2023/12/30(土) - 18:40
ポガチャルを下し、ヴィンゲゴーが2連覇を達成した2023年のツール・ド・フランス。メーダーの死去やファンデルプールの世界一、クスによってユンボ・ヴィスマが全グランツール総合優勝を達成したブエルタなど、2023年海外レース下半期を振り返ります。
ツアー・ダウンアンダーからジロ・デ・イタリアまでをまとめた前編はこちらから。
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マイヨジョーヌを攻めの走りでキープしたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)の逆転総合優勝で5月のジロ・デ・イタリアが幕を下ろし、自転車界は世界最大のレース「ツール・ド・フランス」に向けて動き出す。その前哨戦でクリテリウム・デュ・ドーフィネは、昨年より不調に喘ぐジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)の復活勝利などもありながら、高地合宿を経たヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)が区間2勝と共に総合優勝に輝いた。
しかしもう一つの前哨戦であるツール・ド・スイスで悲痛な事件が発生した。総合優勝したのは23歳のデンマーク王者であるマティアス・スケルモース(リドル・トレック)。しかし大会5日目の最終山岳の下りで、ジーノ・メーダー(スイス、バーレーン・ヴィクトリアス)が落車。懸命の治療もむなしく、搬送先の病院でメーダーの死亡が確認された。享年26歳。
フィリプセンやバーレーンの活躍目立ったツール
そしてスペイン・バスク州ビルバオで第110回ツール・ド・フランスが開幕。その後はフランスの南西から5大山脈を通過しながら北東に向かい、パリ・シャンゼリゼでフィニッシュする全21ステージで争われた。
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双子対決を制したアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
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ハットトリックを達成したヤスペル・フィリプセン photo:CorVos 
表彰式で涙を流したマテイ・モホリッチ photo:CorVos
初日からサイモン・イェーツ(ジェイコ・アルウラー)との双子対決をアダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)が制する、白熱の戦いで大会は幕開け。しかし第1週目の主役となったのは3つのスプリントステージで勝利したヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)だった。某ドキュメント番組で”ディザスター”という異名が広まったフィリプセンは第2週目にも1勝を積み重ね、自身初となるマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得した。
ヴィクトル・ラフェ(フランス、コフィディス)やカルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)ら若手が区間優勝という形で才能を開花。またバーレーン・ヴィクトリアスはペリョ・ビルバオ、ワウト・プールス、マテイ・モホリッチの3名が、亡きチームメイトであるメーダーへの想いを勝利という形で届けた。
2度のバッドデイに泣いたポガチャル
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第6ステージを制したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
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第16ステージの個人TTで勝利したヴィンゲゴー photo:So Isobe 
第17ステージで再び遅れを喫したポガチャル photo:CorVos
総合争いは昨年同様、ヴィンゲゴーとタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)という2人の戦いに。第5ステージのバッドデイにより1分近くタイムを失ったポガチャルだったが、第6ステージで区間優勝してタイムを取り戻す。しかし第17ステージの超級山岳ラ・ロズ峠でポガチャルは再び遅れを喫し、ヴィンゲゴーが総合2連覇を大きく引き寄せた。
ポガチャルは第20ステージでも勝利を飾ったものの、総合争いでは2度の遅れが響き、第6ステージからマイヨジョーヌを着続けたヴィンゲゴーがパリ・シャンゼリゼで総合2連覇を達成。2020年大会の第13ステージから途切れることなくマイヨブラン(ヤングライダー賞ジャージ)を着続けたポガチャルだったが、その最終年となる今大会も悔しい結果となった。
またシクロワイアードとしては20年以上に渡りツール取材をしてきた編集長・綾野に代わり、編集部員の磯部がツール初取材を敢行。特に機材面から大会に新たな視点を加えた。
世界選はエヴェネプール、ファンデルプールがそれぞれ初制覇
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ガンナのトップタイムを更新したレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos
トラックやMTBなどあらゆる自転車競技の世界選手権が同時期に開催されたUCI自転車世界選手権大会。スコットランド・グラスゴーを舞台とした初の試みで、個人タイムトライアルはレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が悲願の初制覇。昨年はロード世界一に輝いたエヴェネプールが、今年はTTのアルカンシエルを獲得する偉業をやってのけた。
またレース直後のポガチャルが「最後の2周回は余計だった」とUCI(国際自転車競技連合)会長に直接訴えるほど過酷なコースとなったロードレースは、ラスト22kmから独走に持ち込んだマチュー・ファンデルプール(オランダ)が優勝。ライバルのワウト・ファンアールト(ベルギー) とポガチャルを下し、祖父のレイモン・プリドールや父アドリが着用できなかったアルカンシエルに袖を通した。
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悲願となるアルカンシエルを掴み取ったマチュー・ファンデルプール(オランダ) photo:CorVos
