ツール・ド・フランス1週目を締めくくる第10ステージは、8つの峠を越える過酷な山岳ステージ。逃げに乗ったサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク)が6年ぶりの区間優勝を飾り、区間3位のベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)が総合首位に浮上した。



今大会最初の山岳ステージに臨むタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

前日に逃げたファンデルプール photo:A.S.O.
革命記念日に活躍が期待されたバルギル photo:CorVos


7月14日(月)第10ステージ
エンヌザ〜ピュイ・ド・サンシー(山岳)
距離:165.3km
獲得標高差:4,450m
天候:晴れ
気温:25度


第10ステージ エンヌザ〜ピュイ・ド・サンシー image:A.S.O.

2025年ツール・ド・フランスの1週目を締めくくる第10ステージは、フランスの革命記念日にあたる7月14日に開催された。この特別な日を彩るのは、7つの2級山岳を含む今大会最初の本格的な山岳ステージだ。

エンヌザから中央山塊に入り、1つ目の2級山岳(距離4.1km/平均6.3%)からはアップダウンが連続する。徐々に標高上げながら、獲得標高差4,450mの登りをこなし、本格的な山岳バトルが勃発するであろうは残り30kmから。2級山岳コル・ド・ラ・クロワ・サン・ロベール(距離5.1km/平均6.4%)から一度下り、ラストは2級山岳モン・ドール(距離3.3km/平均8%)を駆け上がる。

エンヌザの街を出発した173名の選手たち photo:A.S.O.

前日の落車で脳震盪と診断されたドイツ王者ゲオルク・ツィマーマン(アンテルマルシェ・ワンティ)が未出走となり、またマライン・ファンデンベルフ(オランダ、EFエデュケーション・イージーポスト)は初日の落車による影響でスタートが切れなかったため、173名でレースはスタート。アクチュアルスタートの旗が振られると、逃げ切り勝利の可能性が高いこのステージで、有力選手たちが次々とアタックを仕掛けた。

2名のクラシックライダーが大会史上2番目の平均時速(50.013km/h)を記録した前日とは対照的に、この日は体重の軽いクライマーやパンチャーが主役となった。1つ目の2級山岳はレニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)が先頭通過すると、やがて28名からなる強力な逃げ集団が形成される。

その中に、総合を争うヴィスマ・リースアバイクはヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)とサイモン・イェーツ(イギリス)を、スーダル・クイックステップもクライマー2名を送る。ステージ優勝を狙うEFエデュケーション・イージーポストからは6日目勝者のベン・ヒーリー(アイルランド)やニールソン・パウレス(アメリカ)ら4名が乗り、そして革命記念日での勝利に燃えるジュリアン・アラフィリップ(フランス、チューダー・プロサイクリング)といった実力者たちが顔を揃えた。

レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)ら29名の逃げグループ photo:A.S.O.

逃げに乗ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、チューダー・プロサイクリング) photo:A.S.O.

メイン集団はマイヨジョーヌを擁するUAEチームエミレーツXRGが牽引を担う。しかしパヴェル・シヴァコフ(フランス)は早くも集団から遅れ、何度も水を被りながらスプリンターらのいるグルペットで脚を回す。パブロ・カストリーリョ(スペイン、モビスター)が合流し、29名になった逃げ集団では、マルティネスが2つ目の2級山岳をトップ通過し、山岳賞ランキングのトップに浮上した。

総合からステージ優勝に目標を切り替えたベン・オコーナー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)の攻撃などで逃げ集団は活性化。マルティネスはさらに山岳ポイントを加算し、10名の集団が抜け出すと、このスピードアップによってプロトンとの差が3分半まで拡大した。

プロトンで脚を回すタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

先頭の10名にはマルティネスはもちろん、サイモン・イェーツやクイン・シモンズ(アメリカ、リドル・トレック)、マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)など実力確かな選手たちが揃う。その後、マイケル・ストーラー(オーストラリア、チューダー・プロサイクリング)ら8名が追いつき先頭集団は18名に。残り65km地点でメイン集団との差が4分まで開くと、この時点で最も総合順位の高いヒーリーがバーチャルリーダー(総合首位)に立った。

残り49.9km地点の2級山岳もマルティネスが先頭を取る頃に、逃げグループは15名まで減る。直後にプロトンとの差は5分に達し、続く3級山岳でヒーリーがアタック。しかし42.5kmを独走勝利した6日目の再現とはならず、オコーナーも積極的に仕掛けて集団の人数を絞っていった。

そして残り26km、シモンズの強烈なアタックをきっかけに先頭は以下の6名に絞り込まれた。

終盤に形成された6名の逃げグループ
サイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク)
ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)
テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)
クイン・シモンズ(アメリカ、リドル・トレック)
マイケル・ストーラー(オーストラリア、チューダー・プロサイクリング)
ベン・オコーナー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)

マイヨジョーヌ獲得を目指し、積極的に逃げ集団を牽引したベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:A.S.O.

