで簡単にビード上げができた。相性が良いはずのマヴィック製ホイール3種(Cosmic SLR、KSYRIUM SL、ALLROAD)、DT SWISS製のホイールの4つのホイールで着脱を試したが、いずれも特筆すべき容易さだった。

公称255gは他社のTLRタイヤの群を抜く軽さ。実測では262g(+7g)だった photo:Makoto AYANO
ネット検索するとCyclingnewsでも同様に「今までのタイヤで最も脱着が簡単にできた」というレビューが上がっていたため、偶然ではなさそうだ。これなら非力な女性や不器用な人でも脱着が簡単だろう。
テストしたのは30C。公称255gという重量は他社のTLRタイヤの群を抜く軽さだ。実測すると262gだった。+7gだがそれでもまだ軽い。
トレッドのしなやかさを手で触るだけで実感するが、その薄さにはちょっとした不安を覚える。しかし耐パンクベルトもトレッドセンターに内蔵されている。実走で使用したホイールはマヴィックCOSMIC SLR32で、リム内幅21mmに30Cタイヤを装着してロングライドを5回、約620kmを乗った。

ハッチンソン Black Bird Raceでロングライドを数本走った photo:Suezou Yamashita
乗り心地は非常にしなやかかつ快適で、30Cらしからぬ高い剛性感やシャープさも同時に備えているのはさすがのレースタイヤ。一方で「もっちり感」は少ない。トレッドの薄さによる変形で、路面の凹凸や荒れ加減もハンドルを通してリニアに伝えてくる。コーナリング中はトレッドが変形してグリップしていることが実感できるのだ。
しかし路面の荒れたギャップでやや変形しすぎる印象もあり、空気圧を見直すことに。
当初は他社の30Cタイヤと共通の3.9気圧程度で乗り込んで性能には満足していたのだが、改めてハッチンソン本国公式サイトの空気圧設定ページを確認すると、「30Cの推奨空気圧は体重60kgで4.5気圧」と書かれていた。それは違和感のあるほど高い数値だった。
アプリなどを用いず、簡単な表組みによる一覧表。そして調整のコツがアドバイスされている程度なのだが、その指示通りに4.5気圧で乗ってみると、ぐっとソリッド感が増し、シャープな乗り味になった。もちろん快適性は比較すれば下がるが、コーナーを攻め込んでいけるグリップ感や安心感は十分にある。転がり抵抗は特別軽くは感じないが、高いグリップ力がありつつ走りは軽い。

30CのBlack Bird Raceは路面状況や凹凸をハンドル越しに伝えてくる photo:Makoto AYANO
体重61kgの筆者の場合、路面状況により4気圧〜4.5気圧を上限にすれば良さそうだと感じた。美味しい空気圧の設定範囲に幅が広くあり、雨中のライドならさらに下げてもグリップを稼げそうだと感じた。ツーリング的な走りなら3.5気圧でも腰砕け感は少ない。
繰り返しになるが、30Cで4.5気圧という推奨空気圧は他社のTLRタイヤとは大きく違う。原因はケーシングの柔らかさゆえか、あるいはトレッドの薄さによるものか。その点は他と違う特異なタイヤと言えそうだ。ちなみに筆者(61kg)のベストは4.3気圧。

ハッチンソン Black Bird Race で西伊豆スカイラインを上った。クライミングの軽さを実感する photo: Suezou Yamashita
規格は最新ETRTO準処かつフックレスリム対応となっている。最近の主流のリム内幅19mm・21mm・24mmのフック有り、25mmフックレスの4種のホイールで装着を試したが、いずれも問題なく、いずれもタイヤ脱着が驚くほどに簡単だった。4種のリム内幅を試した結果から、30cならこれから主流となりそうな内幅23や25mmワイドリムとの相性がベストだと感じた。より空気量が増えることで転がり抵抗が減り、路面追従性も上がり、サイドに「しっかり感」も出てくるだろう。

荒れた路面も走ったがとくに軽量であるがゆえの不安感はなかった photo:Makoto AYANO
重量が他社同等タイヤと比べて群を抜いて軽いタイヤということで、耐久性や耐パンク性には大きな期待をすべきでないだろうが、同社は「耐摩耗性も最適化した」と謳う。600km以上のライドを経て摩耗は目立たず、グリップ力など諸性能にはかなりの満足を感じた。
とくに加速が非常に良く、走りが軽くて速く、急坂の登りで有利。一方で荒れた路面はやや振動を拾いがちだが、それは他のチューブレスタイヤに比較しての話で、路面状況の良いレースなら強力な武器になるタイヤだ。
普段のトレーニングから履きっぱなしでレースに臨むのでなく、レースのために用意した状態の良いホイールとセットで決戦仕様とすることを勧めたい。そのためにも同種のコンパウンドを使ったBLACKBIRDスタンダードモデルとホイールごと使い分けることができればベストだ。(綾野 真/CW編集部)
なお同時並行で状況を分けて使っている高耐久モデルのALLSEASONのインプレッションは追って別記事で紹介する。

