ツール・ド・おきなわの最高峰クラス、市民210kmで優勝した高岡亮寛(Roppongi Express)のレポート。
「ホビーレーサーの甲子園」の頂点の激戦クラスを制し、6勝目を挙げた高岡。松木、井上との3人の争いは心理戦以上に力と力のぶつかり合い。激闘のインサイドレポートだ。

朝陽を浴びながらスタートを待つ市民210kmの選手たち朝陽を浴びながらスタートを待つ市民210kmの選手たち photo:Makoto.AYANO
スタートを待つ高岡亮寛(Roppongi Experess)スタートを待つ高岡亮寛(Roppongi Experess) photo:Makoto.AYANOディフェンディングチャンピオンの紺野元汰(左)とSBC Vertex Racing Teamディフェンディングチャンピオンの紺野元汰(左)とSBC Vertex Racing Team photo:Makoto.AYANO


【作戦・抱負】
毎年特定の展開に持ち込むような作戦は考えない。レースは水物なので、そんなにうまく運ぶことはない。重要なのはあらゆる場面や展開を想定しておいて、どういう展開になっても落ち着いて対処して、その局面でのベストの走りをすること。

今回も逃げになるのか集団スプリントになるのか、そんな予想はせずに刻々と変わるゲームの状況に応じて、自分の展開にもっていき勝利につながるような走りを目指す。誰にも負けない必殺技があれば、それを活かせる展開にすればいいけど、自分にはそれはない。けど一緒にいるメンバーの中で比較優位に立てればゲームには勝てる。

名護市街を抜け長い闘いへと走り出していく選手たち名護市街を抜け長い闘いへと走り出していく選手たち photo:Makoto.AYANO
並んで走る岡泰誠と紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) 並んで走る岡泰誠と紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO早々にスタートアタックがかかり、抜け出していく選手たち早々にスタートアタックがかかり、抜け出していく選手たち photo:Makoto.AYANO


例えばヒルクライマーと一緒に逃げれば登りで遅れない事に注意してスプリントして勝てば良い。平地のスピードマンと一緒に逃げる展開になれば最後の登りで千切れば良い。実際はタイマンでの勝負とは限らないからそう単純ではないけど、基本は上述のように考えて、自分が勝てる確率を最大化させながらゴールに向かう。2019年の市民210kmレースがどういう展開になるかは分からないけど、希望としてはゴールに向けて少人数に絞られるようなレースになればと思っていた。

本部半島の海沿いルートを行く市民210kmの選手たち本部半島の海沿いルートを行く市民210kmの選手たち photo:Makoto.AYANOレース序盤、集団内で走る高岡亮寛(Roppongi Express)レース序盤、集団内で走る高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Makoto.AYANO


【序盤】
7:27スタート。無理せず慌てず落ち着いてスタートする。恒例のスタートアタックからの逃げが決まる。すぐに前方に出ることはしなかったけど、10名以上の逃げ集団ができていたことは見えていた。毎年のことなので静観。
集団のペースは落ち着いていたので、数分の差はすぐにつくだろう。

逃げ集団ができるのは毎年恒例。タイム差は開いていく逃げ集団ができるのは毎年恒例。タイム差は開いていく photo:Makoto.AYANO
長く伸びる市民210kmのメイン集団長く伸びる市民210kmのメイン集団 photo:Makoto.AYANO
途中、ゲンタ(前回覇者の紺野元汰)が「先行集団に阿曽選手が入っている」と教えてくれた。昨年の途中まで愛三工業レーシングで走っていた選手なので要注意と思ったが、「スタートアタックして逃げたのは勝ちを狙う上では無謀だよね」と意見は一致したので、放置して泳がすことに。逃げは9名だったけど、2回目の普久川ダムの登りまでにバラけて数人しか残らないのは確実。そこからゴールまで残った2、3人で逃げ切るのはコースの厳しさ考えると難しい。2回めのダム登り口までに5分であれば間違いなく吸収できると思っていた。

チーム員や場合によってはライバルチームとでもこのようにレース中にコミュニケーション取りつつ、勝てる確率を上げながらゴールに向かうのがロードレース。だから「レース前もレース中も密にコミュニケーション取るように」と日頃からチーム員には伝えている。ロードレースは勝つか負けるかの勝負なので、速さ・タイムを競うマラソンやトライアスロンよりもゲーム性が高く、サッカーなどに近いと思っている。

