2015/07/20(月) - 17:07
ピュアスプリンターたちにとってパリ前の最後のチャンス。そして逃げ屋にとっても数少ないチャンス。山岳の後のスプリントに向けて、勝利を狙いたいチームがそれぞれの思惑を胸にハイスピードなレースを展開した。
マンドの街のスタート地点はいつもと違う流れがあった。この日はスプリンターにとってシャンゼリゼ前に最後のチャンス。序盤に低カテゴリーの山が続き、逃げを狙うことだって不可能じゃない。スタートしてすぐレースがハードになることは明らか。だからどのチームもウォームアップに余念が無い。
スタート前のウォーミングアップに余念のないトマ・ヴォクレール(ユーロップカー) photo:Makoto.AYANO
チームスカイはほぼ全員がローラーでウォーミングアップを行った photo:Makoto.AYANO
グライペルのためのアシスト仕事に意気込むロット・ソウダルのデヘントら photo:Makoto.AYANO
昨ステージに続いて今日もまた逃げる作戦のFDJ photo:Makoto.AYANO
チームスカイのバスの前でフルームがアップするのは珍しくないが、今日はチームメイトの多くがローラーを回していた。そして警察官が近づく観客やプレスに対して目を光らせる。一昨日にフルームがレース中に観客からコップに入った尿を掛けられた事件があり、そのことで警戒しているのだ。原因はフルームのドーピングを疑う無根拠・無責任な記事に影響された観客がフルームに怒りを向ける空気が有ること。他のチームにも緊張感が有り、撮影には許可がいる。
スタートしてすぐ上り、そしてアップダウンが始まる。小さな山岳を3つこなす中央山塊の高原からローヌ渓谷へ向けて下る田舎道は、執拗なまでにクネクネとカーブを繰り返して曲がり、チームカーやプレスがスキップ先行できる抜け道ルートも無い。ある意味本格山岳以上に随行が難しいステージだ。
バカンスとはあまり縁のない山深い田舎。つまり沿道の観客は少なめ。しかし週末とあって素朴な村人や子どもたちの応援も多く、ほのぼのさせられる雰囲気が続く。
山間の荒々しい岩肌の渓谷を抜けていくプロトン photo:Makoto.AYANO
フランス国旗で応援する子どもたちが可愛い photo:Makoto.AYANO
子どもたちの手作りバナーによる素朴な応援が嬉しい photo:Makoto.AYANO
予想通り形成された逃げ。中間スプリントへ向けて猛烈なダッシュを続けるペーター・サガン(ティンコフ・サクソ)の走りは常にその先頭付近にあってアグレッシブこのうえない。マイヨヴェールはさらなるpt加算を目指し今日もゴーイング・マイ・ウェイだ。ちなみにサガン322pt、グライペル261ptでこの日をスタートしている。
スタート前のアップの成果は十分だろう。追走するメイン集団ではそれぞれのスプリンター擁するチームが固まってコントロールしている。クリストフのカチューシャ、デゲンコルブのジャイアント・アルペシン...。
一方でマーク・カヴェンディッシュは早くに遅れ、すでに後方で苦しんでいた。胃腸の調子が悪く、力が出ないということでエティックス・クイックステップはカヴには掛けず、アタック&エスケープ作戦を敢行だ。
逃げグループを率いるペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ) photo:Tim de Waele
メイン集団を牽引するカチューシャ photo:Tim de Waele
チームメイトに守られて走るマイヨジョーヌのクリス・フルーム(チームスカイ) photo:Makoto.AYANO
道はくねくねと曲がり、直線的になる部分がない。コーナーの連続はつねに危険だ。連日の酷暑よりは暑さが和らいだ点は楽。護衛を付けて走るフルームの今日最大の敵は落車だろう。山岳の連続をやり過ごし、ローヌ渓谷へ向けての長い長い下りを集団後方について下ったとき、路面は濡れていて滑りやすく、危険だった。しかしプロトンは無事にやり過ごした。
この日もっとも集団をコントロールして、まだ勝利のないクリストフのためのエスコートを終日にわたって続けたカチューシャ。しかしだからと言って勝てるわけではないのが難しいところ。クリストフ本人は調子について、序盤から「最高潮にはない」とコメントしていた。
古い石造りの橋を渡るプロトン photo:Makoto.AYANO
ここまでにステージ2勝。平坦スプリントバトルにおける最右翼グライペルはレース開始から自身を後方へ追いやろうという他チームの動きに苦しみ続けていた。上りの苦手なグライペル。しかし勝利に向けて生き残るために耐えに耐えた。
「プロトンはまったくスローダウンしてくれなかった。スタートしてから3級山岳までの18.5kmは僕にとって非常に重要だった。もし生き残れれば勝つためにスプリントできると分かっていたから。でもその集団についていくことですら非常にキツかった」。
ヴァランスのフィニッシュを制したアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Makoto.AYANO