ユンボが制圧し、クスが初制覇したブエルタ
エヴェネプールがサンセバスチャン・クラシコア2連覇し、その勢いのままに臨んだブエルタ・ア・エスパーニャ。コロナ感染でジロを途中棄権したエヴェネプールは、大会最初の山頂フィニッシュ(第3ステージ)でジロ覇者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)とヴィンゲゴーを揃えるユンボ勢を撃破。大会序盤にして早くもマイヨロホを着用し、総合2連覇に向け最高の滑り出しを見せた。
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3日目にして勝利を掴んだレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos 
マイヨロホを着て第1週目の最終日を迎えたセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
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霧のアングリルで勝利したログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
しかしユンボ3人目の総合エースであるセップ・クス(アメリカ)による第6ステージ逃げ切り勝利を皮切りに、ユンボ・ヴィスマのチーム力が本大会をドミネートすることになる。ログリッチが第8ステージを制し、ヴィンゲゴーが区間優勝した第13ステージの山岳でエヴェネプールが失速。総合タイムを約27分も失ったエヴェネプールだったが、翌日に逃げ切りから復活勝利。また第18ステージでも制して区間3勝とその強さを見せつけた。
超級山岳アングリルが登場した第17ステージは総合首位のクスを、最終山岳でログリッチとヴィンゲゴーが置き去りにするシーンもありながら、結果的にクスはマイヨロホの死守に成功。ジロとツールを山岳アシストとして完走したクスが総合優勝を飾り、2位にヴィンゲゴー、3位にログリッチと総合表彰台をユンボが独占。そのためチームは史上初となる全グランツールでの総合優勝を達成した。
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総合トップスリーを独占したヴィンゲゴーとクス、ログリッチ photo:CorVos
イル・ロンバルディアでポガチャルが3連覇
2023年のモニュメント(5大クラシック)の最後、そしてティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)の引退レースとなったイル・ロンバルディア。コモからベルガモに向かう伝統的なレイアウトで争われたレースは、ポガチャルが下りでログリッチらライバルたちを振り切り3連覇を達成。ツール総合優勝は逃したものの、ポガチャルはUCIポイントランキングでも3連覇し、UAEにチームランキング初制覇をもたらした。
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イル・ロンバルディア2023表彰台:2位バジオーリ、1位ポガチャル、3位ログリッチ photo:CorVos
他にもマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)のツール途中棄権からの現役続行やスーダル・クイックステップとユンボ・ヴィスマの合併問題(結果破談に)など、ストーブリーグも話題に事欠かないニュースの多い一年となった。
ツアー・ダウンアンダーからジロ・デ・イタリアまでをまとめた前編はこちらから。
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プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)の逆転総合優勝で5月のジロ・デ・イタリアが幕を下ろし、自転車界は世界最大のレース「ツール・ド・フランス」に向けて動き出す。その前哨戦でクリテリウム・デュ・ドーフィネは、昨年より不調に喘ぐジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)の復活勝利などもありながら、高地合宿を経たヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)が区間2勝と共に総合優勝に輝いた。
しかしもう一つの前哨戦であるツール・ド・スイスで悲痛な事件が発生した。総合優勝したのは23歳のデンマーク王者であるマティアス・スケルモース(リドル・トレック)。しかし大会5日目の最終山岳の下りで、ジーノ・メーダー(スイス、バーレーン・ヴィクトリアス)が落車。懸命の治療もむなしく、搬送先の病院でメーダーの死亡が確認された。享年26歳。
フィリプセンやバーレーンの活躍目立ったツール
そしてスペイン・バスク州ビルバオで第110回ツール・ド・フランスが開幕。その後はフランスの南西から5大山脈を通過しながら北東に向かい、パリ・シャンゼリゼでフィニッシュする全21ステージで争われた。
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初日からサイモン・イェーツ(ジェイコ・アルウラー)との双子対決をアダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)が制する、白熱の戦いで大会は幕開け。しかし第1週目の主役となったのは3つのスプリントステージで勝利したヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)だった。某ドキュメント番組で”ディザスター”という異名が広まったフィリプセンは第2週目にも1勝を積み重ね、自身初となるマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得した。
ヴィクトル・ラフェ(フランス、コフィディス)やカルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)ら若手が区間優勝という形で才能を開花。またバーレーン・ヴィクトリアスはペリョ・ビルバオ、ワウト・プールス、マテイ・モホリッチの3名が、亡きチームメイトであるメーダーへの想いを勝利という形で届けた。
2度のバッドデイに泣いたポガチャル
