2015/07/12(日) - 08:57
エアロ性能を追求したフォルムへと変貌を遂げたトレックの旗艦モデル「Madone」。その国内向け発表会が7月9日に東京・青山にて開催された。数々の新テクノロジーを投入することでエアロロードの概念を覆す程の走行性能を手に入れたという6代目のことを、別府史之(トレックファクトリーレーシング)やメーカーサイドに聞いた。
自身の新型Madoneを持つ別府史之(トレックファクトリーレーシング)
チーム名とライダーネームが記されたトップチューブ
登場初期の段階で専用品のSRMマウントが用意されるなど、レースにフォーカスした開発が進められた
「トレック40年の歴史の中で、最も多くのテクノロジーをつぎ込んだバイク」と語るのはトレック・ジャパンの田村芳隆社長。正直なところ、「既に情報発信されたバイクの発表会をなぜ行うのだろう」と筆者は考えていたが、新型Madoneを目の前にしてみれば、その考えを改めさせられることになる。
今回のモデルチェンジによって6代目となったMadone。その歴史は大きく3世代に分けられるといえよう。先ず第1世代のMadoneが産声を上げたのは2004年のこと。ホリゾンタル設計のシンプルな設計に、軍事技術を取り入れた最先端のOCLVカーボンを組み合わせ、圧倒的な登坂性能を誇った。
「新型Madoneはトレック40年の歴史の中で、最も多くのテクノロジーをつぎ込んだバイク」と語るトレック・ジャパンの田村芳隆社長
新型Madoneのテクノロジーを解説するトレック・ジャパンの野口忍さん
この発表会で国内初お披露目となった新型Madone
発表会では別府史之(トレックファクトリーレーシング)と俳優の鶴見辰吾さんによるトークショーが開催された
新型Madoneのカットサンプルに見入る別府史之と鶴見辰吾さん
国内発表会に集まったメディアの多さが新型Madoneへの注目度の高さを物語る
第2世代目がデビューを果たしたのが2009年で、オーソドックスな設計から一点して、トレックが誇るカーボン成型技術を誇示するかの様に曲線を多用したスタイリングへと変化。その後も、今や各ブランドがこぞって採用するKVF(カムテール)形状のチューブをいち早く取入れモデルチェンジするなど、弛みなく進化を続けてきた。また、これまでリリースされた5モデルともグランツールを始めとした数々のビッグレースで勝利に貢献している。
そして、エアロロードが群雄割拠の時代に生を受けたのが6代目Madone。従来モデルからの変化量は、2009年に登場した3代目に匹敵し、トレックの誇る名作シリーズは「第3世代」に突入したと言って差し支えないだろう。開発には150人ものエンジニアが携わり。コンピューターシミュレーションを駆使する昨今においても100台ものプロトタイプが製造されたという。
トレック Madone RSL H1
トレック Madone 9.9
トレック Madone 9 Series ProjectOne仕様
先代のマドンで導入されたKVFを引き続き採用し、ブレーキやハンドル周りをはじめとした各部のインテグレーテッドデザインにより、ケーブルの完全内装を実現し、エアロを追求。一方ではDomaneやBooneで取り入れられた振動吸収機構「IsoSpeed」を投入することで、エアロロードながら優れた振動吸収性との両立に成功した(バイクの詳細はこちらのレビュー記事から)。
ただ、余りの変貌ぶりに、機材に保守的な傾向があるプロに受け入れられるのだろうかというのが筆者の第1印象である。しかし、発表会にゲストとして登場した別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「大きなショックを受けました。こんなに速いバイクに乗ったことがない。早くこのバイクで勝負してみたいですね」と目を輝かせながら、新型Madoneについてコメントした。
チューブの中にチューブが設けられている
新型Madone専用設計のIsoSpeed
複雑な造形のヘッドチューブ。トレックが持つ技術力の高さを示す一例だ
各ケーブルを内装するために非真円とされたフォークコラム
一切のバルーンを除去したきれいなチューブ内面もケーブルのフル内装化に貢献
別府はディスカバリーチャンネル時代から歴代のMadoneを使用。その後、エンデュランス系のDomaneと軽さを追求したEmondaが登場してもなお、旧型Madoneを好んで乗り続けてきた。この選択は最適なポジションを実現できることを最優先にした結果だそうで、「エアロ性能の高さも然ることながら、H2フィットが用意されていることが大きな要因ですね」とのこと。新型Madoneについては次の様に語る。
「走り慣れているはずのトレーニングコースでも、バイクを新型Madoneに変えただけでスピードが上がりましたね。スプリントトレーニングをしていて、スピードを上げきった時に、他のバイクなら間違いなく失速しますが、新型Madoneは失速せず、トップスピードを維持したまま走ることができます。そして、コーナーの前ではいつもの感覚よりも少し早めにブレーキングを始めなければならないほどエアロ性能が高い」
ケーブルが外に露出しているのは、リアブレーキとシートチューブの間のみ
ケーブルが一切露出していないヘッドチューブ
KVFデザインをブレードに取り入れたフロントフォーク
KVFデザインのダウンチューブ。従来モデルよりもボリュームが増した
