2017/07/23(日) - 22:15
小林可奈子(MTBクラブ安曇野)と平林安里(SPECIALIZED RACING JAPAN)に共通したのは、共にスタートの落車を跳ね除けての圧勝だったこと。女子エリートと男子U23のレースを振り返ります。
女子エリート:小林可奈子が1999年以来の全日本タイトル返り咲き
前日のダウンヒル競技後まで1週間続いた好天はどこへやら。クロスカントリー全日本選手権が開催される7月23日、富士見パノラマリゾートのゲレンデは雨に濡れた。当日になっても雨は降ったり止んだり。気まぐれな雨雲が居座り続けたため、薄く湿り気を帯びた粘土質のトレイルや芝区間、木の根、そしてロックセクションがタイヤのグリップを阻み、時に選手たちの足元をすくっていくことになる。
女子エリートではこれまで2連覇してきた末政実緒が出産のため活動を休止中で、昨年2位の武田和佳(Liv)は体調不良のためにDNS。ベテラン小林可奈子(MTBクラブ安曇野)と今シーズンからMTBに本格参戦している今井美穂(TEAM SCOTT)という、今季Coupe Du Japonで勝利を分け合っている二人の走りに会場の注目が集まった。
しかしその小林はスタート直後、接触によってラインが暴れた選手がぶつかったことで落車し、大幅にタイムロス。スタートダッシュを決めた今井は混乱を尻目にリードを築き、1周目序盤にして逃げ体制に入った。
しかし半周も経たない頃、女子全体の先頭でギャラリーの前に戻ってきたのはジュニアカテゴリーの川口うらら(Sonic-Racing)だった。ここまで出場するほとんどのレースで圧倒的なパワーとスキルを見せつけるアジアチャンピオンの走りはこの日も輝きを放っていた。先行するマスターズの選手を次々とパスし続け、最終的にエリートよりも1周回早い3周(17.84km)でジュニアカテゴリー優勝を決め、レースを降りることとなる。
「2周目までは様子を見ようと思っていた」と川口の後ろでペースを刻んだ今井だったが、「絶対勝つと決めていたからか、とても冷静に先頭を追いかけることができました」と振り返る小林がヒルクライムの度に差を詰め、あまり時間を要さずに今井をキャッチ。するとその周の下りセクションで、今井は小林の後輪に接触してクラッシュ。すぐに復帰したものの、得意の下りがウェットで今ひとつ攻めきれず、逆に細かなミスが続き徐々にペースを落としてしまった。
快調に登りをこなし、下りでもほとんどミスを犯さないベテランらしい走りを続けた小林。ミスが祟り、表情が冴えない今井との差は縮まることなく、そのまま4分弱にまで広げてホームストレートに到達。1994年、1999年に続く全日本タイトルを47歳にしてみたび射止めてみせた。
「ダメージがなかったし、落車に対しても冷静でしたね。あれだけ遅れたのに途中で”前30秒!”と伝えてもらったので、ああ、今日は乗れてるな、今日は勝つな、と思えました。こんなに冷静にレースを進めることができたのは初めてかもしれません。普段のレースなら勝機が見えたら”やばい勝っちゃった!”と思うのですが、今日はそんなこともなかった。年の功なのかもしれません(笑)」と語る小林。今年はチェリージャパンのメンバーとしてロードレースにも取り組み、1週間前に開催されたCJ-1田沢湖でも快勝。今年5月には17年ぶりにナショナルチームメンバー入りしてアジア選手権を走るなど、これまでの好調ぶりを勝利に繋げた。
18年ぶりに全日本女王に返り咲いた小林だが、まだまだ現役を止める気は無いと言う。「47歳になりましたが、まだまだと思うこともたくさんあります。川口さんなど若い選手が出てきた私が今しなくてはならないことは、ずっと現役で走り続けること。この場を借りてで死ぬまで現役宣言をしたいと思います」。
今年のエリート女子出走人数は僅か7名。末政や武田以外にもエントリーしなかった選手が多く、今井のMTB参戦などはあれど、層が薄いという思いを禁じ得ない。会場でも同じように危惧する声が多く耳に入ってきた。
そんな中での好材料が、ジュニア世代ながら男子選手顔負けのポテンシャルを秘める川口の存在だ。兵庫県出身の川口は小学校4年生から自転車競技を始め、中学生時代には一時競技から離れたものの、高校進学と共に再びレースに戻ったという。
「今日は上位カテゴリーの選手より前で走ろう、マスターズの選手にも負けない、と考えながら走っていました。アジアチャンピオンになってからは、もっともっと世界にチャレンジしたいという気持ちが強くなっています」と言う川口の視線が捉えるのは、もちろん2020年の東京オリンピック。そして、自分を強くしてくれた仲間に感謝したい、とも。
