2020/12/20(日) - 14:31
トレックが誇るフラッグシップエアロロード、Madone SLR。マテリアルを新型Emondaで投入したOCLV800へとアップデートし、さらなる性能向上を果たした2021モデルをインプレッション。
トレック Madone SLR (c)Makoto AYANO/cyclowired.jp
アメリカ、ウィスコンシン州に本拠地を置くトレック。高い技術力を有し、幅広いラインアップを揃える総合バイクブランドとして北米を代表するメーカーだ。その中でもフラッグシップモデルとなるレーシングバイクがMadone。2003年に発表されて以来、数々の戦績を残し、同社のレーシングバイクの代名詞であり続けた名作だ。
登場以来幾度ものモデルチェンジを重ねてきたMadoneだが、現行モデルがデビューしたのは2018年。ボリューミーなKVF(Kammtail Virtual Foil)チュービングを採用したフレーム形状はそのままに、ディスクブレーキへの完全対応やケーブルフル内装システムを採用したコックピットの採用、トレック独自の振動吸収機構"Isospeed"の構造をブラッシュアップするなど、エアロでありながら快適性をも手に入れた究極のレーシングバイクとして登場した。
最新モデルの登場から2年、今シーズンもトレック・セガフレードの選手らが残した戦績が示すように一線級のレーシングバイクであるMadoneにアップデートが施され、その優れた性能に更に磨きが掛けられた。
OCLV800を使用することで性能の底上げを図った新型Madone
特徴的なヘッドチューブ造形はもちろんそのままだ
フォークブレードも最大限エアロを追求した翼型形状
その大きな原動力となったのが、トレック自慢のOCLVカーボンの最新世代となる"OCLV 800"。今年発表されたオールラウンドバイク"Emonda"の軽量性と高剛性を実現した新時代のカーボン素材を早速Madoneにも用いることで、性能の底上げを図った。
OCLV 800は、従来モデルに使用されてきたOCLV 700に比べ高い引張り強度を有していることが大きな特徴。この特性によって、成型時にレイアップする素材量の削減に成功し、ボリューミーなエアロ形状はそのままにフレーム単体で80gの軽量化を実現した。
シートチューブ寄りのトップチューブ裏側にIsospeedの調整ボルトが設けられる
新たにproject oneにて選択可能となったステム一体型ハンドル"Aeolus RSL Bar/Stem"
リアバックも非常にエアロな造形とされている
ケーブル類がほぼ露出しないような内装システムを採用
DomaneやEmondaに続き、BB規格を圧入式のBB90からスレッド式の"T47"へと変更。スレッド式ながらシェル幅85.5mmとBB90に匹敵するボリュームを確保しつつ、シェル内径を拡張することでスラムのDUBやローターなどの30mmスピンドルクランクにも無理なく対応する拡張性を有している。
更に、新たなクリアコートを使用することでフレーム重量の軽減を図っている。男女のプロチームカラーモデルにスモークカラーと呼ばれる色付きのクリアコートを採用することで、50gの軽量化を実現。カーボン地を透かすスペシャルなカラーで、Project Oneでも選択可能となっている。
ハブも細身で空力を重視した設計
優れた空力と軽量性を実現したAeolus RSL 37 ホイール
フレームだけでなく、組み合わせられるパーツ類によっても大きく性能向上を果たしている。Project Oneで新たに選択可能となった新作ホイール、Aeolus RSL 37 ホイールは、従来のXXX 4ホイールとほぼ同等の空力性能を持ちながらも100g以上軽くなっており、平坦から登りまであらゆるシーンで活躍する万能モデル。
ホイールに加え、コックピットパーツも更に軽量なモデルがProject Oneに用意された。新型Emondaと合わせて開発されたステム一体型ハンドル"Aeolus RSL Bar/Stem"が選択可能となり、従来の2ピースタイプに比べてハンドル周辺だけで160gの軽量化を達成した。
コンパクトでありながらトップチューブからつながるような造形で快適性を向上させたリアバック
快適性を向上させるためオフセットされたピラーを採用
ボトルケージホルダーを兼ねたコントロールセンター
OCLV 800へのアップデート、T47BBの採用、新たなスモークカラークリアコート、新型ホイールとバーステムによって、完成車全体で450gもの軽量化を達成した2021モデルのMadone SLR。スラムRed eTAP完成車で約7.40kg、シマノDURA-ACE DI2完成車で約7.35kgと、最高峰のエアロダイナミクスとIsospeedを搭載しつつ、登りでも後れを取ることのない軽量バイクへと進化した。
既に高い評価を受けている最先端のエアロロードに軽量性をプラスし、あらゆるシーンでの速さを追求した新型Madone。トレックが導き出した「最速」への一つの答えを2人のインプレッションライダーが検証する。