一方、メイン集団ではアシストが少なくなっていったUAEに対し、ヴィスマ・リースアバイクが猛攻を開始。ティシュ・ベノート(ベルギー)やセップ・クス(アメリカ)が高速牽引し、またマッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ)がアタックし、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)に自ら追走の脚を使わせ、多様な仕掛けでダメージを与えていった。

最終局面に入ったレースは、残り14km地点でここまで積極的に攻めていたシモンズが脱落。この時点でプロトンとは5分32秒差のため、勝利の行方は先頭の5名に委ねられる。最後から2つ目の2級山岳はヒーリーがトップで通過し、2級山岳モン・ドール(距離3.3km/平均8%)に向かう緩斜面で、ヴィスマが逃げとプロトンの両方で躍動した。

ジョーゲンソンの加速によって10名に絞られたメイン集団では、ヴィンゲゴーがクスら2名を残す一方、ポガチャルは集団最後尾で何とか食らいつくジョナタン・ナルバエス(エクアドル、UAEチームエミレーツXRG)のみ。一方のレース先頭では、2級山岳モン・ドールの手前で、満を持してジロ・デ・イタリア覇者のサイモン・イェーツがアタック。独走態勢を築き、最後の登りへと突入した。

最終山岳の麓から仕掛け、ステージ優勝を決めたサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

ヴィンゲゴーに対する前待ち作戦への意識もあり、ここまで先頭を引かず脚を溜めていたイェーツ。ヒーリーとオコーナーが協調して追走するも、その差は縮まらない。さらに猛追を見せたアレンスマンも届かず、最後まで力強いペダリングを維持したイェーツがフィニッシュに到着。2019年以来、6年ぶりとなるツールでの区間3勝目を挙げた。

「6年ぶりにツールで勝利できて最高の気分だ。決して絶好調ではなかったものの、最後にチャンスを掴みに行った。ライバルたちの虚を突くため、あえて登りの麓から仕掛けた。幸運にも最後まで脚がもった。この勝利が意味するものは多く、レースをこなす毎に調子が上がっていっている。第2、3週が楽しみだよ」とイェーツは勝利を喜んだ。

6年ぶりのステージ優勝を果たしたサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

マイヨジョーヌに袖を通したベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos

後方の総合集団では、最終山岳でポガチャルが意地のアタックを見せるも、ヴィンゲゴーを振り切ることはできず。結果的にこの日の最速タイムで最終山岳を駆け上がったポガチャルとヴィンゲゴーは、トップから4分51秒遅れでフィニッシュ。この結果、31秒遅れの区間3位でレースを終えたヒーリーがポガチャルを抜き、アイルランド人としてはステファン・ロッシュ(1987年)以来4人目となるマイヨジョーヌに袖を通した。

健闘を称え合うポガチャルとヴィンゲゴー photo:CorVos

ツール・ド・フランス2025第10ステージ
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) 4:20:05
2位 テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) +0:09
3位 ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) +0:31
4位 ベン・オコーナー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) +0:49
5位 マイケル・ストーラー(オーストラリア、チューダー・プロサイクリング) +1:23
6位 ジョセフ・ブラックモア(イギリス、イスラエル・プレミアテック) +3:57
7位 アンデシュ・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) +4:38
8位 レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) +4:51
9位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)
10位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) 37:41:49
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) +0:29
3位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +1:29
4位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) +1:46
5位 マッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +2:06
6位 ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) +2:26
7位 オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) +3:24
8位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +3:34
9位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +3:41
10位 トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) +5:03
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) 227pts
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) 163pts
3位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) 151pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) 27pts
2位 ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) 16pts
3位 マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック) 11pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) 37:41:49
2位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +1:29
3位 ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) +2:26
チーム総合成績
1位 ヴィスマ・リースアバイク 113:06:32
3位 UAEチームエミレーツXRG +16:45
2位 デカトロンAG2Rラモンディアール +28:12
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.

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