ツーリングタイヤの金字塔として名高いシュワルベのMarathon(マラソン)。40年以上の歴史を誇る耐久性、耐摩耗性に優れるタイヤを紹介しよう。



今もシュワルベの中核プロダクトとして愛されるMarathonシリーズ。2024年のユーロバイクにて (c)Schwalbe

自転車旅行を楽しむ世界中のサイクリストから愛されるツーリング系タイヤ、シュワルベのMarathon。圧倒的な耐パンク性能と耐摩耗性を備え、長距離を走るサイクリストのド定番だ。

スポーツバイクタイヤとして知名度が高いタイヤだが、開発がスタートした背景は日常使いする自転車を取り巻く環境に影響されている。1950年代から60年代にかけて自転車は経済的に恵まれない人々の乗り物とされ「工場廃棄物のかたまり」と揶揄されるほどで、タイヤの品質も低く「リムにつける雑巾」と呼ばれるほどパンクが絶えない状況だったという。

Marathonタイヤが登場する以前はタイヤへの信頼性が著しく低かったという (c)Schwalbe
ウルフギャング・ライヒからボール社(シュワルベ)に宛てたサポート依頼の書簡も残っている (c)Schwalbe



時代は下り70年代に入るとヨーロッパではサイクリング文化が醸成し始め、通勤や自然を楽しむためのアクティビティとして自転車を利用し始めた。しかし、タイヤ品質はサイクリングユースには適しておらず、パンクのリスクは付き纏い続けており、そこにシュワルベの創業者ラルフ・ボールが注目し、自転車用タイヤブランドを立ち上げた。

ボール氏の自宅地下で少人数で創業したシュワルベが自転車用タイヤの耐久性向上に取り組み始めた1981年、同時期に世界自転車旅行のために信頼できるタイヤを探していたウルフギャング・ライヒへのサポートも行うことに。彼へのタイヤ供給は開発にとっても絶好の機会でもあり、シュワルベは旅行先のライヒに試作品を届けるほど。

シュワルベのタイヤと共に世界一周旅行に挑戦するウルフギャング・ライヒ (c)Schwalbe
ライヒの世界一周の旅程では各大陸の各地を巡っているのがわかる (c)Schwalbe


使用したレポートと共にカットサンプルを提出し開発に協力した (c)Schwalbe
ウルフギャング・ライヒはシュワルベの試作品を試しながら世界旅行にチャレンジした (c)Schwalbe



ライヒも実地テストを行ったタイヤの摩耗状況を細かく記録し、レポートとともにタイヤのカットサンプルをシュワルベに提出。そのフィードバックをもとにシュワルベはコンパウンドやケーシング、ビードワイヤーの開発を進め、ライヒが求める8,000km〜10,000km持続するタイヤの実現を目指した。最終的にはインドからドイツまで15,500kmを走破に至る。

そしてシュワルベのMarathonが完成。ライヒがテストを行ったのは4年間。32カ国、73,000kmを超える距離を走破した。そしてMarathonという名前は、ライヒがインドネシア滞在中に届けられた試作品の名前であり、実際に使った彼が42,000kmも走れるのではないかと感じた頃から採用された。

旅の途中にシュワルベは試作品を届けるなど徹底してサポート&開発を行った。写真は35,000km地点にて (c)Schwalbe
最終的には73,000km以上もの距離を走り切ったウルフギャング・ライヒ (c)Schwalbe
Marathonは耐久性が話題を呼びヒット作となった (c)Schwalbe



壮大な旅で誕生したMarathonは1983年に販売が始まった。20マルクという価格設定は当時のタイヤとしては高価なものでラルフ・ボールは売れ行きを心配したが、それは杞憂に終わるどころか、学生にまで多く購入された。さらに1985年にはIFMA展示会でMarathonの高耐久性の評判は広がり、その後店の前には行列ができたという。

2023年で40年目を迎えたロングセラーのMarathonは、これまでに5度のアップデートを経て、現在は6世代目へと進化している。また、この40年の歴史の中で様々な派生モデルも誕生した。これにより、速く走りたいツーリストや極地を走る冒険者など、あらゆる状況に対応できるシリーズが完成されている。これが人々に愛され続ける理由の一つだ。