― インプレッション
「乗って速いエアロロードが新素材で更にシャープに。一皮剥けたエアロオールラウンダー」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
「乗って速いエアロロードが新素材で更にシャープに。一皮剥けたエアロオールラウンダー」 錦織大祐(フォーチュンバイク)
現行Madoneに乗っている身としてはインプレッションするのが楽しみなバイクだったのですが、正直悔しいですね(笑)。出来ることなら「ほぼほぼ同じ乗り味です」と言いたかったのですが、そうは言えないくらい走りのレベルが上がっています。
とはいっても、全くの別物に化けてしまったというわけでなく、バイクのコンセプトはそのままに一皮剥けたという印象です。OCLVが700から800へとアップデートされたメリットなのでしょう、前作よりも硬く乾いたソリッドな踏み味へと進化していますね。
ある意味で、今回のアップデートは現行のMadoneが一つのモデルとして完成形にあることの証明でもあるのだと思います。骨となる部分はそのままに現在のトレンドに合わせた改良を施すことで、一線級のバイクであり続けるというのはMadoneというバイクのポテンシャルの高さがあってこそでしょう。
この新型、現行モデルに関わらず、Madoneに乗ると毎回感じるのが「現実世界で速いバイク」ということです。そして、その核となり、Madoneを唯一無二たらしめるのがIsospeedを採用したエアロロードという点です。
「Madoneを唯一無二たらしめるのがIsospeedを採用したエアロロードであるという点」 錦織大祐(フォーチュンバイク)
いかに風洞で空力性能を改善して、何W節約できるようになりましたと謳っても、ほんの少しタイヤが跳ねてしまうだけで無駄になってしまいますよね。その瞬間、地面へ伝わる力はゼロになってしまう訳ですから。高いスピード域、大きな出力になればなるほど、それらをコントロールし前へ進む力へと繋げるために必要なのは、乗り手を含めたスタビリティです。その点においてIsospeedは非常に有効なテクノロジーです。
路面からの突き上げを和らげ打ち消すことで、乗り手という不安定な存在を様々なダメージから守ってくれるIsospeedは、距離を重ねれば重ねるほど効いてきます。具体的に言うと、目と首の疲労感が明らかに軽減されますね。突き上げが軽減されることで頭部の揺れが少なくなり、結果として疲れが抑えられます。更に路面を常に掴み続けるトラクション性能にも繋がっているので、重量面以外でのデメリットは無いわけですが、そういったバイクが更に軽くなってソリッド感が上がったというのは素直に評価すべきだと思います。
そう、これでフレーム素材がOCLV800になって、ガチガチに硬くなって振動吸収も悪くなった、ということでもあれば重箱の隅をつつくようなコメントも出せるのですが(笑)。あいにくとそういったネガティブな要素も無く。現行モデルを持っている人は、自分のバイクがあったからこそ新型が登場したのだというくらいの広い心で居てください、私みたいに(笑)
今回のモデルチェンジで、レースバイクとしての価値は更に向上したと思います。ヒルクライムをメインにするのであればÉmondaが間違いないですが、それ以外のロードレースやサーキットエンデューロなどであれば新型Madoneのアドバンテージはかなり大きいですね。下りや平坦ではもちろんMadone有利ですし、長距離になればIsospeedのメリットも大きい。そして登りでの差も今回のモデルチェンジでかなり埋まりました。
「今回のモデルチェンジで、レースバイクとしての価値は更に向上した」 錦織大祐(フォーチュンバイク)
そもそも、Madoneは見た目の印象とは裏腹に登りが不得意というわけではなく、むしろ登りもかなり進む部類のバイクです。シッティングで回し続けていると、安定したトラクションのおかげでとにかく前へ進んでくれるんです。私のように登りが嫌いな人からすると、登りでタイヤが滑るなんてあってはならないことですからね。「俺のパワーを返せ!」と叫びたくなるようなことがMadoneは絶対起こらないので、安心して登っていけるんです。
エアロダイナミクスもしっかり感じ取れるレベルにあるので、レーシングバイクとしては外せない選択肢だと思います。鈴鹿サーキットの下りでMadoneに乗ったお客さん達と、「脚を止めてどこまで行けるか勝負」をしてみたことがあるんですが、明らかに速くて驚きました。周りの人達をどんどん抜いちゃって、ちょっと笑えるくらい速くて。みんな同じ体験をしたので、「なんかゾッとするね」なんて話してたんですよ。
少し話が脱線しましたが、とにかくそれだけのポテンシャルを持ったMadoneというバイクが順当にパワーアップしたのが新型Madoneです。エアロで、Isospeedという特別なシステムが入っているオリジナリティ溢れるバイクが、更に軽くなって研ぎ澄まされた。エアロで登れるオールラウンドバイクを探している人にはベストマッチな一台だと思います。
