今から3年前、当時コフィディスに所属していたタイラー・ファラー(アメリカ)はベルギーのヘントに活動拠点を移した。時は過ぎ、瞬く間にフラマン語を習得したファラーは、アメリカのガーミン・トランジションズを率いてフランドルのメジャークラシックに挑む。

デパンヌ3日間レースのスプリントで競り合うタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)デパンヌ3日間レースのスプリントで競り合うタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vosベルギーの地元紙、アントワープ新聞は先日、25歳ファラーの特集記事を2ページ見開きで組んだ。ワシントンの生家からヘントの家まで写真入りで紹介し、ファラーにまつわる全てのものにフォーカスした内容。そしてベルギーのスター、トム・ボーネン(クイックステップ)との比較にスペースを割いた。

ファラーとボーネン。2人はともにイタリアのメジャークラシック、ミラノ〜サンレモにエースとして出場した。結果はボーネンが2位。ファラーはチプレッサとポッジオの上りで失速し、勝負には絡めなかった。

デパンヌ3日間レースで今シーズン初勝利を飾ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)デパンヌ3日間レースで今シーズン初勝利を飾ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos「本格的に優勝を狙ってサンレモに出場したのは今年が初めて。ハードな闘いになるとは予想していたけど、思うような走りが出来なかった」。

ボーネンとの闘いはヘント〜ウェベルヘムで再現されたが、ボーネンは勝負に絡む動きを見せず。そんな中、ファラーは積極的にレースを展開。終盤に形成された6名の先頭グループには入ることが出来なかったが、クラシックレースへの強い意気込みを感じさせる走りだった。

オンループ・ヘットニュースブラッドで3位に入ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)オンループ・ヘットニュースブラッドで3位に入ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos「先頭グループ入りを逃したことは本当に悔やまれる。数人と協力して懸命に追走したけど、タイム差は20〜30秒を推移したまま。最後まで追いつくことは出来なかった。でも、いつも集団内でエネルギーをセーブしていることが多い僕にとって、自らレースを作っていくのは新しい感覚だったよ」。

ファラーは今週ベルギーで開催されたKBCデパンヌ3日間レースで今シーズン初勝利を飾る。レース3日目の午前中に行なわれたショートステージで、ファンに見守られながら集団スプリントを制した。

「僕は今ヘントに住んでいて、U23時代に住んでいたイゼヘムの街も近い。だからこの近辺には僕を応援してくれるファンが多いし、フランドルのクラシックレースはホームレースのような感覚。もちろんレースに懸ける想いは強いよ」。ファラーが居を構えるヘントは、ロンド・ファン・フラーンデレンのスタート地点ブルージュまで40kmの距離だ。

「フランドルの激坂はジュニア時代から何度も走っているから良く知っている。どの坂も少なくとも一回は上ったことがあると思う。どの坂も厳しさは一流。特にコッペンベルグはクレイジーだ」。

ライバルのボーネンは2005年と2006年にロンド・ファン・フラーンデレンで優勝。一方のファラーは2008年大会での54位が過去最高位。アントワープ新聞の記事の中でファラーは「ボーネンはスーパースターだ。僕はボーネンとは違う。僕はタイラー・ファラーなんだ」と語っている。ファラーは昨年ヴァッテンフォール・サイクラシックスで優勝を飾り、ブエルタ・ア・エスパーニャでグランツール初勝利を飾った。

昨年ヴァッテンフォール・サイクラシックスで優勝したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)昨年ヴァッテンフォール・サイクラシックスで優勝したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos「タイラーはロビー・マキュアン(オーストラリア)やマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のような典型的なピュアスプリンターではない」。そう語るのはガーミン・トランジションズのマシュー・ホワイト監督だ。「確かにカヴェンディッシュらは抜群に速い。だが彼らが勝てるワンディクラシックは限られる」。

「ロンドのレース展開は天候に大きく左右されるだろう。とにかく、風が吹き、雨が降れば、何が起こるか分からない。ハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ)が欠場することで、小集団でのスプリント勝負に持ち込まれる可能性が上がった」。

昨年エネコツアーでステージ3勝を飾ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)昨年エネコツアーでステージ3勝を飾ったタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos「今となってはタイラーはまるでベルギー人。ヨーロッパで成功を収める海外選手がそうしているように、タイラーはベルギーによく順応している。フランドルは彼の第二の故郷だ」。

ボーネンと対峙するにあたり、ファラーはチームメイトのヨハン・ファンスーメレン(ベルギー)やマルティン・マースカント(オランダ)をサポートする。15の急坂が設定された262kmのレースで、ファラーにチャンスが回ってくる可能性もあるだろう。いずれにしても、フランドルのファンはファラーをローカル選手の一人として応援するはずだ。

ホワイト監督によると、ロンド、シュヘルデプライス・フラーンデレン、パリ〜ルーベ出場後、ファラーはヘントを離れ、ガーミンが拠点を置くスペインのジローナに移動する。バルセロナに近いその街で、ファラーはデーヴィット・ミラー(イギリス)らとともに、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスに向けて調整を始める。

「ヘントではグランツールに登場するような山岳での練習が出来ない。だからスペインでトレーニングキャンプを組む。そこでタイラーは上りとチームタイムトライアルのトレーニングも行なう予定だ」。

ファラーはクラシックレースとグランツールの違いをこう語る。「今はクラシックレース向きのパワートレーニングばかり。4月中旬からは、グランツールに向けてトレーニング内容を変更する必要がある。スペインでは集団スプリントやスピードトレーニングを重点的に行なう予定。“パワー”から“スピード”にカラダを切り替えなければならない」。

その視界の先にあるのは、もちろんツール・ド・フランスのステージ初優勝。ファラーはベルギー人ファンの歓声に後押しされて、ボーネンらとバトルを繰り広げる。




text:Gregor Brown
photo:Cor Vos
translation:Kei Tsuji



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。