258kmの今大会最長コースで開催される予定だったジロ・デ・イタリア第19ステージは、降雨と低温、連日の長距離移動と厳しいコース設定に抗議する選手側のボイコットにより距離が124kmに。逃げグループから飛び出したヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)が独走勝利を飾った。



一旦バイクを降りてチームカーに乗るマリアローザのウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)一旦バイクを降りてチームカーに乗るマリアローザのウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ) photo:CorVos
巨大な山岳ステージに挟まれた真っ平らな今大会最長ステージは朝から気温11度ほどの冷たい雨に包まれた。当初は山岳地帯から大都市ミラノの近郊を駆け抜けて、スプマンテの産地アスティを目指す253kmコースが予定されていたが、コース上の工事中の橋を迂回する必要があったため258kmに延長。スプリンターにとってのラストチャンスだけに、大集団スプリントで決すると予想された。

しかし、直近の3日間で合計獲得標高差16,000mの登りをこなし、しかもレース前後に長時間のバス移動を強いられた選手たちからコース短縮を求める声があがる。CPA(プロ選手協会)がチームの多数決の末にコース短縮を主催者側に求め、アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル)やクリスティアン・サルヴァートCPA代表が中心となって協議が行われた。

一行は一旦モルベーニョの街を離れてスタートしたもののすぐにストップ。そこから選手たちはニュートラル措置としてチームカーやチームバスで134km地点のアッビアーテグラッソまで移動し、予定から大きく遅れて全長124kmの短縮ステージがスタートした。

10月23日(金)第19ステージ モルベーニョ〜アスティ 253km ☆10月23日(金)第19ステージ モルベーニョ〜アスティ 253km ☆ photo:RCS Sport10月23日(金)第19ステージ モルベーニョ〜アスティ 253km ☆10月23日(金)第19ステージ モルベーニョ〜アスティ 253km ☆ photo:RCS Sport
マウロ・ヴェーニ大会ディレクターらと協議するアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル)マウロ・ヴェーニ大会ディレクターらと協議するアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:CorVos
スタート後すぐにレースがストップスタート後すぐにレースがストップ photo:CorVos
レース時間およそ2時間半という短距離決戦は開始直後から高速化。シモン・ペロー(スイス、アンドローニジョカトリ・シデルメク)とヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)、ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、NTTプロサイクリング)の3名に追走グループが追いついて、14名の強力な逃げグループが完成した。

逃げグループを形成した14名
ネイサン・ハース(オーストラリア、コフィディス)
マルコ・マティス(ドイツ、コフィディス)
サイモン・クラーク(オーストラリア、EFプロサイクリング)
ラクラン・モートン(オーストラリア、EFプロサイクリング)
アレックス・ドーセット(イギリス、イスラエル・スタートアップネイション)
イーリョ・ケイセ(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、NTTプロサイクリング)
ヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)
サンデル・アルメ(ベルギー、ロット・スーダル)
ジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)
アルベルト・トレス(スペイン、モビスター)
エティエンヌ・ファンエンペル(オランダ、ヴィーニザブKTM)
ジョヴァンニ・カルボーニ(イタリア、バルディアーニCSF)
シモン・ペロー(スイス、アンドローニジョカトリ・シデルメク)

カンペナールツの他にも、イーリョ・ケイセ(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)やアレックス・ドーセット(イギリス、イスラエル・スタートアップネイション)という一流のルーラーを含む逃げ。集団スプリントに持ち込みたいボーラ・ハンスグローエがタイム差を押さえ込んだが、最初の1時間を平均51.800km/hで駆け抜けた逃げが徐々にメイン集団を突き放す。やがてステージ中盤にボーラ・ハンスグローエが追走を断念すると、タイム差はぐんぐんと広がり始めた。

雨のピエモンテ州を走る選手たち雨のピエモンテ州を走る選手たち photo:LaPresse
ボーラ・ハンスグローエが逃げグループを追走するボーラ・ハンスグローエが逃げグループを追走する photo:LaPresse
逃げグループを形成するサンデル・アルメ(ベルギー、ロット・スーダル)ら逃げグループを形成するサンデル・アルメ(ベルギー、ロット・スーダル)ら photo:CorVos
翌日の最終山岳ステージを前にリラックスムードに入ったメイン集団に対して、逃げ切りのチャンスを得た先頭グループではステージ優勝に向けたアタックが始まる。残り30kmを切ってからカンペナールツやモートンが攻撃を仕掛けたが抜け出せず、残り23km地点でチェルニーが飛び出すと誰も反応できない。第1ステージの個人TTで6位、第14ステージの個人TTで5位に入っているチェルニーが独走に持ち込んだ。

