2020/12/13(日) - 14:04
イタリアの古豪、ウィリエールが放つブランニューエアロロード"FILANTE SLR"をインプレッション。風洞だけではなく、現実世界において最速を目指したエアロチュービングを得て、空力と軽量性を同時に実現した新世代のオールラウンドレーサーの実力を問う。
ヒルクライム、エアロ、エンデュランス。レーシングバイクに求められる軽量性、空力、快適性といった各性能にフォーカスしたバイクをラインアップするのが、ここ数年のレーシングブランドのスタンダードであることは誰もが認めるところだろう。
それは老舗レーシングバイクブランドであるウィリエールにおいても例外ではなく、軽量バイクのZERO SLR、エアロロードのCENTO 10 PRO、エンデュランスバイクのCENTO 10 NDRとそれぞれの特性を磨き上げたラインアップを用意してきた。
しかし2021モデルとしてウィリエールが発表したのは、既存のどのシリーズ名をも冠さないブランニューモデル。"FILANTE"と、久々となる新たなモデル名を用意したのは、この新作がこれまでの枠組みに収まらない一台だという意思表示に他ならない。
とはいえバイクを横から見た時のシルエットは既存のCENTO 10 PROとそれほど大きくは変わらない。最新のレーシングバイクとしてエアロダイナミクスは欠かせない要素であり、ウィリエールの蓄積してきたエアロフォルムの血脈は受け継がれていることが窺える。
しかし近寄ってみればそこかしこにCENTO 10 PROとの差異を見て取れる。ウィリエールは風洞実験における理想的な状況での成績ではなく、より複雑な現実世界での速さを追求した結果、多くの設計を煮詰めることになったという。
エアロと剛性を両立するカムテール形状を基本としつつ、チューブのエッジを丸めることで風が斜め方向から吹き付けた時に層流の剥離を抑えることに成功。あらゆる状況において、乱流の発生を最小限とするオールラウンドな形状へと進化した。
さらに角を丸めた形状は軽量化にも貢献している。角ばったチュービングよりも部材が少なくなるばかりか、成型の際にも圧力をかけやすく、余分な樹脂を取り除きやすいというメリットもある。さらに超軽量山岳バイクであるZERO SLRに用いられた液晶ポリマー素材を使用することで、フレーム870g、フォーク360gと、CENTO 10 PROから11%の軽量化を果たしつつ、重量剛性比を大幅に改善した。
改良されたのはチューブの断面形状だけではない。フォークブレードとシートステーは大きく横へ張り出している。CENTO 10 PROと比べて7mmも幅広い形状となり、ホイールとのクリアランスを最大限に確保することで乱流の発生を抑えている。
ディスクブレーキに最適化した左右非対称設計もFILANTEの大きな特徴だ。フロントフォークは左側が分厚く、右側が薄くなっているほか、リアトライアングルも左右で異なるデザインが与えられている。
ケーブル類はもちろんフル内装とされている。専用のステム一体型ハンドルを使用し、ケーブル類がいっさい外に露出しないシステムを構築。特注のベアリングを使用することでケーブルを内装するクリアランスを確保。ステアリングコラムは真円形状とされており、フル内装システムを採用しつつもハンドリングやブレーキングに悪影響を及ぼさない設計だ。
国内仕様で採用されるZEROバーはZERO SLRにも採用されている軽量ハンドル。ステム上部にもコラムスペーサーを積むことが出来るためポジションの自由度も高く、シーズンを通して調整するシリアスライダーでも安心できる組み合わせとなっている。
エアロと軽量性を高次元で融合させたウィリエールの新世代オールラウンドエアロレーサー、FILANTE。このエポックメイキングなイタリアンレーシングバイクは2人のインプレッションライダーの目にどう映るのか。
― インプレッション
「ウィリエール史上最高傑作。ブランドの転換点となるブレイクスルーな一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)
