ビアンキの誇る軽量オールラウンダー"Specialissima RC"をインプレッション。最新世代のレーシングバイクの必須要素となったエアロ性能を強化し、全方位で活躍する高性能バイクとして進化した、ビアンキ渾身の一台の実力を問う。



ビアンキ SPECIALISSIMA RC

世界最古の自転車ブランドとして知られるビアンキが、2016年に創業130周年を記念してリリースしたSpecialissima。トラディショナルなフレームワークを採用した軽量モデルとして、ヒルクライマーを中心に高い人気を得た初代、そして2021年にはディスクブレーキ専用設計に加え、エアロダイナミクスを考慮したモダンレーシングバイクとなった二代目へと、進化しつづけてきた。

そして今年、ビアンキはSpecialissimaを第三世代へとフルモデルチェンジ。軽量クライミングバイクとしての性格を前面に押し出してきたこれまでのモデルから脱皮し、高速化するレースシーンに適応する最先端のオールラウンドレーサーとして大きな変貌を遂げた。

新型Specialissimaに大きく影響を与えたのは、先だって発表されたOltre RCの存在だ。空力に比重を置きつつも汎用性の高いレーシングバイクという位置づけであったOltre XR4に対し、新型のOltre RCは独創的な専用コックピットやエアロディフューザーといった先鋭的な設計を盛り込んだ"エアロハイパーバイク"へと姿を変えた。

ヘッドチューブは前後のボリュームを出すことで空力性能を向上させた
OLTREからインスパイアを受けたというヘッドチューブ
シンプルなストレートフォーク。軽量オールラウンダーらしいデザインだ



結果として、エアロでありながら万能であったOltre XR4と軽量性に特化したSpecialissimaというビアンキのラインアップは新世代にあっては変化し、エアロを追求したOltre RCと軽さとエアロダイナミクスを高次元で融合したSpecialissima RC、というコンビネーションへと姿を変えることに。

全体として想定速度域が高まったラインアップの変化となるが、年々高速化するレースシーンのトレンドに対応するための刷新であることは想像に難くない。そして、この変化はSpecialissimaの活躍の場を大きく広げることとなった。

斜度が大きくなれば軽量性のアドバンテージが大きくなり、平坦であればエアロダイナミクスがものをいう。前世代のSpecialissimaとOltre XR4では、8.8%以上の勾配があれば、Specialissimaが有利であったという。そして、新世代のSpecialissima RCとOltre RCにおいて、その境界線は"6%"まで引き下げられた。

複雑な形状に仕上げられたトップチューブ
美しくグラデーションするペイントも魅力の一つ



細身のシートステーが軽量化に貢献
レパルトコルセ製のカーボンサドルがアセンブルされる



これはひとえにSpecialissimaがより軽く、よりエアロになったから。以前よりも複雑なラインを描くフレームは、Oltre RCの開発で得た知見を反映させた結果だ。特に大きな役割を果たすのが、空力向上に効果的なフレーム前方のエリア。

Specialissima RCでは、ヘッドチューブに前後のボリュームを持たせることでより効率的にフォークをフレームと統合し、空力特性を大幅に向上させている。さらにシートポストもカムテール形状とされ、足回りで生まれる乱流を整える効果を発揮するという。

この結果、斜度6%、10kmの登りを体重60kgのアスリートが200Wで走った場合は旧モデルよりも8.7秒速く、10kmの平地であればその差は31.19秒まで拡大する。6%の登りを30km/hで走れるプロレベルのクライマーに対しては、3.6Wのパワーセーブを約束するという。

33mmハイトのレパルトコルセ 33R ホイール
片方がJベンド、片方がストレートスポークとなる



大きく空力性能を向上させた新型Specialissima RCが、完成車重量で6.6kgに仕上げられていることは特筆に値するだろう。ペダルやボトルケージなどを装着した状態でUCI規定の6.8kgをちょうど満たすであろう数値は、レーシングバイクとして一つの限界を達成したと言えるだろう。

一方で、ただ重量を削ぎ落したわけではなく、プロユースの剛性レベルを担保しているとも。並み居るライバルブランドのハイエンドバイクに勝るとも劣らない重量剛性比を実現しており、絶対的な質量の軽さに加え、優れた反応性をも獲得した。

