2018/09/23(日) - 09:07
9月23日(日)オーストリアのインスブルックでロード世界選手権が開幕する。前半戦のチームタイムトライアルと個人タイムトライアルのコースや注目選手を紹介します。
オーストリアで開催されるロード世界選手権
オーストリア西部、チロル州の州都インスブルックで開催されるUCIロード世界選手権。スイスとドイツ、リヒテンシュタイン、イタリア、スロベニア、ハンガリー、スロバキア、チェコに隣接したオーストリア(ドイツ語発音に近づけるとエースターライヒ)での世界選手権開催は、ステファン・ロッシュがプロロードで優勝した1987年のフィラッハ大会と、パオロ・ベッティーニがエリートロードを制した2006年のザルツブルク大会以来、12年ぶり3度目。
インスブルックはイタリア国境から車で40分、ドイツ国境から30分ほどの距離に位置しており、ドイツのミュンヘンからは100kmほど離れている。ナウ川の支川であるイン川の畔に位置していることから「Inns(イン川の)bruck(橋)」という意味をもつ人口13万人(オーストリア5位)の町はウィンタースポーツの拠点として知られており、1964年と1976年に冬季オリンピックの開催地となっている。
スタート地点はカテゴリーによって異なり、イン渓谷にある郊外の町をスタートしてインスブルック中心部のフィニッシュラインを目指す形。町のシンボルである「黄金の小屋根」など、チロルらしい町並みが残るインスブルック旧市街の真横に全カテゴリー共通のフィニッシュ地点が置かれている。
標高2800m級のアルプスの山々に囲まれたインスブルックの標高は574m。9月の平均最高気温は20度、平均最低気温は9度、平均降水日数は9日程度。大会期間中の天気予報を見ると、雨予報の24日(月)を除いて概ね晴れ〜曇りの天候が続き、最高気温は15〜23度。朝夕の冷え込みは厳しく、最低気温は2〜7度で推移する見通しだ。
世界最速チームを決めるチームタイムトライアル
8日間にわたる大会は、いわゆるUCIチーム(トレードチームと呼ばれる)によるチームタイムトライアルで幕開ける。世界選手権はいわゆる国対抗戦で、どの選手もナショナルジャージを着て出場するのが通例だが、チームタイムトライアルに限ってはチーム戦であり、通常のチームジャージを着て走る。アルカンシェルが設定されていない代わりに、出場選手とチームマネージャーにはメダルが贈られ、優勝チームは世界チャンピオンを示すロゴを1年間チームジャージに配することが出来る。
なお、UCIチームによる対抗戦は2018年をもって終了する。2019年以降は国別対抗戦になるのがもっぱらの噂で、各国のTTスペシャリストを3名ずつ揃えた男子チームと女子チームが走ってその合計時間で争われる形式になるとの見通しだ。
男女ともにスタート地点はインスブルックから西に50kmほど進んだエッツタールの町。エリア47と呼ばれる遊園地をスタートし、イン川に沿った下り基調の幹線道路をインスブルックに向かって突き進む。西風が予想されているため高速レースが繰り広げられることになりそうだ。
女子レースはまっすぐインスブルックに向かうが、男子レースは後半にかけてケマーテンの登りをこなす。距離4.6km/平均5.7%/最大13%の登りで隊列からちぎれる選手も出てくるはず。1チームのスターターは6名で、そのうちタイム計測対象となる4名まで絞られた状態でフィニッシュにたどり着くチームも多いだろう。
2012年にチームタイムトライアルが復活してからの5年間、男子最速チームの称号はクイックステップフロアーズとBMCレーシングの2チームだけが手にしてきた。2012年から2年連続でオメガファーマ・クイックステップが優勝し、2014年から2年連続でBMCレーシングが優勝。2016年にエティックス・クイックステップがタイトルを取り返している。
2017年大会でその二強に割って入り、初タイトルを獲得したのがサンウェブだった。2018年もトム・デュムラン(オランダ)を中心に据えた強力なメンバーで挑むサンウェブだが、大会連覇にはBMCレーシングやチームスカイ、クイックステップフロアーズが立ちはだかる。
特にツール・ド・フランスとティレーノ〜アドリアティコ、ツール・ド・スイスのチームTTで優勝しているBMCレーシングは優勝候補ナンバーワン。ブエルタの個人TTで2勝を飾ったローハン・デニス(オーストラリア)やシュテファン・キュング(スイス)ら、スペシャリストを揃えての出場となる。ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)やミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)、ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)らを揃えるチームスカイも初タイトルを狙ってくるだろう。
