2018/05/11(金) - 15:19
シチリア島での3日間を締めくくるエトナ火山でミッチェルトン・スコットが示した強さ。関係者を悩ますイタリア本土への長時間移動。そしてチームスカイのヘリ移動。マリアローザも動いたエトナ決戦を振り返ります。
ジロ・デ・イタリアが街にやってきた photo:Kei Tsuji
出走サインに向かう選手たち photo:Kei Tsuji
トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)のバイクは7.01kg photo:Kei Tsuji
思わずフェンスの中に入ってしまう photo:Kei Tsuji
「イル・グランデ・ヴルカーノ(偉大な火山)」と称されるエトナ山は、一般的にイタリアで最も有名な山の1つだといっていいだろう。ヨーロッパ最大の活火山として知られ、その標高は3,350m。同じ成層火山の富士山と比べると斜面はなだらか。この日は分厚い雲に覆われたため山頂を仰ぎ見ることは叶わなかったが、山頂付近にはまだまだたっぷりと雪を残している。
直径140kmの広大な山麓には多くの町が点在しており、1669年の大噴火では麓の町カターニアで大きな被害が出た。毎日噴煙を上げながらも近年はそれほど危険な噴火は発生しておらず、活火山でありながら観光客が山頂まで登ることができる。
ジロに登場するのは5回目で、いずれも毎回違う登り方をしている。1967年、2011年、2017年はフィニッシュ地点が南側の「5合目」リフージオ・サピエンツァで、1989年はピアーノボッタノ。今回のフィニッシュ地点はリフージオ・サピエンツァの少し下に位置するオゼルヴァトリオ・アストロフィジコ(天文台)で、森林に覆われたエリアを登るため、溶岩に覆われた斜面をひたすら登った2011年と2017年よりも火山感が少ない。
実際は残り25kmを切ってから登り始めているので、カテゴリーのついた登りのスタートがどこなのか定義はわからないが、オゼルヴァトリオ・アストロフィジコに向かう登りは他の2本と比べるとそこまで難易度は高くない。
2011年 リフージオ・サピエンツァ 標高1,892m/全長19.4km/平均6.2%
2017年 リフージオ・サピエンツァ 標高1,892m/全長17.9km/平均6.6%
2018年 オゼルヴァトリオ・アストロフィジコ 標高1,736m/全長15km/平均6.5%
とは言えアマチュアサイクリストが思わずバイクを下りてしまうような急勾配区間(最大15%)もあり、インナーローに落とした次の瞬間にはアウターに入れるような下りになって、その次はスイッチバックの登り。淡々と7〜8%の勾配が続く他の2本とは異なり、オゼルヴァトリオ・アストロフィジコに向かう登りはとにかくリズムを刻みにくい。
シチリア島中部の丘陵地帯を走る photo:Kei Tsuji
マリアローザを着て走るローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji
フィニッシュに向かって独走するエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
そんなエトナの斜面でコロンビアンクライマーのエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)が逃げメンバーを振り切り、チームメイトのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)がライバルを振り切った。チャベスは身長164cmで体重54kg。イェーツは身長172cmで体重58kg。プロトンの中で小柄な部類に入る2人がエトナを制した。
2016年のジロでステージ優勝を飾って総合2位に入り、同年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位に入るとともにイル・ロンバルディアで勝利したチャベス。しかし2017年は落車や怪我が相次いだ。
残り5.5km地点でアタックしたチャベスは、3分11秒にわたって394Wを出力して飛び出すことに成功している。逃げ切りが決まった秘訣は、同じく逃げに乗ったジャック・ヘイグ(オーストラリア)による長時間牽引。そして集団内ではミケル・ニエベ(スペイン)やロマン・クロイツィゲル(チェコ)に援護されたイェーツが一発でアタックを決めた。チャベスが「今大会の最強チームだと思う」と自信を見せるミッチェルトン・スコットはチーム総合成績で首位に立っている。
エトナ山を最速で登ったイェーツがミッチェルトン・スコットの総合エース。イェーツはマーク・カヴェンディッシュとブラドリー・ウィギンズ、デーヴィッド・ミラーに続く史上4人目のイギリス人マリアローザ着用者となった。今年はパリ〜ニース総合2位、ボルタ・ア・カタルーニャ総合4位という成績を引っさげて出場しており、1週間程度のステージレースだけではなく、グランツールでは2016年ブエルタ総合6位、2017年ツール総合7位と安定した成績を残している。