ハッチンソン Black Bird Race photo:Makoto AYANO
ハッチンソン Black Bird Race
タイヤタイプ:チューブレスレディ
サイズ:28C、30C
カラー:ブラック
重量:240g(28C)、255g(30C)
価格:13,750円(税込
text&photo:Makoto AYANO

創業から130年以上という歴史を持つフランスの老舗タイヤブランド、ハッチンソン。近年は長年のタイヤ開発で培った技術とさらなるイノベーションを追求する開発グループ「RACING LAB(レーシングラボ)」を設置し、革新的なプロダクトを生み出している。ロードタイヤのフラッグシップ ”BLACKBIRD” もそのひとつ。「ブラックバード」とは超音速偵察機SR-71の愛称だ。

昨年に発表されたBLACKBIRDは日本のマトリックス・パワータグにも供給され、すでに小林海によって2024年全日本選手権ロード優勝のタイトルを獲得している。雨の修善寺・日本CSCという過酷な条件のレースだった。
そんなBLACKBIRDに今春、新たなモデル「RACE」と「ALLSEASON」の2種が加わった。RACEモデルはハッチンソンのタイヤを使用するUCIワールドツアーチーム、アンテルマルシェ・ワンティの開発協力により、プロの要望に応えたハイスペックモデルに仕上がっている。

レース専用モデルのBLACKBIRD RACEは、スタンダードモデルを踏襲し、ケーシングとコンパウンドどちらもアップデートすることでレーススペックのタイヤを実現。ウルトラスイフトと名付けられたケーシングは従来モデルよりもゴムを含浸させた布部分の重量を22%、タイヤ中央部の厚みを23%低減。構造は127TPIのケーシングがサイド部分は3層、中央部分は2層、そして耐パンクベルトが中央に備えられている。

コンパウンドも進化しており、マッハトレッド3.0からマッハトレッドアルチメートに。これらのアップデートで転がり抵抗を低減しながらも、相反するグリップ力を向上させたとハッチンソンは言う。さらに耐摩耗性も最適化されており、隙のないタイヤを実現する。
開発の結果、BLACKBIRD RACEはスタンダードモデルよりも10%パワー効率を向上。社内テストでは28mmより30mm幅の方が高効率という結果が出されたという。重量も28mmは前作より17%減の240g、30mmは255gという、TLRタイヤとしては他社のライバルタイヤを大きく凌ぐ軽量化を達成。アンテルマルシェはすでにメインタイヤとして採用してレースを走っている。
今回はそんなハッチンソンの意欲作であるBLACKBIRD RACEとALLSEASONの2種を並行して実走テスト。装着から実走感まで詳細レポートする。本記事ではまずレースモデルのRACEからインプレを紹介する。
BLACKBIRD RACE インプレッション

近年のハッチンソンといえば欧州の有力ブランドのなかにあって他社より少々知名度が劣る印象がある。しかし各タイヤブランドのOEM生産も多く手掛けるため、その技術力の高さは業界で広く知られるところ。とくにチューブレスタイヤの先鞭をつけてきたメーカーであり、近年までマヴィックのチューブレスタイヤ製造も手掛けてきた。


テスターの筆者もマヴィックYKSIONタイヤを気に入って使ってきており、前代コンパウンドの「イレブンストーム」のグリップ特性を含めてハッチンソン製タイヤの性能や扱いやすさに感心してきた。チューブレス時代の本格到来となった今、ビード含めタイヤ構造をチューブレスの先駆者マヴィックと共に開発してきたメリットは大きいだろう。
実際、BLACKBIRD RACEをリムに嵌める作業はかつてない容易さだった。「超柔軟」を意味するウルトラスイフトケーシングは非常に柔らかく、かつビードがリムに嵌めやすく、ポンプアップで簡単にビード上げができた。相性が良いはずのマヴィック製ホイール3種(Cosmic SLR、KSYRIUM SL、ALLROAD)、DT SWISS製のホイールの4つのホイールで着脱を試したが、いずれも特筆すべき容易さだった。