女子は長年ヴェロシオ・スラムが最速を誇っていたが、2016年にブールス・ドルマンスが初めてタイトルを獲得。2017年はそのブールス・ドルマンスを抑えたサンウェブがチームに男女タイトル二冠をもたらしている。2019年もサンウェブとブールス・ドルマンスを中心に、ミッチェルトン・スコットやキャニオン・スラムがタイトル争いに絡んでくるだろう。
男子エリートはデニスやデュムラン、女子エリートはファンフルーテンに注目
個人タイムトライアルの舞台となるのは、インスブルックの東に広がるイン渓谷。スワロフスキー社の「クリスタルワールド」があるハル=ヴァッテンスをスタートする女子エリートと男子U23、男子ジュニアは共通の27.8kmコースで、女子ジュニアは20kmコース。高低差50mほどの丘を越えながらインスブルックを目指す。
男子エリートはハル=ヴァッテンスからさらに東に進んだラッテンベルクをスタート。52.5kmコースは前半はほぼフルフラットだが、後半に入るとグナーデンヴァルトの登りが登場する。距離4.9km/平均7.1%/最大14%/高低差350mの本格的な登りをTTバイクでこなさなければならない。
タイトル防衛を目指すのは、ジロとツールを総合2位で終え、8月のドイツツアーで総合4位に入ったデュムラン。しかしブエルタでステージ2勝を飾ったデニスのコンディションが良いことは間違いない。デニスは2014年と2015年にチームタイムトライアルで世界一に輝いているものの、個人タイムトライアルでは2014年の5位が最高位。今シーズンは個人タイムトライアルだけで4勝。今もっとも乗りに乗ってるTTスペシャリストであると言っていいだろう。
ヨーロッパチャンピオンのヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)やジョセフ・ロスコフ(アメリカ)、クウィアトコウスキー、カストロビエホら、ブエルタの個人タイムトライアルで好成績を残した選手や出場選手の中で最多4勝しているトニー・マルティン(ドイツ)らがメダル候補に挙げられる。
女子エリートは今シーズン12勝(そのうち5勝がTT)のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が優勝候補の筆頭。35歳のベテランはチームタイムトライアルをパスし、個人タイムトライアルのタイトル防衛に集中している。エレン・ファンダイクやアンナ・ファンデルブレッヘンら、オランダはTTスペシャリストを豊富に揃えている。
日本からは與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)が出場。2013年27位、2014年14位、2015年18位、2016年21位、2017年22位、リオ五輪15位と、同種目でコンスタントに成績を残す與那嶺は「目標順位は、過去の最高順位を上回れればと思います。ただ、14位という結果だった4年前に比べて、選手層が厚くなってきているのをここ2年で感じているので、順位よりも出場する選手の中でどれくらい自分が走れるのかを確かめれればと思います」と語る。
「世界選手権というひとつのレースにフォーカスして、そこにピークを持ってくるトレーニングや準備をし、挑戦して、どれくらい戦えるのかということを図れる一年に一回のレースです。コンディションは順調に仕上がってきているので、例年通り走れる自分を楽しみたいと思います!」と語る與那嶺はブールスレディースツアー終了後の9月6日からインスブルック入り。現地で2週間にわたって乗り込みを行っている。
男子U23には山本大喜(キナンサイクリング)と松田祥位(EQADS)が、男子ジュニアには日野泰静(松山城南高校)と馬越裕之(榛生昇陽高校)が出場予定。男子エリートと女子ジュニアへの日本人選手の出場予定はない。
text:Kei Tsuji in Innsbruck, Austria
オーストリアで開催されるロード世界選手権
オーストリア西部、チロル州の州都インスブルックで開催されるUCIロード世界選手権。スイスとドイツ、リヒテンシュタイン、イタリア、スロベニア、ハンガリー、スロバキア、チェコに隣接したオーストリア(ドイツ語発音に近づけるとエースターライヒ)での世界選手権開催は、ステファン・ロッシュがプロロードで優勝した1987年のフィラッハ大会と、パオロ・ベッティーニがエリートロードを制した2006年のザルツブルク大会以来、12年ぶり3度目。