ボリュームを増したBB周り
また、6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでのにわかに信じがたいエピソードも語ってくれた。「ある時、旧型に乗っている自分を挟む形で、新型Madoneに乗ったチームメイトが前後にいました。これはバイクのエアロ性能を無視できる集団内での話なのですが、バイクの空力性能が良いため、前のチームメイトはスーッと離れていってしまい、逆に後ろのチームメイトはブレーキを掛けていました。この瞬間に乗ったことが無くとも新型Madoneの空力性能が優れていると確信しましたね」
そのドーフィネから新型Madoneを使用するクライマーのバウク・モレマも『時速が60~70km/hにも達する登り前の位置取りで、これまでより確実に体力の消耗を抑えることができる。これなら、本番の登りでより良い結果が残せるはずだ』とエアロ性能に太鼓判を押しているそう。
緩やかに曲がるトップチューブは振動吸収性に貢献
フロントフォーク及びヘッドチューブとのインテグレーテッドデザインとされたフロントブレーキ
フロントブレーキのケーブルガイドとの接触を回避するために、ヘッドチューブの一部を開閉させる機構を採用
引き続きDuo Trapにも対応
エアロ性能の強化と同じく注目を集めるのがIsoSpeedの搭載だ。別府は「スピードバンプ(減速板)を越える際にもバイクが跳ねず、ヨーロッパの粗い路面でも振動をしっかりといなしてくれる」と新型Madoneの快適性について評価し、加えて高出力域でのペダリングにも良い影響をもたらしているという。
「(プロ供給用にヘッドチューブを短くしたClassic Editionでは)自分に最適なポジションが出なかったため実際に使用することは無かったのですが、ずっとDomaneでレースを走ってみたいと考えていました。その理由はIsoSpeedがもたらす高い快適性に加え、高出力域の維持のしやすさにありますね。
サドルクランプ部はより確実な固定方法へと改られた
新型Madoneのエアロ効果を更に高める専用設計のエアロハンドル
プロの場合は、ペダリングパワーの一部が繰り返し荷重として常にサドルへと伝わってしまいます。自分の場合はシーズンに2度サドルを交換するほどで、サドルへの負荷がいかに大きいかというのを理解していただけるかと思います。ただIsoSpeedは、本来無駄になるはずのサドルへ掛かるパワーを推進力へと変換してくれる。ファビアン・カンチェラーラ選手もIsoSpeedがあるからこそ、他のバイクに乗った際よりも高出力を長時間維持できるのであり、そのテクノロジーが新型Madoneに導入されることは非常に良いことですね。」
新型Madoneにおいて、空力や快適性と同じく関心を集めているのが、各部のインテグレーテッドデザインだ。センタープル方式を取る専用ブレーキについて別府は「制動についてはパワーとフィーリングのどちらも良好。これまで使用していたDURA-ACEとも遜色ない」と語る一方で「メカニック泣かせ」と整備性が劣ることを隠さない。
バウク・モレマがクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで新型Madoneを投入した (c)CorVos
というのも、新型Madoneは一切のケーブルを内装化。昨今のエアロロードにおいてはエアロ性能と同様に扱いやすさも重要視されており、新型Madoneはトレンドに逆行したといえるが、利点も少なくないようだ。この点についてトレック・ジャパンの野口忍さんは「エアロ性能とトレードオフで整備性は割りきっていますが、ケーブルは雨に晒されないため、交換頻度自体は下がるはず。加えて、スムーズなルーティングになるため、リアブレーキのタッチがかっちりするという利点もあります」と語る。
また、都内のトレックコンセプトストア・BEX ISOYA 晴海店の店長でありメカニックも務める鈴木太地さんは次の様に話す。「複雑な構造をしているとはいえ、専用品を使用しており、組付けや調整の手順がしっかりと確立されていれば、メカニック目線で心配になることがないと考えています。作業に要す時間が増えたり、レース中もチームカーからメカニックが身を乗り出して調整が難しくなるということは予想できますが、しっかりと組み立てていれば、その扱いに苦労することはなさそうですね」
別府史之(トレックファクトリーレーシング)のトレック Madone RSL
一般ユーザーにおいては「こうかな?と思い曖昧に作業してしまうと、これまでのバイク以上に性能がうまく発揮できないということはあるでしょう。とても作業方法が独特であると予想されるため、ご自身で組立や調整をされるという方は、ショップやトレック・ジャパンと密接にコミュニケーションを取って欲しい」と鈴木さんは言う。
エアロ性能と快適性のそれぞれを追求し、総合力を更に増したMadone。過去に例を見ないインテグレーテッドデザインについて、歴代のトレックを乗り継いできた俳優の鶴見辰吾さんは「ケーブル(電線)が外に出ていないという点で、新型Madoneの美しさは銀座の街並みに通ずるものがある」と評している。先進的なデザインに様々な意見が寄せられる新型Madoneだが、長いロードバイク史の中でも特にエポックメイキングなロードバイクの1つとして、後世に語り継がれる1台となりそうだ。
text&photo:Yuya.Yamamoto



