2021/07/12(月) - 23:22
ログリッチの重要な山岳アシストとして支えてきたセップ・クスに待望の勝利が訪れた。エースを失ってもなおユンボ・ヴィスマは強力で戦い方は自在。ファンアールトに山岳賞の可能性も見えてきた。ポガチャルの強さに揺るぎはなく、総合は2位争いバトルが激化しそうだ。
カタルーニャのサッカー&ラグビー場が チームプレゼン会場だ photo:Makoto AYANO
サッカー&ラグビー場でのチームプレゼンテーション photo:Makoto AYANO
スタート地点となった南仏ペルピニャンにほど近いセレの街。スペインは目の前で、オクシタニー地域圏ピレネー=オリアンタル県はフランスでありながらカタルーニャ語も併用される地域で、フランスというよりスペインの色がずっと強い印象。
沿道にはカタルーニャの旗に似た県旗が飾られるのが目立ち、スタートプレゼン会場になったのは地元のサッカー&ラグビー場。観客の喝采もフランスチームだけでなくモビスターなどのスペイン系チームや選手にも熱い。
アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)の膝下は驚くほど細い photo:Makoto AYANO
PCR検査の準備をすすめるフランス車連関係者 photo:Makoto AYANO
セレモニーにやってきた41歳のアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)を間近に見ると、身体はますます絞れ、膝下は驚くほど細く、まるで腕のような太さしかない。バルベルデもまた東京五輪にも備えている一人で、この日を最後にヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード)らが去ることもすでに予定されていること。
またアンドラ公国へと入国するこの日、レースの終了時と休息日にはPCR検査が実施されるようで、出身国ごとの条件の違いも踏まえてスタート前にはフランス車連のスタッフがリストを手に選手たちに検査について説明する姿が見られた。
昨日総合2位に上がったギヨーム・マルタン(コフィディス)への注目が高い photo: ASO Pauline Ballet
マイヨアポアを着たマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・スタートアップネイション) photo: ASO Pauline Ballet
マイヨジョーヌのタディ・ポガチャルがヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)に挨拶 photo: ASO Pauline Ballet
抜け道のほとんど無いこの日のレースルートに、主催者からは朝になって急遽チームや帯同関係車のうちコースを通らない車両に関しては350kmの遠回り迂回ルートでアンドラに向かうよう通告された。荷物搬送等のトラックなど大型車両は道幅が狭く急勾配の1級山岳ベイシャリス峠を通過できない、と。そのことで各チームは少し慌ただしくなったようだ。
ピレネー=オリアンタル県の県旗が飾られた街を通過する photo: ASO Pauline Ballet
しかし細い道幅は最後だけでなく、スタートしてしばらくの区間もだった。テクニカルな急なコーナーが続き、道の舗装状態も良くなく、路上に細かな石・砂が浮く状態。この路面の悪さが32人という大人数の逃げグループ形成の手助けにもなったようだ。ツール終了まで1週間。まだステージ1勝さえできていない大多数のチームが逃げのチャンスに勝利を欲して動いた。
カタルーニャ州とピレネー=オリアンタル県の県旗がはためく photo:Makoto AYANO
サガンのトタルエネルジー移籍を匂わせるのは気が早い? photo:Makoto AYANO
いつもと何処か雰囲気が違う、カタルーニャ色が濃い街々。66.9km地点の中間スプリント、3つの1級山岳と1つの2級山岳を経てアンドラへと向かうプロトン。序盤の難路も手伝って逃げグループは32人という、もはや大人数の「前のプロトン」とも言える状態に。
32名の逃げ集団を牽引するワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Luca Bettini
山間の幹線道路を走りアンドラへと向かう photo: ASO Pauline Ballet
巨人の人形が路上でプロトンを待つ photo:Makoto AYANO
アンドラ公国への関係車両の入国はフリーパス photo:Makoto AYANO