「今の自分があるのは、(所属する)ソニックレーシングで指導してくれる人、一緒に練習してくれる人のおかげなんです。今日もマスターズの選手を抜いていく時、たくさんの人が応援してくれました。周りの期待してくれる声もありがたいし、それに応えていきたいですね」。
男子U23:スタート直後のクラッシュを挽回した平林安里がU23カテゴリー2連覇
17名がエントリーした男子U23は、5周回22.3kmで争われた。スタートと同時に落車が起こり、優勝候補筆頭のディフェンディングチャンピオン平林安里(SPECIALIZED RACING JAPAN)が巻き込まれる波乱の幕開けに。
しかし「平林選手は力があるので、すぐに復帰してくると思っていた」と各選手が振り返る通り、平林は登りの度にポジションを上げ、2周目にはそれぞれ先頭、2番手を走っていた山田将輝(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)と竹内遼(drawer THE RACING)をパスして抜き去った。
「追い上げている最中に冷静さを欠いて水分補給を忘れ、脱水症状になってしまったのですが、走りながら回復に務めることができました」と言う平林の走りは圧倒的。差を20秒、40秒とコンスタントに広げ、そのままフィニッシュ。ゴール地点では余裕のテールスライドが決まった。
「考えていたことは、全力を出し切ること。序盤で突っ込みすぎないように気をつけたので安定したペースを刻めたと思います。下りはドロッパーシートポストを活用できたことも良かった。ただ唯一、追い上げで少し冷静さを欠いたことが反省点ですね」とレースを振り返る平林。その走りがエリート同等以上であることは混走のCJシリーズでも証明されている。全日本タイトルはユース時代から数えて4連覇だ。
2位には「今シーズンは全く走れず引退すら考えていましたが、支えてくれる方のおかげで調子を上げることができた。今季一番の走りができました」と笑顔を見せた竹内が、3位にはミスと前方を走る選手に阻まれて落車し、追い上げならなかった山田が入った。
その他、元プロ選手が多数顔を揃えた男子マスターズでは、序盤からリードを崩さなかった品川真寛(TEAM YOUCAN)が、竹谷賢二(スペシャライズドレーシング・ジャパン)や白石真悟(シマノドリンキングXC C)の追走を振り切って優勝。男子ジュニアでは北林力(ProRide)が連覇、女子U23では落車で膝を切ったものの、プッシュを続けた佐藤寿美(drawer THE RACING)が勝利した。
女子エリート:小林可奈子が1999年以来の全日本タイトル返り咲き
前日のダウンヒル競技後まで1週間続いた好天はどこへやら。クロスカントリー全日本選手権が開催される7月23日、富士見パノラマリゾートのゲレンデは雨に濡れた。当日になっても雨は降ったり止んだり。気まぐれな雨雲が居座り続けたため、薄く湿り気を帯びた粘土質のトレイルや芝区間、木の根、そしてロックセクションがタイヤのグリップを阻み、時に選手たちの足元をすくっていくことになる。
女子エリートではこれまで2連覇してきた末政実緒が出産のため活動を休止中で、昨年2位の武田和佳(Liv)は体調不良のためにDNS。ベテラン小林可奈子(MTBクラブ安曇野)と今シーズンからMTBに本格参戦している今井美穂(TEAM SCOTT)という、今季Coupe Du Japonで勝利を分け合っている二人の走りに会場の注目が集まった。
しかしその小林はスタート直後、接触によってラインが暴れた選手がぶつかったことで落車し、大幅にタイムロス。スタートダッシュを決めた今井は混乱を尻目にリードを築き、1周目序盤にして逃げ体制に入った。
しかし半周も経たない頃、女子全体の先頭でギャラリーの前に戻ってきたのはジュニアカテゴリーの川口うらら(Sonic-Racing)だった。ここまで出場するほとんどのレースで圧倒的なパワーとスキルを見せつけるアジアチャンピオンの走りはこの日も輝きを放っていた。先行するマスターズの選手を次々とパスし続け、最終的にエリートよりも1周回早い3周(17.84km)でジュニアカテゴリー優勝を決め、レースを降りることとなる。
