2022/11/01(火) - 18:21
ある日突然、日本語でツイートを始めたイニーゴ・エロセギ(スペイン、モビスター)はブログや動画で覚えたての日本語を披露し、すぐさま日本人ファンの心を掴んだ。自身2度目の来日に際し、これまでの選手キャリアや日本語を学び始めた経緯について聞いた。
イニーゴ・エロセギ(スペイン、モビスター)が自転車競技を始めたのは15歳。周りと比べ少し遅めのスタートだったと言うが、ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャで区間優勝した偉大なる祖父ホセ・アントニオ・モメニェの血を受け継いだからか、すぐさま頭角を現し2018年のスペイン国内選手権U23で優勝。そのままスペイン唯一のワールドチームであるモビスターとの契約を掴み取った。
スペイン期待の若手選手であると同時に、エロセギはチームのプロフィールに書かれるほどの日本好き。それは日本人ファンの間でも知れ渡っている。188cmの身長と時折はにかむ顔にまだ24歳のあどけなさを残すエロセギに、約2週間に及ぶ日本旅行や、ワンピースやスペインで話題沸騰だと言う東京リベンジャーズなどの大好きなアニメや漫画について、またプロ3年目を終えた選手キャリアについて話を聞いた。
―出身地であるバスクの街について教えて下さい。
シエルバナという山々に囲まれた海岸の町だ。ご存知の通りバスクは山ばかりなので、コーチから送られてくる平坦基調のインターバルメニューがこなせないほど。だからいまは”バスク・インターバル”という登坂を含む特別メニューが用意されている(笑)。
―いまもご家族と一緒に住んでいるのですが?
そう。両親と妹と一緒に住んでいて、徒歩1分圏内に祖父母や親戚が暮らしている。400人ほどの小さな町で、僕は祖父以来となる自転車選手だから町中の人が応援してくれるんだ。それがいまだ故郷に住み続けている理由。それに両親を心配させたくないから、というのもあるのだけどね。
―2020年にモビスターでプロデビューを果たす前は、スペインの名門アマチュアチームであるリザルテに所属されていたと聞きました。
そこで2年走り、2018年にU23スペイン国内選手権のロードレースで優勝することができたんだ。総距離166kmで獲得標高差が3,800mを超えるタフなレースだった。
―であれば、脚質はクライマーですか?
あえて言えばオールラウンダーだね。例えば平均勾配11%が3km続くような短い登り以外ならば苦手はない。平坦もタイムトライアルも得意。またワンデーレースよりはステージレースの方が好きだね。
―プロ1年目の2020年がちょうど新型コロナウイルスの感染拡大というタイミングでした。ここまでのプロ生活を振り返ってください。
プロデビュー戦となったブエルタ・ア・サンフアンは最高の滑り出しとなり、プロでも通用する手応えを感じた。しかし直後のUAEツアーはコロナの影響で途中終了。それから原因不明の怪我や体調不良に悩まされることとなった。その後2度の感染をしてからは調子の波が激しく、思うようにトレーニングとレースができなくなってしまった。
でも今年は身体の状態も戻り、安定して力を発揮できるようになったんだ。
―その頃から日本語の勉強を始めたと聞きました。
そうなんだ。きっかけは2019年に初めて日本を訪れたこと。小さい頃からドラゴンボールやポケモン、ワンピースのアニメに触れていたので元々日本に興味があった。だから友人と一緒に勢いに任せて来てみたんだ。
初めてここ上野に着いた僕らは、ホテルを探し彷徨っていた。するとスーツを着たビジネスマンが話しかけてくれ、英語が話せないのにもかかわらず僕らをホテルまで案内してくれたんだ。それはスペイン人の僕たちにとって衝撃的な体験だった。もちろん日本が好きになったキッカケは他にもあるが、その出来事が僕の中では大きかった。
帰国後の2020年から日本語の勉強を始め、レースやトレーニングでどんなに疲れていても最低でも5分は日本語の勉強をするようにしている。いまはアプリなどで簡単に勉強できるからね。
―日頃様々な漫画の写真をSNSに投稿していますが、一番好きなアニメや漫画はなんですか?
ワンピースだよ。飼ってる犬の名前にルフィと名付けるぐらいね。その他はベルセルクや、最近だと東京リベンジャーズだ。特にスペインでの東京リベンジャーズ人気は凄まじく、翻訳された漫画はスペインで最も売れている本(漫画に限らず)のランキングトップを暫く独占したぐらい。また、少し前のハイキューの人気もすごかった。(題材である)バレーボールなんてスペイン人は誰も知らないぐらいなのにね(笑)。
―今年の8月にあなたが投稿した「日本に行きたい」というツイートに対し、多くの日本人ファンから観光地のオススメが届いていました。それらは今回の旅の参考になりましたか?