アンドラ公国との国境では、ツール・ド・フランス一行の関係者と選手たちはフリーパス通過。逃げグループのなかで熾烈なバトルが繰り広げられたのが山岳賞ジャージをめぐる争いだ。この日4つの山岳に用意されたポイントは合計35ポイント。そして「前集団」には山岳賞上位3人、マイケル・ウッズ、2位ナイロ・キンタナ、3位ワウト・プールス、4位ワウト・ファンアールトが揃って潜り込んでいた。
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)とワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)が山岳ポイントを争う photo:ASO Charly Lopez
ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)が1級山岳エンヴァリラ峠でアタック。後方と差があることを確認しながら頂上へ photo:Makoto AYANO
前半2つの山岳でプールスとファンアールトが山岳ポイントを交互にトップ通過し、「ワウトVSワウト」の激しい山頂バトルが見られることに。キンタナはアンリデグランジェ賞の設けられた3つめの最高標高の1級山岳アンヴァリラ峠でアタックしてこれをさらい、コロンビア人選手が4年連続アンリ・デグランジュ賞を獲得することに(2018年キンタナ、2019年エガン・ベルナル、2020年ミゲル・アンヘル・ロペス、2021年キンタナ)。
1級山岳エンヴァリラ峠でキンタナを追うワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto AYANO
そしてアンヴァリラ峠ではキンタナに次いでファンアールトが山頂へ向けてスプリントして2位通過ポイントをさらい、山岳賞への強い興味を示した。
1級山岳エンヴァリラ峠(全長10.7km・平均5.9%)へ登る photo: ASO Pauline Ballet
アンヴァリラ峠への登りでマイヨジョーヌのポガチャルを含む後方メイン集団のペースを上げたのはイネオス・グレナディアーズ。ゲラント・トーマスらがハイペースを刻み、チームでまとまって列車を組むイネオス山岳トレインは集団の人数を絞り込み、総合上位のリチャル・カラパスのライバルとなる選手たちをも苦しめた。峠頂上ではイネオスは前のグループに居たジョナタン・カストロビエホとディラン・ファンバーレがメイン集団の到着を待って脚を止め、合流。しかしUAEエミレーツはアシスト選手はまだ山岳2つを残して居なくなり、ポガチャルがひとり孤立することに。
1級山岳エンヴァリラ峠を登るプロトン photo:ASO Charly Lopez
後方のリチャル・カラパスのグループを待つジョナタン・カストロビエホとディラン・ファンバーレ photo:Makoto AYANO
1級山岳エンヴァリラ峠を行くタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
アンヴァリラ峠には強めの風が吹いていた。トレインは峠を越えて下りに入っても速度を緩めず、むしろ加速した。最大の被害者は前日の逃げに乗っての総合2位へのジャンプアップを成功させていたギヨーム・マルタン(コフィディス)。マルタンは頂上でついた少しの差を埋めることができず、後方へと脱落していった。イネオスはマルタンを振り払ったことでカラパスの総合順位を上げることに成功した。
1級山岳エンヴァリラ峠を下るプロトン photo:ASO Charly Lopez
総合2位から9位まで順位を下げたギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) photo:CorVos
再び総合を9位まで下げることになったマルタンは言う。「昨日の走りの影響から、今日のステージで苦しむことは分かっていた。エンヴァリラ峠はとても厳しく、幸運にも向かい風が集団のペースを落としてくれたが、その時点で限界を迎えていた。下りのコースを良く把握していなかったため、集団から遅れてしまった。困難な1日となったが、ベストを尽くしたので落ち込んではいない。総合で順位を落としてしまったが、これが僕のいまの力だ」。
1級山岳エンヴァリラ峠を行くグルペット photo:Makoto AYANO
逃げ切った先頭グループは1級山岳ベイシャリス峠を経てアンドラ・ラ・ベリャへと下るバトルへ。新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)がつい最近フランスに次ぐ拠点の家を構えたアンドラは、税制上の有利さと練習環境の良さからプロ選手が多く住むピレネー山間の小国。プロトン内にも多くの住人が居て、この日逃げグループから勝負に出たセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)もその一人だった。そして最後のベイシャリス峠も知った峠。