ネット検索するとCyclingnewsでも同様に「今までのタイヤで最も脱着が簡単にできた」というレビューが上がっていたため、偶然ではなさそうだ。これなら非力な女性や不器用な人でも脱着が簡単だろう。
テストしたのは30C。公称255gという重量は他社のTLRタイヤの群を抜く軽さだ。実測すると262gだった。+7gだがそれでもまだ軽い。
トレッドのしなやかさを手で触るだけで実感するが、その薄さにはちょっとした不安を覚える。しかし耐パンクベルトもトレッドセンターに内蔵されている。実走で使用したホイールはマヴィックCOSMIC SLR32で、リム内幅21mmに30Cタイヤを装着してロングライドを5回、約620kmを乗った。

乗り心地は非常にしなやかかつ快適で、30Cらしからぬ高い剛性感やシャープさも同時に備えているのはさすがのレースタイヤ。一方で「もっちり感」は少ない。トレッドの薄さによる変形で、路面の凹凸や荒れ加減もハンドルを通してリニアに伝えてくる。コーナリング中はトレッドが変形してグリップしていることが実感できるのだ。
しかし路面の荒れたギャップでやや変形しすぎる印象もあり、空気圧を見直すことに。
当初は他社の30Cタイヤと共通の3.9気圧程度で乗り込んで性能には満足していたのだが、改めてハッチンソン本国公式サイトの空気圧設定ページを確認すると、「30Cの推奨空気圧は体重60kgで4.5気圧」と書かれていた。それは違和感のあるほど高い数値だった。
アプリなどを用いず、簡単な表組みによる一覧表。そして調整のコツがアドバイスされている程度なのだが、その指示通りに4.5気圧で乗ってみると、ぐっとソリッド感が増し、シャープな乗り味になった。もちろん快適性は比較すれば下がるが、コーナーを攻め込んでいけるグリップ感や安心感は十分にある。転がり抵抗は特別軽くは感じないが、高いグリップ力がありつつ走りは軽い。

体重61kgの筆者の場合、路面状況により4気圧〜4.5気圧を上限にすれば良さそうだと感じた。美味しい空気圧の設定範囲に幅が広くあり、雨中のライドならさらに下げてもグリップを稼げそうだと感じた。ツーリング的な走りなら3.5気圧でも腰砕け感は少ない。
繰り返しになるが、30Cで4.5気圧という推奨空気圧は他社のTLRタイヤとは大きく違う。原因はケーシングの柔らかさゆえか、あるいはトレッドの薄さによるものか。その点は他と違う特異なタイヤと言えそうだ。ちなみに筆者(61kg)のベストは4.3気圧。

規格は最新ETRTO準処かつフックレスリム対応となっている。最近の主流のリム内幅19mm・21mm・24mmのフック有り、25mmフックレスの4種のホイールで装着を試したが、いずれも問題なく、いずれもタイヤ脱着が驚くほどに簡単だった。4種のリム内幅を試した結果から、30cならこれから主流となりそうな内幅23や25mmワイドリムとの相性がベストだと感じた。より空気量が増えることで転がり抵抗が減り、路面追従性も上がり、サイドに「しっかり感」も出てくるだろう。

重量が他社同等タイヤと比べて群を抜いて軽いタイヤということで、耐久性や耐パンク性には大きな期待をすべきでないだろうが、同社は「耐摩耗性も最適化した」と謳う。600km以上のライドを経て摩耗は目立たず、グリップ力など諸性能にはかなりの満足を感じた。
とくに加速が非常に良く、走りが軽くて速く、急坂の登りで有利。一方で荒れた路面はやや振動を拾いがちだが、それは他のチューブレスタイヤに比較しての話で、路面状況の良いレースなら強力な武器になるタイヤだ。
普段のトレーニングから履きっぱなしでレースに臨むのでなく、レースのために用意した状態の良いホイールとセットで決戦仕様とすることを勧めたい。そのためにも同種のコンパウンドを使ったBLACKBIRDスタンダードモデルとホイールごと使い分けることができればベストだ。(綾野 真/CW編集部)
なお同時並行で状況を分けて使っている高耐久モデルのALLSEASONのインプレッションは追って別記事で紹介する。

ハッチンソン Black Bird Race
タイヤタイプ:チューブレスレディ
サイズ:28C、30C
カラー:ブラック
重量:240g(28C)、255g(30C)
価格:13,750円(税込
text&photo:Makoto AYANO
Amazon.co.jp