2016/08/11(木) - 13:44
急峻な登り下り含むテクニカルな周回コースを舞台に争われたリオオリンピックのタイムトライアル。男子は今季限りでの引退を決めているファビアン・カンチェラーラ(スイス)が、花道を飾る2度目の金メダルを獲得。女子はクリスティン・アームストロング(アメリカ)が前人未到の3連覇を成し遂げた。
激戦となった週末のロードレースから一拍置き、8月10日(水)の朝に開催されたリオデジャネイロオリンピックの男女タイムトライアル。連続出場を予定したワウト・ポエルス(オランダ)らが怪我で欠場となったが、男子は27カ国から35名が、女子は19カ国から25名が出走。日本からは與那嶺恵理が出場した。
オリンピック最速の称号を決める舞台となったのは、ロードレースの前半に登場したグルマリ周回コース。最大斜度が17%にも達するグリマリ(1.3km/平均9.4%)と、グロータ・フンダ(2.1km/平均6.8%)という、短いながらもパンチのある2つの登りの後には、それぞれジェットコースターの様な下りが待ち受ける。ライダーには独走力や登坂力と同等かそれ以上のテクニックが求められるレイアウトだ。
悪評高きパヴェ区間は、平行する舗装路が開放されたためにレースには影響しなかったものの、追い打ちを掛けるように降った雨が難易度をより高いものに。まさに難攻不落の24.7kmを男子は2周、女子は1周する。機材については、アレクシ・ヴィエルモーズ(フランス)がDHバーとディスクホイールを装備したノーマルバイクを用意した以外は、主要ライダーはほぼ全員がTTバイクを駆った。
男子は、周回コースを2周することから、2つのグループに分かれて出走。第1グループを終えて暫定首位に立ったレオポルド・ケーニッヒ(チェコ)のタイム(1時間15分23秒)を基準に、有力候補が多く控える第2グループがスタートしていく。
続々と中間計測タイムが塗り替えられていく中で驚きの走りを見せたのが、最後から5番目にスタートしたファビアン・カンチェラーラ(スイス)。グリマリの登りの頂上付近に設けられた第1中間計測でトップタイムを叩き出すと、後を走る優勝候補筆頭のトム・ドゥムラン(オランダ)とクリス・フルーム(イギリス)が後塵を拝するという予想外の展開に。
しかし、グロータ・フンダの頂上に設けられた第2中間計測では、カンチェラーラの前を走るローハン・デニス(オーストラリア)が首位に立つ。デニスを基準にすると、カンチェラーラは9.7kmで25秒ものタイムを失って4位に後退。タイムを落としたものの、ドゥムランが2位、ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)が3位にポジションを上げる。
デニスは、DHバーを持ちながらも危なげないライン取りで下りを快走。2回目のグリマリの登りでも一糸乱れぬペダリングで金メダルを手繰り寄せているように見えた。しかし、第3中間計測でトップタイムを叩きだしたのはカンチェラーラ。それも2位デニスに対して18秒もの差をつけて。第2~第3中間計測までの14.9kmを、カンチェラーラはデニスより43秒も速く走った計算になる。
この2~3年鳴りを潜めてきた、タイムトライアルでの圧倒的な走りを取り戻したカンチェラーラ。大腿から腰回りに掛けての豊富な筋肉量から繰り出される、スイス時計のように正確な高回転ペダリングは、世界選手権を4勝した全盛期を思い起こさせるもの。
自身最後のオリンピックに挑むスパルタクスは、その後も勢いを緩めることなく、第4中間計測でもトップタイムを叩き出す。優勝候補筆頭のドゥムランやフルーム、左DHバーの脱落によりバイク交換を余儀なくされたデニスをよそに、金メダルへと突き進むと、それまで暫定首位だったカストロビエホのタイムを1分06秒も上回りトップタイムを更新。ドゥムランは47秒、フルームは1分02秒及ばず、北京以来2大会ぶりとなるカンチェラーラの金メダルが決まった。
「オリンピックでメダル獲得に挑むのは今回が最後で、自身にとっては様々な意味がある。ロンドンでチャンスを逃してからは浮き沈みを繰り返してきただけに、今日金メダルを獲得できたことが只々嬉しい」とレース後に語るカンチェラーラ。タイムトライアルではコンスタントに勝利を積み重ねているものの、スイス代表としての勝利は2010年の世界選手権以来となる。
また、レースについては「難易度の高いコースだったから、直感的に勝てるのではと感じたんだ。1時間を越えるレースだけに、常に全開というわけではなく、正しいリズムを刻むことが重要だったし、完璧に実行することができた」という。最後は「現役を引退する年のオリンピックで金メダルを獲得できるなんて、これ以上のことはない。だからこそ表彰台の上で大きく叫んだんだ」と締めくくった。