「得意なスピードレンジが広がり、ロードレースをメインとするなら間違いない一台」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
「得意なスピードレンジが広がり、ロードレースをメインとするなら間違いない一台」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
レーシングバイクとしてグッと完成度が上がりましたね。軽くなったことで、加速感や振りの軽さ、ヒルクライム性能、そういった分野が底上げされているのが感じられます。得意とするスピードレンジが広がったことで、よりオールラウンドなバイクに進化していますね。ある程度の登りでも難なくこなせるので、例えば国内であればツール・ド・おきなわなどでも勝ちを狙っていけるようなバイクではないでしょうか。
特に印象的なのが、ダンシングでの軽さですね。ハンドルが軽くなったことも大きく影響していると思うのですが、かなりダイレクトな感覚になっていて、思い通りのタイミングでバイクがついてきてくれます。これは、登りはもちろん加速時の反応性という意味でも大きな改善だと思います。
そして平坦区間では持ち味ともいえる高速巡航性能を最大限に発揮できますね。剛性の高さが効いているのか、走っているといつの間にかアウタートップに入っているような感覚があります。スピードの伸びが良いので、ついつい重めのギアを踏んでいってしまうんですよね。
踏み方、という意味では登りでもある程度のギアを掛けていったほうが気持ちよく走れますね。エアロロードだと、登りは軽めのギアでクルクル回して何とかこなす、というバイクも多いですが、Madoneはむしろトルクを掛けてスピードを乗せていく時に光るバイクです。
「ダンシングでの軽さが印象的。思い通りのタイミングでバイクが体についてくる」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
今回のモデルチェンジでは、その気持ちいい領域へ加速するフェーズのキレの良さも向上しているので、ゼロスタートから巡航速度まで持っていくのにかかる時間が非常に短くなりました。つまり、Madoneの美味しいところを味わえる時間が増えたということですね。
Isospeedのおかげもあって、快適性も非常に高いレベルにあります。テストコースには結構荒れた区間があるのですが、あえてサドルにドカッと座ってみても突き上げが少ないですし、ホイールが暴れることなく常に路面を蹴りつけるような高いトラクションも感じることができます。
軽くなったことによって、よりオールラウンドな性格へと近づいたMadoneですが、ここまでくるとÉmondaと迷う人も多いのではないかと思いますね。正直、一番数字でわかりやすいのが重量なのでÉmondaに分があるのが否めないのですが、実際のライドフィーリングはかなり別物ですね。
わかりやすく言えば、Émondaはヒルクライムのためのエアロ、Madoneはエアロだけど登りもいけるといったイメージですね。Émondaはエアロになったとはいえオールラウンダーがベースですから、ハンドリングなどの癖もなく扱いやすい。一方でMadoneはいわゆるエアロロードならではの、直進性の強さは感じます。
一方で、低速からの加速、巡航速度域、そして高速域へのスピードの伸びといった、全般的な走りに関する性能はMadoneに分がありますね。ÉmondaよりもMadoneのほうが、ターゲットとする速度域が高いとも言えます。踏み込んだときの感触も、Madoneのほうがソリッドな印象です。とはいえ、両者とも足にダメージが来るようないやらしい硬さではないので、ロングライドでも問題なくこなせるバランスの良さはあるのですが。
「加速、巡航、高速域への伸び。スピードに関する性能はÉmondaよりもMadoneに軍配」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ですから、自分の得意分野やよく走る環境、目標とするレースやイベントなどをしっかりと勘案した上で、どちらか選ぶとよいのではないでしょうか。出来れば両方を試せる機会があるといいのですが。
登りだけでなく、平坦も下りも含まれるロードレースを主戦場とするのであれば、新型Madoneは選んで間違いない一台だと思います。ホイールのアセンブルも絶妙で、軽量でありながら40mmハイトに匹敵する空力性能を持っていることで、より万能な性格が強調されていますよね。もちろん、より平坦に特化するのであればもう少しディープなホイールでもいいと思いますが、全体のパッケージとして見ればこの組み合わせは最良だと思います。
トレック Madone SLR (c)Makoto AYANO/cyclowired.jp
トレック Madone SLR 7 Disc(完成車)
コンポーネント:シマノULTEGRA DI2
ホイール:ボントレガーAeolus Pro 5
コックピット:Madone SLRエアロハンドルバー
重量:8.08kg
カラー:Carbon Smoke/Crimson
サイズ:52、54
