2015/04/06(月) - 07:05
仮に後続が追いついていても、たとえ集団が追いついていても、アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)勝利の可能性は高かったのかもしれない。第99回ロンド・ファン・フラーンデレン(UCIワールドツアー)の王者は、逃げの展開からのスプリントで生まれた。
朝方にかけて氷点下まで冷え込んだレース当日、ファンが大挙したブルージュのマルクト広場を25チーム・199名が駆け出す。過去10年間レースを支配していた王様2人、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)とトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)を欠く「クラシックの王様」が始まった。
ブルージュから平野を抜け、コルトレイクに向かって南下する道中に7名の先行が決まる。
2011年パリ〜ルーベ5位ラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ソウダル)、4度のナショナル選手権覇者マシュー・ブラマイヤー(アイルランド、MTNキュベカ)、2度の世界選手権個人追い抜き銀メダル獲得者ジェシー・サージェント(ニュージーランド、トレックファクトリーレーシング)、2013年パリ〜ルーベ5位ダミアン・ゴダン(フランス、AG2Rラモンディアール)、2014年のロンドU23レース覇者ディラン・フローネウェーヘン(オランダ、ルームポット)、マルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ)、ラルフ・マツカ(ドイツ、ボーラ・アルゴン18)という7名が逃げ、チームスカイが徹底コントロールする大集団が6分差で追う展開に。
カンチェラーラの欠場によってエースを託された2度の優勝経験者ステイン・デヴォルデル(ベルギー、トレックファクトリーレーシング)を、5度目の出場となる別府史之がその土地勘を生かす走りで援護しながら264kmのレースは後半へ。オウデクワレモントを起点とした周回コースに差し掛かると集団の緊張感は上がっていく。
フィニッシュまで116kmを残したモーレンベルグ(石畳・平均7%・最大14.2%・長さ463m)で動きを見せたのはアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)だった。一旦は引き戻されたが、この動きを皮切りにグライペルはアタックを繰り返すことになる。集団を牽引するチームスカイに対し、ロット・ソウダルは積極的なアタックでかき回した。
快調に逃げていたサージェントはシマノのニュートラルサポートカーに衝突されて落車(鎖骨骨折)。さらに別のニュートラルサポートカーもFDJのチームカーと玉突き事故を起こしてセバスティアン・シャヴァネル(フランス、FDJ)を巻き込むなど、選手の周囲は常にざわついた状態に。
やがて逃げグループとメイン集団のタイム差3分を切ると、残り78km地点のカペリイ(舗装・平均5.5%・最大9%・長さ1000m)で先頭はバクとゴダンの2人に。後方ではグライペルやクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)らがアタックを繰り返したが、チームスカイのコントロールから抜け出すことは出来ない。
残り55km地点から連続するオウデクワレモント(石畳・平均4%・最大11.6%・長さ2200m)、パテルベルグ(石畳・平均12.9%・最大20.3%・長さ360m)、コッペンベルグ(石畳・平均11.6%・最大22%・長さ600m)で単発的なアタックを繰り返すうち、先頭を逃げていたバクとゴダンは吸収。集団は人数を減らしながら勝負のラスト1時間に差し掛かる。25名ほどの集団の中にセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)らの姿はなかった。
セカンドエースがアタックを繰り返す時間帯から、いよいよエースが動きだす時間帯に。グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)やユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)、アレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)、ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)らがアタックを仕掛けたものの、チームスカイのルーク・ロウ(イギリス)やイアン・スタナード(イギリス)がこれを許さない。
ファンマルクが懸命に単独ブリッジを試みる中、クルイスベルグ(石畳・平均6.5%・最大9%・長さ1000m)でパリ〜ルーベ覇者ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)が動く。フィニッシュまで27kmを残したこの動きに即座に反応したのは、直前のデパンヌ3日間レースでスプリント3勝&総合優勝を果たしたクリストフだった。
身長185cm・体重75kgのテルプストラと、身長181cm・体重78kgのクリストフによる先行。苦しい表情を見せていたクリストフだったが、テルプストラと肩を付き合わせるようにしてオウデクワレモントを駆け上がり、30秒のリードを築いて最後の難所パテルベルグへ。
後方ではゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)やゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)、ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)らが追撃を試みたものの、先頭クリストフ&テルプストラには届かなかった。
パテルベルグで飛び出したファンアフェルマートとサガンが協力して20秒前を走るリーダーを追ったが、平地を巡行し始めたクリストフとテルプストラの背中が見えてこない。26秒リードで残り5kmアーチを駆け抜けた先頭2人に勝負は絞られた。
スプリントに向けて先頭に出ることを拒んだテルプストラを連れて、クリストフ先頭で残り1km。サガンを振り切ったファンアフェルマートを寄せ付けないままスプリントが始まった。
残り200mで先に腰を上げたのはテルプストラ。しかし2014年ツール・ド・フランスでステージ2勝を飾っているピュアスプリンターのクリストフが加速する。一度もテルプストラに前を譲らぬまま、クリストフが悠々とウィニングポーズでフィニッシュした。
「子供の頃から夢見ていたフランドルで、夢が現実になった」。隙のない走りで2014年ミラノ〜サンレモに続く「モニュメント」制覇を果たした27歳のクリストフは語る。ノルウェー人選手によるロンド・ファン・フラーンデレン制覇は歴史上初めて。カチューシャとしてはヘント〜ウェヴェルヘムに続く「北のクラシック」連勝だ。