アタックして独走するセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) photo: ASO Pauline Ballet
「実はこの登りは厳し過ぎてあまり練習では使わないんだ。だけど(最終山岳の)登り始めがタフだと分かっていたので仕掛けた」とレース後に語ったクス。モンヴァントゥーを制したワウト・ファンアールトがこの日の終盤、後方へと下がり自らのステージ勝利でなくクスのために犠牲となった。クスは得意の急勾配の登りでアタックし、バルベルデの追走を許さなかった。自分の住む街アンドラ・ラ・ベリャでは観客に向けてサングラスを放り投げ、歓喜の勝利。
アタックして独走するセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) photo: ASO Pauline Ballet
健闘をたたえるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) photo:Luca Bettini
「素晴らし過ぎて言葉がない。正直このツールは苦しみの連続で、脚にいつものようなスパイスがなかった。だが、今日のフィニッシュが僕の住むアンドラだということもあり、モチベーションも高く調子も良かったんだ。勝つことができて本当に嬉しい」と語るクス。頂上手前では彼女を沿道に見つけ、アドバイスを貰ったという。
「今日は彼女とその家族が山頂付近で応援してくれていたんだ。いつもならこのカオスで見つけられないのに、今日は沿道にいるのが分かった。今僕がどの位置に居て、ライバルはどこに居るか教えてくれたんだ」。
アメリカ人としてのツールのステージ勝利は2011年のタイラー・ファラー(当時ガーミン・トランジションズ)以来じつに10年ぶりのこと。コロナ禍で2019年末からアメリカには帰れていないクスは言う。「いつも遠くから応援してくれている家族にも会いたくなったよ。長いこと会えていないからね」。
アンドラでステージ優勝を飾ったセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) photo: ASO Pauline Ballet
アメリカ・コロラド州の標高2,000mの高地の街デュランゴ出身のクス。スキーヤーの母、そして父はスキーのナショナルコーチもつとめたほどのスキー一家に生まれ、コロラドの大自然に育まれ、マウンテンバイクから自転車レースを始めた。2016年からコンチネンタルチーム オプタムに所属して本格的にロードレースに参戦。ラリーサイクリングを経て2018年に現ユンボに加入し、その年にツアー・オブ・ユタでステージ3勝と総合優勝を挙げる大活躍。
以来、山岳ステージでのキーマンとしてプリモシュ・ログリッチの山岳での最終シーンでのアシストという大役を担ってきた。ログリッチが負傷のため去ったツールにおいて、自らが勝負に出るチャンスを生かした。シーズン後半のブエルタは山岳志向が強いため自分向きであり、照準を合わせている。
激化する山岳賞争い キンタナ、ウッズ、2人のワウト
激化するマイヨアポアを巡る争いは、この日最後のエンヴァリラ峠がステージ優勝へ向けた勝負となったため、ステージ優勝をクスに託したファンアールトは累積ポイントで4位、首位はもうひとりの「ワウト」プールスが再びマイヨアポアを獲得した。
再びマイヨアポアを奪回したワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo: ASO Pauline Ballet
プールスは言う「最後の山頂では勝つことができ、マイヨアポワを奪還することができた。明日は休み、山岳賞ジャージのために戦い続けるよ」。
1位プールスが74pts、2位マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション)が66pts、3位キンタナとファンアールトが同点64ptsで、今後まだ多く待ち受ける山岳に、どうにでも変動する僅差だ。
開幕当初はスプリントが(も)得意なことで「マイヨヴェールが狙えるのではないか」という記者の問いに対し、明確にそのつもりが無いと否定していたファンアールト。しかし今日はマイヨアポアへの意欲を見せた。難関モンヴァントゥーステージの勝利を手に入れた後、カヴェンデュッシュがパリでのマイヨヴェール獲得に向けて着実に駒を進める今、残るは第20ステージの個人TTを含むステージ勝利とマイヨアポアという可能性が見えてきた。
