2017/07/10(月) - 18:38
獲得標高4,600mのクイーンステージが無事に終わったと言いたいところだが全然無事じゃなかった。ポートやトーマスが落車リタイアし、デマールらエフデジの4名がタイムオーバーとなり、マイヨジョーヌ争いも物議を醸すものに。ジュラ山脈で過ごした長い1日を振り返ります。
フランスとスイスの国境にまたがり、いわゆるアルプス山脈よりも北に位置するジュラ山脈で、マイヨジョーヌの言葉を借りると「総合争いは破裂した(沸き上がった)」。ジュラ山脈はその名の通り「ジュラ紀」の語源となった山塊で、実際に化石が多く発見される石灰岩の堆積層が同時代を象徴するものであるとして採用された。つまり映画ジュラシックパークの語源でもある。
標高4,000m級の山々が連なり、標高4,810mの最高峰モンブランがあるアルプス山脈と比べるとジュラ山脈の標高は全体的に低く、最も高い山で標高1,720mしかない。しかし、目立った標高ではないものの、ミルフィーユのような堆積層が露出した山々は急峻で、そのため峠道も必然的に急勾配になる。
超級山岳ビシュ峠(全長10.5km/平均9%)、超級山岳グランコロンビエール(全長8.5km/平均9.9%)、超級山岳モン=デュ=シャ(全長8.7km/平均10.3%)はいずれも登坂距離こそ目立ったものではないが、アルプスやピレネーでは見られない高い平均勾配を誇る。特に最後の「猫の山」ことモン=デュ=シャは勾配12〜15%の区間が延々と続く激坂ぶり。そのためどのチームも最大歯数29〜32Tのリアカセットを標準装備した。
この日はパリで最大1時間降水量49.2mmという史上最高記録を出すなど、低気圧の影響でフランス全土で天候が悪化。ジュラ山脈は予報よりも雨が降らなかったが、前夜からの雨によって路面はウェットな状態が保たれた。登りと下りしかないようなコースで、しかも細い山道が濡れるのだから相当ナーバス。見たくもない落車を何度も見る羽目になった。全国的に雨が降った影響か、クイーンステージはTV視聴率43%という数字も残している。
超級山岳モン=デュ=シャで物議をかもしたのがアルのアタックだ。マイヨジョーヌのフルームが片手を上げてチームカーにメカトラの発生を伝えているすぐ横をすり抜けてアルがアタック。アルはフルームのトラブルに気がついていなかったと弁明し、無線でそのことを伝えられてペースを落としたとコメントしているが、フルームを待つために協調しないリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)らに明らかに苛立ちを見せていた。
フルームもまた、アルのアタックに気がついていなかった(とコメントしている)。そしてチームメイトにアシストされて集団に復帰してから、フルームがアルを沿道に押しやるようなシーンも。フルームは単純にバランスを崩しただけだと説明している。「昨年のモンヴァントゥーに並ぶほどの混乱だった。フィニッシュしてからジャーナリストたちにそのことを聞かれてようやくアルがアタックしていたことを知った。その時、自分はチームカーにスペアバイクを要求するのに精一杯でそれどころじゃなかった。集団復帰を待ってくれたライバルたちに感謝している。アルとの接触は故意に押し出したわけじゃない」と、フルーム。フィニッシュ後の記者会見でアルの動きについて英語、フランス語、イタリア語で繰り返し聞かれたフルームは苛立ちながら席を立った。
モン=デュ=シャの登坂タイムは、マイヨジョーヌを含むプロトンが30分40秒。これはクリテリウム・デュ・ドーフィネでファビオ・アル(イタリア、アスタナ)がマークした29分10秒というタイムを大きく下回る。クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の登坂タイムを比較すると、ドーフィネが29分20秒でツールが30分40秒。獲得標高4,600mの難関ステージの最後の最後で、さらにフルームのトラブルで中盤にペースが緩んだ影響だと思われる。
フルームのライバルが次々と姿を消す怪。この日だけで途中リタイアとタイムカット合わせて12名が姿を消した。今大会すでに17名がレースを去り、レースに残っているのは181名しかいない。図らずも、UCIが2018年から取り入れる1チーム8名(合計176名)のプロトンのサイズに近づきつつある。
今大会フルームの最大のライバルと目され、超級山岳モン=デュ=シャで攻撃を繰り返したポートは72.5km/hで左コーナーに突っ込んだ際に落車。地面に倒れこんだポートはコルセットを装着された状態で救急車で病院に搬送された。X線検査の結果、鎖骨と骨盤の寛骨臼の骨折が判明している。手術を必要としない骨折であり、翌日にはモナコの自宅に帰宅できる予定。リカバリーに必要な期間は4〜6週間で、早ければ8月上旬にはバイクトレーニングに復帰できる見通しだ。本人はジャパンカップに出場したい意思を毎日のように(しつこく)言ってきたので、早く回復してほしい。
