2021/07/10(土) - 17:38
世界遺産の街カルカッソンヌでついにメルクスの最多勝記録に並ぶツール通算34勝目を達成したマーク・カヴェンディッシュ。スピードの衰えない36歳の「マン島のミサイル」が記録を更新する可能性も見えてきた。
昨日ツールがフィニッシュしたオクシタニー地域圏、ガール県の県庁所在地でもある街ニーム。この日のスタート地点は2年前と同じ街の中心部の、ローマの時代の円形劇場の脇。朝から南仏らしい陽光が降り注いだ。
前日のステージは当初スプリントが予想されたものの、前々日のモンヴァントゥーを2度登るステージがあまりに過酷すぎたことで予定が変わってしまった。上位争い同様にグルペットにとっても休みの日にはならず、スプリンターを含む選手たちはタイムアウト失格の恐怖と戦い、プロトン全体が疲れ切り、いったん勝負はお預けとなった。そして今日こそスプリンター向けのステージ。
もちろん今日こそマーク・カヴェンディッシュによるエディ・メルクスのツール最多勝記録更新があるのかどうかが最大の話題だった。
そしてスタートする頃に合わせてドゥクーニンク・クイックステップは今年一杯となっていたファビオ・ヤコブセン(オランダ)との契約を2023年末まで2年間延長したことを発表した。ヤコブセンは落車事故での大怪我で未だに復調に長く時間がかかっている。苦境のヤコブセンに対して支援ともとれるパトリック・ルフェーブル氏の方針に胸が熱くなる。
カヴに期待が集まる日。プロトン全体の尊敬を集めるレジェンドだが、だからといって勝利が譲られるほどツールは甘くはない。ツールでの1勝は選手の誰にとっても人生を変える1勝だ。
スタート脇にはスロベニア国旗に昨年のシャンゼリゼでマイヨジョーヌを着て走る姿をプリントした旗を持ったポガチャルの家族、親戚、親衛隊の姿があった。ポガチャルも少し時間をとって話をしにやって来た。(昨年はバブルの区分が厳格で、家族といえども接触は許されなかった)
ニーム円形劇場をバックにサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)が観客に手を振り(この日落車でリタイアすることに)、ロット・スーダルは6人で出走サインに現れた(この日落車で4人に減ることに)。
乾いた岩肌の山々と葡萄畑が続く南仏の風景のなかへ走り出したプロトンは今日もスタートからアタックが頻発し、逃げを試みる選手たちが続いた。今日フィニッシュするカルカッソンヌは過去7回ツールのフィニッシュ地点として登場しているが、いずれも逃げ切りが決まってきた。細かなアップダウンに北からの風が吹き続け、メイン集団は逃げグループが大きな差を開くのを許さず、タイム差を4分程度に抑えた。
中間スプリントポイントではポイント賞2位のマイケル・マシューズ、3位ヤスパー・フィリプセン、4位ソンニ・コルブレッリが競り合ったがカヴェンディッシュは流して競わず、争いには参加せずに通過した。カヴにはより多くのポイント獲得が見込めるフィニッシュだけに注力すればいいだけの「貯金」もある。
この日、第3ステージでの落車多発と翌日の抗議行動を経てCPA(プロ選手組合)、ASOとUCIとが協議した結果、この日フィニッシュするカルカッソンヌの残り4km付近のコース上にあるロンポワン(ラウンドアバウト)に危険な要素があるため「3km救済ルール」を変更し、残り4.5kmで適用することになったことが発表されていた。
しかし、この日の落車事故は残り60km地点で発生した。集団が緩い下り坂を75km/hの高速で下っている時、路上には砂利が浮いていた。審判は無線で「グラベルに注意」と呼びかけたが、砂利にタイヤを滑らせた選手たちが転び、何人もが崖の斜面に転げ落ちることになった。
この落車にサイモン・イェーツもティム・デクレルクも含まれた。イェーツは頭を打ったことで脳震盪の恐れがあったためリタイア。ロジャー・クルーゲ(ロット・スーダル)とルーカス・ハミルトン(バイクエクスチェンジ)ら深刻な数人とともにツールを去ることに。ドゥクーニンク・クイックステップは後半に向けて「トラクター」デクレルクを失うことに。