強力なチームを味方につけるイェーツはこのままマリアローザを守り続けたい考え。タイムトライアルで総合2位トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)にタイムを奪われることになるため、1週目を締めくくる第8ステージの2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノと第9ステージの1級山岳グランサッソ・ディタリアでミッチェルトン・スコットは攻めの走りを見せると予想される。
エトナ山を駆け上がるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)やファビオ・アル(イタリア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
エトナ山を駆け上がる選手たち photo:Kei Tsuji
曇り空のエトナ山を登る photo:Kei Tsuji
2018年のジロには厄介な移動が3つある。1つ目はもちろんイスラエルからイタリアへの移動で、3つ目は最終日前日チェルヴィニアからローマまでの700km移動。2つ目はというのがこの第6ステージ後の移動だ。エトナ山を下山してからメッシーナ港まで1時間かけて移動し、そこからフェリーでメッシーナ海峡を渡ってイタリア本土に上陸。さらに1時間ほど先のホテルを目指さなければならない。当然大会関係車両が同じタイミングでフェリー乗り場に詰めかけるため、乗船に数時間かかることもある(昨年は乗船に2時間かかったので今年はメッシーナ側に宿泊して翌朝フェリーで移動します、自分は)。
グランツールの山頂フィニッシュは、レース後に観客や大会関係者が一斉に下山を開始するため渋滞が発生するのが常。近年ツール・ド・フランスでは観客の移動を完全に止めて警察エスコートで下山することも多いが、ジロではそんなコントロールが効かない。歩行者、自転車、車が峠道に溢れるため、下山するだけで時間が掛かる。
17時にレースが終わるとすぐ、表彰台やアンチドーピング検査に該当しないチームスカイの選手たちは渋滞にはまることなく、フェリーを待つことなく、ヘリコプターでイタリア本土に移動した。おそらく18時すぎにはホテルに到着し、いつも通りのスケジュールでディナーを食べているはず。
その一方で、例えばサンウェブは下山に時間がかかってしまい、メッシーナ港を21時45分に出発するフェリーで本土に渡っている。おそらくホテル到着は日付が変わる頃。幸い第7ステージのスタートは遅め(13時30分)なのでたっぷり寝ることができるが、それでもチームスカイと移動のストレスやリカバリー具合は大きく違う。そういった積み重ねの差が3週目に出るかもしれない。
安定感あるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール) photo:Kei Tsuji
メンバー全員で最後尾に下がってヤコブ・マレツコ(イタリア)をアシストしたウィリエール・トリエスティーナ photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Messina, Italy
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「イル・グランデ・ヴルカーノ(偉大な火山)」と称されるエトナ山は、一般的にイタリアで最も有名な山の1つだといっていいだろう。ヨーロッパ最大の活火山として知られ、その標高は3,350m。同じ成層火山の富士山と比べると斜面はなだらか。この日は分厚い雲に覆われたため山頂を仰ぎ見ることは叶わなかったが、山頂付近にはまだまだたっぷりと雪を残している。
直径140kmの広大な山麓には多くの町が点在しており、1669年の大噴火では麓の町カターニアで大きな被害が出た。毎日噴煙を上げながらも近年はそれほど危険な噴火は発生しておらず、活火山でありながら観光客が山頂まで登ることができる。
ジロに登場するのは5回目で、いずれも毎回違う登り方をしている。1967年、2011年、2017年はフィニッシュ地点が南側の「5合目」リフージオ・サピエンツァで、1989年はピアーノボッタノ。今回のフィニッシュ地点はリフージオ・サピエンツァの少し下に位置するオゼルヴァトリオ・アストロフィジコ(天文台)で、森林に覆われたエリアを登るため、溶岩に覆われた斜面をひたすら登った2011年と2017年よりも火山感が少ない。
実際は残り25kmを切ってから登り始めているので、カテゴリーのついた登りのスタートがどこなのか定義はわからないが、オゼルヴァトリオ・アストロフィジコに向かう登りは他の2本と比べるとそこまで難易度は高くない。
2011年 リフージオ・サピエンツァ 標高1,892m/全長19.4km/平均6.2%
2017年 リフージオ・サピエンツァ 標高1,892m/全長17.9km/平均6.6%
2018年 オゼルヴァトリオ・アストロフィジコ 標高1,736m/全長15km/平均6.5%