1回目の普久川ダムの登りを行くメイン集団。高岡亮寛(Roppongi Express)が先頭にたつ1回目の普久川ダムの登りを行くメイン集団。高岡亮寛(Roppongi Express)が先頭にたつ photo:Makoto.AYANO
最初1時間ほどは本部半島の小さなアップダウンを走るウォーミングアップ代わり。登りは座って走れないのでダンシングを多用するのが私のスタイルだけど、今日はある程度のペースならシッティングで登っていける。前日まで体感していたとおりの良いコンディションだ。

海岸線の北上も落ち着いたペース。タイム差は8分以上に広がる。まだ焦りはしないけど、これ以上広げたくはない。自分も先頭付近でローテーションに入ったりしながら進む。まぁ逃げがなくてもいつも危険回避のために先頭付近で走っているので、いつもどおりなんだが。

8分以上のタイム差で逃げ集団を泳がしながら前半の平坦区間を終えて、一回目の普久川ダムへの登りに突入した。

高岡がもっとも警戒する井上 亮(Magellan Systems Japan)と紺野元汰・岡泰誠(SBC Vertex Racing Team) 高岡がもっとも警戒する井上 亮(Magellan Systems Japan)と紺野元汰・岡泰誠(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO一段と絞れた松木健治(VC福岡)が普久川ダムを登る一段と絞れた松木健治(VC福岡)が普久川ダムを登る photo:Makoto.AYANO


【中盤】
2回目の登り、下って沖縄本島最北端のアップダウンを走ってから平地をしばらく走って2回目の普久川ダムへ登るまでの中盤。逃げグループとは2回目の登り口までで5分。頂上で3分くらいの差にしておきたいところ。ただ8分差を1回目の登りから一気に詰めようとすると人数が減ってしまうし、その後の北部のアップダウン〜海岸線で脚を休めてペースが落ちてしまうので、集団の利を活かすためには1回目の登りはペースで登って、その後のアップダウンと平坦で差を詰める方が効率が良い。このくらいは特に話さなくても集団内でのコンセンサスは取れていて、そのように進む。

驚異の52歳、西谷雅史(オーベスト)が先頭グループのペースをつくる驚異の52歳、西谷雅史(オーベスト)が先頭グループのペースをつくる photo:Makoto.AYANO
1回目の普久川ダムの登り終わりの補給所で先頭とのタイム差が分からなかったが、まだ7〜8分という感じ(栗村さん情報)。2回目の普久川までで2、3分詰めないといけない。ここで210に出走しているチーム員のまこっち、もやっしー、木村くん、にっしーに声かけて集団のペースが落ちないように先頭でローテに入るよう指示を出す。こういう時の追走は、登りはあまり上げずに下りと平地でタイム差を詰める方が脚にこなくて良い。

井上亮(Magellan Systems Japan)が、このあたりから積極的にペースを上げる動き。集団を牽いてタイム差詰めるというよりも、集団から飛び出してそのまま先頭集団までブリッジをかけようというくらいの勢いで何度も飛び出している。

集団牽引の強力なコマが前に行ってしまってお見合いになってしまったらせっかく詰まり始めた差も広がってしまうし、先頭で残っている阿曽選手に井上君が合流したらやっかいなことになるので、これは絶対に逃さないようにして、井上君の動きを集団のペースアップとするように、中切れを起こさないように注意する。

人数が絞られた先頭集団を松木健治(VC福岡)が引く人数が絞られた先頭集団を松木健治(VC福岡)が引く photo:Makoto.AYANO
それでも海岸線で3名が前に飛び出してしまう。チーム員とのレース前のやり取りでこういう場面も想定していた。そのとおりにニッシーが井上君にはついていき、そのまま行ってしまわないようにマークしてもらう。後ろではチーム員に声掛けて追走して無事吸収。それにしてもまだレース中盤なのに、平地でもうっかりしていると集団から飛び出してそのまま1人でもガンガン行ってしまいそうな井上機関車のパワフルさたるや!。

これが井上君の脚質でありスタイルだから、ここで脚を温存していればもっと良い結果になったかというと、個人的にはそうでもない気がする。それでも中盤からまったりせずに速くなって消耗戦になって人数減る展開は私的にも大歓迎だ。

ペースを上げて後方をチェック。森本誠(GOKISO)がついてくるペースを上げて後方をチェック。森本誠(GOKISO)がついてくる photo:Makoto.AYANO断崖にかかる橋を渡る先頭集団。後方メイン集団には十分な差をつけた断崖にかかる橋を渡る先頭集団。後方メイン集団には十分な差をつけた photo:Makoto.AYANO