この日のタイムリミットは39分58秒(優勝タイム5時間7分22秒の13%)。マイヨヴェールのマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)ら多くのスプリンターを含む40名以上のグルペットがタイムリミットまで2分32秒を残した37分26秒で滑り込んだのに対し、レース序盤の登りで遅れ、58分48秒遅れでフィニッシュしたアルノー・デマール(フランス、エフデジ)やマーク・レンショー(オーストラリア、ディメンションデータ)はタイムオーバーによって第9ステージでレースを去ることに。エフデジはドゥラージュ、コノヴァロヴァス、グアルニエーリの3名をボディーガードとしてデマールに付き添わせていたが、その結果、1日で4名ものタイムオーバーを出す悪夢を見ている。
キッテルにとってはスプリントとマイヨヴェールのライバルが1人減ったことになるが、手放しでは喜べない。リードアウト要員であるマッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)がタイムリミットに1分13秒届かない41分11秒遅れでフィニッシュしたため第10ステージをスタートできない。この日はマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)が中間スプリントで20ポイントを稼いでおり、サガンに続いてデマールが去った今もマイヨヴェール争いは混沌としている。
第9ステージ終了時点のリタイア者
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)第1ステージ 落車リタイア
ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)第1ステージ 落車リタイア
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・スコット)第2ステージ リタイア
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)第4ステージ 失格
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)第5ステージ 未出走
マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)第9ステージ 落車リタイア
ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)第9ステージ 落車リタイア
ヨス・ファンエムデン(オランダ、ロットNLユンボ)第9ステージ リタイア
リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)第9ステージ 落車リタイア
ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)第9ステージ 落車リタイア
アルノー・デマール(フランス、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
ミカエル・ドゥラージュ(フランス、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
ジャコポ・グアルニエーリ(イタリア、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
マーク・レンショー(オーストラリア、ディメンションデータ)第9ステージ タイムオーバー
マッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)第9ステージ タイムオーバー
ユライ・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)第9ステージ タイムオーバー
新城幸也(バーレーン・メリダ)は27分10秒遅れの最もボリュームある集団内でクイーンステージを終えた。「4,600m登り終えた感じはどうですか?」という問いには「えっ、そんなに登ったんですか?」という返答。超級山岳グランコロンビエールの下りで発生した落車の影響で集団から遅れたが「自分のパフォーマンスには満足です」と、ケロッとした表情で語った。落車が多発した下りについては「みんな攻めすぎなんですよ」と、他の選手のリスキーな走りに少し腹を立てている様子もうかがわせた。
スイス国境に近いシャンベリーから、1回目の休息の地であるフランス南西部ドルドーニュ県のペリグーまではおよそ530kmある。選手たちはその日のうちに2機のチャーター機に分かれて移動したが、もちろん大会関係車両は5時間強の自走移動(チームバスだと8時間)。シャンベリー近くに泊まって翌日に動けば楽だが、休息日には決まって記者会見があるため早めに移動を完了しておく必要が有る。大きく分けると、レース後に500kmを移動してしまう組と、当日250kmで翌日に250km移動する組、レース後は移動せず翌日に500km移動する組の3パターン。フランスをズバッと横断したツールが同国西部で長い1週目をようやく終える。
