2016/08/31(水) - 09:05
2016年全日本選手権TTチャンピオン&ロード2位の西薗良太(ブリヂストンアンカー)が大阪のシルベストサイクル梅田店で講演会を開催した。西薗を支えたPCGジャパンの中田尚志コーチ、アンカーのバイク開発に関わった清水都貴氏も加わり、今季の成功に結びついた理由を解説する興味深い講演会となった。
この日の硬軟取り混ぜた2時間の内容を紹介する前に、最初にお断りしておこう。自転車界随一の頭脳派プロサイクリスト、東京大学工学部出身の西薗良太氏の講演だ。難しい数式や、わけのわからない文字が出てくる。だいたい卒論は「NV-SRAMを利用した低消費電力キャッシュアーキテクチャの研究」という、タイトルから意味不明なものだ。だがそういった数式には読み飛ばすにはもったいないものが隠されている。ぜひ読み解いていくことをお勧めする。
この講演会は、大阪駅からほど近いシルベストサイクル梅田店で8月22日(月)19時から行われた。平日だが仕事帰りに寄れる時間帯とあって、会場は募集定員いっぱいの参加者の熱気に包まれた。この日の演者は西薗氏、ピークスコーチンググループジャパンの中田尚志氏、そしてブリヂストンサイクルの清水都貴氏の3人。
第1部は西薗氏の「2016年版タイムトライアル・ロードレースの現場」。西薗氏のコーチである中田氏がパワートレーニングの現在を説明。第2部は清水氏によるロード優勝バイクである最新のアンカーRS9の開発経緯などの説明が行われた。
西薗良太氏「2016年版タイムトライアル・ロードレースの現場」
いきなり巨大なフォントサイズで始まったパワーポイントでのプレゼン。「私のプレゼンは文字がデカイ」と笑いで聴講者の心を解きほぐし、自身の遍歴説明から始まる。中学生時代は陸上競技をしていたが、故障で自転車競技に転向。このころからすでに柿木克之・孝之兄弟(ブルーウィッチ)の記事をもとに心拍トレーニングを取り入れる。高校から大学と自転車競技を続け、やがて現在に至るまでパワーメーターを使って競技生活を送ってきた。
「TTができればロードを走れる。例えば逃げではパワーは重要だが、空気抵抗など努力で減らせる要素がある」と西薗氏。ここからはいかに抵抗を減らすかの説明が始まった。ここでは講座内で話された内容から重要なキーとなる説明を箇条書き形式でお伝えしよう。
最近のキャッチコピー「40kmのTTで何秒削減できるか」
クランクを167.5mmに変えた
・試行錯誤がとんでもなく面倒だが、空気抵抗が本当に減るのかを調べた。専門の施設とスタッフがいれば良い(つまり財力も重要)。200円から借りれる鹿児島県根占自転車競技場で実施した
・必要なのは、なるべく風の少ないバンク、スピードメーター、パワーメーター、モデルを吟味する「根気」
・速度に対する必要なワット数は数式で出せる。空力を示す値CdAを下げることでワット数は下がる。CdAを0.22を0.21へ下げることで11W削減できる。これはTTで1位から3位に転落するくらいの差にあたる
・2015年のポジションだとノーマルホイールで0.243だったが、サドル高を5mm低く、パッドを手前に狭く下げ、エアロワンピースとディスクホイールとエアロヘルメットを使うことで0.215まで下げた
・エアロヘルメットは最もコストパフォーマンスに優れた機材だ
・追い求めるものは”フリースピード” つまりパワーを犠牲にすることなく得られる空力
・流体力学は複雑。ある一定上から急に流れが変わるが、これは測定することでしか分からない
・キーポイントは股関節角度を小さくすること。秘密はショートクランクで、170mmを167.5mmに変えた。人間は小さく回すほうへは慣れてパワーも出せるもの。クランクが長いと柔軟性に影響するので慎重になること
大事な機材の選択
TTは各部分を詰めていけば数十ワットの削減が可能
・フレームはスタック&リーチが重要。スタックとはBBからヘッドチューブ上端までの高さ、リーチはBBからヘッドチューブ上端までの水平長。サドルは案外動かせるもの
・RT9はシンプルで調整しやすい。繰り返し整備するなどのメンテナンス性はもっと真剣に考えるべき。手間がかかるのは財力が必要ということ
・フレームはある程度エアロ効果を考慮している製品ならば10%も変わらない。それは300Wのうちの3W程度に相当する。一般的にはポジショニングで稼げる何十Wのほうが大事だ
・これらの積み重ねでチームメイトのトマ・ルバにTTで30W差を跳ね返した実績がある