インスブルックはイタリア国境から車で40分、ドイツ国境から30分ほどの距離に位置しており、ドイツのミュンヘンからは100kmほど離れている。ナウ川の支川であるイン川の畔に位置していることから「Inns(イン川の)bruck(橋)」という意味をもつ人口13万人(オーストリア5位)の町はウィンタースポーツの拠点として知られており、1964年と1976年に冬季オリンピックの開催地となっている。
スタート地点はカテゴリーによって異なり、イン渓谷にある郊外の町をスタートしてインスブルック中心部のフィニッシュラインを目指す形。町のシンボルである「黄金の小屋根」など、チロルらしい町並みが残るインスブルック旧市街の真横に全カテゴリー共通のフィニッシュ地点が置かれている。
標高2800m級のアルプスの山々に囲まれたインスブルックの標高は574m。9月の平均最高気温は20度、平均最低気温は9度、平均降水日数は9日程度。大会期間中の天気予報を見ると、雨予報の24日(月)を除いて概ね晴れ〜曇りの天候が続き、最高気温は15〜23度。朝夕の冷え込みは厳しく、最低気温は2〜7度で推移する見通しだ。
世界最速チームを決めるチームタイムトライアル
8日間にわたる大会は、いわゆるUCIチーム(トレードチームと呼ばれる)によるチームタイムトライアルで幕開ける。世界選手権はいわゆる国対抗戦で、どの選手もナショナルジャージを着て出場するのが通例だが、チームタイムトライアルに限ってはチーム戦であり、通常のチームジャージを着て走る。アルカンシェルが設定されていない代わりに、出場選手とチームマネージャーにはメダルが贈られ、優勝チームは世界チャンピオンを示すロゴを1年間チームジャージに配することが出来る。
なお、UCIチームによる対抗戦は2018年をもって終了する。2019年以降は国別対抗戦になるのがもっぱらの噂で、各国のTTスペシャリストを3名ずつ揃えた男子チームと女子チームが走ってその合計時間で争われる形式になるとの見通しだ。
男女ともにスタート地点はインスブルックから西に50kmほど進んだエッツタールの町。エリア47と呼ばれる遊園地をスタートし、イン川に沿った下り基調の幹線道路をインスブルックに向かって突き進む。西風が予想されているため高速レースが繰り広げられることになりそうだ。
女子レースはまっすぐインスブルックに向かうが、男子レースは後半にかけてケマーテンの登りをこなす。距離4.6km/平均5.7%/最大13%の登りで隊列からちぎれる選手も出てくるはず。1チームのスターターは6名で、そのうちタイム計測対象となる4名まで絞られた状態でフィニッシュにたどり着くチームも多いだろう。
2012年にチームタイムトライアルが復活してからの5年間、男子最速チームの称号はクイックステップフロアーズとBMCレーシングの2チームだけが手にしてきた。2012年から2年連続でオメガファーマ・クイックステップが優勝し、2014年から2年連続でBMCレーシングが優勝。2016年にエティックス・クイックステップがタイトルを取り返している。
2017年大会でその二強に割って入り、初タイトルを獲得したのがサンウェブだった。2018年もトム・デュムラン(オランダ)を中心に据えた強力なメンバーで挑むサンウェブだが、大会連覇にはBMCレーシングやチームスカイ、クイックステップフロアーズが立ちはだかる。
特にツール・ド・フランスとティレーノ〜アドリアティコ、ツール・ド・スイスのチームTTで優勝しているBMCレーシングは優勝候補ナンバーワン。ブエルタの個人TTで2勝を飾ったローハン・デニス(オーストラリア)やシュテファン・キュング(スイス)ら、スペシャリストを揃えての出場となる。ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)やミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)、ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)らを揃えるチームスカイも初タイトルを狙ってくるだろう。
女子は長年ヴェロシオ・スラムが最速を誇っていたが、2016年にブールス・ドルマンスが初めてタイトルを獲得。2017年はそのブールス・ドルマンスを抑えたサンウェブがチームに男女タイトル二冠をもたらしている。2019年もサンウェブとブールス・ドルマンスを中心に、ミッチェルトン・スコットやキャニオン・スラムがタイトル争いに絡んでくるだろう。
男子エリートはデニスやデュムラン、女子エリートはファンフルーテンに注目
個人タイムトライアルの舞台となるのは、インスブルックの東に広がるイン渓谷。スワロフスキー社の「クリスタルワールド」があるハル=ヴァッテンスをスタートする女子エリートと男子U23、男子ジュニアは共通の27.8kmコースで、女子ジュニアは20kmコース。高低差50mほどの丘を越えながらインスブルックを目指す。