text&photo:Kei Tsuji in Chambery, France
フランスとスイスの国境にまたがり、いわゆるアルプス山脈よりも北に位置するジュラ山脈で、マイヨジョーヌの言葉を借りると「総合争いは破裂した(沸き上がった)」。ジュラ山脈はその名の通り「ジュラ紀」の語源となった山塊で、実際に化石が多く発見される石灰岩の堆積層が同時代を象徴するものであるとして採用された。つまり映画ジュラシックパークの語源でもある。
標高4,000m級の山々が連なり、標高4,810mの最高峰モンブランがあるアルプス山脈と比べるとジュラ山脈の標高は全体的に低く、最も高い山で標高1,720mしかない。しかし、目立った標高ではないものの、ミルフィーユのような堆積層が露出した山々は急峻で、そのため峠道も必然的に急勾配になる。
超級山岳ビシュ峠(全長10.5km/平均9%)、超級山岳グランコロンビエール(全長8.5km/平均9.9%)、超級山岳モン=デュ=シャ(全長8.7km/平均10.3%)はいずれも登坂距離こそ目立ったものではないが、アルプスやピレネーでは見られない高い平均勾配を誇る。特に最後の「猫の山」ことモン=デュ=シャは勾配12〜15%の区間が延々と続く激坂ぶり。そのためどのチームも最大歯数29〜32Tのリアカセットを標準装備した。
この日はパリで最大1時間降水量49.2mmという史上最高記録を出すなど、低気圧の影響でフランス全土で天候が悪化。ジュラ山脈は予報よりも雨が降らなかったが、前夜からの雨によって路面はウェットな状態が保たれた。登りと下りしかないようなコースで、しかも細い山道が濡れるのだから相当ナーバス。見たくもない落車を何度も見る羽目になった。全国的に雨が降った影響か、クイーンステージはTV視聴率43%という数字も残している。
超級山岳モン=デュ=シャで物議をかもしたのがアルのアタックだ。マイヨジョーヌのフルームが片手を上げてチームカーにメカトラの発生を伝えているすぐ横をすり抜けてアルがアタック。アルはフルームのトラブルに気がついていなかったと弁明し、無線でそのことを伝えられてペースを落としたとコメントしているが、フルームを待つために協調しないリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)らに明らかに苛立ちを見せていた。
フルームもまた、アルのアタックに気がついていなかった(とコメントしている)。そしてチームメイトにアシストされて集団に復帰してから、フルームがアルを沿道に押しやるようなシーンも。フルームは単純にバランスを崩しただけだと説明している。「昨年のモンヴァントゥーに並ぶほどの混乱だった。フィニッシュしてからジャーナリストたちにそのことを聞かれてようやくアルがアタックしていたことを知った。その時、自分はチームカーにスペアバイクを要求するのに精一杯でそれどころじゃなかった。集団復帰を待ってくれたライバルたちに感謝している。アルとの接触は故意に押し出したわけじゃない」と、フルーム。フィニッシュ後の記者会見でアルの動きについて英語、フランス語、イタリア語で繰り返し聞かれたフルームは苛立ちながら席を立った。
モン=デュ=シャの登坂タイムは、マイヨジョーヌを含むプロトンが30分40秒。これはクリテリウム・デュ・ドーフィネでファビオ・アル(イタリア、アスタナ)がマークした29分10秒というタイムを大きく下回る。クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の登坂タイムを比較すると、ドーフィネが29分20秒でツールが30分40秒。獲得標高4,600mの難関ステージの最後の最後で、さらにフルームのトラブルで中盤にペースが緩んだ影響だと思われる。
フルームのライバルが次々と姿を消す怪。この日だけで途中リタイアとタイムカット合わせて12名が姿を消した。今大会すでに17名がレースを去り、レースに残っているのは181名しかいない。図らずも、UCIが2018年から取り入れる1チーム8名(合計176名)のプロトンのサイズに近づきつつある。
今大会フルームの最大のライバルと目され、超級山岳モン=デュ=シャで攻撃を繰り返したポートは72.5km/hで左コーナーに突っ込んだ際に落車。地面に倒れこんだポートはコルセットを装着された状態で救急車で病院に搬送された。X線検査の結果、鎖骨と骨盤の寛骨臼の骨折が判明している。手術を必要としない骨折であり、翌日にはモナコの自宅に帰宅できる予定。リカバリーに必要な期間は4〜6週間で、早ければ8月上旬にはバイクトレーニングに復帰できる見通しだ。本人はジャパンカップに出場したい意思を毎日のように(しつこく)言ってきたので、早く回復してほしい。