これまでウィリエールのバイクは色々と乗らせていただく機会があって、好印象なバイクがたくさんありましたが、このFILANTEはその中でも最高傑作だと思います。そして、長い歴史を持つウィリエールというブランドとして転換点となりうるブレイクスルーな一台だと思います。これはね、バイシクル・オブ・ザ・イヤー間違いないですよ(笑)。
バイクの方向性としてはレーシングバイクのトレンドど真ん中で、エアロでありながらオールマイティー。まさにフラッグシップバイクに相応しい性格ですね。去年あたりから各社がそういったキャラのバイクをリリースしているわけですが、ライバルたちと比較してFILANTEの特徴的な部分というのは左右の動き、いわゆるロール方向の力に対する反応の仕方にあります。
一言でいうと、左右にブレそうになった時にバイクが踏ん張ってくれるんです。ロールしようという動きをグッと受け止めて、前へ進む力へと変換してくれるような、常にバイクが真っすぐに進むように自然と誘導されているような感覚が印象的です。それはこのワイドスタンスなフォーククラウンとバックステーの形状が大きく貢献しているのでしょう。
ディスクブレーキロードであることのメリットや可能性というものを真摯に考えて出来上がったバイクだと思います。ただ「ディスクブレーキになりスルーアクスルを採用したので剛性が上がりました」で終わらせるのではなく、その先を見据えて開発されたことが明確に伝わってきます。ブレーキブリッジが必要なくなったからこそ、これだけのクリアランスを確保できる。そしてクリアランスをとっても剛性に不足はなく、左右に振ってもビシッと一本の芯が通ったような走りを見せてくれる。
これは明確に意識した味付けだと思いますね。ロードではあまり意識されてこなかった点ですが、MTBだとフォーククラウンを強化したりBoost規格を採用したりと、左右のスタビリティを意識した設計や技術が出てきているじゃないですか。その視点がスルーアクスルの採用やカーボン積層技術の向上によって、より精密に剛性コントロールが可能となったことによってロードバイクの世界にももたらされたのだと思います。
外見的にはエアロロードを軽量にした、つまり「オールラウンドなエアロロード」という印象ですが、ライドフィーリングとしては「エアロなオールラウンダー」といったほうが近い。他ブランドを引き合いに出すと、VENGEではなく、TARMACやEMONDAのライバルですね。
実際のところ、ヒルクライマーにとっても非常に魅力的な乗り味だと思います。とにかくトラクションのかかり方が素晴らしい。ただ軽いだけで挙動がバタついたり、脚に跳ね返りが来るような本末転倒なバイクは実際のタイム向上には繋がらないし、疲労も溜まりやすい。FILANTEは軽快でありながら、リアがグッと踏ん張って路面を掴んでくれる感覚が強く出ています。本当に登りが速いですよ。
もちろんエアロも効いているのが感じられますし、それでいて信じられないくらい扱いやすい。自転車だけが速いような、乗り手が置いていかれるような恐怖感も無くて、むしろ自然とコントロール下に置ける安心感が強いですね。
登りでも、下りでも、平坦でも軽くて速く、レース志向の方には最高のバイクでしょう。一方、ピュアレーシングバイクにありがちなピーキーさも無いので、ロングライドを楽しむ人にもぜひ選択肢に入れてもらいたいと思います。このFILANTEの速さは、より少ない力で走れるというニュアンスが強いので、結果的に長距離でも疲労を溜めずに走ることができるでしょう。
まさしくウィリエール史上最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりで、ここに一体型ハンドルとシートポストがついて59万円というのは、安い……とは言いづらいですが(笑)、価格に見合っただけの価値は絶対にあると言えます。ウィリエールファンで、ディスクブレーキロードを考えている人は早く取扱店に向かったほうが良いですよ!