後方ではカンペナールツとクラーク、モスカ、ケイセ、アルメが追走グループを形成したものの、チェルニーは45秒のリードを持って残り15km。そこからタイム差は縮小に転じたが、チェルニーのペースは最後まで落ちなかった。残り1km地点で追走アタックを仕掛けたカンペナールツを振り切って、チェルニーが雨のアスティに独走フィニッシュした。

カンペナールツが18秒届かずステージ2位に入り、地元ピエモンテ出身のモスカが追走グループの先頭をとってステージ3位。この日は14名が逃げ切り、マリアローザを含むメイン集団は11分43秒遅れでフィニッシュしている。総合上位陣にとっては貴重なリカバリーデーとなった。

残り23km地点から独走するヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)残り23km地点から独走するヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム) photo:LaPresse
独走のままフィニッシュするヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)独走のままフィニッシュするヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム) photo:LaPresse
3位争いのスプリントはジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)に軍配3位争いのスプリントはジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)に軍配 photo:LaPresse
マリアローザ初日を終えたウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)マリアローザ初日を終えたウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ) photo:LaPresse
「信じられない。夢が叶った。この勝利を家族とチームに捧げたい」。チェコのタイムトライアル王者で、現在27歳のチェルニーがグランツール初勝利。なお、チェルニーは来季の所属先がまだ決まっていない。

「今日は距離変更があったステージとして記憶に残るかもしれないけど、ジロのステージを制して、両手を上げるのは最高の感覚だった。ようやく手にしたステージ優勝を嬉しく思う。逃げを楽しむことができたし、最後は独走という賭けに出たんだ。昨日のステルヴィオのダメージが心配だったけど、最後まで脚は動き続けてくれた」。チェコ出身選手によるステージ優勝者2012年のロマン・クロイツィゲル以来となる。

「ステージ短縮の判断は正しかったと思う。マリアローザ初日をリラックスして走ることができた」と語るのは総合1位のウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)。「明日はイネオス・グレナディアーズの選手たちの動きに警戒しないといけない。昨日ほど厳しいステージではないけど、全力で挑むことに変わりはない」。

総合1位ケルデルマンに続いてチームメイトのジェイ・ヒンドレー(オーストラリア、サンウェブ)が12秒差の総合2位、そして最大のライバルであるテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が15秒差の総合3位。第20ステージはフランスに入国せず、1級山岳セストリエーレを3回登る全長190km/獲得標高差3,500mの山岳コースが設定されている。

ステージ初優勝を飾ったヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)ステージ初優勝を飾ったヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム) photo:LaPresse
チーム総合成績の表彰台に上がる新城幸也(バーレーン・マクラーレン)らチーム総合成績の表彰台に上がる新城幸也(バーレーン・マクラーレン)ら photo:LaPresse
ジロ・デ・イタリア2020第19ステージ結果
1位 ヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム) 2:30:40
2位 ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、NTTプロサイクリング) 0:00:18
3位 ジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード) 0:00:26
4位 サイモン・クラーク(オーストラリア、EFプロサイクリング)
5位 イーリョ・ケイセ(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)
6位 サンデル・アルメ(ベルギー、ロット・スーダル)
7位 アルベルト・トレス(スペイン、モビスター) 0:01:10
8位 シモン・ペロー(スイス、アンドローニジョカトリ・シデルメク)
9位 ジョヴァンニ・カルボーニ(イタリア、バルディアーニCSF)
10位 アレックス・ドーセット(イギリス、イスラエル・スタートアップネイション)
47位 新城幸也(日本、バーレーン・マクラーレン) 0:11:43
DNS マッテオ・スプレアフィコ(イタリア、ヴィーニザブKTM)
マリアローザ 個人総合成績
1位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ) 80:29:19
2位 ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア、サンウェブ) 0:00:12
3位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 0:00:15
4位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・マクラーレン) 0:01:19
5位 ホアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:02:16
6位 ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ) 0:03:59
7位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) 0:05:40
8位 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード) 0:05:47
9位 ファウスト・マスナダ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:06:46
10位 ラファウ・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ) 0:07:28
マリアチクラミーノ ポイント賞
1位 アルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ) 221pts
2位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 184pts
3位 ホアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ) 94pts
マリアアッズーラ 山岳賞
1位 ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、EFプロサイクリング) 234pts
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル) 122pts
3位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 115pts
マリアビアンカ ヤングライダー賞
1位 ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア、サンウェブ) 80:29:31
2位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 0:00:03
3位 ホアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:02:04
チーム総合成績
1位 イネオス・グレナディアーズ 241:35:57
2位 ドゥクーニンク・クイックステップ 0:23:39
3位 バーレーン・マクラーレン 0:28:01
text:Kei Tsuji

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