2015/08/27(木) - 18:48
ドイツ・フリードリフィスハーフェンにて開幕した世界最大のバイクショー「ユーロバイク」。その初日にあたる8月27日、スラムがかねてよりテストを行っていたワイヤレスコンポーネントを正式発表した。その名は「RED eTap」。現地にて開催された発表会よりお伝えする。
シマノとカンパニョーロに続き、ついにスラムが電動コンポーネントを発表した。なんといっても注目すべきは「ワイヤレス」であること。「自転車はよりエレガントで、シンプルで、直感的であるべき」とのフィロソフィーのもとに誕生したのが、今回登場した「RED eTap」である。
開発は5年前よりスタートし、フィールドテストを開始したのは2年前から。昨年のツアー・オブ・カリフォルニアよりプロレースでのテストを開始し、すでに多くの勝利に貢献。その一つが、今季よりメインテスターを務めAG2Rラモンディアールのアレクシ・ヴィエルモーズ(フランス)によるツール・ド・フランス第8ステージ優勝だ。
今回発表された製品版は、今年1月よりテストされてきたプロトタイプから大幅な変更はなく、ほぼそのままの状態でリリースされるという。製品化にこぎつけるまでに100万km以上もの実走テストを始め、防水性を測るための浸水テストや、防錆性を測るための塩水噴霧試験など、ありとあらゆる試験を実施。プレゼンテーションでスラムは「RED eTap」の信頼性に大きな自信を覗かせた。
まずは、機械式の「ダブルタップ」より一新された操作方法から説明しよう。「eTap」では左右のレバーでリアの変速を行い、シフトアップ(重く)する際は右のレバーを、シフトダウン(軽く)する際は左のレバーをクリック。フロントは、左右のレバーを同時にクリックすることで変速を行うことができる。
そして、メインとなるeTapレバー以外にもシマノDi2と同じように、ハンドルのドロップ部やフラット部に取り付けるサテライトスイッチによる変速も可能だ。「BLIPS」と名付けられたオプションのスイッチ自体には発信機能はなく、ケーブルで左右それぞれのレバーへと接続。「BLIPBOX」と名付けられた発信機と「BLIPS」を組み合わせることで、TT用の変速スイッチとして使用できる。BLIPSのポート数はeTapレバーが左右それぞれ2つずつ、BLIPBOXが4つとしている。
eTapレバー及びBLIPBOX、フロントディレーラー、リアディレーラーの間の通信は、スラムが新規に開発した無線通信プロトコル「AIERA」にて行われる。128ビット暗号化通信を利用することで、混線や妨害電波の受信を徹底的に防止。同時に、ランタイムを長くするための省電力化も図られているという。
また、ANT+にも対応しており、特に発信機を追加すること無くサイクルコンピューターにギアの位置やバッテリー残量を表示させることができる。この機能はガーミンの新型モデル「Edge520」が標準で対応しており、その他のガーミンEdgeシリーズでもアップデートを行うことで利用可能になる。
レバーは機械式のデザインを踏襲。一回り小型化されているが、レバー内側とハンドルバーとの間のクリアランスは広くなっており、ブラケット下側には指を3本入れることができる。バッテリーは入手性の高いボタン電池のCR2032で、ランタイムは約2年とのこと。機械式同様にブレーキレバーのリーチアジャスト機構を備える。
フロントディレーラー(FD)及びリアディレーラー(RD)の基本的な構造は機械式と共通。それぞれに小さなバッテリー、緑点灯・赤点灯・赤点滅でバッテリー残量を知らせるLEDインジケーター、調整用のボタンが設けられており、電池が切れた場合には、その時点でのギアが保持される。
なおバッテリーの仕様は前後とも共通で、ランタイムは通常使用で1,000km(または60時間)。充電は本体からバッテリーを取り外して行い、わずか45分で完了するという。バッテリーの脱着はとても容易で、レース中の交換であっても問題ないほどだ。
FDには、機械式と同じくトリム操作を不要とする「YAW」テクノロジーが取り入れており、シマノやカンパニョーロと異なりライダーによる変速操作以外で動作することはない。RDは最大対応歯数28Tのショートゲージのみをラインアップ。これはレースユースのみにフォーカスしているためであり、シマノDURA-ACE Di2やカンパニョーロEPSと同様にロングゲージタイプ(WiFLi)は用意されていない。