YouTubeライブの亀の子カメラ動画でも出ていたが、2回目の普久川登り入り口前から井上君が再び集団先頭でペースアップ。登り口からペースを上げて、猛烈な勢いで登り始める。入り口からしっかりマークしていたので2番目にピッタリついて登る。あまりに速いので2人だけになった。あまりに速いので先頭交代促されてもペースが落ちるまで前には出られない。それで少し前に出て井上君が休んだらまたすぐ前に出てペース上げていく。後ろから1人追いついてきて3人になるも、後続集団も10秒程度しか離れていない。まだ人数も多いのでそんなにやすやすとは逃げさせてくれない。

登り中腹で集団が追いついてくる。森本誠(GOKISO)、西谷雅史(オーベスト)、岡泰誠(SBC Vertex Racing Team)など有力どころ勢揃い。SBCチームとして出ている岡君はゲンタのアシスト的な走り方に見える。ゲンタは脚を温存しているようで不気味。

先頭集団の後方に潜む紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)先頭集団の後方に潜む紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO
それにしても52歳の西谷さんがこの段階の登りで先頭に出てペースをつくっていく。恐るべし。ここでドカーンとアタックかかったらキツイなぁ。限界になってしあうなぁ、という限界一歩手前くらいで粘って走るけど、やはりそこからアタックはかからない。無事KOMポイント通過。ここでゲンタがパンクしたみたい。可愛そうだけど、こんだけペース上がって人数減って、先行と2分くらいの差まで詰まってきた段階で待つ事は出来ない。

海沿いに出た先頭集団。伸びのある若手の持留叶汰郎(thcrew)が先頭を引く海沿いに出た先頭集団。伸びのある若手の持留叶汰郎(thcrew)が先頭を引く photo:Makoto.AYANO
ゲンタはホイール交換せずにそのまま終盤まで走ってゴールしていた。チューブレスタイヤなのでパンクしてもシーラントで穴が塞がれば走る続ける事ができる。ただ今回はその前にかなり空気が抜けていたので走りは相当重くなっていたんだろう。残念だけど、また来年の勝負となるだろう。

スローパンクに見舞われた紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)が終盤に脱落するスローパンクに見舞われた紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)が終盤に脱落する photo:Makoto.AYANO
2回目の補給所でトップ2名との差は1分台だったので、もう完全に射程圏内。集団は20名いないくらいか。この段階でここまで減る展開は近年珍しいのではないか。一気に下った後の高江の坂。このコースの下りは自信あるので、少し抜け出す。高江の登り口前にこれで少しだけ脚を休められる。Vengeの恩恵だ。

先頭で登り口に入って、ペース上がったらそれに合わせてついていく。今年は不気味にここでペースが上がらず。5分ちょい。アタックはかからずに一定ペースのまま登り切る。登りきって15人はいなかったようだ。皆が後半に向けて脚を貯めているのか、キツくてペースが上がらないのか、まだ分からない。

一旦登りきってからしばらく登り基調のアップダウン。ここで2名落車してしまい、人数は11名ほどに。

西谷雅史(オーベスト)と石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)がついに遅れる西谷雅史(オーベスト)と石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)がついに遅れる photo:Makoto.AYANO警戒していた阿曽圭佑(あそクリニック)を捉える。しかし阿曽は再びアタックした警戒していた阿曽圭佑(あそクリニック)を捉える。しかし阿曽は再びアタックした photo:Makoto.AYANO


【終盤】
高江過ぎてからのアップダウンで最後まで逃げていた阿曽選手を吸収、レースは振り出しに。もう残っている人数は10人ほど。アップダウンでスピードの緩急があるなかでうっかりと中切れが出来て集団が割れないように注意して、無用な落車を避ける意味でもなるべく前の方にいるようにする。

何度か軽くジャブ打って逃げを試みるけど、さすがに皆が緊張感を持って走っている中でみすみすと逃してはくれない。井上君の動きに最大の注意を払うけど、意外とアタックの動きを見せない。シクロワイアードの記事によると残ったメンバーは以下の11人。

阿曽圭佑(あそクリニック)
高岡亮寛(Roppong Express)
松木健治(VC福岡)
井上 亮(Magellan Systems Japan)
持留叶汰郎(thcrew)
森本誠(GOKISO)
中村俊介(SEKIYA)
岡泰誠(SBC Vertex Racing Team)
紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)
西谷雅史(オーベスト)
石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)