もちろんだ。だから今回は東京から直接広島に飛び、宮島と三原を訪れた。その後岡山を経由して大阪、京都、奈良、箱根を巡った。特に京都は、行く先々に寺や神社があって驚いたよ。「一体どれだけあるんだよ?!」ってね(笑)。
奈良公園で食べたキツネうどんは本当に美味しかったし、食べ物だとラーメンがお気に入り。昨日は日本に住む従姉妹と一緒に居酒屋に行ったのだが、出てくるもの全てが美味しかったよ。
あと、前回の滞在で何度も使った山手線に再び乗ることができて嬉しかったよ。
―ファンからはしまなみ海道や乗鞍など、自転車でいく場所もオススメされていました。
だから今回は行き先を絞り、次に来る時のために取っておいているんだ。今度来る時は自転車を持ってきて各地を走りたい。そしてこの国がアニメと漫画だけじゃない、素敵な国であることをスペインの皆に伝えたいんだ。
それに日本のレースも走りたい。元チームメイトのダリオ・カタルドをはじめ、たくさんの選手が「日本のファンは素晴らしいよ」と教えてくれた。「日本では知名度のない選手もファンが認識し、応援してくれるよ」ってね。日本はこれからどんどん自転車人気が拡大していく可能性を秘めていると思う。ジャパンカップはもちろん、シーズンの真ん中辺りに世界トップ選手たちが集結するステージレースができると最高だよね。
―今年はあなたのチームメイトであり、同じスペイン人選手であるアレハンドロ・バルベルデの引退がありました。彼はどんな選手ですか?
僕は、彼が2009年に総合優勝を挙げたブエルタ・ア・エスパーニャを食い入るように観ていたんだ。だからプロになって目の前にいる彼を見て「これは現実なのか?」と我が目を疑うほどだった。そしてモビスターに入団して初めてのトレーニング合宿で、なんと僕は彼と同部屋になったんだ。我慢できなかった僕は思わずツーショットをお願いし、彼は快くそれを受け入れてくれた。パジャマを着た僕ら2人の写真を、すぐに家族に送ったよ(笑)。
僕はバラ(バルベルデの愛称)のおかげでスムーズにチームに溶け込むことができたんだ。なぜなら彼は皆を助け、いつもジョークを飛ばし雰囲気を和ませてくれるからね。皆が疲れ果てたレース後のチームバスでも、彼は明るくジョークを言って回るんだ。
後編ではワールドチームから降格の危機に瀕していた今シーズンのモビスターや、フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ)ら若手選手を輩出し、転換期を迎えつつあるスペインの育成システムなどについて話を聞きました。
text&photo:Sotaro.Arakawa
イニーゴ・エロセギ(スペイン、モビスター)が自転車競技を始めたのは15歳。周りと比べ少し遅めのスタートだったと言うが、ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャで区間優勝した偉大なる祖父ホセ・アントニオ・モメニェの血を受け継いだからか、すぐさま頭角を現し2018年のスペイン国内選手権U23で優勝。そのままスペイン唯一のワールドチームであるモビスターとの契約を掴み取った。
スペイン期待の若手選手であると同時に、エロセギはチームのプロフィールに書かれるほどの日本好き。それは日本人ファンの間でも知れ渡っている。188cmの身長と時折はにかむ顔にまだ24歳のあどけなさを残すエロセギに、約2週間に及ぶ日本旅行や、ワンピースやスペインで話題沸騰だと言う東京リベンジャーズなどの大好きなアニメや漫画について、またプロ3年目を終えた選手キャリアについて話を聞いた。
―出身地であるバスクの街について教えて下さい。
シエルバナという山々に囲まれた海岸の町だ。ご存知の通りバスクは山ばかりなので、コーチから送られてくる平坦基調のインターバルメニューがこなせないほど。だからいまは”バスク・インターバル”という登坂を含む特別メニューが用意されている(笑)。
―いまもご家族と一緒に住んでいるのですが?
そう。両親と妹と一緒に住んでいて、徒歩1分圏内に祖父母や親戚が暮らしている。400人ほどの小さな町で、僕は祖父以来となる自転車選手だから町中の人が応援してくれるんだ。それがいまだ故郷に住み続けている理由。それに両親を心配させたくないから、というのもあるのだけどね。
―2020年にモビスターでプロデビューを果たす前は、スペインの名門アマチュアチームであるリザルテに所属されていたと聞きました。
そこで2年走り、2018年にU23スペイン国内選手権のロードレースで優勝することができたんだ。総距離166kmで獲得標高差が3,800mを超えるタフなレースだった。
―であれば、脚質はクライマーですか?