「2周目までは様子を見ようと思っていた」と川口の後ろでペースを刻んだ今井だったが、「絶対勝つと決めていたからか、とても冷静に先頭を追いかけることができました」と振り返る小林がヒルクライムの度に差を詰め、あまり時間を要さずに今井をキャッチ。するとその周の下りセクションで、今井は小林の後輪に接触してクラッシュ。すぐに復帰したものの、得意の下りがウェットで今ひとつ攻めきれず、逆に細かなミスが続き徐々にペースを落としてしまった。
快調に登りをこなし、下りでもほとんどミスを犯さないベテランらしい走りを続けた小林。ミスが祟り、表情が冴えない今井との差は縮まることなく、そのまま4分弱にまで広げてホームストレートに到達。1994年、1999年に続く全日本タイトルを47歳にしてみたび射止めてみせた。
「ダメージがなかったし、落車に対しても冷静でしたね。あれだけ遅れたのに途中で”前30秒!”と伝えてもらったので、ああ、今日は乗れてるな、今日は勝つな、と思えました。こんなに冷静にレースを進めることができたのは初めてかもしれません。普段のレースなら勝機が見えたら”やばい勝っちゃった!”と思うのですが、今日はそんなこともなかった。年の功なのかもしれません(笑)」と語る小林。今年はチェリージャパンのメンバーとしてロードレースにも取り組み、1週間前に開催されたCJ-1田沢湖でも快勝。今年5月には17年ぶりにナショナルチームメンバー入りしてアジア選手権を走るなど、これまでの好調ぶりを勝利に繋げた。
18年ぶりに全日本女王に返り咲いた小林だが、まだまだ現役を止める気は無いと言う。「47歳になりましたが、まだまだと思うこともたくさんあります。川口さんなど若い選手が出てきた私が今しなくてはならないことは、ずっと現役で走り続けること。この場を借りてで死ぬまで現役宣言をしたいと思います」。
今年のエリート女子出走人数は僅か7名。末政や武田以外にもエントリーしなかった選手が多く、今井のMTB参戦などはあれど、層が薄いという思いを禁じ得ない。会場でも同じように危惧する声が多く耳に入ってきた。
そんな中での好材料が、ジュニア世代ながら男子選手顔負けのポテンシャルを秘める川口の存在だ。兵庫県出身の川口は小学校4年生から自転車競技を始め、中学生時代には一時競技から離れたものの、高校進学と共に再びレースに戻ったという。
「今日は上位カテゴリーの選手より前で走ろう、マスターズの選手にも負けない、と考えながら走っていました。アジアチャンピオンになってからは、もっともっと世界にチャレンジしたいという気持ちが強くなっています」と言う川口の視線が捉えるのは、もちろん2020年の東京オリンピック。そして、自分を強くしてくれた仲間に感謝したい、とも。
「今の自分があるのは、(所属する)ソニックレーシングで指導してくれる人、一緒に練習してくれる人のおかげなんです。今日もマスターズの選手を抜いていく時、たくさんの人が応援してくれました。周りの期待してくれる声もありがたいし、それに応えていきたいですね」。
男子U23:スタート直後のクラッシュを挽回した平林安里がU23カテゴリー2連覇
17名がエントリーした男子U23は、5周回22.3kmで争われた。スタートと同時に落車が起こり、優勝候補筆頭のディフェンディングチャンピオン平林安里(SPECIALIZED RACING JAPAN)が巻き込まれる波乱の幕開けに。
しかし「平林選手は力があるので、すぐに復帰してくると思っていた」と各選手が振り返る通り、平林は登りの度にポジションを上げ、2周目にはそれぞれ先頭、2番手を走っていた山田将輝(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)と竹内遼(drawer THE RACING)をパスして抜き去った。
「追い上げている最中に冷静さを欠いて水分補給を忘れ、脱水症状になってしまったのですが、走りながら回復に務めることができました」と言う平林の走りは圧倒的。差を20秒、40秒とコンスタントに広げ、そのままフィニッシュ。ゴール地点では余裕のテールスライドが決まった。
「考えていたことは、全力を出し切ること。序盤で突っ込みすぎないように気をつけたので安定したペースを刻めたと思います。下りはドロッパーシートポストを活用できたことも良かった。ただ唯一、追い上げで少し冷静さを欠いたことが反省点ですね」とレースを振り返る平林。その走りがエリート同等以上であることは混走のCJシリーズでも証明されている。全日本タイトルはユース時代から数えて4連覇だ。
2位には「今シーズンは全く走れず引退すら考えていましたが、支えてくれる方のおかげで調子を上げることができた。今季一番の走りができました」と笑顔を見せた竹内が、3位にはミスと前方を走る選手に阻まれて落車し、追い上げならなかった山田が入った。