もはやツワモノしか残っていない。下りきって海岸に出てひとコブ、ふたコブで最後の補給所を越えて、いよいよ勝負区間へ。しばし海岸線を不気味にローテーションしながら進み、173kmくらいから二段坂へ。4分ほど登って1分下って3分ほど登る。

入りが一番勾配がキツイので、そこで前方に出てペースアップに備える。ここは山の神・森本さんがペースを作る。苦手な緩斜面で二番手に居ながら離れそうになるが、ココは絶対に遅れてはいけない勝負どころなので、なんとかギリギリ持ちこたえる。後半にまた少し勾配がきつくなるところではついていける。先頭付近でクリア出来てまだ自分は余裕ある。

「山の神」こと森本誠(GOKISO)が登りで積極的にペースを作る「山の神」こと森本誠(GOKISO)が登りで積極的にペースを作る photo:Makoto.AYANO
この勝負どころでアタックがかからないというのは皆けっこう限界近いのだろうと思う。1分ほどの下りを経てもう一段登る。データを仔細に見て気付いたのだが、一段目で166まで上がっていた心拍が、1分の登りで127まで下がっている。他人との比較はわからないけど、数字だけ見ると心拍の戻りが速いんじゃないか? この回復の早さが自分の強みなんだろうか。

二段目の登りは地味に勾配があって長くてキツイ。2年前のレースではここが一番キツかったと印象に残っているくらい。今回も同じだった。キツかったって仕掛けているのは自分なんだが。特に決めていたわけでもなく、意図的にやったわけでもないが、なんとなく周りの雰囲気と自分の脚の具合からして「このくらいの強度で走れば自分が受けるダメージ以上に周りにダメージを与えられるんではないか」という絶妙なペースを保って登る。

さらに人数を絞るべく登りでペースを上げる高岡亮寛(Roppong Express)さらに人数を絞るべく登りでペースを上げる高岡亮寛(Roppong Express) photo:Makoto.AYANO
約3分、自分も相当キツイけど、アタックかからないか注意しながら走る。アタックがかかったらレッドゾーン入り確実だけど、この状態でアタックかかったら完全に崩壊して数人の勝負まで絞り込まれる。それくらい皆キツそうだから、ここは勇気を持ってペースを落とさずに行く。

頂上手前で井上君がペースアップ。松木さんがついていき、その後ろに食らいつく。やはりけっこうキツそう。ここで人数が絞られた。

スゴイきついんだけど、残っているメンツを見て、ここから自分がついていけないくらいのアタックをかけられそうな余裕はなさそうだ。キツイのは皆同じ。というか、自分はここからの粘りが持ち味なので、自分より周りの方が限界に近いはず。その後の細かいアップダウンでも勇気を持って仕掛けてみる。意外と短い登りでのちょっとしたペースアップでも、繰り返すとじわじわと来るようで、1人また1人と人数が減っていったように思う。最終盤で残ったのは6名。

高岡亮寛(Roppongi Express)
松木健治(VC福岡)
井上 亮(Magellan Systems Japan)
持留叶汰郎(thcrew)
森本誠(GOKISO)
中村俊介(SEKIYA)

羽地ダムへの登りでペースアップする高岡亮寛(Roppong Express)羽地ダムへの登りでペースアップする高岡亮寛(Roppong Express) photo:Makoto.AYANO
カヌチャベイリゾート前の坂を越えて下ると、あとは海岸線をしばらく走り勝負の羽地ダムへ突入する。そのちょっとした坂でも仕掛けてみたんだが、その後のちょっと下りでラインを外して減速したらしくて、後ろ2名が数秒離れていた。井上君が遅れるというチャンスだったので、前4人で海岸線を先頭交代して走る。後ろ2名もほどなくして追いついてきたのだが、レース後の井上君の談では、この何でもないところ(下り)で空いてしまった差を埋めるための追走で意外と脚使ってダメージがあったと。Vengeの恩恵ふたたび。本当にロングのレースでは小さな事の積み重ねが終盤に影響してくるものだ。

【3人の勝負へ】
前述の6名で最後の羽地ダムへ。乗鞍優勝コンビに勝たせるわけにはいかないな、とか、松木さんが勝ったらニセコ&沖縄制覇で新王者になっちゃうな、とか余計な事を考えていた。けど「最後に勝つのは自分だ」と信じて、「諦めずに最後まで粘れば必ずチャンスはある」と信じて、集中する。こんなキツイ局面、弱気になった瞬間にゲーム終了だ。