・タイヤの転がり抵抗Crrは0.003から0.005程度。その差は時速45キロならば17Wにも達する
・伝達効率はドライブトレインの効率による。「クランクでのパワー=ホイールの駆動パワー」が理想。最近ではチェーンの抵抗が重要視され、ワックス塗布チェーンは1~2%=3~6W(300Wで)も違う
・チェーンリングとスプロケットはビッグギヤ同士のほうが効率が良い。例:58Tx11-32Tなど
・質量は軽いにこしたことはない。慣性質量も
・ハンドル幅400mmとクランク長170mmは伝統的なもの。換えてもいい
・TTはいろいろな部分を詰めていけば数十ワットの削減が可能。それで1位と15位くらいの差がある
タイムトライアルを取り入れることが重要
・「特異性の原則」とは、トレーニングした動作の能力が最も発達する。一般的なロードトレーニングに追加すべきメニューはタイムトライアル
・例題:アップダウンのあるコースでの最適ペース配分とは? 平坦無風往復は平均出力で走る。風がある場合は向かい風でやや頑張る。時間のかかる区間で頑張るほうがタイムが縮まる。登りも同じで、やや頑張る
・全日本TTのデータを見ると小さいアップダウンと横風があった。本番ではメーター表示部を見なかった。自分の身体と相談してペース配分できた。アワーレコードに挑戦したオブリーの言葉「遅く走らない」のように脚を緩める区間を作ったのが勝因
・スポーツ選手としての向上は25歳くらいで止まるかと思ったが、自分で考えて問題を解決していけばまだ伸ばせる
プロに学ぶトレーニング
では実際アマチュア選手がプロの走りを参考にどういったトレーニングをすべきなのか、大きく3つに分けて説明があった。
1. トレーニングの強度を最適化する
プロとアマの大きな違いに強度の違いがある。プロはレースやトレーニングの中でFTPを超える強度で過ごしている割合が長い。アマチュアはプロよりレース距離も短いので、より強度を上げる必要がある。
2. パワー/ケイデンスの変化に対応する
プロは年間40-80ものレースを走る中で、集団での位置取りやアタックに反応する能力を磨く。アマチュアの場合は、集団で走行する機会が少ない為、どうしても一定のパワーやケイデンスで走りがちになる。意識してパワー/ケイデンスを変化させるトレーニングを取り入れてみよう。
トレーニング例:・8 x 90秒 75秒はFTPの150%で巡航、最後の15秒は1枚ギアをかけて全力!フレーシュワロンヌのユイの坂をイメージして登ろう!
3.感覚を磨く
プロが年間数万キロに及ぶ走行の中で身に着けた体の感覚は非常に正確で、脳でイメージした出力と実際出力しているパワーが高精度で一致している。例えば西薗選手が全日本選手権前に行ったトレーニングでは、あえてヘッドユニットの表示を隠し、340Wをイメージしたワット数で巡航した。その結果、彼は1Wも違わず340Wを記録したという。アマチュアもあえてパワーメーターの表示を隠して坂を上るトレーニングを取り入れると効果的だ。
トレーニング例 :・1本目はヘッドユニットにパワーを表示して、自身のFTPで峠を登る。一旦下って、今度はヘッドユニットを隠して自身のFTPをイメージして峠を登る。
数ある科学的トレーニング法の中で最も最先端だと言われているのは、実は「楽しく走ること」。レーサーにとって速く走れる事は最大の目標であり楽しみ。日々の向上を楽しむマインドセットを持つことは、脳を前向きな思考にして効果を増大させる。科学的トレーニングの視点から見ても「楽しく走ること」は速くなるために合理的かつ効果的な方法なのだ。
期待に違わず難しい数式から入った講演会だったが、西薗氏の意外なほど(?)のユーモアの連発で、会場の受講者たちはしだいに西薗氏の世界に引き込まれていく。そして皆が理解する。「そうか、あの全日本選手権個人TTで、2位 佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)との26秒差、3位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)との51秒差はこうして生まれたのか!」と。フィジカルはもちろん強い。だがそれだけで勝てないのが自転車競技であるし、それはタイムトライアルでも同じだ。そのことに気づくと難解な数式や文字も許容できてくるから不思議だ。