敢闘賞はワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の手に photo: ASO Pauline Ballet
ファンアールトは山岳賞への興味については明言を避けつつ言う。「マイヨアポワは僕らにとって重要な目標ではない。でも逃げに乗ったから、ポイントを収集する絶好の機会だったんだ。この先また逃げることがあればポイントを獲りに行くよ」。
揺るがないポガチャル 激化する2位争い
1級山岳ベイシャリス峠でアタックするヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:Luca Bettini
2つの難関山岳を残した段階でチームメイトを失い、孤立したポガチャル。しかし最終山岳の1級山岳エンヴァリラ峠ではヨナス・ヴィンゲゴー、リゴベルト・ウラン、リチャル・カラパスらのアタックを波状的に受け続けたが、ポガチャルはそのいずれにも反応、対処して難なく乗り切った。
1級山岳ベイシャリス峠でアタックするリゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO) photo:Luca Bettini
ポガチャルはこのステージの前に「ライバルの皆が知っているとおり僕は暑さに弱いからそれが心配だ」と話していたが、結局は30℃を越えた夏日だったこの日、暑さとの戦いになった最難関ステージにおいてもマイヨジョーヌはまったく弱みを見せることがなかった。
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が補給を呼ぶ photo:Makoto AYANO
今までのシーンでモンヴァントゥーで唯一見せた弱さ「=ヴィンゲゴーがアタックした際に着いて行けなかったこと」からライバルたちが抱いた淡い期待は、ここでも否定されることに。
ステージ後のインタビューで、ポガチャルはひょうひょうとした表情で話す。「とても厳しいステージになった。残り2つの峠でのアタックは予期していたが、イネオスが思ったよりも早く先頭を引き始めたんだ。だけど自分の調子はよく、最後の登りもライバルたちについていくだけで何の心配もなかった」。
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)のマイヨジョーヌは今日も安泰だった photo: ASO Pauline Ballet
孤立したことに対してもまったく不安を感じなかったと言う。「調子が良かったので不安はなかった。チームメイトはそれまで僕を守ってくれたし、冷静さを失わないことが重要だった。水分補給を忘れないとかね。差を詰められなくて良かった。今日は今までで一番暑い日だったのにもかかわらず、調子が良かったんだ」。
翌日の休息日に向けては「今夜は長く寝るよ。きっとベッドの痛みがあるかな!」とユーモアで締めくくった。
2位のウランとは5分18秒の差。総合トップ11がすべて違うチーム所属の選手で、2位から8位が2分以内の僅差。弱点の無いポガチャルに対し、2位・3位のポディウム争いが現実的になってきた。
チームメイトにアシストされ1級山岳エンヴァリラ峠を越えるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Makoto AYANO
カヴェンディッシュがチームメイトに守られてタイムアウトの心配なく今日も余裕で乗り切ったのに対し、この日は早い段階でナセル・ブアニ(アルケア・サムシック)が遅れ、バイクを降りた。そして不調のエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(トタルエネルジー)が1時間以上の遅れてひとりで走り、タイムアウト失格を喫した。
1時間以上遅れ、タイムアウトになったエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、トタルエネルジー) photo:Makoto AYANO
アンドラ・ラ・ベリャにフィニッシュした選手たちは着替える前にPCR検査テントに直行し、そのまま検査を受けていた。アンドラからフランスへの再入国についてはそれまでPCR検査を受けての陰性証明書を提出するか、規定のワクチン接種を済ませていること
が条件だったが、このツールの信頼度の高さからバブル外の帯同関係者には検査が免除されることが3日前の主催者の発表で明らかにされていた。
アンドラへのフィニッシュ直後にPCR検査を受ける選手たち photo:Makoto AYANO