その他、ブレーキ、スプロケット、チェーンは機械式と共通。クランクはグラフィックのみ変更されており、チェーンリングを含め電動変速に対してのアップデートは特に行われていないとのこと。また、系列のパワーメーターブランド・クォークより、RED eTapのグラフィックをまとったクランクが登場している。
実際の操作感は機械式と似通っており、同じ電動式コンポーネントで比べるとカンパニョーロEPSのようにクリック感は強め。変速スピードは機械式と同様に素早く、レバーを押し続けることで、多段変速も可能だ。携帯電話やWifiなど、様々な電波が飛び交う発表会場内でも当然混線することはなく、その完成度は非常に高いと推察される。
機能面同様にルックスの仕上がりもよい。特にディレーラーは前後とも機械式と大差ないほどコンパクトに仕上がっている。当然ケーブルやタイラップが必要無くなるためスマートで、組付け時にフレームの中にケーブルを通す作業が必要ない点は、誰にとっても大きなメリットといえるだろう。
また、機械式コンポーネントのみに対応したフレームであってもクリーンにアッセンブル可能。エアロロード及びTTバイクではワイヤーをいかにしてフレームに内蔵し、空気抵抗を削減するかに各社が腐心している昨今にあっては、自転車の設計を根本から変える要因にもなりうるだろう。
発表会の最後に行われた質疑応答では「eTap」の今後の展望について2点の説明があった。1つ目はパソコンと連携することで変速スピードを変化させることが可能になるということ。2つ目は油圧ブレーキ対応モデルを開発中である一方で、スラムが推し進めるフロントシングルの「1x(ワンバイ)」への対応は検討していないということだ。
主要パーツの重量はシフトレバー(左右ペア)が260g、FD(バッテリー込)が239g、RD(バッテリー込)が187gで、機械式に対する3点合計の重量増加は77gと、他の2ブランドに比べて抑えられている。国内においての販売価格は未定で、発売開始は来春以降になる見通しだ。取り扱いはダートフリーク。
text&photo:Yuya.Yamamoto in Friedrichshafen Germany
シマノとカンパニョーロに続き、ついにスラムが電動コンポーネントを発表した。なんといっても注目すべきは「ワイヤレス」であること。「自転車はよりエレガントで、シンプルで、直感的であるべき」とのフィロソフィーのもとに誕生したのが、今回登場した「RED eTap」である。
開発は5年前よりスタートし、フィールドテストを開始したのは2年前から。昨年のツアー・オブ・カリフォルニアよりプロレースでのテストを開始し、すでに多くの勝利に貢献。その一つが、今季よりメインテスターを務めAG2Rラモンディアールのアレクシ・ヴィエルモーズ(フランス)によるツール・ド・フランス第8ステージ優勝だ。
今回発表された製品版は、今年1月よりテストされてきたプロトタイプから大幅な変更はなく、ほぼそのままの状態でリリースされるという。製品化にこぎつけるまでに100万km以上もの実走テストを始め、防水性を測るための浸水テストや、防錆性を測るための塩水噴霧試験など、ありとあらゆる試験を実施。プレゼンテーションでスラムは「RED eTap」の信頼性に大きな自信を覗かせた。
まずは、機械式の「ダブルタップ」より一新された操作方法から説明しよう。「eTap」では左右のレバーでリアの変速を行い、シフトアップ(重く)する際は右のレバーを、シフトダウン(軽く)する際は左のレバーをクリック。フロントは、左右のレバーを同時にクリックすることで変速を行うことができる。
そして、メインとなるeTapレバー以外にもシマノDi2と同じように、ハンドルのドロップ部やフラット部に取り付けるサテライトスイッチによる変速も可能だ。「BLIPS」と名付けられたオプションのスイッチ自体には発信機能はなく、ケーブルで左右それぞれのレバーへと接続。「BLIPBOX」と名付けられた発信機と「BLIPS」を組み合わせることで、TT用の変速スイッチとして使用できる。BLIPSのポート数はeTapレバーが左右それぞれ2つずつ、BLIPBOXが4つとしている。
