2021/08/29(日) - 13:32
なんという戦い。なんという戦略と戦略のぶつかり合い。誰よりも勝ち方を知る男、ニノ・シューター(スイス)が共に先頭グループを組んだマティアス・フルッキガー(スイス)を下し、自身9度目のMTBクロスカントリー世界王者に輝いた。
MTB世界選手権のクロスカントリー最終日となる4日目のトリを飾るのは男子エリートレース。ドライコンディションの1周3.6km、1周あたりの獲得標高差241mのコースに向け、現地時間15時45分、号砲と共に選りすぐられた51名が一気に飛び出した。
位置取りが大きなカギを握るクロスカントリーレース。この日抜群のスタートダッシュを決めたのはヘンリケ・アヴァンチーニ(ブラジル)だった。今季好調のオンドレイ・シンク(チェコ)が続き、人数を揃えるMTB大国フランスとスイス勢がその後ろに続く。ヴィクトール・コレツキー(フランス)、ニノ・シューター(スイス)、マティアス・フルッキガー(スイス)、そしてフィリッポ・コロンボ(スイス)。この1年アルカンシエルに袖を通したジョーダン・サルー(フランス)はこの日徐々にポジションを落とす苦しい戦いを強いられた。
シンクの牽引によって超高速ペースのままメインループに入り、登り区間では3番手のアヴァンチーニが落車したことで前を行くシューターとシンクが抜け出し、さらにダウンヒルスキルに長けるシューターがシンクを置き去りにしてしまう。アタックすることなく一定ペースを刻んだシューターにはすぐ後続グループが追いついたものの、その独走ぶりは周囲に好調さを強く印象づけた。
男子エリートレースは全6周回。2周目の急勾配区間ではマティアス・フルッキガー(スイス)を従えたシューターがペースアップし、シンクやアヴァンチーニ、コレツキー、ヴラッド・ダスカル(ルーマニア)を降り落とすことに成功。こうしてスイスコンビが独走態勢を築き、この後淡々と追走グループに対してリードを積み重ねていくこととなる。
やがて追走グループからは登坂力に秀でるシンクが抜け出し前を追いかけたものの、互いの走りを知り尽くした先頭2人は登りでも下りでもハイペースを崩さない。3周回を終えたタイミングでその差は40秒まで開いていた。
こうしてアルカンシエルの行方はスイスの2人に委ねられ、5周目(残り2周回)からフルッキガーがシューターに対して攻撃を開始する。「自分の方が今日は強いと感じていた」と振り返るフルッキガーは上りのたびにペースを上げ、一時的にシューターから僅かな差を奪うも決定的なリードには繋がらない。1分後方でコレツキーが3位に上がり、抜かれたシンクはやがてシフターが壊れるトラブルに見舞われ後退を強いられた。
決定的な動きが無いまま最終周回に入り、先頭の二人はそれまでよりもペースを落とし、互いの出方をうかがいながらコース前半区間をクリアする。岩が露出したテクニカルな上り区間でも互いにミスはなし。コース中盤の上り区間でフルッキガーがペースアップを図るも、どこか余裕を感じさせながら走るシューターは背後から離れずプレッシャーを掛け続けた。
下り手前の緩斜面区間でフルッキガーが踏み込むも独走態勢に持ち込めず、逆にその下りではテクニックに長けるシューターからプレッシャーを与えられてしまう。ゲレンデの下りを終え、勝負はフルッキガー先行のゴールスプリントに持ち込まれるかと思いきや、最後から3つ目の180度コーナー手前でシューターがインサイドを突き、ラインを交錯させてパス。通常ラインでブレーキングしたフルッキガーと、一方でコーナー直前に漕ぎ足してからハードブレーキしたシューター。不意を突かれたフルッキガーを尻目に、シューターがフルスロットルの加速態勢に入った。
バックストレートを全開で踏み込み、最終コーナーをクリアしたシューター。フルッキガーも追いかけたものの、いち早くトップスピードに乗せたシューターとの距離は開いていくばかり。何度もハンドルを叩きうなだれるフルッキガーの前で、拳を突き上げながらシューターが勝利した。