軽量性を司るのはフレームの後ろ半分、つまりシートステーとチェーンステー。この2か所は非常に細身に作られており、最小限の重量とされている。更に、フレームの塗料も改善しており、従来より40g軽量に。他にもディレイラーハンガーやシートクランプといったフレーム小物一つ一つについても、重量削減を徹底した。

リアステーは非常にスリムに仕上げられる
シートポストもカムテール形状でエアロ向上に貢献する
カムテール形状のダウンチューブを採用



そして、フレームだけではなく、ホイールやハンドルといったコンポーネントを含めたトータルのシステムとしてSpecialissimaの高性能は実現している。ビアンキのレーシング部門であるレパルトコルサの名を冠したステム一体型ハンドルは、ステム長110mm、ハンドル幅380mmの仕様で僅か330gというスペックに。

同時にレパルトコルサが用意した"33R"ホイールは、33mmハイトで1,380gと軽量に仕上げられた一品。片側フランジをストレートプルスポーク仕様、反対側をJベンドスポーク仕様とし、反応性と快適性を両立するユニークなスポーキングが大きな特徴。そして、回転部には高品質なセラミテックベアリングを採用することで、重量だけでなく転がりの軽さも追求したホイールだ。

最新のフレームワークに加え、最高のマッチングを発揮するための専用コンポーネントまで用意され、ビアンキ渾身の一作となったSpecialissima RC。シリーズのDNAである軽量性を失うことなく、エアロという武器を研ぎ澄ました次世代機は、どんな走りを見せるのか。それではインプレッションに移ろう。



−インプレッション
「際立つ軽さと懐の深さを両立したオールラウンダー」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

「際立つ軽さと懐の深さを両立したオールラウンダー」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

いやぁ、とにかく軽さが際立つバイクでした。完成車で6.6kgですか?持って軽いのはもちろんなんですけど、乗っても軽やかさが際立ちますね。ダンシングでバイクを振った感触も非常に軽く、バイクの上半分が非常に軽いような印象を受けました。

それでいて、決してピーキーな乗り味ではないところが興味深い。ヒルクライム向けの軽量バイクって、乗り味が軽すぎて扱いづらいという印象を受けることも多いですが、このバイクは一味違いますね。ただ軽いだけでなくて、非常に滑らか。ペダリングもハンドリングも、全ての挙動が上質に洗練されていて、スムーズに繋がっていくようなバイクです。

「あらゆる側面で高水準な性能を持ちつつも、その中でも際立つ『軽やかさ』が強い印象を残す」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)
最も特徴的な要素が何かといえば、加速感でしょう。ゼロ発進からトップスピードに至るまで、全領域において非常にスムーズで軽い加速感を味わえます。それでいて、軽量バイク特有の失速感が無く、ペダルを回すごとにどんどんと速度が増していく感覚がたまらないですね。

加速性能が高すぎるので、ギアを踏み切ってしまうのが早く感じるほどです。いつものギアチェンジのリズム感だと遅すぎて、回し切ってしまうシーンが何度かありました。良い意味で、慣れが必要な自転車かもしれません。

ハンドルとホイール、そしてサドルはオリジナルパーツがアセンブルされていますが、どれも完成度が高く、バイクともマッチしています。ハンドルはシンプルなデザインですが、非常に握りやすくて好印象ですね。サドルも一見薄くて硬そうですが、しっかりベースがしなってくれるので乗り心地も良く、それでいて軽いのは嬉しいですよね。

ホイールについても、軽さを体感できる性能です。フルクラムの技術者をスカウトしたという噂も聞きましたが、なるほど、と納得してしまう走りの良さでした。やっぱり、ホイール開発にはフレームとまた違ったノウハウが必要だと思うのですが、レパルトコルセとして本格的に取り組み始めたばかりとは思えない完成度です。

あらゆる側面で高水準な性能を持ちつつも、その中でも際立つ「軽やかさ」が強い印象を残す一台でした。ビアンキにはOLTREもありますが、大多数のホビーユーザーはSPECIALISSIMAの方がフィットするのではないでしょうか。大パワーを出してハイスピードで走り続けるならもちろんOLTREに軍配が上がりますが、峠も含んだロングコースを1日走っていくようなライドを楽しむのであれば、SPECIALISSIMA一択です。乗り味も快適ですし、下りでも扱いやすくて素直に動いてくれますから、山岳ライドにはうってつけです。