カルカッソンヌへのスプリントに向けて火花散らす最終盤の争いは、ドゥクーニンク・クイックステップにとっては理想的なものではなかった。抵抗するアルペシン・フェニックスだけでなくケース・ボル擁するチームDSMも被せてきた。ウルフパックトレインは先頭を走り続けられず、乱れが生じた。
そしてカヴェンディッシュはこの日UCI審判から「ヘッドバット」をしないように注意を受けていたと言う。
「今日はもう1つ問題があった。コミッセールから第1ステージでブアニに頭突きしたと注意されたんだ。でもそんなことはしていない。僕は肩幅が狭いから肩を当てると頭突きしたように見えただけ。だから今日は他の選手が寄せてきても頭が当たらないようにする必要があった。でも最も安全な方法は頭を使うことなんだ。もちろん肘なんてもってのほかだし、そんなことすれば何が起こるかわかるだろう?そのせいでポジションを少し下げてしまったんだ」。
カルカッソンヌのフィニッシュへ向けてのファイナルスプリントはウルフパックにとって2日前のような完璧な楽勝ではなかったが、初めてツールに挑むバッレリーニとカッタネオの2人の若手イタリアコンビ、驚きの大出力エンジンを積んだアスグリーン、そしてリードアウト職人ミケル・モルコフの熟練の業が光った。
乱れ打たれる攻撃に少しスプリントが長すぎると悟ったウルフパックトレイン。モルコフは一度脚を緩めてバッレリーニに先に行かせて間隔を開けると、飛び出したイバン・コルティナ(モビスター)が差を詰める。他の選手に前に入られて一旦モルコフの後輪から離れてしまったカヴェンディッシュも冷静にラインを変えてモルコフに再連結。モルコフは混乱の中でも後方にカヴが着いたことを確認すると前へと引き上げ、カヴは絶妙なタイミングで発射した。
全開でフィシュッシュしたカヴェンディッシュは口を大きく開いてラインを通過すると右手を挙げた。そしてモルコフは発射後も自身のスピードを保ち、バイクを投げて2位でフィニッシュ。モルコフの2位もツールにおける自身最高位。しかもそれがカヴのマイヨヴェールを守るためにポイントを他の選手に取らせないことにもつながるという、最高のアシストぶりを発揮した。
46年間と6日間に渡り並ばれることがなかった、エディ・メルクスの誇ったツール・ド・フランス最多ステージ勝記録とタイの34勝目達成。36歳のカヴは1つのツールで区間4勝を飾った最年長の選手になった。
「なんて日だ。何も考えられない」。そう言うとしばらくは肩で息をしながら流れる汗に身を任せ、言葉を詰まらせたカヴ。「220kmを走った最後に僕の身体は死んでいた。追い込んだ。本当に限界まで...。この暑さ、そして風。限界だったけど、ずっと働き続けてくれたチームメイトたちは本当に信じられないぐらい凄いヤツらだよ」。
エディ・メルクスの記録と並んだことに対しては、変わらず意識をしていないとカヴは強調する。
「(34勝に並んだと)知っているが、意識はしていない。ツールで最初に挙げた勝利と同様、ステージ優勝しただけだ。小さい頃の夢であったツールでステージ優勝をした。それだけだ。何時になっても最も偉大な自転車選手であるエディ・メルクスと比べられるようなものじゃない。だが、僕の勝利が自転車が好きな子どもたちに影響を与えられるのなら、そしていつか彼。彼女らがツール・ド・フランス(や女子TDF)を目指すようになるなら、それが最大の喜びだ。子どもの頃から夢見ていたツールのステージ優勝を34回もできるなんて信じられない。想像もしていなかったことだが、努力を重ねた結果でもあるんだ」。
「この先の今ツールで新記録の達成はあるか?」と訊かれたパトリック・ルフェーブルGMは言う。
「僕はエディ(メルクス)の大ファンだが、記録は破るためにある。カヴェンディッシュがその記録を更新することができればそれ以上に素晴らしいことはない。彼が乗り越えてきた数々の苦難を考えれば、これ以上の勝利する必要なんてないのだが、彼はまだ勝てるだろう。それが数年前までの彼とは違う点だ。彼は同じ選手でありながら、感じているストレスが異なっている(感じていない)ようだ」。
ベルギーに居るエディ・メルクスは、メディアを通じて次のようにコメント。