羽地ダムへの登りは異様な感じ。下から自分が先頭で、誰かが上げたら合わせてついていこうと思ったけど、皆が牽制して前に出ない。アタックされても絶対に逃さないというくらいの脚を残しながらのペースで登っていたけど、乗鞍チャンプの中村君が遅れる。

番越トンネルを抜けたギャラリー坂でアタックに出た高岡亮寛(Roppong Express)番越トンネルを抜けたギャラリー坂でアタックに出た高岡亮寛(Roppong Express) photo:Makoto.AYANO
森本さんか井上君が絶対にペースアップしてくると思っていたけど、不気味に後ろで動かない。勾配が緩くなるトンネルまでそのままで進む。一番シメシメと思っているのはスプリントに自信ある松木さんだろう。逆にこのままでは絶対に終わらないのは井上君。森本さんもたぶんこのメンツでのスプリントでは勝算ないと思うから、脚があるなら仕掛けてくるはず。

と思ってたら誰も仕掛けないので、トンネル過ぎて右折して一番勾配がキツいギャラリーポイントで渾身のアタックをしてみたら、意外とこの100mあるかないかほどの短い登りで森本さんと持留君が遅れた。前3人と後ろ2人。これで表彰台は確定となるだろう。

羽地ダムの登りで抵抗を続ける井上亮(Magellan Systems Japan)羽地ダムの登りで抵抗を続ける井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto.AYANO
高岡のペースアップに苦しむ井上 亮(Magellan Systems Japan)と松木健治(VC福岡)高岡のペースアップに苦しむ井上 亮(Magellan Systems Japan)と松木健治(VC福岡) photo:Makoto.AYANO
前3人にとってもう牽制する意味はないので、全開でGo!。ちょっと下ってひとコブ越えて、しばらく下ってもうひとコブ越えて、少し下って最後の頂上へ。これがレース最後の登りなので、とりあえず全力を出し切る。たとえこの距離ならカウンター食らっても食らいつけるはず。これも結果的に決まらなかったが、レース後談でこの最後の登りのアタックは相当堪えたらしい。

下りのトンネルで井上君がアタック。松木さんがしっかり反応するのでついていく。その勢いのまま下りコーナー区間を攻めたら後ろと少し間が空く。Vengeの恩恵三度。下りきりで東京から応援に来てくれたチーム員から声援をもらう。絶対に皆の応援に応えたい。

羽地ダムの下りコーナーでペースアップする松木健治(VC福岡)。松木と井上とは距離があく羽地ダムの下りコーナーでペースアップする松木健治(VC福岡)。松木と井上とは距離があく photo:Makoto.AYANO
国道に出る前に後ろと合流して、左折して名護市街へ向かう。やや牽制気味でローテーションしながら、一応後ろを確認するが、森本さんと持留君の2人に追いつかれることはなさそうだ。

完全に3人での勝負となる。ここで迷いはなかった。「必ずゴールスプリントになる」。

それは井上君の望むところではないので、必ず何回か仕掛けがあるだろう。それは絶対に躊躇せずに自分で追う。
逆に松木さんは毎年の走りを見ていて、絶対に自分から仕掛けないのは分かっている。特に今年はニセコクラシックのゴール勝負で勝っているから、良いイメージを持っているはずで、ゴールスプリントに持ち込みたいんだろう。それらを踏まえて、ゴールスプリントしようと腹をくくる。

国道58号線に出て勝負は3人に絞られた国道58号線に出て勝負は3人に絞られた photo:Makoto.AYANO
アタックからの逃げを試みるという選択肢もあったが、脚質的に井上君は絶対に牽制せずに追ってくるし、その追いかけっこでは井上君に分がある。井上君と私がアタックして潰し合う展開は松木さんの勝率を上げることにしかならない。

最後のアタックポイントであるイオン坂の頂上付近で井上君がアタック。キレがあるアタックではなかった。松木さんが即座に反応したので、その後ろで落ち着いて対処。レース後談だが、このアタックで松木さんは脚が攣ってかなりヤバかったらしい。私も「キレがないなぁ」なんて感じていながら、自分の脚も相当厳しいと感じていた。攣りはしなかったが。

