2009/11/24(火) - 14:43
カーボンナノテクノロジーを取り入れた世界初のバイク“promachine SLC01”の発表から4年、BMCの新たなるフラッグシップモデルが誕生した。その名は“teammachine SLR01”。このニューカマーの実力を多角的に検証してみた。
BMC teammachine SLR01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMCはスイスのブランドらしく、極めて理論的に製品開発をするメーカーだ。契約アスリートによるテストはもちろんのこと、最も丈夫で、最も安定していて、そして最も軽いフレームを生み出すために、最新のコンピュータシミュレーション技術を採用しているのだ。
手書きによる草稿スケッチをCADによって三次元図面に変換すると、精巧なFEM(ファイン・エレメンツ・メソッド)を使用して、設計段階で製品の強度が徹底的にシミュレートされる。その結果、フレーム各部の余分な材料をそぎ落とし、逆に弱い部分には補強を加えるといったことも、プロトタイプを製作する前にコンピュータ上で行うことができるようになった。
ヘッドに輝くBMCのロゴ
トップチューブに入るteammachine SLR01のロゴ
BMCのアイデンティティともいうべき特徴的なシート集合部
シートポストは斜めウスで止められる構造となっており、シートピンが省略される。スッキリとした外観だ
BMCのアイデンティティとも言うべき特徴的な形状のシート集合部も、そのような過程を経て理論的に生み出されたものだ。好き嫌いはともかくとして、「これが理論的に生み出された最高の形状だ」と言われれば、誰でも納得させられてしまうだろう。
SLC01の目玉であったカーボンナノテクノロジーは、新作SLR01では使われていない。理論的なモノ作りをするBMCであるから、これも最良の結果を求めた決断だ。
BB30の採用で、ボトムブラケットまわりの剛性感も極めて高い
ベントしたチェーンステー
新作SLR01の大きな特長は、TCC(チューンド・コンプライアンス・コンセプト)という設計思想を取り入れた点である。このTCCによって、リヤトライアングル、シートポスト、フォークは縦方向にフレキシビリティを持ち、圧倒的な乗り心地の良さを確保しているという。特にシートステーは横方向に薄い設計となっており、いかにもショック吸収性が良さそうな外観を持っている。
SLC01ほどではないが、シート集合部はあいかわらず特徴的だ。ひと目見て「あっ、BMCだ」とわかる外観は、没個性なフレームが多い中で実に魅力的である。
特徴的な形状のフォーク
シートピンがないため、スッキリとした外観を得ている
シートステーは横方向に偏平なデザインだ
この特徴的な外観を実現させたオリジナルのシートポストも、その固定方法など本当にオモシロい。ヤグラの部分にあるボルトを用いて、簡単に固定・解放ができるのである。いかにも、昔から精密機械を得意としてきたスイス製品という感じだ。
オリジナルのシートポスト。斜めウスで固定される ロレックスやオメガ、ビクトリノックス、リージュ、ネフといったスイス製品に通じる哲学が感じられる。スイス製品好きには、たまらない魅力を放っている部分だと言えるのではないだろうか?
さて、この個性的なバイク・SLR01を、インプレライダー・西谷雅史と三上和志はどのように評価したのだろうか? さっそくインプレをお届けしよう。
― インプレッション
「硬いモノを踏んでいるという印象」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)
「硬いモノを踏んでいるという印象」三上和志 いわゆる「踏んだ分だけよく進むバイク」だ。しなりと生かすという感じではなく、硬いモノを踏んでいるという印象。踏力をロスすることなく、ダイレクトに推進力に変換するというフィーリングである。
リヤトライアングルが小さいのも、そういったフィーリングに貢献しているのだろう。レース指向の人にとって、実に気持ちの良い乗り味のバイクだ。ハイレベルなレーサーというわけではない自分にとって、個人的には必ずしも好きな乗り味ではないのだが、メーカーの意図はヒシヒシと感じられる。
フォークの剛性も比較的高めなので、ハンドリングもカチッとしていてとても良い。ハイスピードの大きな弧を描くコーナリングや、クリテリウムのようなクイックなコーナリングともに得意だ。下りのフルブレーキングでも、フォークがまったくよじれるようなことがなく、あっけなく止まれる高性能を示した。
振動吸収性は高いとは言えないが、硬いレーシングバイクとしては標準的なレベルだろう。パヴェ(石畳)を走るならともかく、路面のきれいな日本のサーキットコースなどでは、まったく問題になることはない。
性能とは関係ない部分であるが、エッジの効いたチューブのデザインや特徴的な形状のシートステーやシートポストなど、極めてオリジナリティに富んでいる。ひと目見てBMCだとわかるデザインは、趣味のバイクとしてはとても重要な部分だと思う。
ただ、遊び心のあるデザインはロードバイクの「そぎ落としていく美学」には反する部分があり、「BMCのデザインは嫌い」という人にとっては、やや受け入れ難い面のあるバイクなのだろう。
オススメするとしたら、やはりレース指向の人だろう。それも、距離の短いホビーレースなどに向いている。この硬さは長距離ライドでは乗りこなせない人にとってちょっと厳しい面もあるだろうが、距離が短いレースならば圧倒的なアドバンテージになるはずだ。
また、「人とは違うモノが欲しい」というこだわり派の人にも良いだろう。BMCの個性溢れるデザインは、これが好きだという人にとって、たまらない魅力になるはずだ。所有する喜びという点でも、BMCはポイントの高いバイクである。