「私がツールで挙げた34勝には、スプリントの他に山岳やタイムトライアル、下りでアタックして掴んだ勝利も含まれている。それに5度の総合優勝と、マイヨジョーヌを96日間に渡り着用した。みんなこれらの功績を忘れてはいないだろうか。もちろん彼の功績を軽視するつもりはない。また、彼が困難を乗り越え再び自転車を愛するに至ったことは、若い人々への良いメッセージになるだろう」。
ツール総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏はメルクスとの比較についてこう要約した。「マーク・カヴェンディッシュは歴史上最高のスプリンターで、エディ・メルクスは最高の選手であり、チャンピオンだ」。
そして記録について意識していないと言うカヴが、実はツールの記録に通じていることを話す。「彼の34勝は2008年から2021年の13年間に成し遂げられたもので、ジーノ・バルタリの君臨した時代にも通じる。マークと以前、50〜60年代にかけてスプリント王だったアンドレ・ダリガード(フランス)について話したことがあるんだ。彼はダリガードがツールで何勝しているかを知っていた。ベルナール・イノーは28勝、そしてエディ・メルクスが34勝。彼はついに同じレベルに達したね」。
このツールでカヴに残るチャンスはあと2つ、19ステージと最終シャンゼリゼ。懸念材料は「トラクター」ティム・デクレルクが落車に巻き込まれて怪我を負ったこと。カヴが34勝を祝う表彰式の最中に大きく遅れて帰ってきたデクレルクはタイムアウトまであと2分45秒で免れ、骨折さえ無かったものの明日は全身を包帯と絆創膏に覆われることになる。
そして4勝目のうち今日を含む3つの勝利においてカヴェンディッシュのバイクのチェーンが外れた。それは猛烈に回転する脚をフィニッシュ直後に止めるからか、何らかのメカニカルな不都合が生じているのか。路面の凹凸が原因ではなさそうだが、この「小さな心配事」はちょっとした懸念になっている。
カヴェンディッシュのツール・ド・フランスでのステージ優勝数
2008年 4勝
2009年 6勝
2010年 5勝
2011年 5勝
2012年 3勝
2013年 2勝
2015年 1勝
2016年 4勝
2021年 4勝
通算 34勝(13ステージ終了時)
text&photo:Makoto.AYANO in FRANCE
昨日ツールがフィニッシュしたオクシタニー地域圏、ガール県の県庁所在地でもある街ニーム。この日のスタート地点は2年前と同じ街の中心部の、ローマの時代の円形劇場の脇。朝から南仏らしい陽光が降り注いだ。
前日のステージは当初スプリントが予想されたものの、前々日のモンヴァントゥーを2度登るステージがあまりに過酷すぎたことで予定が変わってしまった。上位争い同様にグルペットにとっても休みの日にはならず、スプリンターを含む選手たちはタイムアウト失格の恐怖と戦い、プロトン全体が疲れ切り、いったん勝負はお預けとなった。そして今日こそスプリンター向けのステージ。
もちろん今日こそマーク・カヴェンディッシュによるエディ・メルクスのツール最多勝記録更新があるのかどうかが最大の話題だった。
そしてスタートする頃に合わせてドゥクーニンク・クイックステップは今年一杯となっていたファビオ・ヤコブセン(オランダ)との契約を2023年末まで2年間延長したことを発表した。ヤコブセンは落車事故での大怪我で未だに復調に長く時間がかかっている。苦境のヤコブセンに対して支援ともとれるパトリック・ルフェーブル氏の方針に胸が熱くなる。
カヴに期待が集まる日。プロトン全体の尊敬を集めるレジェンドだが、だからといって勝利が譲られるほどツールは甘くはない。ツールでの1勝は選手の誰にとっても人生を変える1勝だ。
スタート脇にはスロベニア国旗に昨年のシャンゼリゼでマイヨジョーヌを着て走る姿をプリントした旗を持ったポガチャルの家族、親戚、親衛隊の姿があった。ポガチャルも少し時間をとって話をしにやって来た。(昨年はバブルの区分が厳格で、家族といえども接触は許されなかった)
ニーム円形劇場をバックにサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)が観客に手を振り(この日落車でリタイアすることに)、ロット・スーダルは6人で出走サインに現れた(この日落車で4人に減ることに)。
