2023/06/09(金) - 18:00
区間3勝に新人賞ジャージ獲得とツアー・オブ・ジャパンを席巻したトリニティレーシング。創設4年目ながらピドコックやヒーリーといったスター選手を輩出したチームの監督に、その特徴や育成によるビジネスモデル、日本人選手獲得の可能性など話を聞いた。
先日閉幕した日本最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン(UCI2.1)」。そこでトリニティレーシングはルーク・ランパーティ(アメリカ)が初日プロローグ(2.6km個人タイムトライアル)と集団スプリントを合わせて3勝を挙げ、リアム・ジョンストン (オーストラリア)が新人賞を獲得。その他にもスタイリッシュなチームキットやトムの弟であるジョセフ・ピドコック(イギリス)の参戦も相まって、初出場ながら日本に大きな爪痕を残した。
そんなトリニティレーシングは2020年に創設され、2021年よりイギリス籍のコンチネンタルチームとして活動する若手育成チーム。23歳以下の選手で構成され、その活動範囲はロードに限らずシクロクロスやマウンテンバイクなど多岐に渡る。
チームの目標は選手を育成してワールドチームやプロチームに送り込むこと。アマチュアチーム時代に所属したトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)を筆頭に、ジロ・デ・イタリアで区間優勝を挙げたベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)やベン・ターナー(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)など、既に多数のトップ選手を輩出している。
チームで指揮を取るジョン・モールド(イギリス)は、かつてワンプロサイクリングやJLTコンドール、マディソン・ジェネシスといったイギリス籍のチームで走り、昨年選手活動を辞めた32歳の若手監督。スペシャライズド新宿で行われたツアー・オブ・ジャパンのアフターパーティーで話を聞いた折、「レースの監督会議では僕はいつでも最年少。どのチームもベテラン揃いだから、みんな驚いた目で僕を見るね」と笑う。
トリニティはEFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチームやユンボ・ヴィスマ、グルパマFDJの下部育成チームのような”ワールドチーム直属”ではなく、独立したいちチーム。スポーツマネジメント会社が運営し、所属選手のマネジメントは運営会社が行う。つまり選手がワールドチームと契約すればその手数料がチームに支払われ、それが次世代選手の育成(=チーム運営資金)に活用される。
つまり前述したヒーリーや、ユンボ・ヴィスマで次世代エースと目されるトーマス・グローグ(イギリス、21〜22年まで所属)が移籍先で活躍することで、次からワールドチーム等と契約を結ぶ選手たちの契約金に影響する仕組み。また、スポーツマネジメント会社のトリニティには現在、ピドコックの他にルーク・ロウ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)やトムス・スクインシュ(ラトビア、トレック・セガフレード)らが所属し、彼らを含めたコネクションもチームの大きな強みだという。
トリニティが他のコンチネンタルチームと一線を画すところは選手輩出システムだけではなく、毎年変わるキャッチーかつスタイリッシュなチームキットも含まれる。モールド氏は「これを形作ったのは創設者かつ、チームオーナーであるアンドリュー・マクウェイドだ。またスポンサーの意向に左右されるワールドチームとは違い、我々もスペシャライズドが主導するデザインに参加できることが大きい」のだという。
モールド氏の言葉にもあった通り、トリニティは創設以来スペシャライズドから全面的なバックアップを受けている。性能に秀でることはもちろん、ロードバイクだけでなくシクロクロスバイクやMTB、グラベルバイク、さらにチームキットやヘルメット、シューズまで一括でサポートを受けられることはマネジメントの簡略化を促進。「機材に関する問題は先に(プロトタイプから機材が渡る)ワールドチームで発見されるから、ストレスフリーだ」とも。
しかしモールド氏はチーム最大の特徴を「スタッフの若さにある」と答える。「僕と一緒に監督を務めるピーター・ケノーは33歳。昨年現役を終えた僕も32歳と、選手と年齢が近いことはコミュニケーションの面で大きなアドバンテージとなっている。従来のチームのように、監督が頭ごなしに命令することはない。ただ彼らは厳しい自転車競技での成功を目指し、覚悟を持って入ってきた選手たちだ。今のところ文句を言われずやれているから、とりあえず上手くいっていると思うよ(笑)」。
イギリスやアメリカ、オーストラリアなど英語圏の選手が印象強いトリニティだが、現在はコロンビアやフランス、ブラジルと多国籍な構成となっている。選手のリクルーティングについて聞くと「常にスタッフが目を光らせて良い選手を探している。もちろん選手からCV(履歴書)も絶えず送られてくる。でも大事なのは実際にその選手を見て、可能性を見極めること」だという。
そして何よりも気になるのは将来的な日本人選手獲得の可能性。「もちろん日本人にも(加入する可能性は)100%開かれている。チームの共通語は英語だから今いる2人のコロンビア人も一生懸命英語を学んでいるところ。昨年加入したフランス人なんてもう汚い言葉を英国アクセントで言えるぐらいに上達しているよ(笑)」と言う。「スペシャライズドのバックアップのおかげで、選手獲得の可能性は更に世界へと広がっている。世界中の選手がウェルカムだ」とモールド氏は笑顔を見せた。
トリニティは6月11〜18日に開催されるジロ・デ・イタリアU23(通称ベイビージロ)に出場予定。来年はワールドチームへの移籍が噂されているランパーティをエースに、2021年大会のヒーリー以来となる勝利を目指す。