「トレック40年の歴史の中で、最も多くのテクノロジーをつぎ込んだバイク」と語るのはトレック・ジャパンの田村芳隆社長。正直なところ、「既に情報発信されたバイクの発表会をなぜ行うのだろう」と筆者は考えていたが、新型Madoneを目の前にしてみれば、その考えを改めさせられることになる。
今回のモデルチェンジによって6代目となったMadone。その歴史は大きく3世代に分けられるといえよう。先ず第1世代のMadoneが産声を上げたのは2004年のこと。ホリゾンタル設計のシンプルな設計に、軍事技術を取り入れた最先端のOCLVカーボンを組み合わせ、圧倒的な登坂性能を誇った。






第2世代目がデビューを果たしたのが2009年で、オーソドックスな設計から一点して、トレックが誇るカーボン成型技術を誇示するかの様に曲線を多用したスタイリングへと変化。その後も、今や各ブランドがこぞって採用するKVF(カムテール)形状のチューブをいち早く取入れモデルチェンジするなど、弛みなく進化を続けてきた。また、これまでリリースされた5モデルともグランツールを始めとした数々のビッグレースで勝利に貢献している。
そして、エアロロードが群雄割拠の時代に生を受けたのが6代目Madone。従来モデルからの変化量は、2009年に登場した3代目に匹敵し、トレックの誇る名作シリーズは「第3世代」に突入したと言って差し支えないだろう。開発には150人ものエンジニアが携わり。コンピューターシミュレーションを駆使する昨今においても100台ものプロトタイプが製造されたという。



先代のマドンで導入されたKVFを引き続き採用し、ブレーキやハンドル周りをはじめとした各部のインテグレーテッドデザインにより、ケーブルの完全内装を実現し、エアロを追求。一方ではDomaneやBooneで取り入れられた振動吸収機構「IsoSpeed」を投入することで、エアロロードながら優れた振動吸収性との両立に成功した(バイクの詳細はこちらのレビュー記事から)。
ただ、余りの変貌ぶりに、機材に保守的な傾向があるプロに受け入れられるのだろうかというのが筆者の第1印象である。しかし、発表会にゲストとして登場した別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「大きなショックを受けました。こんなに速いバイクに乗ったことがない。早くこのバイクで勝負してみたいですね」と目を輝かせながら、新型Madoneについてコメントした。





別府はディスカバリーチャンネル時代から歴代のMadoneを使用。その後、エンデュランス系のDomaneと軽さを追求したEmondaが登場してもなお、旧型Madoneを好んで乗り続けてきた。この選択は最適なポジションを実現できることを最優先にした結果だそうで、「エアロ性能の高さも然ることながら、H2フィットが用意されていることが大きな要因ですね」とのこと。新型Madoneについては次の様に語る。
「走り慣れているはずのトレーニングコースでも、バイクを新型Madoneに変えただけでスピードが上がりましたね。スプリントトレーニングをしていて、スピードを上げきった時に、他のバイクなら間違いなく失速しますが、新型Madoneは失速せず、トップスピードを維持したまま走ることができます。そして、コーナーの前ではいつもの感覚よりも少し早めにブレーキングを始めなければならないほどエアロ性能が高い」