そして中田氏が行っているコーチングは世界の先端を行くハンター・アレン氏が主宰するピークスコーチンググループ直系のもの。興味深さが信頼感につながった受講者は多いだろう。営業マンとしても優秀な一面を見せる清水都貴氏が語るRS9の開発ストーリーやテクノロジー解説はじゅうぶんに納得できるものであり、筆者でさえ「次のフレームはこのRS9しかない!」と思わせるに十分なものだった。講演が終わってからも3人に対する質問は時間オーバーとなるまで続き、盛会のもとお開きとなった。
講師陣のプロフィール
西薗良太 にしぞのりょうた
ブリヂストンアンカーサイクリングチーム所属。鹿児島県出身、1987年9月生まれ。東京大学自転車競技部を経てシマノレーシングへ。UCIプロコンチームのチャンピオンシステムでも走ったが、一時引退してアマとして競技を継続し、アンカーに加入した。
2012年、2016年 全日本選手権個人TT 優勝
2016年 全日本選手権ロード 2位
2011年 ツール・ド・北海道 ステージ1勝&リーダージャージ着用
2009年 インカレロード優勝
中田尚志 なかたたかし
Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
2013全米自転車競技連盟パワートレーニングセミナー修了
PCG世界進出をきっかけに2014年に渡米し、18ヶ月間の研修を受ける
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手
コーチング経験 解析ファイル15,000以上、日数延べ10,000日以上
清水都貴 しみずみやたか
ブリヂストンサイクル アンカー販売課
埼玉県出身、鳩山高校から鹿屋体育大学へ同大初の全国優勝
陸上1500mでは4分06秒を高校入学時に出していた
2014年ブリヂストンアンカーサイクリングチーム所属時に引退
2010年 ツール・ド・北海道個人総合優勝
2008年 パリ~コレーズ個人総合優勝(エキップアサダ)
山崎敏正 やまざきとしまさ
シルベストサイクル統括店長
サンツアーレーシング所属時に4000m個人追抜きで日本記録樹立、モスクワオリンピック代表選手
前田工業では機材の開発とともにデザインも担当。息子さんは東京大学自転車競技部OBで西薗選手の先輩にあたる
photo&text:高木秀彰
この日の硬軟取り混ぜた2時間の内容を紹介する前に、最初にお断りしておこう。自転車界随一の頭脳派プロサイクリスト、東京大学工学部出身の西薗良太氏の講演だ。難しい数式や、わけのわからない文字が出てくる。だいたい卒論は「NV-SRAMを利用した低消費電力キャッシュアーキテクチャの研究」という、タイトルから意味不明なものだ。だがそういった数式には読み飛ばすにはもったいないものが隠されている。ぜひ読み解いていくことをお勧めする。
この講演会は、大阪駅からほど近いシルベストサイクル梅田店で8月22日(月)19時から行われた。平日だが仕事帰りに寄れる時間帯とあって、会場は募集定員いっぱいの参加者の熱気に包まれた。この日の演者は西薗氏、ピークスコーチンググループジャパンの中田尚志氏、そしてブリヂストンサイクルの清水都貴氏の3人。
第1部は西薗氏の「2016年版タイムトライアル・ロードレースの現場」。西薗氏のコーチである中田氏がパワートレーニングの現在を説明。第2部は清水氏によるロード優勝バイクである最新のアンカーRS9の開発経緯などの説明が行われた。
西薗良太氏「2016年版タイムトライアル・ロードレースの現場」
いきなり巨大なフォントサイズで始まったパワーポイントでのプレゼン。「私のプレゼンは文字がデカイ」と笑いで聴講者の心を解きほぐし、自身の遍歴説明から始まる。中学生時代は陸上競技をしていたが、故障で自転車競技に転向。このころからすでに柿木克之・孝之兄弟(ブルーウィッチ)の記事をもとに心拍トレーニングを取り入れる。高校から大学と自転車競技を続け、やがて現在に至るまでパワーメーターを使って競技生活を送ってきた。
「TTができればロードを走れる。例えば逃げではパワーは重要だが、空気抵抗など努力で減らせる要素がある」と西薗氏。ここからはいかに抵抗を減らすかの説明が始まった。ここでは講座内で話された内容から重要なキーとなる説明を箇条書き形式でお伝えしよう。
最近のキャッチコピー「40kmのTTで何秒削減できるか」
クランクを167.5mmに変えた