とは言えアマチュアサイクリストが思わずバイクを下りてしまうような急勾配区間(最大15%)もあり、インナーローに落とした次の瞬間にはアウターに入れるような下りになって、その次はスイッチバックの登り。淡々と7〜8%の勾配が続く他の2本とは異なり、オゼルヴァトリオ・アストロフィジコに向かう登りはとにかくリズムを刻みにくい。
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そんなエトナの斜面でコロンビアンクライマーのエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)が逃げメンバーを振り切り、チームメイトのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)がライバルを振り切った。チャベスは身長164cmで体重54kg。イェーツは身長172cmで体重58kg。プロトンの中で小柄な部類に入る2人がエトナを制した。
2016年のジロでステージ優勝を飾って総合2位に入り、同年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位に入るとともにイル・ロンバルディアで勝利したチャベス。しかし2017年は落車や怪我が相次いだ。
残り5.5km地点でアタックしたチャベスは、3分11秒にわたって394Wを出力して飛び出すことに成功している。逃げ切りが決まった秘訣は、同じく逃げに乗ったジャック・ヘイグ(オーストラリア)による長時間牽引。そして集団内ではミケル・ニエベ(スペイン)やロマン・クロイツィゲル(チェコ)に援護されたイェーツが一発でアタックを決めた。チャベスが「今大会の最強チームだと思う」と自信を見せるミッチェルトン・スコットはチーム総合成績で首位に立っている。
エトナ山を最速で登ったイェーツがミッチェルトン・スコットの総合エース。イェーツはマーク・カヴェンディッシュとブラドリー・ウィギンズ、デーヴィッド・ミラーに続く史上4人目のイギリス人マリアローザ着用者となった。今年はパリ〜ニース総合2位、ボルタ・ア・カタルーニャ総合4位という成績を引っさげて出場しており、1週間程度のステージレースだけではなく、グランツールでは2016年ブエルタ総合6位、2017年ツール総合7位と安定した成績を残している。
強力なチームを味方につけるイェーツはこのままマリアローザを守り続けたい考え。タイムトライアルで総合2位トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)にタイムを奪われることになるため、1週目を締めくくる第8ステージの2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノと第9ステージの1級山岳グランサッソ・ディタリアでミッチェルトン・スコットは攻めの走りを見せると予想される。
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2018年のジロには厄介な移動が3つある。1つ目はもちろんイスラエルからイタリアへの移動で、3つ目は最終日前日チェルヴィニアからローマまでの700km移動。2つ目はというのがこの第6ステージ後の移動だ。エトナ山を下山してからメッシーナ港まで1時間かけて移動し、そこからフェリーでメッシーナ海峡を渡ってイタリア本土に上陸。さらに1時間ほど先のホテルを目指さなければならない。当然大会関係車両が同じタイミングでフェリー乗り場に詰めかけるため、乗船に数時間かかることもある(昨年は乗船に2時間かかったので今年はメッシーナ側に宿泊して翌朝フェリーで移動します、自分は)。
グランツールの山頂フィニッシュは、レース後に観客や大会関係者が一斉に下山を開始するため渋滞が発生するのが常。近年ツール・ド・フランスでは観客の移動を完全に止めて警察エスコートで下山することも多いが、ジロではそんなコントロールが効かない。歩行者、自転車、車が峠道に溢れるため、下山するだけで時間が掛かる。
17時にレースが終わるとすぐ、表彰台やアンチドーピング検査に該当しないチームスカイの選手たちは渋滞にはまることなく、フェリーを待つことなく、ヘリコプターでイタリア本土に移動した。おそらく18時すぎにはホテルに到着し、いつも通りのスケジュールでディナーを食べているはず。
その一方で、例えばサンウェブは下山に時間がかかってしまい、メッシーナ港を21時45分に出発するフェリーで本土に渡っている。おそらくホテル到着は日付が変わる頃。幸い第7ステージのスタートは遅め(13時30分)なのでたっぷり寝ることができるが、それでもチームスカイと移動のストレスやリカバリー具合は大きく違う。そういった積み重ねの差が3週目に出るかもしれない。
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text&photo:Kei Tsuji in Messina, Italy
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