この日のタイムリミットは39分58秒(優勝タイム5時間7分22秒の13%)。マイヨヴェールのマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)ら多くのスプリンターを含む40名以上のグルペットがタイムリミットまで2分32秒を残した37分26秒で滑り込んだのに対し、レース序盤の登りで遅れ、58分48秒遅れでフィニッシュしたアルノー・デマール(フランス、エフデジ)やマーク・レンショー(オーストラリア、ディメンションデータ)はタイムオーバーによって第9ステージでレースを去ることに。エフデジはドゥラージュ、コノヴァロヴァス、グアルニエーリの3名をボディーガードとしてデマールに付き添わせていたが、その結果、1日で4名ものタイムオーバーを出す悪夢を見ている。
キッテルにとってはスプリントとマイヨヴェールのライバルが1人減ったことになるが、手放しでは喜べない。リードアウト要員であるマッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)がタイムリミットに1分13秒届かない41分11秒遅れでフィニッシュしたため第10ステージをスタートできない。この日はマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)が中間スプリントで20ポイントを稼いでおり、サガンに続いてデマールが去った今もマイヨヴェール争いは混沌としている。
第9ステージ終了時点のリタイア者
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)第1ステージ 落車リタイア
ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)第1ステージ 落車リタイア
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・スコット)第2ステージ リタイア
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)第4ステージ 失格
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)第5ステージ 未出走
マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)第9ステージ 落車リタイア
ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)第9ステージ 落車リタイア
ヨス・ファンエムデン(オランダ、ロットNLユンボ)第9ステージ リタイア
リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)第9ステージ 落車リタイア
ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)第9ステージ 落車リタイア
アルノー・デマール(フランス、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
ミカエル・ドゥラージュ(フランス、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
ジャコポ・グアルニエーリ(イタリア、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、エフデジ)第9ステージ タイムオーバー
マーク・レンショー(オーストラリア、ディメンションデータ)第9ステージ タイムオーバー
マッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)第9ステージ タイムオーバー
ユライ・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)第9ステージ タイムオーバー
新城幸也(バーレーン・メリダ)は27分10秒遅れの最もボリュームある集団内でクイーンステージを終えた。「4,600m登り終えた感じはどうですか?」という問いには「えっ、そんなに登ったんですか?」という返答。超級山岳グランコロンビエールの下りで発生した落車の影響で集団から遅れたが「自分のパフォーマンスには満足です」と、ケロッとした表情で語った。落車が多発した下りについては「みんな攻めすぎなんですよ」と、他の選手のリスキーな走りに少し腹を立てている様子もうかがわせた。
スイス国境に近いシャンベリーから、1回目の休息の地であるフランス南西部ドルドーニュ県のペリグーまではおよそ530kmある。選手たちはその日のうちに2機のチャーター機に分かれて移動したが、もちろん大会関係車両は5時間強の自走移動(チームバスだと8時間)。シャンベリー近くに泊まって翌日に動けば楽だが、休息日には決まって記者会見があるため早めに移動を完了しておく必要が有る。大きく分けると、レース後に500kmを移動してしまう組と、当日250kmで翌日に250km移動する組、レース後は移動せず翌日に500km移動する組の3パターン。フランスをズバッと横断したツールが同国西部で長い1週目をようやく終える。
text&photo:Kei Tsuji in Chambery, France
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