グライペルにとって、アシスト陣容は最高というわけでは無かった。スプリント列車の牽引役グレッグ・ヘンダーソンはリタイアしてもう居ない。そのうえ土曜の落車で膝を3針縫う怪我をしていた。ラルス・バクが逃げに入ることでチームとしての先頭牽引責任は少し免れ、山岳の得意なティム・ウェレンスが風よけ役として働いた。ラスト250mで早めの加速に入ると、そのままフィニッシュラインまでスピードを維持した。
誇らしげにスポンサーネームを誇示するアンドレ・グライペル(ロット・ソウダル) photo:Makoto.AYANOピュアスプリンターたちのチャンスが少ない今ツールで、チャンスを独占する3つの勝利。残るは最終パリステージのみ。グライペルはすでにマイヨヴェール獲得には固執せず、もうひとつのステージ優勝獲得に向け気持ちをシフトしているように感じる。次はシャンゼリゼだ。
グライペルは言う「その前にアルプスが控えている。それを乗り切ってまたチャンスを狙いたい。3週間を走って疲労した身体でのスプリントは、第1週と同じようなスプリントにはならないからね」。
トニー・ギャロパンも総合9位にいるロット・ソウダル。怪我でのリタイアが心配されたアダム・ハンセンの身体も持ち直している。「チームにとってとてもいいツールになっている」とグライペルはチームの成功に満足げだ。
ジョン・デゲンコルブは再びの2位。ジャイアント・アルペシンはラモン・シンケルダムがすでにリタイアしていて、スプリントに向けて重要な牽引役を欠いていた。キッテルの勝利にも貢献するトム・フィーレルスは出場していないから、最後の発射役が居ない。この日チームがとった作戦はクライマーのサイモン・ゲシュケを逃げに潜入させることで、メイン集団の先頭牽引の責任を少し軽くすること。そして最後はデゲンコルブをグライペルのホイールにつかせる選択をした。
マイヨヴェールの差をさらに開いたサガン スロバキアからのサポーターに笑顔
グライペルがステージ優勝の50ポイントを加算したが、 サガンは中間スプリントで20pt、4位フィニッシュで18ptを加算し、合計ではサガン360pt、グライペル316ptでサガンが44ポイント差でマイヨヴェールをさらに有利なものにした。
サガンのフィニッシュ着順は「またしても」の5位。いろいろな数え方があるが、トップ5フィニッシュとして数えるとじつに10回目だ。
ポディウム前にはスロバキアからサガンファンクラブが大勢駆けつけていた。熱烈な「ペト・サガン」コールに、スロバキアの旗がなびく。サガンはマイヨヴェールで授与式で受け取った花束をファンたちのいるほうへトス。にっこり笑顔で手を振った。
アグレッシブな走りで敢闘賞を獲得したペーター・サガン(ティンコフ・サクソ) photo:Makoto.AYANO
フィニッシュ付近にはペーター・サガンのファンたちが大勢詰めかけ、スロバキア国旗を降った photo:Makoto.AYANO
ペーター・サガン(ティンコフ・サクソ)がポディウム向かい側に詰めかけた自国のファンに花束を投げる photo:Makoto.AYANO
昨ステージの落車で全身包帯まみれのジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:Makoto.AYANO
今日もステージを狙うことは難しかったマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Makoto.AYANO
フラストレーション? サガンは執拗に質問するTVレポーターに向かってこう応じた。
「毎日トライしているんだ。他に何ができる? 僕はトライしているんだ。神が僕が勝てるだろう。でも2位や3位…、5位だ。トライするけど難しいんだ。もしあなたが僕なら? どう答えればいいか想像して欲しい。僕はすごく調子がいいんだ。それ以上何ができる? もし勝ちたければトライを続けるしかないんだ」。
前回の2位に憤慨してテレビを破壊したチームオーナーのオレグ・ティンコフ氏は、今回は5位でもサガンの走りには満足のようだ。
「ツールで最強の選手はサガン。フルームじゃない。ティンコフサクソは彼を誇りに思う」とツィート。
まだ逆転の可能性はあるが、連日の強さを見せるサガンの4枚目のマイヨヴェールはぐっと近づいたようだ。パリでの4枚目のマイヨヴェール獲得は、エリック・ツァベルの6勝に次ぐ、ショーン・ケリーの4勝の記録に並ぶ。ただしツァベルのポイント賞6勝については過去のドーピングを認めたが、公式記録としては剥奪されずに残っているものだ。
アンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)の脚。骨太で筋肉の固まりのようだが、3針縫う怪我をしていた photo:Makoto.AYANO
ペーター・サガン(ティンコフ・サクソ)の脚。筋肉量に恵まれた、柔軟性の高そうな脚 photo:Makoto.AYANO
クリス・フルーム(チームスカイ)の脚。 無駄な脂肪が一切無く、極限のシェイプアップが施されている photo:Makoto.AYANO
この日物議を醸したのが、TVクルーの撮影方法。サガンがゴールまで最終29kmでスプリントに備えてバイクをエアロ効果に優れた新型ヴェンジに交換しようとしたときのこと。TVカメラが後方に停まってチームカーをブロックした。