・試行錯誤がとんでもなく面倒だが、空気抵抗が本当に減るのかを調べた。専門の施設とスタッフがいれば良い(つまり財力も重要)。200円から借りれる鹿児島県根占自転車競技場で実施した
・必要なのは、なるべく風の少ないバンク、スピードメーター、パワーメーター、モデルを吟味する「根気」
・速度に対する必要なワット数は数式で出せる。空力を示す値CdAを下げることでワット数は下がる。CdAを0.22を0.21へ下げることで11W削減できる。これはTTで1位から3位に転落するくらいの差にあたる
・2015年のポジションだとノーマルホイールで0.243だったが、サドル高を5mm低く、パッドを手前に狭く下げ、エアロワンピースとディスクホイールとエアロヘルメットを使うことで0.215まで下げた
・エアロヘルメットは最もコストパフォーマンスに優れた機材だ
・追い求めるものは”フリースピード” つまりパワーを犠牲にすることなく得られる空力
・流体力学は複雑。ある一定上から急に流れが変わるが、これは測定することでしか分からない
・キーポイントは股関節角度を小さくすること。秘密はショートクランクで、170mmを167.5mmに変えた。人間は小さく回すほうへは慣れてパワーも出せるもの。クランクが長いと柔軟性に影響するので慎重になること
大事な機材の選択
TTは各部分を詰めていけば数十ワットの削減が可能
・フレームはスタック&リーチが重要。スタックとはBBからヘッドチューブ上端までの高さ、リーチはBBからヘッドチューブ上端までの水平長。サドルは案外動かせるもの
・RT9はシンプルで調整しやすい。繰り返し整備するなどのメンテナンス性はもっと真剣に考えるべき。手間がかかるのは財力が必要ということ
・フレームはある程度エアロ効果を考慮している製品ならば10%も変わらない。それは300Wのうちの3W程度に相当する。一般的にはポジショニングで稼げる何十Wのほうが大事だ
・これらの積み重ねでチームメイトのトマ・ルバにTTで30W差を跳ね返した実績がある
・タイヤの転がり抵抗Crrは0.003から0.005程度。その差は時速45キロならば17Wにも達する
・伝達効率はドライブトレインの効率による。「クランクでのパワー=ホイールの駆動パワー」が理想。最近ではチェーンの抵抗が重要視され、ワックス塗布チェーンは1~2%=3~6W(300Wで)も違う
・チェーンリングとスプロケットはビッグギヤ同士のほうが効率が良い。例:58Tx11-32Tなど
・質量は軽いにこしたことはない。慣性質量も
・ハンドル幅400mmとクランク長170mmは伝統的なもの。換えてもいい
・TTはいろいろな部分を詰めていけば数十ワットの削減が可能。それで1位と15位くらいの差がある
タイムトライアルを取り入れることが重要
・「特異性の原則」とは、トレーニングした動作の能力が最も発達する。一般的なロードトレーニングに追加すべきメニューはタイムトライアル
・例題:アップダウンのあるコースでの最適ペース配分とは? 平坦無風往復は平均出力で走る。風がある場合は向かい風でやや頑張る。時間のかかる区間で頑張るほうがタイムが縮まる。登りも同じで、やや頑張る
・全日本TTのデータを見ると小さいアップダウンと横風があった。本番ではメーター表示部を見なかった。自分の身体と相談してペース配分できた。アワーレコードに挑戦したオブリーの言葉「遅く走らない」のように脚を緩める区間を作ったのが勝因
・スポーツ選手としての向上は25歳くらいで止まるかと思ったが、自分で考えて問題を解決していけばまだ伸ばせる
プロに学ぶトレーニング
では実際アマチュア選手がプロの走りを参考にどういったトレーニングをすべきなのか、大きく3つに分けて説明があった。
1. トレーニングの強度を最適化する
プロとアマの大きな違いに強度の違いがある。プロはレースやトレーニングの中でFTPを超える強度で過ごしている割合が長い。アマチュアはプロよりレース距離も短いので、より強度を上げる必要がある。
2. パワー/ケイデンスの変化に対応する
プロは年間40-80ものレースを走る中で、集団での位置取りやアタックに反応する能力を磨く。アマチュアの場合は、集団で走行する機会が少ない為、どうしても一定のパワーやケイデンスで走りがちになる。意識してパワー/ケイデンスを変化させるトレーニングを取り入れてみよう。
トレーニング例:・8 x 90秒 75秒はFTPの150%で巡航、最後の15秒は1枚ギアをかけて全力!フレーシュワロンヌのユイの坂をイメージして登ろう!