あえて言えばオールラウンダーだね。例えば平均勾配11%が3km続くような短い登り以外ならば苦手はない。平坦もタイムトライアルも得意。またワンデーレースよりはステージレースの方が好きだね。
―プロ1年目の2020年がちょうど新型コロナウイルスの感染拡大というタイミングでした。ここまでのプロ生活を振り返ってください。
プロデビュー戦となったブエルタ・ア・サンフアンは最高の滑り出しとなり、プロでも通用する手応えを感じた。しかし直後のUAEツアーはコロナの影響で途中終了。それから原因不明の怪我や体調不良に悩まされることとなった。その後2度の感染をしてからは調子の波が激しく、思うようにトレーニングとレースができなくなってしまった。
でも今年は身体の状態も戻り、安定して力を発揮できるようになったんだ。
―その頃から日本語の勉強を始めたと聞きました。
そうなんだ。きっかけは2019年に初めて日本を訪れたこと。小さい頃からドラゴンボールやポケモン、ワンピースのアニメに触れていたので元々日本に興味があった。だから友人と一緒に勢いに任せて来てみたんだ。
初めてここ上野に着いた僕らは、ホテルを探し彷徨っていた。するとスーツを着たビジネスマンが話しかけてくれ、英語が話せないのにもかかわらず僕らをホテルまで案内してくれたんだ。それはスペイン人の僕たちにとって衝撃的な体験だった。もちろん日本が好きになったキッカケは他にもあるが、その出来事が僕の中では大きかった。
帰国後の2020年から日本語の勉強を始め、レースやトレーニングでどんなに疲れていても最低でも5分は日本語の勉強をするようにしている。いまはアプリなどで簡単に勉強できるからね。
―日頃様々な漫画の写真をSNSに投稿していますが、一番好きなアニメや漫画はなんですか?
ワンピースだよ。飼ってる犬の名前にルフィと名付けるぐらいね。その他はベルセルクや、最近だと東京リベンジャーズだ。特にスペインでの東京リベンジャーズ人気は凄まじく、翻訳された漫画はスペインで最も売れている本(漫画に限らず)のランキングトップを暫く独占したぐらい。また、少し前のハイキューの人気もすごかった。(題材である)バレーボールなんてスペイン人は誰も知らないぐらいなのにね(笑)。
―今年の8月にあなたが投稿した「日本に行きたい」というツイートに対し、多くの日本人ファンから観光地のオススメが届いていました。それらは今回の旅の参考になりましたか?
もちろんだ。だから今回は東京から直接広島に飛び、宮島と三原を訪れた。その後岡山を経由して大阪、京都、奈良、箱根を巡った。特に京都は、行く先々に寺や神社があって驚いたよ。「一体どれだけあるんだよ?!」ってね(笑)。
奈良公園で食べたキツネうどんは本当に美味しかったし、食べ物だとラーメンがお気に入り。昨日は日本に住む従姉妹と一緒に居酒屋に行ったのだが、出てくるもの全てが美味しかったよ。
あと、前回の滞在で何度も使った山手線に再び乗ることができて嬉しかったよ。
―ファンからはしまなみ海道や乗鞍など、自転車でいく場所もオススメされていました。
だから今回は行き先を絞り、次に来る時のために取っておいているんだ。今度来る時は自転車を持ってきて各地を走りたい。そしてこの国がアニメと漫画だけじゃない、素敵な国であることをスペインの皆に伝えたいんだ。
それに日本のレースも走りたい。元チームメイトのダリオ・カタルドをはじめ、たくさんの選手が「日本のファンは素晴らしいよ」と教えてくれた。「日本では知名度のない選手もファンが認識し、応援してくれるよ」ってね。日本はこれからどんどん自転車人気が拡大していく可能性を秘めていると思う。ジャパンカップはもちろん、シーズンの真ん中辺りに世界トップ選手たちが集結するステージレースができると最高だよね。
―今年はあなたのチームメイトであり、同じスペイン人選手であるアレハンドロ・バルベルデの引退がありました。彼はどんな選手ですか?
僕は、彼が2009年に総合優勝を挙げたブエルタ・ア・エスパーニャを食い入るように観ていたんだ。だからプロになって目の前にいる彼を見て「これは現実なのか?」と我が目を疑うほどだった。そしてモビスターに入団して初めてのトレーニング合宿で、なんと僕は彼と同部屋になったんだ。我慢できなかった僕は思わずツーショットをお願いし、彼は快くそれを受け入れてくれた。パジャマを着た僕ら2人の写真を、すぐに家族に送ったよ(笑)。
僕はバラ(バルベルデの愛称)のおかげでスムーズにチームに溶け込むことができたんだ。なぜなら彼は皆を助け、いつもジョークを飛ばし雰囲気を和ませてくれるからね。皆が疲れ果てたレース後のチームバスでも、彼は明るくジョークを言って回るんだ。
後編ではワールドチームから降格の危機に瀕していた今シーズンのモビスターや、フアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ)ら若手選手を輩出し、転換期を迎えつつあるスペインの育成システムなどについて話を聞きました。
text&photo:Sotaro.Arakawa
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