「硬さが際立つ乗り味でレース派にオススメ」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
とても硬さが際立つフレームだ。踏力がまったく逃げず、初速の伸びなど感動モノであった。低速から高速への伸びも素晴らしく、キビキビと良く走ってくれる。とにかく一にも二にも、このバイクの最大の特徴はこの硬いフィーリングだ。
誤解の無き様に言っておくと、「硬い」というのは踏んだ時のリジッド感のことであり、硬いからといって必ずしも振動吸収性が悪いということではない。このバイクは振動吸収性はしっかりと確保されていた。それはもちろん「抜群に良い」ということではなく、レーシングバイクとして十分な振動吸収性は十分確保している、という意味だ。シートステーが横方向に薄くできていることが、しっかりと機能しているのだ。
「初速の伸びは感動モノだ」西谷雅史
そのシートステーであるが、シートチューブとの接合部がかなり低い位置にある。個人的な好みから言うと、このように低い位置に接合部を設けるのは好きではない。今のバイクはフォークの根本とボトムブラケットがかなりガチガチに固められているから、リヤトライアングルの設計がバイクの乗り味をとてもl左右するものだが、このようにリヤトライアングルを小さくしてしまうと、ショック吸収性などしっかりと機能しないようにも思う。
そして、ハンドリングは抜群に良い。これはフォークの出来が良いからだろう。低速でも高速でも安定していて、とても素直な挙動を見せてくれた。高速からのハードブレーキングも、まったく問題なくこなしてくれる。
意外と言っては失礼だが、オリジナルのメカニカルなシートポストはとても良かった。取り外しが簡単で、調整がしやすく、固定も確実だ。つい先入観で“ダメ度”が高い部分だっただけに、これはうれしい誤算であった。
このバイクをオススメするとしたら、やはりシリアスにレースに取り組んでいる人だろう。この硬いフィーリングはレースで間違いなく生きる。逆にツーリングや街乗りには不向きだ。乗り味に関しては遊びの要素があまりないリアルレーサーだからだ。
BMC teammachine SLR01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMC teammachine SLR01
フレーム TCC ピュアカーボン with ウィーブダンピング
フォーク カーボン w/TCC
カラー レッド、ホワイト
サイズ 47、50、53、55、57cm
希望小売価格(税込み) 504,000円(フレームセット)
― インプレライダーのプロフィール
三上 和志 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
西谷 雅史 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト
ウェア協力:マヴィック
アイウェア協力:オークリー・ジャパン
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
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BMCはスイスのブランドらしく、極めて理論的に製品開発をするメーカーだ。契約アスリートによるテストはもちろんのこと、最も丈夫で、最も安定していて、そして最も軽いフレームを生み出すために、最新のコンピュータシミュレーション技術を採用しているのだ。
手書きによる草稿スケッチをCADによって三次元図面に変換すると、精巧なFEM(ファイン・エレメンツ・メソッド)を使用して、設計段階で製品の強度が徹底的にシミュレートされる。その結果、フレーム各部の余分な材料をそぎ落とし、逆に弱い部分には補強を加えるといったことも、プロトタイプを製作する前にコンピュータ上で行うことができるようになった。
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BMCのアイデンティティとも言うべき特徴的な形状のシート集合部も、そのような過程を経て理論的に生み出されたものだ。好き嫌いはともかくとして、「これが理論的に生み出された最高の形状だ」と言われれば、誰でも納得させられてしまうだろう。
SLC01の目玉であったカーボンナノテクノロジーは、新作SLR01では使われていない。理論的なモノ作りをするBMCであるから、これも最良の結果を求めた決断だ。
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新作SLR01の大きな特長は、TCC(チューンド・コンプライアンス・コンセプト)という設計思想を取り入れた点である。このTCCによって、リヤトライアングル、シートポスト、フォークは縦方向にフレキシビリティを持ち、圧倒的な乗り心地の良さを確保しているという。特にシートステーは横方向に薄い設計となっており、いかにもショック吸収性が良さそうな外観を持っている。
SLC01ほどではないが、シート集合部はあいかわらず特徴的だ。ひと目見て「あっ、BMCだ」とわかる外観は、没個性なフレームが多い中で実に魅力的である。
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この特徴的な外観を実現させたオリジナルのシートポストも、その固定方法など本当にオモシロい。ヤグラの部分にあるボルトを用いて、簡単に固定・解放ができるのである。いかにも、昔から精密機械を得意としてきたスイス製品という感じだ。
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さて、この個性的なバイク・SLR01を、インプレライダー・西谷雅史と三上和志はどのように評価したのだろうか? さっそくインプレをお届けしよう。