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総合争いは昨年同様、ヴィンゲゴーとタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)という2人の戦いに。第5ステージのバッドデイにより1分近くタイムを失ったポガチャルだったが、第6ステージで区間優勝してタイムを取り戻す。しかし第17ステージの超級山岳ラ・ロズ峠でポガチャルは再び遅れを喫し、ヴィンゲゴーが総合2連覇を大きく引き寄せた。
ポガチャルは第20ステージでも勝利を飾ったものの、総合争いでは2度の遅れが響き、第6ステージからマイヨジョーヌを着続けたヴィンゲゴーがパリ・シャンゼリゼで総合2連覇を達成。2020年大会の第13ステージから途切れることなくマイヨブラン(ヤングライダー賞ジャージ)を着続けたポガチャルだったが、その最終年となる今大会も悔しい結果となった。
またシクロワイアードとしては20年以上に渡りツール取材をしてきた編集長・綾野に代わり、編集部員の磯部がツール初取材を敢行。特に機材面から大会に新たな視点を加えた。
世界選はエヴェネプール、ファンデルプールがそれぞれ初制覇
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トラックやMTBなどあらゆる自転車競技の世界選手権が同時期に開催されたUCI自転車世界選手権大会。スコットランド・グラスゴーを舞台とした初の試みで、個人タイムトライアルはレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が悲願の初制覇。昨年はロード世界一に輝いたエヴェネプールが、今年はTTのアルカンシエルを獲得する偉業をやってのけた。
またレース直後のポガチャルが「最後の2周回は余計だった」とUCI(国際自転車競技連合)会長に直接訴えるほど過酷なコースとなったロードレースは、ラスト22kmから独走に持ち込んだマチュー・ファンデルプール(オランダ)が優勝。ライバルのワウト・ファンアールト(ベルギー) とポガチャルを下し、祖父のレイモン・プリドールや父アドリが着用できなかったアルカンシエルに袖を通した。
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ユンボが制圧し、クスが初制覇したブエルタ
エヴェネプールがサンセバスチャン・クラシコア2連覇し、その勢いのままに臨んだブエルタ・ア・エスパーニャ。コロナ感染でジロを途中棄権したエヴェネプールは、大会最初の山頂フィニッシュ(第3ステージ)でジロ覇者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)とヴィンゲゴーを揃えるユンボ勢を撃破。大会序盤にして早くもマイヨロホを着用し、総合2連覇に向け最高の滑り出しを見せた。
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しかしユンボ3人目の総合エースであるセップ・クス(アメリカ)による第6ステージ逃げ切り勝利を皮切りに、ユンボ・ヴィスマのチーム力が本大会をドミネートすることになる。ログリッチが第8ステージを制し、ヴィンゲゴーが区間優勝した第13ステージの山岳でエヴェネプールが失速。総合タイムを約27分も失ったエヴェネプールだったが、翌日に逃げ切りから復活勝利。また第18ステージでも制して区間3勝とその強さを見せつけた。
超級山岳アングリルが登場した第17ステージは総合首位のクスを、最終山岳でログリッチとヴィンゲゴーが置き去りにするシーンもありながら、結果的にクスはマイヨロホの死守に成功。ジロとツールを山岳アシストとして完走したクスが総合優勝を飾り、2位にヴィンゲゴー、3位にログリッチと総合表彰台をユンボが独占。そのためチームは史上初となる全グランツールでの総合優勝を達成した。
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イル・ロンバルディアでポガチャルが3連覇
2023年のモニュメント(5大クラシック)の最後、そしてティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)の引退レースとなったイル・ロンバルディア。コモからベルガモに向かう伝統的なレイアウトで争われたレースは、ポガチャルが下りでログリッチらライバルたちを振り切り3連覇を達成。ツール総合優勝は逃したものの、ポガチャルはUCIポイントランキングでも3連覇し、UAEにチームランキング初制覇をもたらした。
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他にもマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)のツール途中棄権からの現役続行やスーダル・クイックステップとユンボ・ヴィスマの合併問題(結果破談に)など、ストーブリーグも話題に事欠かないニュースの多い一年となった。
2023年シーズン男子ロード 下半期海外主要レース結果
6月4-11日 | クリテリウム・デュ・ドーフィネ | 総合優勝:ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) |
6月11-18日 | ツール・ド・スイス | 総合優勝:マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) |
7月1-23日 | ツール・ド・フランス | 総合優勝:ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) |
7月29日 | ドノスティア・サンセバスチャン・クラシコア | レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) |
8月6日 | ロード世界選手権ロードレース | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) |
8月11日 | ロード世界選手権個人タイムトライアル | レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) |
8月26日-9月17日 | ブエルタ・ア・エスパーニャ | 総合優勝:セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) |
10月7日 | イル・ロンバルディア | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) |
text:Sotaro.Arakawa
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