乾いた岩肌の山々と葡萄畑が続く南仏の風景のなかへ走り出したプロトンは今日もスタートからアタックが頻発し、逃げを試みる選手たちが続いた。今日フィニッシュするカルカッソンヌは過去7回ツールのフィニッシュ地点として登場しているが、いずれも逃げ切りが決まってきた。細かなアップダウンに北からの風が吹き続け、メイン集団は逃げグループが大きな差を開くのを許さず、タイム差を4分程度に抑えた。
中間スプリントポイントではポイント賞2位のマイケル・マシューズ、3位ヤスパー・フィリプセン、4位ソンニ・コルブレッリが競り合ったがカヴェンディッシュは流して競わず、争いには参加せずに通過した。カヴにはより多くのポイント獲得が見込めるフィニッシュだけに注力すればいいだけの「貯金」もある。
この日、第3ステージでの落車多発と翌日の抗議行動を経てCPA(プロ選手組合)、ASOとUCIとが協議した結果、この日フィニッシュするカルカッソンヌの残り4km付近のコース上にあるロンポワン(ラウンドアバウト)に危険な要素があるため「3km救済ルール」を変更し、残り4.5kmで適用することになったことが発表されていた。
しかし、この日の落車事故は残り60km地点で発生した。集団が緩い下り坂を75km/hの高速で下っている時、路上には砂利が浮いていた。審判は無線で「グラベルに注意」と呼びかけたが、砂利にタイヤを滑らせた選手たちが転び、何人もが崖の斜面に転げ落ちることになった。
この落車にサイモン・イェーツもティム・デクレルクも含まれた。イェーツは頭を打ったことで脳震盪の恐れがあったためリタイア。ロジャー・クルーゲ(ロット・スーダル)とルーカス・ハミルトン(バイクエクスチェンジ)ら深刻な数人とともにツールを去ることに。ドゥクーニンク・クイックステップは後半に向けて「トラクター」デクレルクを失うことに。
カルカッソンヌへのスプリントに向けて火花散らす最終盤の争いは、ドゥクーニンク・クイックステップにとっては理想的なものではなかった。抵抗するアルペシン・フェニックスだけでなくケース・ボル擁するチームDSMも被せてきた。ウルフパックトレインは先頭を走り続けられず、乱れが生じた。
そしてカヴェンディッシュはこの日UCI審判から「ヘッドバット」をしないように注意を受けていたと言う。
「今日はもう1つ問題があった。コミッセールから第1ステージでブアニに頭突きしたと注意されたんだ。でもそんなことはしていない。僕は肩幅が狭いから肩を当てると頭突きしたように見えただけ。だから今日は他の選手が寄せてきても頭が当たらないようにする必要があった。でも最も安全な方法は頭を使うことなんだ。もちろん肘なんてもってのほかだし、そんなことすれば何が起こるかわかるだろう?そのせいでポジションを少し下げてしまったんだ」。
カルカッソンヌのフィニッシュへ向けてのファイナルスプリントはウルフパックにとって2日前のような完璧な楽勝ではなかったが、初めてツールに挑むバッレリーニとカッタネオの2人の若手イタリアコンビ、驚きの大出力エンジンを積んだアスグリーン、そしてリードアウト職人ミケル・モルコフの熟練の業が光った。
乱れ打たれる攻撃に少しスプリントが長すぎると悟ったウルフパックトレイン。モルコフは一度脚を緩めてバッレリーニに先に行かせて間隔を開けると、飛び出したイバン・コルティナ(モビスター)が差を詰める。他の選手に前に入られて一旦モルコフの後輪から離れてしまったカヴェンディッシュも冷静にラインを変えてモルコフに再連結。モルコフは混乱の中でも後方にカヴが着いたことを確認すると前へと引き上げ、カヴは絶妙なタイミングで発射した。
全開でフィシュッシュしたカヴェンディッシュは口を大きく開いてラインを通過すると右手を挙げた。そしてモルコフは発射後も自身のスピードを保ち、バイクを投げて2位でフィニッシュ。モルコフの2位もツールにおける自身最高位。しかもそれがカヴのマイヨヴェールを守るためにポイントを他の選手に取らせないことにもつながるという、最高のアシストぶりを発揮した。
46年間と6日間に渡り並ばれることがなかった、エディ・メルクスの誇ったツール・ド・フランス最多ステージ勝記録とタイの34勝目達成。36歳のカヴは1つのツールで区間4勝を飾った最年長の選手になった。