「ニキ(テルプストラ)のアタックを見て反応しなければならないと判断した。オウデクワレモントで彼がアタックした時は苦しんだけど、石畳の登りの感触は良く、彼をコントロール下に置いている気分だった。終盤ニキが協力を拒否したので、後続に追いつかれるんじゃないかと少しナーバスになったけど、たとえ100%の力を出せなくても、スプリント勝負になれば勝機があると思っていたよ。これ以上望めないほど素晴らしい1週間だ」とクリストフ。この1週間だけで5勝を飾っており、シーズン勝利数を世界最多の10勝まで伸ばしている。
日本人選手として唯一ロンド完走経験のある別府は「今日は序盤から後半にかけてチームの仕事に徹してレースを終えた」と語る。結果だけを見るとDNFだが「走り慣れたセクションもどこで前に出たらいいのか熟知していたのでチームリーダーのステインも喜んでくれた。やっぱクラシックはめっちゃ楽しいし、自転車選手にとって大切なものがある。また次のレースに備えたい」とコメントしている。
選手コメントは各チーム公式サイトならびにTwitterより。
ロンド・ファン・フラーンデレン2015結果
1位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) 6h26’32”
2位 ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)
3位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング) +07”
4位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ) +16”
5位 ティエシー・ベノート(ベルギー、ロット・ソウダル) +36”
6位 ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)
7位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン) +49”
8位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)
9位 ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)
10位 マルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング)
11位 ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)
12位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)
13位 ステイン・デヴォルデル(ベルギー、トレックファクトリーレーシング)
14位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
15位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) +2’28”
16位 マルクス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシング)
17位 ローレンス・デフレース(ベルギー、アスタナ)
18位 マルコ・マルカート(イタリア、ワンティ・グループグベルト)
19位 イェンス・ケウケレール(ベルギー、オリカ・グリーンエッジ)
20位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、ランプレ・メリダ) +2’34”
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele, Makoto Ayano
朝方にかけて氷点下まで冷え込んだレース当日、ファンが大挙したブルージュのマルクト広場を25チーム・199名が駆け出す。過去10年間レースを支配していた王様2人、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)とトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)を欠く「クラシックの王様」が始まった。
ブルージュから平野を抜け、コルトレイクに向かって南下する道中に7名の先行が決まる。
2011年パリ〜ルーベ5位ラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ソウダル)、4度のナショナル選手権覇者マシュー・ブラマイヤー(アイルランド、MTNキュベカ)、2度の世界選手権個人追い抜き銀メダル獲得者ジェシー・サージェント(ニュージーランド、トレックファクトリーレーシング)、2013年パリ〜ルーベ5位ダミアン・ゴダン(フランス、AG2Rラモンディアール)、2014年のロンドU23レース覇者ディラン・フローネウェーヘン(オランダ、ルームポット)、マルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ)、ラルフ・マツカ(ドイツ、ボーラ・アルゴン18)という7名が逃げ、チームスカイが徹底コントロールする大集団が6分差で追う展開に。
カンチェラーラの欠場によってエースを託された2度の優勝経験者ステイン・デヴォルデル(ベルギー、トレックファクトリーレーシング)を、5度目の出場となる別府史之がその土地勘を生かす走りで援護しながら264kmのレースは後半へ。オウデクワレモントを起点とした周回コースに差し掛かると集団の緊張感は上がっていく。
フィニッシュまで116kmを残したモーレンベルグ(石畳・平均7%・最大14.2%・長さ463m)で動きを見せたのはアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)だった。一旦は引き戻されたが、この動きを皮切りにグライペルはアタックを繰り返すことになる。集団を牽引するチームスカイに対し、ロット・ソウダルは積極的なアタックでかき回した。
快調に逃げていたサージェントはシマノのニュートラルサポートカーに衝突されて落車(鎖骨骨折)。さらに別のニュートラルサポートカーもFDJのチームカーと玉突き事故を起こしてセバスティアン・シャヴァネル(フランス、FDJ)を巻き込むなど、選手の周囲は常にざわついた状態に。
やがて逃げグループとメイン集団のタイム差3分を切ると、残り78km地点のカペリイ(舗装・平均5.5%・最大9%・長さ1000m)で先頭はバクとゴダンの2人に。後方ではグライペルやクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)らがアタックを繰り返したが、チームスカイのコントロールから抜け出すことは出来ない。
残り55km地点から連続するオウデクワレモント(石畳・平均4%・最大11.6%・長さ2200m)、パテルベルグ(石畳・平均12.9%・最大20.3%・長さ360m)、コッペンベルグ(石畳・平均11.6%・最大22%・長さ600m)で単発的なアタックを繰り返すうち、先頭を逃げていたバクとゴダンは吸収。集団は人数を減らしながら勝負のラスト1時間に差し掛かる。25名ほどの集団の中にセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)らの姿はなかった。