選手たちに陽性者が出ないことを。そして休息日と最終週に入ることを機会にツールを離脱して、東京五輪へ向けて調整に入る選手も居ることで、第16ステージに出走する選手はまた減ることになる。
text&photo:Makoto AYANO in ANDORRA
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アンヴァリラ峠には強めの風が吹いていた。トレインは峠を越えて下りに入っても速度を緩めず、むしろ加速した。最大の被害者は前日の逃げに乗っての総合2位へのジャンプアップを成功させていたギヨーム・マルタン(コフィディス)。マルタンは頂上でついた少しの差を埋めることができず、後方へと脱落していった。イネオスはマルタンを振り払ったことでカラパスの総合順位を上げることに成功した。
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再び総合を9位まで下げることになったマルタンは言う。「昨日の走りの影響から、今日のステージで苦しむことは分かっていた。エンヴァリラ峠はとても厳しく、幸運にも向かい風が集団のペースを落としてくれたが、その時点で限界を迎えていた。下りのコースを良く把握していなかったため、集団から遅れてしまった。困難な1日となったが、ベストを尽くしたので落ち込んではいない。総合で順位を落としてしまったが、これが僕のいまの力だ」。
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逃げ切った先頭グループは1級山岳ベイシャリス峠を経てアンドラ・ラ・ベリャへと下るバトルへ。新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)がつい最近フランスに次ぐ拠点の家を構えたアンドラは、税制上の有利さと練習環境の良さからプロ選手が多く住むピレネー山間の小国。プロトン内にも多くの住人が居て、この日逃げグループから勝負に出たセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)もその一人だった。そして最後のベイシャリス峠も知った峠。
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「実はこの登りは厳し過ぎてあまり練習では使わないんだ。だけど(最終山岳の)登り始めがタフだと分かっていたので仕掛けた」とレース後に語ったクス。モンヴァントゥーを制したワウト・ファンアールトがこの日の終盤、後方へと下がり自らのステージ勝利でなくクスのために犠牲となった。クスは得意の急勾配の登りでアタックし、バルベルデの追走を許さなかった。自分の住む街アンドラ・ラ・ベリャでは観客に向けてサングラスを放り投げ、歓喜の勝利。


「素晴らし過ぎて言葉がない。正直このツールは苦しみの連続で、脚にいつものようなスパイスがなかった。だが、今日のフィニッシュが僕の住むアンドラだということもあり、モチベーションも高く調子も良かったんだ。勝つことができて本当に嬉しい」と語るクス。頂上手前では彼女を沿道に見つけ、アドバイスを貰ったという。
「今日は彼女とその家族が山頂付近で応援してくれていたんだ。いつもならこのカオスで見つけられないのに、今日は沿道にいるのが分かった。今僕がどの位置に居て、ライバルはどこに居るか教えてくれたんだ」。
アメリカ人としてのツールのステージ勝利は2011年のタイラー・ファラー(当時ガーミン・トランジションズ)以来じつに10年ぶりのこと。コロナ禍で2019年末からアメリカには帰れていないクスは言う。「いつも遠くから応援してくれている家族にも会いたくなったよ。長いこと会えていないからね」。

アメリカ・コロラド州の標高2,000mの高地の街デュランゴ出身のクス。スキーヤーの母、そして父はスキーのナショナルコーチもつとめたほどのスキー一家に生まれ、コロラドの大自然に育まれ、マウンテンバイクから自転車レースを始めた。2016年からコンチネンタルチーム オプタムに所属して本格的にロードレースに参戦。ラリーサイクリングを経て2018年に現ユンボに加入し、その年にツアー・オブ・ユタでステージ3勝と総合優勝を挙げる大活躍。
以来、山岳ステージでのキーマンとしてプリモシュ・ログリッチの山岳での最終シーンでのアシストという大役を担ってきた。ログリッチが負傷のため去ったツールにおいて、自らが勝負に出るチャンスを生かした。シーズン後半のブエルタは山岳志向が強いため自分向きであり、照準を合わせている。
激化する山岳賞争い キンタナ、ウッズ、2人のワウト