「再び戻ってくることができて素晴らしい気分だ。僕にとって完璧なレースだった。良いスタートを切ることができて、その後マティアスと協調体制を組みレースをリードできたんだ。最終周回は疲れていたので、ただ彼から振り落とされないようにするだけ。ダウンヒル区間の序盤で抜こうとしたけれど彼に読まれていた。何か試みるにはコーナーは残り1つしかなかったが、成功したんだ」とレースを振り返るシューター。
昨年〜今季は全盛期の強さをなかなか発揮できず、優勝候補に挙げる声が少なかった中で下馬評を覆す大逆転勝利。2008年のU23世界チャンピオンを射止めた際と同じヴァル・ディ・ソーレの会場で、35歳となったニノが9度目の世界選手権優勝を成し遂げた。なおシューターは2009年のオーストラリア大会で最年少世界チャンピオンになり、その12年後の今年、最年長の世界チャンピオンに輝いたことになる。
「正直に言えばここ数年、自分自身の力を疑問視していた。期待するだけの力を出せなくなっていたからだ。まだ今後どうするか決めていないけれど、世界選手権という舞台で完璧なレースができたという事実が、より良い将来的な決断をさせてくれるはずだ」と加えている。
また、フルッキガーにとっては3年連続となる世界選手権銀メダル。「勝ちたかったけれど、今は3年連続表彰台を誇りに思える。僕の視点からは最後のニノの作戦は極めてリスキーで、自分のチームメイトに対してやっていいことだとは思わない。ただし起こってしまったことなのでここから学び、将来に生かしたい。次のワールドカップを楽しみにしたいと思う」と、SNSに綴っている(翌日に謝罪コメントを出し、シューターの勝利を讃えている)。
スイス勢を追いかけ続けたコレツキーが自身初の世界選手権表彰台を獲得。以降はダスカル、ブランドル、ゲイズと若手選手が続いた。
MTB世界選手権のクロスカントリー最終日となる4日目のトリを飾るのは男子エリートレース。ドライコンディションの1周3.6km、1周あたりの獲得標高差241mのコースに向け、現地時間15時45分、号砲と共に選りすぐられた51名が一気に飛び出した。
位置取りが大きなカギを握るクロスカントリーレース。この日抜群のスタートダッシュを決めたのはヘンリケ・アヴァンチーニ(ブラジル)だった。今季好調のオンドレイ・シンク(チェコ)が続き、人数を揃えるMTB大国フランスとスイス勢がその後ろに続く。ヴィクトール・コレツキー(フランス)、ニノ・シューター(スイス)、マティアス・フルッキガー(スイス)、そしてフィリッポ・コロンボ(スイス)。この1年アルカンシエルに袖を通したジョーダン・サルー(フランス)はこの日徐々にポジションを落とす苦しい戦いを強いられた。
シンクの牽引によって超高速ペースのままメインループに入り、登り区間では3番手のアヴァンチーニが落車したことで前を行くシューターとシンクが抜け出し、さらにダウンヒルスキルに長けるシューターがシンクを置き去りにしてしまう。アタックすることなく一定ペースを刻んだシューターにはすぐ後続グループが追いついたものの、その独走ぶりは周囲に好調さを強く印象づけた。
男子エリートレースは全6周回。2周目の急勾配区間ではマティアス・フルッキガー(スイス)を従えたシューターがペースアップし、シンクやアヴァンチーニ、コレツキー、ヴラッド・ダスカル(ルーマニア)を降り落とすことに成功。こうしてスイスコンビが独走態勢を築き、この後淡々と追走グループに対してリードを積み重ねていくこととなる。
やがて追走グループからは登坂力に秀でるシンクが抜け出し前を追いかけたものの、互いの走りを知り尽くした先頭2人は登りでも下りでもハイペースを崩さない。3周回を終えたタイミングでその差は40秒まで開いていた。
こうしてアルカンシエルの行方はスイスの2人に委ねられ、5周目(残り2周回)からフルッキガーがシューターに対して攻撃を開始する。「自分の方が今日は強いと感じていた」と振り返るフルッキガーは上りのたびにペースを上げ、一時的にシューターから僅かな差を奪うも決定的なリードには繋がらない。1分後方でコレツキーが3位に上がり、抜かれたシンクはやがてシフターが壊れるトラブルに見舞われ後退を強いられた。