「バイクを交換したかったが、TVクルーのせいで時間がかかってしまった」 photo:CorVosサガンは「前に回ってくれ、前に」と言ったが、彼はサガンの10m後方に停まり、バイクを受け渡そうとするティンコフ・サクソのメカニックを阻んでしまった。怒るサガン。そしてメカニックはボトルを投げつけた。
この件で審判団はティンコフ・サクソのショーンイェーツ監督に一日のレース除外の罰を命じた。
ちなみに今ツールでレース除外処分を受ける監督は2人目。前回は第4ステージでエティックス・クイックステップのダヴィデ・ブラマーティ監督が、トニ・マルティンが勝った時にチームカーの中で大喜びしている動画によってシートベルトをしていなかったことが発覚。一日のレース除外になっている。
クリス・フルームの駆ったスペシャルペイントのピナレロ・ドグマF8を押して帰るチームスカイのスタッフ photo:Makoto.AYANO
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
マンドの街のスタート地点はいつもと違う流れがあった。この日はスプリンターにとってシャンゼリゼ前に最後のチャンス。序盤に低カテゴリーの山が続き、逃げを狙うことだって不可能じゃない。スタートしてすぐレースがハードになることは明らか。だからどのチームもウォームアップに余念が無い。
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スタートしてすぐ上り、そしてアップダウンが始まる。小さな山岳を3つこなす中央山塊の高原からローヌ渓谷へ向けて下る田舎道は、執拗なまでにクネクネとカーブを繰り返して曲がり、チームカーやプレスがスキップ先行できる抜け道ルートも無い。ある意味本格山岳以上に随行が難しいステージだ。
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グライペルにとって、アシスト陣容は最高というわけでは無かった。スプリント列車の牽引役グレッグ・ヘンダーソンはリタイアしてもう居ない。そのうえ土曜の落車で膝を3針縫う怪我をしていた。ラルス・バクが逃げに入ることでチームとしての先頭牽引責任は少し免れ、山岳の得意なティム・ウェレンスが風よけ役として働いた。ラスト250mで早めの加速に入ると、そのままフィニッシュラインまでスピードを維持した。
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トニー・ギャロパンも総合9位にいるロット・ソウダル。怪我でのリタイアが心配されたアダム・ハンセンの身体も持ち直している。「チームにとってとてもいいツールになっている」とグライペルはチームの成功に満足げだ。
ジョン・デゲンコルブは再びの2位。ジャイアント・アルペシンはラモン・シンケルダムがすでにリタイアしていて、スプリントに向けて重要な牽引役を欠いていた。キッテルの勝利にも貢献するトム・フィーレルスは出場していないから、最後の発射役が居ない。この日チームがとった作戦はクライマーのサイモン・ゲシュケを逃げに潜入させることで、メイン集団の先頭牽引の責任を少し軽くすること。そして最後はデゲンコルブをグライペルのホイールにつかせる選択をした。
マイヨヴェールの差をさらに開いたサガン スロバキアからのサポーターに笑顔
グライペルがステージ優勝の50ポイントを加算したが、 サガンは中間スプリントで20pt、4位フィニッシュで18ptを加算し、合計ではサガン360pt、グライペル316ptでサガンが44ポイント差でマイヨヴェールをさらに有利なものにした。
サガンのフィニッシュ着順は「またしても」の5位。いろいろな数え方があるが、トップ5フィニッシュとして数えるとじつに10回目だ。
ポディウム前にはスロバキアからサガンファンクラブが大勢駆けつけていた。熱烈な「ペト・サガン」コールに、スロバキアの旗がなびく。サガンはマイヨヴェールで授与式で受け取った花束をファンたちのいるほうへトス。にっこり笑顔で手を振った。
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前回の2位に憤慨してテレビを破壊したチームオーナーのオレグ・ティンコフ氏は、今回は5位でもサガンの走りには満足のようだ。
「ツールで最強の選手はサガン。フルームじゃない。ティンコフサクソは彼を誇りに思う」とツィート。
まだ逆転の可能性はあるが、連日の強さを見せるサガンの4枚目のマイヨヴェールはぐっと近づいたようだ。パリでの4枚目のマイヨヴェール獲得は、エリック・ツァベルの6勝に次ぐ、ショーン・ケリーの4勝の記録に並ぶ。ただしツァベルのポイント賞6勝については過去のドーピングを認めたが、公式記録としては剥奪されずに残っているものだ。
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text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
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