「漕ぎだしから感じられるスムースさ。乗り心地も良くオールラウンドな一台」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ウィリエールというと歴史も長く、古くから自転車をやっている人にとっては有名なのですが、最近始めた方には馴染みが薄いかもしれません。凄くいい自転車を作るけれども、知名度が低い、玄人向けのブランドですよね。ですが今、「予算100万円以内でイタリアンブランドのレーシングバイクが欲しい」という要望があれば、迷いなくこのバイクをオススメします。
とにかく一言でいうとスムースなバイクです。漕ぎだした瞬間からスムースで、なんといいますか、他のバイクに乗っているときに比べると抵抗感が極めて少ない。踏み込んでいる感覚に対して景色の流れ方が明らかに速くて、これはいいバイクだな、と。来年のアスタナは大活躍間違いなしだな、と(笑)。
ヘッドやBB周辺にしっかりとした硬さを感じますね。ダンシングでバイクを振った時、トルクを掛けて踏んでいった時、それぞれに心地よい反発感があって、踏んだ力を前に進む力へと変換してくれるような印象でした。
一方で、脚や手に跳ね返ってくるようないやな硬さは感じません。ZERO SLRにも使われているという液晶ポリマー素材が影響しているのかもしれませんね。確か、同じような素材をルックも使っているはずなのですが、共通したフィーリングを感じます。
ルックスは完全にエアロロードなのですが、登りも生半可なクライミングバイクを凌駕する速さですね。実際、持ってみても軽いですし、乗ってみるともっと軽く感じます。一方で、エアロ効果もしっかり感じ取れるレベルに高い。高速を維持しやすく、そこからの加速でも明らかに使う力が少なくて済みます。高い剛性感と脚当たりの良さ、軽量性、そしてエアロダイナミクスが相まって、スプリントもヒルクライムもなんでもこなせる万能バイクに仕上がっています。
トップグレードのレーシングバイクなので、ある意味速くて当たり前なのですが、それ以外の面でもしっかりとメリットを感じさせてくれます。その一つが乗り心地の良さですね。形状からは想像できないくらい快適性が高いバイクです。
あえて路面の荒れた路肩を走ってみると、フォークがたわんでいるのが分かるくらい仕事をしている。とはいっても決してヤワなわけではありません。スルーアクスルからフォーククラウンまでを丈夫にする一方、フォークの肩まわりで小刻みに来る振動を上手くカットしているようなイメージですね。
もちろん、ブレーキングやコーナーでしなったり、ヨレてしまったりということもないですから、安心して操ることが出来ます。コーナーリングについては、エアロロードらしく直進安定性が強めの味付けですが、基本的にはニュートラルで扱いやすい。速度の乗る峠の下りでもしっかり攻めていけますね。
総合的に見て、ここまで高次元にまとまっているバイクはなかなかないと思います。レースはもちろん、ハイペースでロングライドを楽しむような人にはピッタリだと思います。ロスの少なさと乗り心地の良さが効いてくるので、特にライド後半がすごく楽になると思います。
フレーム自体がオールラウンドな性格なので、ホイールによって味付けを変えるのも楽しいでしょう。登りメインなら30mm、もうすこしアプローチが長いのであれば40~50mmといったように、スタイルやコースに合わせてチューニングできるのも楽しいポイントですね。
ウィリエール FILANTE SLR
フレーム:HUS-MODカーボン+L.C.P
サイズ:XS、S、M、L、XL
カラー:レッド(受注発注カラー:マットブラック/レッド)
フレームセット+Zero Bar:590,000円(税抜)
シマノDURA-ACE DI2完成車:1,200,000円(税抜)
シマノULTEGRA DI2完成車:840,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。
CWレコメンドショップページ
ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
ヒルクライム、エアロ、エンデュランス。レーシングバイクに求められる軽量性、空力、快適性といった各性能にフォーカスしたバイクをラインアップするのが、ここ数年のレーシングブランドのスタンダードであることは誰もが認めるところだろう。
それは老舗レーシングバイクブランドであるウィリエールにおいても例外ではなく、軽量バイクのZERO SLR、エアロロードのCENTO 10 PRO、エンデュランスバイクのCENTO 10 NDRとそれぞれの特性を磨き上げたラインアップを用意してきた。
しかし2021モデルとしてウィリエールが発表したのは、既存のどのシリーズ名をも冠さないブランニューモデル。"FILANTE"と、久々となる新たなモデル名を用意したのは、この新作がこれまでの枠組みに収まらない一台だという意思表示に他ならない。
とはいえバイクを横から見た時のシルエットは既存のCENTO 10 PROとそれほど大きくは変わらない。最新のレーシングバイクとしてエアロダイナミクスは欠かせない要素であり、ウィリエールの蓄積してきたエアロフォルムの血脈は受け継がれていることが窺える。
しかし近寄ってみればそこかしこにCENTO 10 PROとの差異を見て取れる。ウィリエールは風洞実験における理想的な状況での成績ではなく、より複雑な現実世界での速さを追求した結果、多くの設計を煮詰めることになったという。
エアロと剛性を両立するカムテール形状を基本としつつ、チューブのエッジを丸めることで風が斜め方向から吹き付けた時に層流の剥離を抑えることに成功。あらゆる状況において、乱流の発生を最小限とするオールラウンドな形状へと進化した。