また、6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでのにわかに信じがたいエピソードも語ってくれた。「ある時、旧型に乗っている自分を挟む形で、新型Madoneに乗ったチームメイトが前後にいました。これはバイクのエアロ性能を無視できる集団内での話なのですが、バイクの空力性能が良いため、前のチームメイトはスーッと離れていってしまい、逆に後ろのチームメイトはブレーキを掛けていました。この瞬間に乗ったことが無くとも新型Madoneの空力性能が優れていると確信しましたね」
そのドーフィネから新型Madoneを使用するクライマーのバウク・モレマも『時速が60~70km/hにも達する登り前の位置取りで、これまでより確実に体力の消耗を抑えることができる。これなら、本番の登りでより良い結果が残せるはずだ』とエアロ性能に太鼓判を押しているそう。




エアロ性能の強化と同じく注目を集めるのがIsoSpeedの搭載だ。別府は「スピードバンプ(減速板)を越える際にもバイクが跳ねず、ヨーロッパの粗い路面でも振動をしっかりといなしてくれる」と新型Madoneの快適性について評価し、加えて高出力域でのペダリングにも良い影響をもたらしているという。
「(プロ供給用にヘッドチューブを短くしたClassic Editionでは)自分に最適なポジションが出なかったため実際に使用することは無かったのですが、ずっとDomaneでレースを走ってみたいと考えていました。その理由はIsoSpeedがもたらす高い快適性に加え、高出力域の維持のしやすさにありますね。


プロの場合は、ペダリングパワーの一部が繰り返し荷重として常にサドルへと伝わってしまいます。自分の場合はシーズンに2度サドルを交換するほどで、サドルへの負荷がいかに大きいかというのを理解していただけるかと思います。ただIsoSpeedは、本来無駄になるはずのサドルへ掛かるパワーを推進力へと変換してくれる。ファビアン・カンチェラーラ選手もIsoSpeedがあるからこそ、他のバイクに乗った際よりも高出力を長時間維持できるのであり、そのテクノロジーが新型Madoneに導入されることは非常に良いことですね。」
新型Madoneにおいて、空力や快適性と同じく関心を集めているのが、各部のインテグレーテッドデザインだ。センタープル方式を取る専用ブレーキについて別府は「制動についてはパワーとフィーリングのどちらも良好。これまで使用していたDURA-ACEとも遜色ない」と語る一方で「メカニック泣かせ」と整備性が劣ることを隠さない。

というのも、新型Madoneは一切のケーブルを内装化。昨今のエアロロードにおいてはエアロ性能と同様に扱いやすさも重要視されており、新型Madoneはトレンドに逆行したといえるが、利点も少なくないようだ。この点についてトレック・ジャパンの野口忍さんは「エアロ性能とトレードオフで整備性は割りきっていますが、ケーブルは雨に晒されないため、交換頻度自体は下がるはず。加えて、スムーズなルーティングになるため、リアブレーキのタッチがかっちりするという利点もあります」と語る。
また、都内のトレックコンセプトストア・BEX ISOYA 晴海店の店長でありメカニックも務める鈴木太地さんは次の様に話す。「複雑な構造をしているとはいえ、専用品を使用しており、組付けや調整の手順がしっかりと確立されていれば、メカニック目線で心配になることがないと考えています。作業に要す時間が増えたり、レース中もチームカーからメカニックが身を乗り出して調整が難しくなるということは予想できますが、しっかりと組み立てていれば、その扱いに苦労することはなさそうですね」

一般ユーザーにおいては「こうかな?と思い曖昧に作業してしまうと、これまでのバイク以上に性能がうまく発揮できないということはあるでしょう。とても作業方法が独特であると予想されるため、ご自身で組立や調整をされるという方は、ショップやトレック・ジャパンと密接にコミュニケーションを取って欲しい」と鈴木さんは言う。
エアロ性能と快適性のそれぞれを追求し、総合力を更に増したMadone。過去に例を見ないインテグレーテッドデザインについて、歴代のトレックを乗り継いできた俳優の鶴見辰吾さんは「ケーブル(電線)が外に出ていないという点で、新型Madoneの美しさは銀座の街並みに通ずるものがある」と評している。先進的なデザインに様々な意見が寄せられる新型Madoneだが、長いロードバイク史の中でも特にエポックメイキングなロードバイクの1つとして、後世に語り継がれる1台となりそうだ。
text&photo:Yuya.Yamamoto
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