「なんて日だ。何も考えられない」。そう言うとしばらくは肩で息をしながら流れる汗に身を任せ、言葉を詰まらせたカヴ。「220kmを走った最後に僕の身体は死んでいた。追い込んだ。本当に限界まで...。この暑さ、そして風。限界だったけど、ずっと働き続けてくれたチームメイトたちは本当に信じられないぐらい凄いヤツらだよ」。
エディ・メルクスの記録と並んだことに対しては、変わらず意識をしていないとカヴは強調する。
「(34勝に並んだと)知っているが、意識はしていない。ツールで最初に挙げた勝利と同様、ステージ優勝しただけだ。小さい頃の夢であったツールでステージ優勝をした。それだけだ。何時になっても最も偉大な自転車選手であるエディ・メルクスと比べられるようなものじゃない。だが、僕の勝利が自転車が好きな子どもたちに影響を与えられるのなら、そしていつか彼。彼女らがツール・ド・フランス(や女子TDF)を目指すようになるなら、それが最大の喜びだ。子どもの頃から夢見ていたツールのステージ優勝を34回もできるなんて信じられない。想像もしていなかったことだが、努力を重ねた結果でもあるんだ」。
「この先の今ツールで新記録の達成はあるか?」と訊かれたパトリック・ルフェーブルGMは言う。
「僕はエディ(メルクス)の大ファンだが、記録は破るためにある。カヴェンディッシュがその記録を更新することができればそれ以上に素晴らしいことはない。彼が乗り越えてきた数々の苦難を考えれば、これ以上の勝利する必要なんてないのだが、彼はまだ勝てるだろう。それが数年前までの彼とは違う点だ。彼は同じ選手でありながら、感じているストレスが異なっている(感じていない)ようだ」。
ベルギーに居るエディ・メルクスは、メディアを通じて次のようにコメント。
「私がツールで挙げた34勝には、スプリントの他に山岳やタイムトライアル、下りでアタックして掴んだ勝利も含まれている。それに5度の総合優勝と、マイヨジョーヌを96日間に渡り着用した。みんなこれらの功績を忘れてはいないだろうか。もちろん彼の功績を軽視するつもりはない。また、彼が困難を乗り越え再び自転車を愛するに至ったことは、若い人々への良いメッセージになるだろう」。
ツール総合ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏はメルクスとの比較についてこう要約した。「マーク・カヴェンディッシュは歴史上最高のスプリンターで、エディ・メルクスは最高の選手であり、チャンピオンだ」。
そして記録について意識していないと言うカヴが、実はツールの記録に通じていることを話す。「彼の34勝は2008年から2021年の13年間に成し遂げられたもので、ジーノ・バルタリの君臨した時代にも通じる。マークと以前、50〜60年代にかけてスプリント王だったアンドレ・ダリガード(フランス)について話したことがあるんだ。彼はダリガードがツールで何勝しているかを知っていた。ベルナール・イノーは28勝、そしてエディ・メルクスが34勝。彼はついに同じレベルに達したね」。
このツールでカヴに残るチャンスはあと2つ、19ステージと最終シャンゼリゼ。懸念材料は「トラクター」ティム・デクレルクが落車に巻き込まれて怪我を負ったこと。カヴが34勝を祝う表彰式の最中に大きく遅れて帰ってきたデクレルクはタイムアウトまであと2分45秒で免れ、骨折さえ無かったものの明日は全身を包帯と絆創膏に覆われることになる。
そして4勝目のうち今日を含む3つの勝利においてカヴェンディッシュのバイクのチェーンが外れた。それは猛烈に回転する脚をフィニッシュ直後に止めるからか、何らかのメカニカルな不都合が生じているのか。路面の凹凸が原因ではなさそうだが、この「小さな心配事」はちょっとした懸念になっている。
カヴェンディッシュのツール・ド・フランスでのステージ優勝数
2008年 4勝
2009年 6勝
2010年 5勝
2011年 5勝
2012年 3勝
2013年 2勝
2015年 1勝
2016年 4勝
2021年 4勝
通算 34勝(13ステージ終了時)
text&photo:Makoto.AYANO in FRANCE
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