さらに角を丸めた形状は軽量化にも貢献している。角ばったチュービングよりも部材が少なくなるばかりか、成型の際にも圧力をかけやすく、余分な樹脂を取り除きやすいというメリットもある。さらに超軽量山岳バイクであるZERO SLRに用いられた液晶ポリマー素材を使用することで、フレーム870g、フォーク360gと、CENTO 10 PROから11%の軽量化を果たしつつ、重量剛性比を大幅に改善した。
改良されたのはチューブの断面形状だけではない。フォークブレードとシートステーは大きく横へ張り出している。CENTO 10 PROと比べて7mmも幅広い形状となり、ホイールとのクリアランスを最大限に確保することで乱流の発生を抑えている。
ディスクブレーキに最適化した左右非対称設計もFILANTEの大きな特徴だ。フロントフォークは左側が分厚く、右側が薄くなっているほか、リアトライアングルも左右で異なるデザインが与えられている。
ケーブル類はもちろんフル内装とされている。専用のステム一体型ハンドルを使用し、ケーブル類がいっさい外に露出しないシステムを構築。特注のベアリングを使用することでケーブルを内装するクリアランスを確保。ステアリングコラムは真円形状とされており、フル内装システムを採用しつつもハンドリングやブレーキングに悪影響を及ぼさない設計だ。
国内仕様で採用されるZEROバーはZERO SLRにも採用されている軽量ハンドル。ステム上部にもコラムスペーサーを積むことが出来るためポジションの自由度も高く、シーズンを通して調整するシリアスライダーでも安心できる組み合わせとなっている。
エアロと軽量性を高次元で融合させたウィリエールの新世代オールラウンドエアロレーサー、FILANTE。このエポックメイキングなイタリアンレーシングバイクは2人のインプレッションライダーの目にどう映るのか。
― インプレッション
「ウィリエール史上最高傑作。ブランドの転換点となるブレイクスルーな一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)
これまでウィリエールのバイクは色々と乗らせていただく機会があって、好印象なバイクがたくさんありましたが、このFILANTEはその中でも最高傑作だと思います。そして、長い歴史を持つウィリエールというブランドとして転換点となりうるブレイクスルーな一台だと思います。これはね、バイシクル・オブ・ザ・イヤー間違いないですよ(笑)。
バイクの方向性としてはレーシングバイクのトレンドど真ん中で、エアロでありながらオールマイティー。まさにフラッグシップバイクに相応しい性格ですね。去年あたりから各社がそういったキャラのバイクをリリースしているわけですが、ライバルたちと比較してFILANTEの特徴的な部分というのは左右の動き、いわゆるロール方向の力に対する反応の仕方にあります。
一言でいうと、左右にブレそうになった時にバイクが踏ん張ってくれるんです。ロールしようという動きをグッと受け止めて、前へ進む力へと変換してくれるような、常にバイクが真っすぐに進むように自然と誘導されているような感覚が印象的です。それはこのワイドスタンスなフォーククラウンとバックステーの形状が大きく貢献しているのでしょう。
ディスクブレーキロードであることのメリットや可能性というものを真摯に考えて出来上がったバイクだと思います。ただ「ディスクブレーキになりスルーアクスルを採用したので剛性が上がりました」で終わらせるのではなく、その先を見据えて開発されたことが明確に伝わってきます。ブレーキブリッジが必要なくなったからこそ、これだけのクリアランスを確保できる。そしてクリアランスをとっても剛性に不足はなく、左右に振ってもビシッと一本の芯が通ったような走りを見せてくれる。
これは明確に意識した味付けだと思いますね。ロードではあまり意識されてこなかった点ですが、MTBだとフォーククラウンを強化したりBoost規格を採用したりと、左右のスタビリティを意識した設計や技術が出てきているじゃないですか。その視点がスルーアクスルの採用やカーボン積層技術の向上によって、より精密に剛性コントロールが可能となったことによってロードバイクの世界にももたらされたのだと思います。
外見的にはエアロロードを軽量にした、つまり「オールラウンドなエアロロード」という印象ですが、ライドフィーリングとしては「エアロなオールラウンダー」といったほうが近い。他ブランドを引き合いに出すと、VENGEではなく、TARMACやEMONDAのライバルですね。
実際のところ、ヒルクライマーにとっても非常に魅力的な乗り味だと思います。とにかくトラクションのかかり方が素晴らしい。ただ軽いだけで挙動がバタついたり、脚に跳ね返りが来るような本末転倒なバイクは実際のタイム向上には繋がらないし、疲労も溜まりやすい。FILANTEは軽快でありながら、リアがグッと踏ん張って路面を掴んでくれる感覚が強く出ています。本当に登りが速いですよ。
もちろんエアロも効いているのが感じられますし、それでいて信じられないくらい扱いやすい。自転車だけが速いような、乗り手が置いていかれるような恐怖感も無くて、むしろ自然とコントロール下に置ける安心感が強いですね。
登りでも、下りでも、平坦でも軽くて速く、レース志向の方には最高のバイクでしょう。一方、ピュアレーシングバイクにありがちなピーキーさも無いので、ロングライドを楽しむ人にもぜひ選択肢に入れてもらいたいと思います。このFILANTEの速さは、より少ない力で走れるというニュアンスが強いので、結果的に長距離でも疲労を溜めずに走ることができるでしょう。
まさしくウィリエール史上最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりで、ここに一体型ハンドルとシートポストがついて59万円というのは、安い……とは言いづらいですが(笑)、価格に見合っただけの価値は絶対にあると言えます。ウィリエールファンで、ディスクブレーキロードを考えている人は早く取扱店に向かったほうが良いですよ!