価格:836,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
小西真澄(ワイズロードお茶の水) 小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。
CWレコメンドショップページ
ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki Yasuoka
photo:Makoto AYANO
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アメリカ、ウィスコンシン州に本拠地を置くトレック。高い技術力を有し、幅広いラインアップを揃える総合バイクブランドとして北米を代表するメーカーだ。その中でもフラッグシップモデルとなるレーシングバイクがMadone。2003年に発表されて以来、数々の戦績を残し、同社のレーシングバイクの代名詞であり続けた名作だ。
登場以来幾度ものモデルチェンジを重ねてきたMadoneだが、現行モデルがデビューしたのは2018年。ボリューミーなKVF(Kammtail Virtual Foil)チュービングを採用したフレーム形状はそのままに、ディスクブレーキへの完全対応やケーブルフル内装システムを採用したコックピットの採用、トレック独自の振動吸収機構"Isospeed"の構造をブラッシュアップするなど、エアロでありながら快適性をも手に入れた究極のレーシングバイクとして登場した。
最新モデルの登場から2年、今シーズンもトレック・セガフレードの選手らが残した戦績が示すように一線級のレーシングバイクであるMadoneにアップデートが施され、その優れた性能に更に磨きが掛けられた。
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その大きな原動力となったのが、トレック自慢のOCLVカーボンの最新世代となる"OCLV 800"。今年発表されたオールラウンドバイク"Emonda"の軽量性と高剛性を実現した新時代のカーボン素材を早速Madoneにも用いることで、性能の底上げを図った。
OCLV 800は、従来モデルに使用されてきたOCLV 700に比べ高い引張り強度を有していることが大きな特徴。この特性によって、成型時にレイアップする素材量の削減に成功し、ボリューミーなエアロ形状はそのままにフレーム単体で80gの軽量化を実現した。
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DomaneやEmondaに続き、BB規格を圧入式のBB90からスレッド式の"T47"へと変更。スレッド式ながらシェル幅85.5mmとBB90に匹敵するボリュームを確保しつつ、シェル内径を拡張することでスラムのDUBやローターなどの30mmスピンドルクランクにも無理なく対応する拡張性を有している。
更に、新たなクリアコートを使用することでフレーム重量の軽減を図っている。男女のプロチームカラーモデルにスモークカラーと呼ばれる色付きのクリアコートを採用することで、50gの軽量化を実現。カーボン地を透かすスペシャルなカラーで、Project Oneでも選択可能となっている。
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フレームだけでなく、組み合わせられるパーツ類によっても大きく性能向上を果たしている。Project Oneで新たに選択可能となった新作ホイール、Aeolus RSL 37 ホイールは、従来のXXX 4ホイールとほぼ同等の空力性能を持ちながらも100g以上軽くなっており、平坦から登りまであらゆるシーンで活躍する万能モデル。
ホイールに加え、コックピットパーツも更に軽量なモデルがProject Oneに用意された。新型Emondaと合わせて開発されたステム一体型ハンドル"Aeolus RSL Bar/Stem"が選択可能となり、従来の2ピースタイプに比べてハンドル周辺だけで160gの軽量化を達成した。
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OCLV 800へのアップデート、T47BBの採用、新たなスモークカラークリアコート、新型ホイールとバーステムによって、完成車全体で450gもの軽量化を達成した2021モデルのMadone SLR。スラムRed eTAP完成車で約7.40kg、シマノDURA-ACE DI2完成車で約7.35kgと、最高峰のエアロダイナミクスとIsospeedを搭載しつつ、登りでも後れを取ることのない軽量バイクへと進化した。
既に高い評価を受けている最先端のエアロロードに軽量性をプラスし、あらゆるシーンでの速さを追求した新型Madone。トレックが導き出した「最速」への一つの答えを2人のインプレッションライダーが検証する。
― インプレッション