セカンドエースがアタックを繰り返す時間帯から、いよいよエースが動きだす時間帯に。グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)やユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)、アレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)、ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)らがアタックを仕掛けたものの、チームスカイのルーク・ロウ(イギリス)やイアン・スタナード(イギリス)がこれを許さない。
ファンマルクが懸命に単独ブリッジを試みる中、クルイスベルグ(石畳・平均6.5%・最大9%・長さ1000m)でパリ〜ルーベ覇者ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)が動く。フィニッシュまで27kmを残したこの動きに即座に反応したのは、直前のデパンヌ3日間レースでスプリント3勝&総合優勝を果たしたクリストフだった。
身長185cm・体重75kgのテルプストラと、身長181cm・体重78kgのクリストフによる先行。苦しい表情を見せていたクリストフだったが、テルプストラと肩を付き合わせるようにしてオウデクワレモントを駆け上がり、30秒のリードを築いて最後の難所パテルベルグへ。
後方ではゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)やゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)、ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)らが追撃を試みたものの、先頭クリストフ&テルプストラには届かなかった。
パテルベルグで飛び出したファンアフェルマートとサガンが協力して20秒前を走るリーダーを追ったが、平地を巡行し始めたクリストフとテルプストラの背中が見えてこない。26秒リードで残り5kmアーチを駆け抜けた先頭2人に勝負は絞られた。
スプリントに向けて先頭に出ることを拒んだテルプストラを連れて、クリストフ先頭で残り1km。サガンを振り切ったファンアフェルマートを寄せ付けないままスプリントが始まった。
残り200mで先に腰を上げたのはテルプストラ。しかし2014年ツール・ド・フランスでステージ2勝を飾っているピュアスプリンターのクリストフが加速する。一度もテルプストラに前を譲らぬまま、クリストフが悠々とウィニングポーズでフィニッシュした。
「子供の頃から夢見ていたフランドルで、夢が現実になった」。隙のない走りで2014年ミラノ〜サンレモに続く「モニュメント」制覇を果たした27歳のクリストフは語る。ノルウェー人選手によるロンド・ファン・フラーンデレン制覇は歴史上初めて。カチューシャとしてはヘント〜ウェヴェルヘムに続く「北のクラシック」連勝だ。
「ニキ(テルプストラ)のアタックを見て反応しなければならないと判断した。オウデクワレモントで彼がアタックした時は苦しんだけど、石畳の登りの感触は良く、彼をコントロール下に置いている気分だった。終盤ニキが協力を拒否したので、後続に追いつかれるんじゃないかと少しナーバスになったけど、たとえ100%の力を出せなくても、スプリント勝負になれば勝機があると思っていたよ。これ以上望めないほど素晴らしい1週間だ」とクリストフ。この1週間だけで5勝を飾っており、シーズン勝利数を世界最多の10勝まで伸ばしている。
日本人選手として唯一ロンド完走経験のある別府は「今日は序盤から後半にかけてチームの仕事に徹してレースを終えた」と語る。結果だけを見るとDNFだが「走り慣れたセクションもどこで前に出たらいいのか熟知していたのでチームリーダーのステインも喜んでくれた。やっぱクラシックはめっちゃ楽しいし、自転車選手にとって大切なものがある。また次のレースに備えたい」とコメントしている。
選手コメントは各チーム公式サイトならびにTwitterより。
ロンド・ファン・フラーンデレン2015結果
1位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) 6h26’32”
2位 ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)
3位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング) +07”
4位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ) +16”
5位 ティエシー・ベノート(ベルギー、ロット・ソウダル) +36”
6位 ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)
7位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン) +49”
8位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)
9位 ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)
10位 マルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング)
11位 ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)
12位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)
13位 ステイン・デヴォルデル(ベルギー、トレックファクトリーレーシング)
14位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
15位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) +2’28”
16位 マルクス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシング)
17位 ローレンス・デフレース(ベルギー、アスタナ)
18位 マルコ・マルカート(イタリア、ワンティ・グループグベルト)
19位 イェンス・ケウケレール(ベルギー、オリカ・グリーンエッジ)
20位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、ランプレ・メリダ) +2’34”
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele, Makoto Ayano
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