text:Sotaro.Arakawa
photo&edit:So Isobe
先日閉幕した日本最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン(UCI2.1)」。そこでトリニティレーシングはルーク・ランパーティ(アメリカ)が初日プロローグ(2.6km個人タイムトライアル)と集団スプリントを合わせて3勝を挙げ、リアム・ジョンストン (オーストラリア)が新人賞を獲得。その他にもスタイリッシュなチームキットやトムの弟であるジョセフ・ピドコック(イギリス)の参戦も相まって、初出場ながら日本に大きな爪痕を残した。
そんなトリニティレーシングは2020年に創設され、2021年よりイギリス籍のコンチネンタルチームとして活動する若手育成チーム。23歳以下の選手で構成され、その活動範囲はロードに限らずシクロクロスやマウンテンバイクなど多岐に渡る。
チームの目標は選手を育成してワールドチームやプロチームに送り込むこと。アマチュアチーム時代に所属したトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)を筆頭に、ジロ・デ・イタリアで区間優勝を挙げたベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)やベン・ターナー(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)など、既に多数のトップ選手を輩出している。
チームで指揮を取るジョン・モールド(イギリス)は、かつてワンプロサイクリングやJLTコンドール、マディソン・ジェネシスといったイギリス籍のチームで走り、昨年選手活動を辞めた32歳の若手監督。スペシャライズド新宿で行われたツアー・オブ・ジャパンのアフターパーティーで話を聞いた折、「レースの監督会議では僕はいつでも最年少。どのチームもベテラン揃いだから、みんな驚いた目で僕を見るね」と笑う。
トリニティはEFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチームやユンボ・ヴィスマ、グルパマFDJの下部育成チームのような”ワールドチーム直属”ではなく、独立したいちチーム。スポーツマネジメント会社が運営し、所属選手のマネジメントは運営会社が行う。つまり選手がワールドチームと契約すればその手数料がチームに支払われ、それが次世代選手の育成(=チーム運営資金)に活用される。
つまり前述したヒーリーや、ユンボ・ヴィスマで次世代エースと目されるトーマス・グローグ(イギリス、21〜22年まで所属)が移籍先で活躍することで、次からワールドチーム等と契約を結ぶ選手たちの契約金に影響する仕組み。また、スポーツマネジメント会社のトリニティには現在、ピドコックの他にルーク・ロウ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)やトムス・スクインシュ(ラトビア、トレック・セガフレード)らが所属し、彼らを含めたコネクションもチームの大きな強みだという。
トリニティが他のコンチネンタルチームと一線を画すところは選手輩出システムだけではなく、毎年変わるキャッチーかつスタイリッシュなチームキットも含まれる。モールド氏は「これを形作ったのは創設者かつ、チームオーナーであるアンドリュー・マクウェイドだ。またスポンサーの意向に左右されるワールドチームとは違い、我々もスペシャライズドが主導するデザインに参加できることが大きい」のだという。
モールド氏の言葉にもあった通り、トリニティは創設以来スペシャライズドから全面的なバックアップを受けている。性能に秀でることはもちろん、ロードバイクだけでなくシクロクロスバイクやMTB、グラベルバイク、さらにチームキットやヘルメット、シューズまで一括でサポートを受けられることはマネジメントの簡略化を促進。「機材に関する問題は先に(プロトタイプから機材が渡る)ワールドチームで発見されるから、ストレスフリーだ」とも。
しかしモールド氏はチーム最大の特徴を「スタッフの若さにある」と答える。「僕と一緒に監督を務めるピーター・ケノーは33歳。昨年現役を終えた僕も32歳と、選手と年齢が近いことはコミュニケーションの面で大きなアドバンテージとなっている。従来のチームのように、監督が頭ごなしに命令することはない。ただ彼らは厳しい自転車競技での成功を目指し、覚悟を持って入ってきた選手たちだ。今のところ文句を言われずやれているから、とりあえず上手くいっていると思うよ(笑)」。
イギリスやアメリカ、オーストラリアなど英語圏の選手が印象強いトリニティだが、現在はコロンビアやフランス、ブラジルと多国籍な構成となっている。選手のリクルーティングについて聞くと「常にスタッフが目を光らせて良い選手を探している。もちろん選手からCV(履歴書)も絶えず送られてくる。でも大事なのは実際にその選手を見て、可能性を見極めること」だという。
そして何よりも気になるのは将来的な日本人選手獲得の可能性。「もちろん日本人にも(加入する可能性は)100%開かれている。チームの共通語は英語だから今いる2人のコロンビア人も一生懸命英語を学んでいるところ。昨年加入したフランス人なんてもう汚い言葉を英国アクセントで言えるぐらいに上達しているよ(笑)」と言う。「スペシャライズドのバックアップのおかげで、選手獲得の可能性は更に世界へと広がっている。世界中の選手がウェルカムだ」とモールド氏は笑顔を見せた。
トリニティは6月11〜18日に開催されるジロ・デ・イタリアU23(通称ベイビージロ)に出場予定。来年はワールドチームへの移籍が噂されているランパーティをエースに、2021年大会のヒーリー以来となる勝利を目指す。
text:Sotaro.Arakawa
photo&edit:So Isobe
Amazon.co.jp