「乗って速いエアロロードが新素材で更にシャープに。一皮剥けたエアロオールラウンダー」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
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現行Madoneに乗っている身としてはインプレッションするのが楽しみなバイクだったのですが、正直悔しいですね(笑)。出来ることなら「ほぼほぼ同じ乗り味です」と言いたかったのですが、そうは言えないくらい走りのレベルが上がっています。
とはいっても、全くの別物に化けてしまったというわけでなく、バイクのコンセプトはそのままに一皮剥けたという印象です。OCLVが700から800へとアップデートされたメリットなのでしょう、前作よりも硬く乾いたソリッドな踏み味へと進化していますね。
ある意味で、今回のアップデートは現行のMadoneが一つのモデルとして完成形にあることの証明でもあるのだと思います。骨となる部分はそのままに現在のトレンドに合わせた改良を施すことで、一線級のバイクであり続けるというのはMadoneというバイクのポテンシャルの高さがあってこそでしょう。
この新型、現行モデルに関わらず、Madoneに乗ると毎回感じるのが「現実世界で速いバイク」ということです。そして、その核となり、Madoneを唯一無二たらしめるのがIsospeedを採用したエアロロードという点です。
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路面からの突き上げを和らげ打ち消すことで、乗り手という不安定な存在を様々なダメージから守ってくれるIsospeedは、距離を重ねれば重ねるほど効いてきます。具体的に言うと、目と首の疲労感が明らかに軽減されますね。突き上げが軽減されることで頭部の揺れが少なくなり、結果として疲れが抑えられます。更に路面を常に掴み続けるトラクション性能にも繋がっているので、重量面以外でのデメリットは無いわけですが、そういったバイクが更に軽くなってソリッド感が上がったというのは素直に評価すべきだと思います。
そう、これでフレーム素材がOCLV800になって、ガチガチに硬くなって振動吸収も悪くなった、ということでもあれば重箱の隅をつつくようなコメントも出せるのですが(笑)。あいにくとそういったネガティブな要素も無く。現行モデルを持っている人は、自分のバイクがあったからこそ新型が登場したのだというくらいの広い心で居てください、私みたいに(笑)
今回のモデルチェンジで、レースバイクとしての価値は更に向上したと思います。ヒルクライムをメインにするのであればÉmondaが間違いないですが、それ以外のロードレースやサーキットエンデューロなどであれば新型Madoneのアドバンテージはかなり大きいですね。下りや平坦ではもちろんMadone有利ですし、長距離になればIsospeedのメリットも大きい。そして登りでの差も今回のモデルチェンジでかなり埋まりました。
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そもそも、Madoneは見た目の印象とは裏腹に登りが不得意というわけではなく、むしろ登りもかなり進む部類のバイクです。シッティングで回し続けていると、安定したトラクションのおかげでとにかく前へ進んでくれるんです。私のように登りが嫌いな人からすると、登りでタイヤが滑るなんてあってはならないことですからね。「俺のパワーを返せ!」と叫びたくなるようなことがMadoneは絶対起こらないので、安心して登っていけるんです。
エアロダイナミクスもしっかり感じ取れるレベルにあるので、レーシングバイクとしては外せない選択肢だと思います。鈴鹿サーキットの下りでMadoneに乗ったお客さん達と、「脚を止めてどこまで行けるか勝負」をしてみたことがあるんですが、明らかに速くて驚きました。周りの人達をどんどん抜いちゃって、ちょっと笑えるくらい速くて。みんな同じ体験をしたので、「なんかゾッとするね」なんて話してたんですよ。
少し話が脱線しましたが、とにかくそれだけのポテンシャルを持ったMadoneというバイクが順当にパワーアップしたのが新型Madoneです。エアロで、Isospeedという特別なシステムが入っているオリジナリティ溢れるバイクが、更に軽くなって研ぎ澄まされた。エアロで登れるオールラウンドバイクを探している人にはベストマッチな一台だと思います。
「得意なスピードレンジが広がり、ロードレースをメインとするなら間違いない一台」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
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レーシングバイクとしてグッと完成度が上がりましたね。軽くなったことで、加速感や振りの軽さ、ヒルクライム性能、そういった分野が底上げされているのが感じられます。得意とするスピードレンジが広がったことで、よりオールラウンドなバイクに進化していますね。ある程度の登りでも難なくこなせるので、例えば国内であればツール・ド・おきなわなどでも勝ちを狙っていけるようなバイクではないでしょうか。