銀メダルは、ツール・ド・フランスでの負傷から復活したドゥムラン。レース後は地面に倒れこんで悔しさを滲ませたオランダのTTスペシャリストは「今日は金メダルだけを狙って走った。もちろん、目標に達成できなかったことには失望している。しかし、ツールで負傷した後だけに、オリンピックで表彰台を獲得できたことには特別な感情を覚えた。数週間前に僕がどこにいたかを考えれば、とても良い結果だ。金メダル獲得のビッグチャンスだったけど、今日は運が無かっただけだね」とコメントを残している。
銅メダルは2大会連続でフルームの手に。「今シーズンはここまでの良い成績が残せているし、失望はしていない。自身は持てる全てを出し切ったけど、ファビアンは無敵だった。夏にツールを勝って、その後に再びオリンピックの表彰台を獲得することができ、ただただ素晴らしい」とレース後に語った。
男子のレース前に開催された女子は、数秒差を争う接戦に。グリマリの頂上に設けられ第1中間計測では最終走者のクリスティン・アームストロング(アメリカ)がトップタイム。2位エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)に対して5秒、3位のアンナ・ファンデルブレゲン(オランダ)に対して7秒のリードを奪う。
しかし、グロータ・フンダの頂上では、第1中間計測では23秒遅れの6位だったオルガ・ザベリンスカヤ(ロシア)がタイムを伸ばして暫定首位に立つ。アームストロングは2秒、ロンゴボルギーニは7秒、ファンデルブレゲンは16秒のビハインドを背負う。
勝負はグロータ・フンダの下りとフィニッシュまでの平坦の10kmに持ち込まれ、雨振る海岸線のフィニッシュ地点で、一番時計を叩きだしたのはアームストロング。レース翌日に43歳の誕生日を迎えるという大ベテランがオリンピック3連覇という偉業を成し遂げて見せた。2位にはこちらもベテランである36歳のザベリンスカヤが、3位には日曜日のロードレースを制したファンデルブレゲンが入った。與那嶺恵理はアームストロングから2分17秒遅れの15位でフィニッシュし、自身初のオリンピックを終えている。
ちなみに、アームストロングの42歳と364日での金メダルは、オリンピックの女子個人種目史上3番めに高い年齢となる。「今の気持ちを表現できる言葉が見つからない。なぜ既に2回も頂点に立った競技で、金メダルを目指して復帰するのかって?私が考えられるベストアンサーは『まだ挑戦できるから』。今日は幸運にも恵まれた。接戦になることは予想できていた。コーチが私に『どの色のメダルが欲しい?』って尋ねてきたから、私は全開で走ったし、マラ(・アボット)のことも頭に浮かんだ。私が考えるオリンピックの良いところは、表彰台で自国の国歌を聞けることだわ」とアームストロングはレースに語っている。
オリンピックの自転車競技はロード種目が全て終了し、8月11日からはトラック種目が開催される。
選手コメントは大会公式より。
リオデジャネイロオリンピック個人タイムトライアル結果
男子(54.6km)
女子(29.9km)
text:Yuya.Yamamoto
photo:Bettini, CorVos
激戦となった週末のロードレースから一拍置き、8月10日(水)の朝に開催されたリオデジャネイロオリンピックの男女タイムトライアル。連続出場を予定したワウト・ポエルス(オランダ)らが怪我で欠場となったが、男子は27カ国から35名が、女子は19カ国から25名が出走。日本からは與那嶺恵理が出場した。
オリンピック最速の称号を決める舞台となったのは、ロードレースの前半に登場したグルマリ周回コース。最大斜度が17%にも達するグリマリ(1.3km/平均9.4%)と、グロータ・フンダ(2.1km/平均6.8%)という、短いながらもパンチのある2つの登りの後には、それぞれジェットコースターの様な下りが待ち受ける。ライダーには独走力や登坂力と同等かそれ以上のテクニックが求められるレイアウトだ。
悪評高きパヴェ区間は、平行する舗装路が開放されたためにレースには影響しなかったものの、追い打ちを掛けるように降った雨が難易度をより高いものに。まさに難攻不落の24.7kmを男子は2周、女子は1周する。機材については、アレクシ・ヴィエルモーズ(フランス)がDHバーとディスクホイールを装備したノーマルバイクを用意した以外は、主要ライダーはほぼ全員がTTバイクを駆った。
男子は、周回コースを2周することから、2つのグループに分かれて出走。第1グループを終えて暫定首位に立ったレオポルド・ケーニッヒ(チェコ)のタイム(1時間15分23秒)を基準に、有力候補が多く控える第2グループがスタートしていく。