激化するマイヨアポアを巡る争いは、この日最後のエンヴァリラ峠がステージ優勝へ向けた勝負となったため、ステージ優勝をクスに託したファンアールトは累積ポイントで4位、首位はもうひとりの「ワウト」プールスが再びマイヨアポアを獲得した。

プールスは言う「最後の山頂では勝つことができ、マイヨアポワを奪還することができた。明日は休み、山岳賞ジャージのために戦い続けるよ」。
1位プールスが74pts、2位マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション)が66pts、3位キンタナとファンアールトが同点64ptsで、今後まだ多く待ち受ける山岳に、どうにでも変動する僅差だ。
開幕当初はスプリントが(も)得意なことで「マイヨヴェールが狙えるのではないか」という記者の問いに対し、明確にそのつもりが無いと否定していたファンアールト。しかし今日はマイヨアポアへの意欲を見せた。難関モンヴァントゥーステージの勝利を手に入れた後、カヴェンデュッシュがパリでのマイヨヴェール獲得に向けて着実に駒を進める今、残るは第20ステージの個人TTを含むステージ勝利とマイヨアポアという可能性が見えてきた。

ファンアールトは山岳賞への興味については明言を避けつつ言う。「マイヨアポワは僕らにとって重要な目標ではない。でも逃げに乗ったから、ポイントを収集する絶好の機会だったんだ。この先また逃げることがあればポイントを獲りに行くよ」。
揺るがないポガチャル 激化する2位争い

2つの難関山岳を残した段階でチームメイトを失い、孤立したポガチャル。しかし最終山岳の1級山岳エンヴァリラ峠ではヨナス・ヴィンゲゴー、リゴベルト・ウラン、リチャル・カラパスらのアタックを波状的に受け続けたが、ポガチャルはそのいずれにも反応、対処して難なく乗り切った。

ポガチャルはこのステージの前に「ライバルの皆が知っているとおり僕は暑さに弱いからそれが心配だ」と話していたが、結局は30℃を越えた夏日だったこの日、暑さとの戦いになった最難関ステージにおいてもマイヨジョーヌはまったく弱みを見せることがなかった。

今までのシーンでモンヴァントゥーで唯一見せた弱さ「=ヴィンゲゴーがアタックした際に着いて行けなかったこと」からライバルたちが抱いた淡い期待は、ここでも否定されることに。
ステージ後のインタビューで、ポガチャルはひょうひょうとした表情で話す。「とても厳しいステージになった。残り2つの峠でのアタックは予期していたが、イネオスが思ったよりも早く先頭を引き始めたんだ。だけど自分の調子はよく、最後の登りもライバルたちについていくだけで何の心配もなかった」。
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孤立したことに対してもまったく不安を感じなかったと言う。「調子が良かったので不安はなかった。チームメイトはそれまで僕を守ってくれたし、冷静さを失わないことが重要だった。水分補給を忘れないとかね。差を詰められなくて良かった。今日は今までで一番暑い日だったのにもかかわらず、調子が良かったんだ」。
翌日の休息日に向けては「今夜は長く寝るよ。きっとベッドの痛みがあるかな!」とユーモアで締めくくった。
2位のウランとは5分18秒の差。総合トップ11がすべて違うチーム所属の選手で、2位から8位が2分以内の僅差。弱点の無いポガチャルに対し、2位・3位のポディウム争いが現実的になってきた。

カヴェンディッシュがチームメイトに守られてタイムアウトの心配なく今日も余裕で乗り切ったのに対し、この日は早い段階でナセル・ブアニ(アルケア・サムシック)が遅れ、バイクを降りた。そして不調のエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(トタルエネルジー)が1時間以上の遅れてひとりで走り、タイムアウト失格を喫した。

アンドラ・ラ・ベリャにフィニッシュした選手たちは着替える前にPCR検査テントに直行し、そのまま検査を受けていた。アンドラからフランスへの再入国についてはそれまでPCR検査を受けての陰性証明書を提出するか、規定のワクチン接種を済ませていること
が条件だったが、このツールの信頼度の高さからバブル外の帯同関係者には検査が免除されることが3日前の主催者の発表で明らかにされていた。

選手たちに陽性者が出ないことを。そして休息日と最終週に入ることを機会にツールを離脱して、東京五輪へ向けて調整に入る選手も居ることで、第16ステージに出走する選手はまた減ることになる。
text&photo:Makoto AYANO in ANDORRA
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