特に印象的なのが、ダンシングでの軽さですね。ハンドルが軽くなったことも大きく影響していると思うのですが、かなりダイレクトな感覚になっていて、思い通りのタイミングでバイクがついてきてくれます。これは、登りはもちろん加速時の反応性という意味でも大きな改善だと思います。
そして平坦区間では持ち味ともいえる高速巡航性能を最大限に発揮できますね。剛性の高さが効いているのか、走っているといつの間にかアウタートップに入っているような感覚があります。スピードの伸びが良いので、ついつい重めのギアを踏んでいってしまうんですよね。
踏み方、という意味では登りでもある程度のギアを掛けていったほうが気持ちよく走れますね。エアロロードだと、登りは軽めのギアでクルクル回して何とかこなす、というバイクも多いですが、Madoneはむしろトルクを掛けてスピードを乗せていく時に光るバイクです。
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今回のモデルチェンジでは、その気持ちいい領域へ加速するフェーズのキレの良さも向上しているので、ゼロスタートから巡航速度まで持っていくのにかかる時間が非常に短くなりました。つまり、Madoneの美味しいところを味わえる時間が増えたということですね。
Isospeedのおかげもあって、快適性も非常に高いレベルにあります。テストコースには結構荒れた区間があるのですが、あえてサドルにドカッと座ってみても突き上げが少ないですし、ホイールが暴れることなく常に路面を蹴りつけるような高いトラクションも感じることができます。
軽くなったことによって、よりオールラウンドな性格へと近づいたMadoneですが、ここまでくるとÉmondaと迷う人も多いのではないかと思いますね。正直、一番数字でわかりやすいのが重量なのでÉmondaに分があるのが否めないのですが、実際のライドフィーリングはかなり別物ですね。
わかりやすく言えば、Émondaはヒルクライムのためのエアロ、Madoneはエアロだけど登りもいけるといったイメージですね。Émondaはエアロになったとはいえオールラウンダーがベースですから、ハンドリングなどの癖もなく扱いやすい。一方でMadoneはいわゆるエアロロードならではの、直進性の強さは感じます。
一方で、低速からの加速、巡航速度域、そして高速域へのスピードの伸びといった、全般的な走りに関する性能はMadoneに分がありますね。ÉmondaよりもMadoneのほうが、ターゲットとする速度域が高いとも言えます。踏み込んだときの感触も、Madoneのほうがソリッドな印象です。とはいえ、両者とも足にダメージが来るようないやらしい硬さではないので、ロングライドでも問題なくこなせるバランスの良さはあるのですが。
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ですから、自分の得意分野やよく走る環境、目標とするレースやイベントなどをしっかりと勘案した上で、どちらか選ぶとよいのではないでしょうか。出来れば両方を試せる機会があるといいのですが。
登りだけでなく、平坦も下りも含まれるロードレースを主戦場とするのであれば、新型Madoneは選んで間違いない一台だと思います。ホイールのアセンブルも絶妙で、軽量でありながら40mmハイトに匹敵する空力性能を持っていることで、より万能な性格が強調されていますよね。もちろん、より平坦に特化するのであればもう少しディープなホイールでもいいと思いますが、全体のパッケージとして見ればこの組み合わせは最良だと思います。
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トレック Madone SLR 7 Disc(完成車)
コンポーネント:シマノULTEGRA DI2
ホイール:ボントレガーAeolus Pro 5
コックピット:Madone SLRエアロハンドルバー
重量:8.08kg
カラー:Carbon Smoke/Crimson
サイズ:52、54
価格:836,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
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フォーチュンバイク HP

ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。
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ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki Yasuoka
photo:Makoto AYANO
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