「漕ぎだしから感じられるスムースさ。乗り心地も良くオールラウンドな一台」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ウィリエールというと歴史も長く、古くから自転車をやっている人にとっては有名なのですが、最近始めた方には馴染みが薄いかもしれません。凄くいい自転車を作るけれども、知名度が低い、玄人向けのブランドですよね。ですが今、「予算100万円以内でイタリアンブランドのレーシングバイクが欲しい」という要望があれば、迷いなくこのバイクをオススメします。
とにかく一言でいうとスムースなバイクです。漕ぎだした瞬間からスムースで、なんといいますか、他のバイクに乗っているときに比べると抵抗感が極めて少ない。踏み込んでいる感覚に対して景色の流れ方が明らかに速くて、これはいいバイクだな、と。来年のアスタナは大活躍間違いなしだな、と(笑)。
ヘッドやBB周辺にしっかりとした硬さを感じますね。ダンシングでバイクを振った時、トルクを掛けて踏んでいった時、それぞれに心地よい反発感があって、踏んだ力を前に進む力へと変換してくれるような印象でした。
一方で、脚や手に跳ね返ってくるようないやな硬さは感じません。ZERO SLRにも使われているという液晶ポリマー素材が影響しているのかもしれませんね。確か、同じような素材をルックも使っているはずなのですが、共通したフィーリングを感じます。
ルックスは完全にエアロロードなのですが、登りも生半可なクライミングバイクを凌駕する速さですね。実際、持ってみても軽いですし、乗ってみるともっと軽く感じます。一方で、エアロ効果もしっかり感じ取れるレベルに高い。高速を維持しやすく、そこからの加速でも明らかに使う力が少なくて済みます。高い剛性感と脚当たりの良さ、軽量性、そしてエアロダイナミクスが相まって、スプリントもヒルクライムもなんでもこなせる万能バイクに仕上がっています。
トップグレードのレーシングバイクなので、ある意味速くて当たり前なのですが、それ以外の面でもしっかりとメリットを感じさせてくれます。その一つが乗り心地の良さですね。形状からは想像できないくらい快適性が高いバイクです。
あえて路面の荒れた路肩を走ってみると、フォークがたわんでいるのが分かるくらい仕事をしている。とはいっても決してヤワなわけではありません。スルーアクスルからフォーククラウンまでを丈夫にする一方、フォークの肩まわりで小刻みに来る振動を上手くカットしているようなイメージですね。
もちろん、ブレーキングやコーナーでしなったり、ヨレてしまったりということもないですから、安心して操ることが出来ます。コーナーリングについては、エアロロードらしく直進安定性が強めの味付けですが、基本的にはニュートラルで扱いやすい。速度の乗る峠の下りでもしっかり攻めていけますね。
総合的に見て、ここまで高次元にまとまっているバイクはなかなかないと思います。レースはもちろん、ハイペースでロングライドを楽しむような人にはピッタリだと思います。ロスの少なさと乗り心地の良さが効いてくるので、特にライド後半がすごく楽になると思います。
フレーム自体がオールラウンドな性格なので、ホイールによって味付けを変えるのも楽しいでしょう。登りメインなら30mm、もうすこしアプローチが長いのであれば40~50mmといったように、スタイルやコースに合わせてチューニングできるのも楽しいポイントですね。
ウィリエール FILANTE SLR
フレーム:HUS-MODカーボン+L.C.P
サイズ:XS、S、M、L、XL
カラー:レッド(受注発注カラー:マットブラック/レッド)
フレームセット+Zero Bar:590,000円(税抜)
シマノDURA-ACE DI2完成車:1,200,000円(税抜)
シマノULTEGRA DI2完成車:840,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。
CWレコメンドショップページ
ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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