例えば富士ヒルクライムで成績を残したいという方には、最高の味方になると思います。一方で、もう踏んだ瞬間から良さを感じられるバイクでもあるので、決して速く走ろうとしなくても楽しめるバイクでもあります。価格を抜きにすれば、初心者でもシリアスレーサーでも、ライダーのレベルを問わず満足させることが出来る、懐の深い一台でした。

「軽さが際立つ、これぞヒルクライムバイク」岸崇仁

「軽さが際立つ、これぞヒルクライムバイク」岸崇仁

軽さが際立ちますね。Specialissima RCに乗ると自然と軽さに意識が向きがちで、走行感全てに軽さが脳裏によぎるバイクという第一印象があります。各チューブの線が細くスリムな形状から受けるイメージ通りの走りでした。

軽さに特化しているバイクというと、重心が高くてヒラヒラしてて挙動がクイックというイメージを持たれる方もいると思いますが、Specialissima RCは重心位置もニュートラルで非常に扱いやすいです。ハンドルやシートポストなどもバイクとの相性が良くて、登りにフォーカスした完成度の高いバイクという印象です。

もちろんコーナリングとか下りでの挙動は軽量バイクそのもので、自分の意図した通りにバイクが反応します。完成車にアセンブルされるホイールの影響を受けていると思うんですが、ダンシングなどでバイクを左右に振った時にバイクが硬すぎて足にストレスがかかるということもありませんでした。

「軽量バイクながら重心位置もニュートラルで非常に扱いやすい」岸崇仁
それはフレーム剛性自体があまり高くないということでもあるんですが、ネガティブな意味ではなく、プロ選手だけが乗りこなせるハイエンドではなく、乗り手を選ばないバイクに仕上がっているという印象を抱きました。

このフレームが最も気持ちよく進むのはトルクをかけすぎずハイケイデンスのペダリングでした。テンポを上げてクルクル回してあげることで、フレームが素直に反応してくれます。

Specialissima RCの力が発揮される速度域も20km/h前後で、まさにヒルクライムしている時のスピード感で、30km/hに到達しない速度域では身軽にバイクが進んでくれました。そういった部分でもヒルクライムに向いているのでしょうね。

ロードレースで使うのであれば激坂で勝負が決するような時が最適だと思います。秋吉台カルストロードや富士山のあざみラインになるでしょう。ヨーロッパのレースでは斜度が厳しくて、距離も20km以上というコースがあるので、そういうシチュエーションが視野に入っているのでしょう。

一方で高速域でレースが進行する状況や、コーナーがタイトなクリテリウムでの活躍を狙うのであればOrtre RCを選択肢に入れてもいいと思います。実はOrtre RCも試乗したことがあって、その時の印象と比較するとSpecialissima RCはOrtre RCよりも多くのサイクリストがフィットするのではないかと思います。

ただそれぞれに良さがあって、得意とする場面が違います。実際にSpecialissima RCを検討する際は一度試乗してもらいたいと思います。この線が細い見た目が好みであったり、Specialissima RCの軽さは武器としたい方にはピッタリでしょう。

ビアンキ SPECIALISSIMA RC

ビアンキ SPECIALISSIMA RC
ハンドル:Specialissima RCハンドルバー
ホイール:レパルトコルセ33R
サドル:RC139
サイズ:47-50-53-55-57
グループセット:シマノ DURA-ACE DI2
重量:6.6kg(サイズ55)
価格:1,947,000円(税込)



インプレッションライダープロフィール

高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)高木友明(アウトドアスペース風魔横浜) 高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)

横浜駅から徒歩10分、ベイサイドエリアに店舗を構えるアウトドアスペース風魔横浜の店長。前職メッセンジャーの経験を活かし自転車業界へ。自身はロードバイクをメインに最近はレース活動にも力を入れる実走派だ。ショップはロード・MTBの2本柱で幅広い自転車遊びを提案している。

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アウトドアスペース風魔横浜 HP


岸崇仁
岸崇仁

2017年に那須ブラーゼンに加入。2020年から21年シーズンはさいたまディレーブにてJCLのレースに参戦した元プロレーサー。小集団で逃げるようなサバイバルな展開を得意とした実力派。現在はロードバイクのライドコーチとして、安全・快適な走り方を伝えるとともに、各媒体でバイクインプレッションも担当する。カステリのアンバサダー。


ウェア協力:カステリ

text:Naoki Yasuoka
photo:Makoto AYANO
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