― インプレッション
「硬いモノを踏んでいるという印象」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)
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リヤトライアングルが小さいのも、そういったフィーリングに貢献しているのだろう。レース指向の人にとって、実に気持ちの良い乗り味のバイクだ。ハイレベルなレーサーというわけではない自分にとって、個人的には必ずしも好きな乗り味ではないのだが、メーカーの意図はヒシヒシと感じられる。
フォークの剛性も比較的高めなので、ハンドリングもカチッとしていてとても良い。ハイスピードの大きな弧を描くコーナリングや、クリテリウムのようなクイックなコーナリングともに得意だ。下りのフルブレーキングでも、フォークがまったくよじれるようなことがなく、あっけなく止まれる高性能を示した。
振動吸収性は高いとは言えないが、硬いレーシングバイクとしては標準的なレベルだろう。パヴェ(石畳)を走るならともかく、路面のきれいな日本のサーキットコースなどでは、まったく問題になることはない。
性能とは関係ない部分であるが、エッジの効いたチューブのデザインや特徴的な形状のシートステーやシートポストなど、極めてオリジナリティに富んでいる。ひと目見てBMCだとわかるデザインは、趣味のバイクとしてはとても重要な部分だと思う。
ただ、遊び心のあるデザインはロードバイクの「そぎ落としていく美学」には反する部分があり、「BMCのデザインは嫌い」という人にとっては、やや受け入れ難い面のあるバイクなのだろう。
オススメするとしたら、やはりレース指向の人だろう。それも、距離の短いホビーレースなどに向いている。この硬さは長距離ライドでは乗りこなせない人にとってちょっと厳しい面もあるだろうが、距離が短いレースならば圧倒的なアドバンテージになるはずだ。
また、「人とは違うモノが欲しい」というこだわり派の人にも良いだろう。BMCの個性溢れるデザインは、これが好きだという人にとって、たまらない魅力になるはずだ。所有する喜びという点でも、BMCはポイントの高いバイクである。
「硬さが際立つ乗り味でレース派にオススメ」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
とても硬さが際立つフレームだ。踏力がまったく逃げず、初速の伸びなど感動モノであった。低速から高速への伸びも素晴らしく、キビキビと良く走ってくれる。とにかく一にも二にも、このバイクの最大の特徴はこの硬いフィーリングだ。
誤解の無き様に言っておくと、「硬い」というのは踏んだ時のリジッド感のことであり、硬いからといって必ずしも振動吸収性が悪いということではない。このバイクは振動吸収性はしっかりと確保されていた。それはもちろん「抜群に良い」ということではなく、レーシングバイクとして十分な振動吸収性は十分確保している、という意味だ。シートステーが横方向に薄くできていることが、しっかりと機能しているのだ。
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そのシートステーであるが、シートチューブとの接合部がかなり低い位置にある。個人的な好みから言うと、このように低い位置に接合部を設けるのは好きではない。今のバイクはフォークの根本とボトムブラケットがかなりガチガチに固められているから、リヤトライアングルの設計がバイクの乗り味をとてもl左右するものだが、このようにリヤトライアングルを小さくしてしまうと、ショック吸収性などしっかりと機能しないようにも思う。
そして、ハンドリングは抜群に良い。これはフォークの出来が良いからだろう。低速でも高速でも安定していて、とても素直な挙動を見せてくれた。高速からのハードブレーキングも、まったく問題なくこなしてくれる。
意外と言っては失礼だが、オリジナルのメカニカルなシートポストはとても良かった。取り外しが簡単で、調整がしやすく、固定も確実だ。つい先入観で“ダメ度”が高い部分だっただけに、これはうれしい誤算であった。
このバイクをオススメするとしたら、やはりシリアスにレースに取り組んでいる人だろう。この硬いフィーリングはレースで間違いなく生きる。逆にツーリングや街乗りには不向きだ。乗り味に関しては遊びの要素があまりないリアルレーサーだからだ。
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BMC teammachine SLR01
フレーム TCC ピュアカーボン with ウィーブダンピング
フォーク カーボン w/TCC
カラー レッド、ホワイト
サイズ 47、50、53、55、57cm
希望小売価格(税込み) 504,000円(フレームセット)
― インプレライダーのプロフィール
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埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
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東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト
ウェア協力:マヴィック
アイウェア協力:オークリー・ジャパン
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
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