男子エリートはハル=ヴァッテンスからさらに東に進んだラッテンベルクをスタート。52.5kmコースは前半はほぼフルフラットだが、後半に入るとグナーデンヴァルトの登りが登場する。距離4.9km/平均7.1%/最大14%/高低差350mの本格的な登りをTTバイクでこなさなければならない。
タイトル防衛を目指すのは、ジロとツールを総合2位で終え、8月のドイツツアーで総合4位に入ったデュムラン。しかしブエルタでステージ2勝を飾ったデニスのコンディションが良いことは間違いない。デニスは2014年と2015年にチームタイムトライアルで世界一に輝いているものの、個人タイムトライアルでは2014年の5位が最高位。今シーズンは個人タイムトライアルだけで4勝。今もっとも乗りに乗ってるTTスペシャリストであると言っていいだろう。
ヨーロッパチャンピオンのヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)やジョセフ・ロスコフ(アメリカ)、クウィアトコウスキー、カストロビエホら、ブエルタの個人タイムトライアルで好成績を残した選手や出場選手の中で最多4勝しているトニー・マルティン(ドイツ)らがメダル候補に挙げられる。
女子エリートは今シーズン12勝(そのうち5勝がTT)のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が優勝候補の筆頭。35歳のベテランはチームタイムトライアルをパスし、個人タイムトライアルのタイトル防衛に集中している。エレン・ファンダイクやアンナ・ファンデルブレッヘンら、オランダはTTスペシャリストを豊富に揃えている。
日本からは與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)が出場。2013年27位、2014年14位、2015年18位、2016年21位、2017年22位、リオ五輪15位と、同種目でコンスタントに成績を残す與那嶺は「目標順位は、過去の最高順位を上回れればと思います。ただ、14位という結果だった4年前に比べて、選手層が厚くなってきているのをここ2年で感じているので、順位よりも出場する選手の中でどれくらい自分が走れるのかを確かめれればと思います」と語る。
「世界選手権というひとつのレースにフォーカスして、そこにピークを持ってくるトレーニングや準備をし、挑戦して、どれくらい戦えるのかということを図れる一年に一回のレースです。コンディションは順調に仕上がってきているので、例年通り走れる自分を楽しみたいと思います!」と語る與那嶺はブールスレディースツアー終了後の9月6日からインスブルック入り。現地で2週間にわたって乗り込みを行っている。
男子U23には山本大喜(キナンサイクリング)と松田祥位(EQADS)が、男子ジュニアには日野泰静(松山城南高校)と馬越裕之(榛生昇陽高校)が出場予定。男子エリートと女子ジュニアへの日本人選手の出場予定はない。
text:Kei Tsuji in Innsbruck, Austria
ロード世界選手権2018レーススケジュール
月日 | 時間 | 種目 | 距離 | 獲得標高差 | 日本人選手 |
---|---|---|---|---|---|
9月23日(日) | 10:10〜 | UCI女子チームTT | 54.5km | 152m | |
14:40〜 | UCI男子チームTT | 62.8km | 427m | ||
9月24日(月) | 10:10〜 | 女子ジュニアTT | 20km | 192m | |
14:40〜 | 男子U23TT | 27.8km | 262m | 山本、松田 | |
9月25日(火) | 10:10〜 | 男子ジュニアTT | 27.8km | 262m | 日野、馬越 |
14:40〜 | 女子エリートTT | 27.8km | 262m | 與那嶺 | |
9月26日(水) | 14:10〜 | 男子エリートTT | 52.5km | 654m | |
9月27日(木) | 09:10〜 | 女子ジュニアロード | 71.7km | 975m | 川口、中冨 |
14:40〜 | 男子ジュニアロード | 132.4km | 1916m | 日野、馬越、福田、香山、小野寺 | |
9月28日(金) | 12:10〜 | 男子U23ロード | 179.9km | 2910m | 山本、石上、松田、大前、大町、渡辺 |
9月29日(土) | 13:30〜 | 女子エリートロード | 156.2km | 2413m | 與那嶺、金子、唐見 |
9月30日(日) | 09:40〜 | 男子エリートロード | 258.5km | 4670m | 中根 |
Amazon.co.jp