その他、元プロ選手が多数顔を揃えた男子マスターズでは、序盤からリードを崩さなかった品川真寛(TEAM YOUCAN)が、竹谷賢二(スペシャライズドレーシング・ジャパン)や白石真悟(シマノドリンキングXC C)の追走を振り切って優勝。男子ジュニアでは北林力(ProRide)が連覇、女子U23では落車で膝を切ったものの、プッシュを続けた佐藤寿美(drawer THE RACING)が勝利した。
女子エリート
1位 | 小林可奈子(MTBクラブ安曇野) | 1:21:43 |
2位 | 今井美穂(TEAM SCOTT) | 1:25:38 |
3位 | 橋口陽子(Team 轍屋) | 1:27:41 |
4位 | 川崎路子(PAXPROJECT) | -1lap |
5位 | 加納尚子(京都 岩井商会レーシング) | |
6位 | 真川好美(Team Nipopo) | |
7位 | 鈴木美香子(Cyclery KIRIN/KMC/iPla) | -2lap |
男子U23
1位 | 平林安里(SPECIALIZED RACING JAPAN) | 1:21:41 |
2位 | 竹内遼(drawer THE RACING) | 1:23:59 |
3位 | 山田将輝(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM) | 1:24:27 |
4位 | 上野蓮(MASAYA YOUNG RIDERS) | 1:25:41 |
5位 | 江越昇也(Cyclery KIRIN/KMC/iPla) | 1:28:50 |
6位 | 山田誉史輝(PAXPROJECT) | 1:29:24 |
7位 | 松田賢太郎(Cyclery KIRIN/KMC/iPla) | 1:29:34 |
8位 | 黒瀬文也(東海大学札幌校舎自転車部) | 1:29:59 |
9位 | 織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) | 1:32:57 |
10位 | 松田佑太(mont-bell/KONA) | 1:37:14 |
女子U23
1位 | 佐藤寿美(drawer THE RACING) | 1:03:50:24 |
2位 | 寺田有希(自転車村R) | 1:07:16:30 |
3位 | 中島峻歩(WIAWIS) | 1:18:15:87 |
男子マスターズ
1位 | 品川真寛(TEAM YOUCAN) | 1:09:41 |
2位 | 竹谷賢二(SPECIALIZED RACING JAPAN) | 1:10:38 |
3位 | 白石真悟(シマノドリンキングXC C) | 1:12:46 |
4位 | 斎藤朋寛(RIDELIFE GIANT) | 1:13:46 |
5位 | 村田隆(快レーシング) | 1:16:01 |
6位 | 多田尚史(acu-power Racing Team) | 1:18:03 |
女子マスターズ
1位 | 辻瑞穂(PAXPROJECT) | 50:11 |
2位 | 水谷有紀子(BUCYO COFFEE/CLT Cycling) | 51:58 |
3位 | 北島優子(パワースポーツ・SICK) | 1:01:22 |
男子ジュニア
1位 | 北林力(ProRide) | 1:08:07 |
2位 | 神永真一(ProRide) | 1:08:40 |
3位 | 村上功太郎(松山工業高校) | 1:09:49 |
4位 | 野村拓未(MTBクラブ安曇野) | 1:10:57 |
5位 | 久保一真(ProRide) | 1:12:07 |
6位 | 梶鉄輝(Sonic-Racing) | 1:12:12 |
女子ジュニア
1位 | 川口うらら(Sonic-Racing) | 57:54 |
2位 | 山田夕貴(TEAM BG8) | 1:04:21 |
3位 | 松本璃奈(TEAM GRM) | 1:05:57 |
4位 | 吉田雪那(TEAM BG8) | 1:08:11 |
5位 | 中島悠里(maillot SY-Nak) | 1:13:19 |
text:So.Isobe
photo:Satoshi.Oda/Kasukabe Vision Filmz,So.Isobe
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