eTapレバー及びBLIPBOX、フロントディレーラー、リアディレーラーの間の通信は、スラムが新規に開発した無線通信プロトコル「AIERA」にて行われる。128ビット暗号化通信を利用することで、混線や妨害電波の受信を徹底的に防止。同時に、ランタイムを長くするための省電力化も図られているという。
また、ANT+にも対応しており、特に発信機を追加すること無くサイクルコンピューターにギアの位置やバッテリー残量を表示させることができる。この機能はガーミンの新型モデル「Edge520」が標準で対応しており、その他のガーミンEdgeシリーズでもアップデートを行うことで利用可能になる。
レバーは機械式のデザインを踏襲。一回り小型化されているが、レバー内側とハンドルバーとの間のクリアランスは広くなっており、ブラケット下側には指を3本入れることができる。バッテリーは入手性の高いボタン電池のCR2032で、ランタイムは約2年とのこと。機械式同様にブレーキレバーのリーチアジャスト機構を備える。
フロントディレーラー(FD)及びリアディレーラー(RD)の基本的な構造は機械式と共通。それぞれに小さなバッテリー、緑点灯・赤点灯・赤点滅でバッテリー残量を知らせるLEDインジケーター、調整用のボタンが設けられており、電池が切れた場合には、その時点でのギアが保持される。
なおバッテリーの仕様は前後とも共通で、ランタイムは通常使用で1,000km(または60時間)。充電は本体からバッテリーを取り外して行い、わずか45分で完了するという。バッテリーの脱着はとても容易で、レース中の交換であっても問題ないほどだ。
FDには、機械式と同じくトリム操作を不要とする「YAW」テクノロジーが取り入れており、シマノやカンパニョーロと異なりライダーによる変速操作以外で動作することはない。RDは最大対応歯数28Tのショートゲージのみをラインアップ。これはレースユースのみにフォーカスしているためであり、シマノDURA-ACE Di2やカンパニョーロEPSと同様にロングゲージタイプ(WiFLi)は用意されていない。
その他、ブレーキ、スプロケット、チェーンは機械式と共通。クランクはグラフィックのみ変更されており、チェーンリングを含め電動変速に対してのアップデートは特に行われていないとのこと。また、系列のパワーメーターブランド・クォークより、RED eTapのグラフィックをまとったクランクが登場している。
実際の操作感は機械式と似通っており、同じ電動式コンポーネントで比べるとカンパニョーロEPSのようにクリック感は強め。変速スピードは機械式と同様に素早く、レバーを押し続けることで、多段変速も可能だ。携帯電話やWifiなど、様々な電波が飛び交う発表会場内でも当然混線することはなく、その完成度は非常に高いと推察される。
機能面同様にルックスの仕上がりもよい。特にディレーラーは前後とも機械式と大差ないほどコンパクトに仕上がっている。当然ケーブルやタイラップが必要無くなるためスマートで、組付け時にフレームの中にケーブルを通す作業が必要ない点は、誰にとっても大きなメリットといえるだろう。
また、機械式コンポーネントのみに対応したフレームであってもクリーンにアッセンブル可能。エアロロード及びTTバイクではワイヤーをいかにしてフレームに内蔵し、空気抵抗を削減するかに各社が腐心している昨今にあっては、自転車の設計を根本から変える要因にもなりうるだろう。
発表会の最後に行われた質疑応答では「eTap」の今後の展望について2点の説明があった。1つ目はパソコンと連携することで変速スピードを変化させることが可能になるということ。2つ目は油圧ブレーキ対応モデルを開発中である一方で、スラムが推し進めるフロントシングルの「1x(ワンバイ)」への対応は検討していないということだ。
主要パーツの重量はシフトレバー(左右ペア)が260g、FD(バッテリー込)が239g、RD(バッテリー込)が187gで、機械式に対する3点合計の重量増加は77gと、他の2ブランドに比べて抑えられている。国内においての販売価格は未定で、発売開始は来春以降になる見通しだ。取り扱いはダートフリーク。
text&photo:Yuya.Yamamoto in Friedrichshafen Germany
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スラム団地 (コミックエッセイ)
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