続々と中間計測タイムが塗り替えられていく中で驚きの走りを見せたのが、最後から5番目にスタートしたファビアン・カンチェラーラ(スイス)。グリマリの登りの頂上付近に設けられた第1中間計測でトップタイムを叩き出すと、後を走る優勝候補筆頭のトム・ドゥムラン(オランダ)とクリス・フルーム(イギリス)が後塵を拝するという予想外の展開に。
しかし、グロータ・フンダの頂上に設けられた第2中間計測では、カンチェラーラの前を走るローハン・デニス(オーストラリア)が首位に立つ。デニスを基準にすると、カンチェラーラは9.7kmで25秒ものタイムを失って4位に後退。タイムを落としたものの、ドゥムランが2位、ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)が3位にポジションを上げる。
デニスは、DHバーを持ちながらも危なげないライン取りで下りを快走。2回目のグリマリの登りでも一糸乱れぬペダリングで金メダルを手繰り寄せているように見えた。しかし、第3中間計測でトップタイムを叩きだしたのはカンチェラーラ。それも2位デニスに対して18秒もの差をつけて。第2~第3中間計測までの14.9kmを、カンチェラーラはデニスより43秒も速く走った計算になる。
この2~3年鳴りを潜めてきた、タイムトライアルでの圧倒的な走りを取り戻したカンチェラーラ。大腿から腰回りに掛けての豊富な筋肉量から繰り出される、スイス時計のように正確な高回転ペダリングは、世界選手権を4勝した全盛期を思い起こさせるもの。
自身最後のオリンピックに挑むスパルタクスは、その後も勢いを緩めることなく、第4中間計測でもトップタイムを叩き出す。優勝候補筆頭のドゥムランやフルーム、左DHバーの脱落によりバイク交換を余儀なくされたデニスをよそに、金メダルへと突き進むと、それまで暫定首位だったカストロビエホのタイムを1分06秒も上回りトップタイムを更新。ドゥムランは47秒、フルームは1分02秒及ばず、北京以来2大会ぶりとなるカンチェラーラの金メダルが決まった。
「オリンピックでメダル獲得に挑むのは今回が最後で、自身にとっては様々な意味がある。ロンドンでチャンスを逃してからは浮き沈みを繰り返してきただけに、今日金メダルを獲得できたことが只々嬉しい」とレース後に語るカンチェラーラ。タイムトライアルではコンスタントに勝利を積み重ねているものの、スイス代表としての勝利は2010年の世界選手権以来となる。
また、レースについては「難易度の高いコースだったから、直感的に勝てるのではと感じたんだ。1時間を越えるレースだけに、常に全開というわけではなく、正しいリズムを刻むことが重要だったし、完璧に実行することができた」という。最後は「現役を引退する年のオリンピックで金メダルを獲得できるなんて、これ以上のことはない。だからこそ表彰台の上で大きく叫んだんだ」と締めくくった。
銀メダルは、ツール・ド・フランスでの負傷から復活したドゥムラン。レース後は地面に倒れこんで悔しさを滲ませたオランダのTTスペシャリストは「今日は金メダルだけを狙って走った。もちろん、目標に達成できなかったことには失望している。しかし、ツールで負傷した後だけに、オリンピックで表彰台を獲得できたことには特別な感情を覚えた。数週間前に僕がどこにいたかを考えれば、とても良い結果だ。金メダル獲得のビッグチャンスだったけど、今日は運が無かっただけだね」とコメントを残している。
銅メダルは2大会連続でフルームの手に。「今シーズンはここまでの良い成績が残せているし、失望はしていない。自身は持てる全てを出し切ったけど、ファビアンは無敵だった。夏にツールを勝って、その後に再びオリンピックの表彰台を獲得することができ、ただただ素晴らしい」とレース後に語った。
男子のレース前に開催された女子は、数秒差を争う接戦に。グリマリの頂上に設けられ第1中間計測では最終走者のクリスティン・アームストロング(アメリカ)がトップタイム。2位エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)に対して5秒、3位のアンナ・ファンデルブレゲン(オランダ)に対して7秒のリードを奪う。
しかし、グロータ・フンダの頂上では、第1中間計測では23秒遅れの6位だったオルガ・ザベリンスカヤ(ロシア)がタイムを伸ばして暫定首位に立つ。アームストロングは2秒、ロンゴボルギーニは7秒、ファンデルブレゲンは16秒のビハインドを背負う。