3.感覚を磨く
プロが年間数万キロに及ぶ走行の中で身に着けた体の感覚は非常に正確で、脳でイメージした出力と実際出力しているパワーが高精度で一致している。例えば西薗選手が全日本選手権前に行ったトレーニングでは、あえてヘッドユニットの表示を隠し、340Wをイメージしたワット数で巡航した。その結果、彼は1Wも違わず340Wを記録したという。アマチュアもあえてパワーメーターの表示を隠して坂を上るトレーニングを取り入れると効果的だ。
トレーニング例 :・1本目はヘッドユニットにパワーを表示して、自身のFTPで峠を登る。一旦下って、今度はヘッドユニットを隠して自身のFTPをイメージして峠を登る。
数ある科学的トレーニング法の中で最も最先端だと言われているのは、実は「楽しく走ること」。レーサーにとって速く走れる事は最大の目標であり楽しみ。日々の向上を楽しむマインドセットを持つことは、脳を前向きな思考にして効果を増大させる。科学的トレーニングの視点から見ても「楽しく走ること」は速くなるために合理的かつ効果的な方法なのだ。
期待に違わず難しい数式から入った講演会だったが、西薗氏の意外なほど(?)のユーモアの連発で、会場の受講者たちはしだいに西薗氏の世界に引き込まれていく。そして皆が理解する。「そうか、あの全日本選手権個人TTで、2位 佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)との26秒差、3位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)との51秒差はこうして生まれたのか!」と。フィジカルはもちろん強い。だがそれだけで勝てないのが自転車競技であるし、それはタイムトライアルでも同じだ。そのことに気づくと難解な数式や文字も許容できてくるから不思議だ。
そして中田氏が行っているコーチングは世界の先端を行くハンター・アレン氏が主宰するピークスコーチンググループ直系のもの。興味深さが信頼感につながった受講者は多いだろう。営業マンとしても優秀な一面を見せる清水都貴氏が語るRS9の開発ストーリーやテクノロジー解説はじゅうぶんに納得できるものであり、筆者でさえ「次のフレームはこのRS9しかない!」と思わせるに十分なものだった。講演が終わってからも3人に対する質問は時間オーバーとなるまで続き、盛会のもとお開きとなった。
講師陣のプロフィール
西薗良太 にしぞのりょうた
ブリヂストンアンカーサイクリングチーム所属。鹿児島県出身、1987年9月生まれ。東京大学自転車競技部を経てシマノレーシングへ。UCIプロコンチームのチャンピオンシステムでも走ったが、一時引退してアマとして競技を継続し、アンカーに加入した。
2012年、2016年 全日本選手権個人TT 優勝
2016年 全日本選手権ロード 2位
2011年 ツール・ド・北海道 ステージ1勝&リーダージャージ着用
2009年 インカレロード優勝
中田尚志 なかたたかし
Peaks Coaching Group プラチナム認定コーチ。
2013全米自転車競技連盟パワートレーニングセミナー修了
PCG世界進出をきっかけに2014年に渡米し、18ヶ月間の研修を受ける
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手
コーチング経験 解析ファイル15,000以上、日数延べ10,000日以上
清水都貴 しみずみやたか
ブリヂストンサイクル アンカー販売課
埼玉県出身、鳩山高校から鹿屋体育大学へ同大初の全国優勝
陸上1500mでは4分06秒を高校入学時に出していた
2014年ブリヂストンアンカーサイクリングチーム所属時に引退
2010年 ツール・ド・北海道個人総合優勝
2008年 パリ~コレーズ個人総合優勝(エキップアサダ)
山崎敏正 やまざきとしまさ
シルベストサイクル統括店長
サンツアーレーシング所属時に4000m個人追抜きで日本記録樹立、モスクワオリンピック代表選手
前田工業では機材の開発とともにデザインも担当。息子さんは東京大学自転車競技部OBで西薗選手の先輩にあたる
photo&text:高木秀彰
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