決定的な動きが無いまま最終周回に入り、先頭の二人はそれまでよりもペースを落とし、互いの出方をうかがいながらコース前半区間をクリアする。岩が露出したテクニカルな上り区間でも互いにミスはなし。コース中盤の上り区間でフルッキガーがペースアップを図るも、どこか余裕を感じさせながら走るシューターは背後から離れずプレッシャーを掛け続けた。
下り手前の緩斜面区間でフルッキガーが踏み込むも独走態勢に持ち込めず、逆にその下りではテクニックに長けるシューターからプレッシャーを与えられてしまう。ゲレンデの下りを終え、勝負はフルッキガー先行のゴールスプリントに持ち込まれるかと思いきや、最後から3つ目の180度コーナー手前でシューターがインサイドを突き、ラインを交錯させてパス。通常ラインでブレーキングしたフルッキガーと、一方でコーナー直前に漕ぎ足してからハードブレーキしたシューター。不意を突かれたフルッキガーを尻目に、シューターがフルスロットルの加速態勢に入った。
バックストレートを全開で踏み込み、最終コーナーをクリアしたシューター。フルッキガーも追いかけたものの、いち早くトップスピードに乗せたシューターとの距離は開いていくばかり。何度もハンドルを叩きうなだれるフルッキガーの前で、拳を突き上げながらシューターが勝利した。
「再び戻ってくることができて素晴らしい気分だ。僕にとって完璧なレースだった。良いスタートを切ることができて、その後マティアスと協調体制を組みレースをリードできたんだ。最終周回は疲れていたので、ただ彼から振り落とされないようにするだけ。ダウンヒル区間の序盤で抜こうとしたけれど彼に読まれていた。何か試みるにはコーナーは残り1つしかなかったが、成功したんだ」とレースを振り返るシューター。
昨年〜今季は全盛期の強さをなかなか発揮できず、優勝候補に挙げる声が少なかった中で下馬評を覆す大逆転勝利。2008年のU23世界チャンピオンを射止めた際と同じヴァル・ディ・ソーレの会場で、35歳となったニノが9度目の世界選手権優勝を成し遂げた。なおシューターは2009年のオーストラリア大会で最年少世界チャンピオンになり、その12年後の今年、最年長の世界チャンピオンに輝いたことになる。
「正直に言えばここ数年、自分自身の力を疑問視していた。期待するだけの力を出せなくなっていたからだ。まだ今後どうするか決めていないけれど、世界選手権という舞台で完璧なレースができたという事実が、より良い将来的な決断をさせてくれるはずだ」と加えている。
また、フルッキガーにとっては3年連続となる世界選手権銀メダル。「勝ちたかったけれど、今は3年連続表彰台を誇りに思える。僕の視点からは最後のニノの作戦は極めてリスキーで、自分のチームメイトに対してやっていいことだとは思わない。ただし起こってしまったことなのでここから学び、将来に生かしたい。次のワールドカップを楽しみにしたいと思う」と、SNSに綴っている(翌日に謝罪コメントを出し、シューターの勝利を讃えている)。
スイス勢を追いかけ続けたコレツキーが自身初の世界選手権表彰台を獲得。以降はダスカル、ブランドル、ゲイズと若手選手が続いた。
MTB世界選手権 XCO男子エリート結果
1位 | ニノ・シューター(スイス) | 1:22:31 |
2位 | マティアス・フルッキガー(スイス) | 0:02 |
3位 | ヴィクトール・コレツキー(フランス) | 1:03 |
4位 | ヴラッド・ダスカル(ルーマニア) | 1:36 |
5位 | マキシミリアン・ブランドル(ドイツ) | 1:43 |
6位 | サムエル・ゲイズ(ニュージーランド) | 2:30 |
7位 | ヘンリケ・アヴァンチーニ(ブラジル) | 2:31 |
8位 | アラン・ハースリー(南アフリカ) | 2:31 |
9位 | フィリッポ・コロンボ(スイス) | 2:35 |
10位 | ミラン・ファーダー(オランダ) | 2:44 |
text:So Isobe
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