勝負はグロータ・フンダの下りとフィニッシュまでの平坦の10kmに持ち込まれ、雨振る海岸線のフィニッシュ地点で、一番時計を叩きだしたのはアームストロング。レース翌日に43歳の誕生日を迎えるという大ベテランがオリンピック3連覇という偉業を成し遂げて見せた。2位にはこちらもベテランである36歳のザベリンスカヤが、3位には日曜日のロードレースを制したファンデルブレゲンが入った。與那嶺恵理はアームストロングから2分17秒遅れの15位でフィニッシュし、自身初のオリンピックを終えている。
ちなみに、アームストロングの42歳と364日での金メダルは、オリンピックの女子個人種目史上3番めに高い年齢となる。「今の気持ちを表現できる言葉が見つからない。なぜ既に2回も頂点に立った競技で、金メダルを目指して復帰するのかって?私が考えられるベストアンサーは『まだ挑戦できるから』。今日は幸運にも恵まれた。接戦になることは予想できていた。コーチが私に『どの色のメダルが欲しい?』って尋ねてきたから、私は全開で走ったし、マラ(・アボット)のことも頭に浮かんだ。私が考えるオリンピックの良いところは、表彰台で自国の国歌を聞けることだわ」とアームストロングはレースに語っている。
オリンピックの自転車競技はロード種目が全て終了し、8月11日からはトラック種目が開催される。
選手コメントは大会公式より。
リオデジャネイロオリンピック個人タイムトライアル結果
男子(54.6km)
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス)
2位 トム・ドゥムラン(オランダ)
3位 クリス・フルーム(イギリス)
4位 ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)
5位 ローハン・デニス(オーストラリア)
6位 マチェイ・ボドナール(ポーランド)
7位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)
8位 ヨン・イザギーレ(スペイン)
9位 ゲラント・トーマス(イギリス)
10位 プリモス・ログリッチ(スロベニア)
2位 トム・ドゥムラン(オランダ)
3位 クリス・フルーム(イギリス)
4位 ヨナタン・カストロビエホ(スペイン)
5位 ローハン・デニス(オーストラリア)
6位 マチェイ・ボドナール(ポーランド)
7位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)
8位 ヨン・イザギーレ(スペイン)
9位 ゲラント・トーマス(イギリス)
10位 プリモス・ログリッチ(スロベニア)
1h12'15"
+47"
+1'02"
+1'06"
+1'10"
+1'50"
+2'00"
+2'06"
+2'37"
+2'40"
+47"
+1'02"
+1'06"
+1'10"
+1'50"
+2'00"
+2'06"
+2'37"
+2'40"
女子(29.9km)
1位 クリスティン・アームストロング(アメリカ)
2位 オルガ・ザベリンスカヤ(ロシア)
3位 アンナ・ファンデルブレゲン(オランダ)
4位 エレン・ファンダイク(オランダ)
5位 エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)
6位 リンダ・ヴィルムセン(ニュージーランド)
7位 タラ・ホイッテン(カナダ)
8位 リサ・ブレナウアー(ドイツ)
9位 カトリン・ガーフート(オーストラリア)
10位 イヴリン・スティーヴンス(アメリカ)
15位 與那嶺恵理(日本)
2位 オルガ・ザベリンスカヤ(ロシア)
3位 アンナ・ファンデルブレゲン(オランダ)
4位 エレン・ファンダイク(オランダ)
5位 エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)
6位 リンダ・ヴィルムセン(ニュージーランド)
7位 タラ・ホイッテン(カナダ)
8位 リサ・ブレナウアー(ドイツ)
9位 カトリン・ガーフート(オーストラリア)
10位 イヴリン・スティーヴンス(アメリカ)
15位 與那嶺恵理(日本)
44'26"
+06"
+11"
+22"
+26"
+28"
+35"
+56"
+1'09"
+1'34"
+2'17"
+06"
+11"
+22"
+26"
+28"
+35"
+56"
+1'09"
+1'34"
+2'17"
text:Yuya.Yamamoto
photo:Bettini, CorVos
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