最後のチャンス、イオン坂でアタックを試みる井上 亮(Magellan Systems Japan)最後のチャンス、イオン坂でアタックを試みる井上 亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto.AYANO
下ってラスト4kmほどの一直線の、緩やかな下り基調の平地を3人でお互いの脚色と息遣いを感じながらローテーションして進む。最後の瞬間に集中する。前日にスプリント練習しておいて良かった。この時間は頭で考えることはなく、神経を研ぎ澄ませて集中するに限る。考えたら迷いが出てしまってダメなんだと思う。

35km/hくらいの遅い速度で牽制しながら進み、ラスト1kmになったら先頭交代は回らないだろうから、そこで先頭に出ないように、ラスト1kmよりかなり前からローテーションを止める。

道路左端に井上君が先頭。右側に少し被せて私。3番手松木さんは私の左側。空気抵抗を嫌っての位置取りかもしれないが、松木さんのこの位置取りは致命的であり、結果的に勝敗を分けたと思う。

3人がスプリント開始。井上 亮(Magellan Systems Japan)が早々に遅れを取る3人がスプリント開始。井上 亮(Magellan Systems Japan)が早々に遅れを取る photo:Makoto.AYANO
私は左側だけに意識を集中すれば良かった。井上君がロングスプリントするタイミングで遅れずに反応すれば絶好の番手からスプリント出来る。松木さんは必然的に3番手になる。松木さんは道路左端にいて前は井上君、右前に私だから先行は出来ない。先行するなら一瞬緩めて車間あけて私の右側から出ないといけない。ゴールがどんどん近づく中で一瞬緩めてからの加速は大きなロスだ。もし右側から仕掛けるなら、その一瞬緩めたタイミングで私がスプリントを開始することになる。井上君の右後ろに私がいて、松木さんがその右後ろにいたら、私は左前に居る井上君のロングスプリントと右後ろの松木さんのスプリント開始を同時に監視しないといけなくなる。

松木健治(VC福岡)が伸びを見せて高岡の前輪に並ぶ松木健治(VC福岡)が伸びを見せて高岡の前輪に並ぶ photo:Makoto.AYANO
意外にも井上君はロングスプリントを仕掛けない。松木さんはポジション的に絶対先行できない位置。ラスト300mの看板を過ぎて、自分がゴールまで踏み切れる位置から全力でスプリント開始。トップスピードまで乗せて、そこから粘るのみ。

松木さんが右から並びかけて前輪が重なるくらいの差まで詰まったが、私は最後シフトアップして踏み直して、松木さんを前に出すことなく優勝!

松木健治(VC福岡)をスプリントで下した高岡亮寛(Roppongi Express)が喜びのガッツポーズ松木健治(VC福岡)をスプリントで下した高岡亮寛(Roppongi Express)が喜びのガッツポーズ photo:Makoto.AYANO
市民210km表彰 優勝:高岡亮寛(Roppongi Express)、2位松木健治(VC福岡)、3位井上 亮(Magellan Systems Japan)市民210km表彰 優勝:高岡亮寛(Roppongi Express)、2位松木健治(VC福岡)、3位井上 亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto.AYANO【最後に】
最後は気合というか気持ちが乗った差だったというのがゴール直後の直感的な感想。レース後談で、松木さんは「並びかけた瞬間に脚が攣った」と。動画を見たら確かに一瞬腰を下ろしており、そこで勝負が決したように見える。

ゴールスプリントで勝つ方が逃げて勝つよりも喜びの感情としては劇的だ。1年間目標にして追い求めたモノが突如として手に入り、Winnerとなるから。何度勝っても、この勝利の価値は褪せない。

2006年大会でこの最高に厳しいロードレースの魅力にハマり、一年の最大目標にして活動してきた。今年はパンクしてしまったゲンタも、来年は更に気合を入れて奪還に臨むだろう。2008年優勝者の西谷さんが今年52歳で9位に入っているし、私もまだまだ少しずつ進化出来ていると感じる。年齢なんて気にせずに、これからも進化し続け、再び来年ライバルたちと最高のゲームを楽しめればと思う。

最後に、機材およびメンテナンスサポート・ウェアサポート・一緒に目標に向けて練習してきた仲間たちおよび家族など、周りで支えて応援してくれる皆に支えられてここまでこれた事に深く感謝します。

高岡亮寛/Roppongi Express

高岡亮寛(Roppongi Express)が駆るスペシャライズドVenge高岡亮寛(Roppongi Express)が駆るスペシャライズドVenge

2位の松木健治(VC福岡)のブログ
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